SPIRIT OF THE SWORD


その3.



 




次の夜・・・。

地元の名士達が集う晩餐会の会場で、サンジは自分に向けられた鋭い視線を感じた。




・・・・・・この視線・・・・まさか・・・・・?




ドクンとサンジの心臓が音を立てる。

それでも、サンジは平静を装って、その視線の方へと瞳を向けた。

・・・・・・・・瞳が合った。

一瞬にして、周りの音が消える。

モノクロームの中に立ちのぼる緑のオーラ・・・。

自分と同質だと感じ取ったその瞳・・・。

だんだんと、自分の方へ近づいてくる。

「・・・・一曲、お相手して頂けますか、サンジ殿・・?」

ゾロはそう言ってにっこりと微笑んでサンジの瞳の前に来ると、恭しくお辞儀をする。

ゾロの無駄のない動きと洗練された仕草に、サンジは声もなく見つめていた。

「・・・・なにか顔についてますか? そう見つめられては、言葉に詰まるのですが・・」

「あ、いや、そんなつもりは・・・・・・それより、貴方のお名前は?」

男の言葉に、サンジは慌てて視線をずらすとそう尋ねる。

「これは、申し遅れてました。 ロロノアと申します。 以後、お見知りおきを。 では、

一曲・・・・」

ゾロはそう言うと、サンジの了承も得る間も無く手を取り、広間で踊り始めた。

優雅なゾロとサンジのダンスに、周りの人々は踊るのを止め、羨望の眼差しで見つめる。

まるで、その場に自分達しかいないかのように視線を外さない二人・・・。

軽やかなステップに、息の合ったダンス・・・。

長年連れ添ったパートナーの様に、二人は時の経つのも忘れ、踊り続けた。

「・・・・・ったく、強引な方だ、貴方は・・・。」

踊り終わった後、サンジはそう言ってゾロにグラスを差し出す。

「・・・生憎、したいと思ったものは我慢できない性質でして・・・・・お嫌でしたか?」

ゾロは、グラスを受け取ってそう言うと、サンジに軽くウィンクした。




こ、こいつーーーーーっ!!!




サンジは、慌てて顔を伏せる。

自分の思っていたことを見透かされるような気がして、サンジは恥ずかしさで真っ赤になって

いた。

「ククク・・・・・貴方は本当は、感情の出易い方なんですね・・・。 昼間の人形のよう

な貴方よりか、数倍魅力的だ。 ・・・・・・・もっと・・・・・・本当の貴方を・・・・もっと知り

たい・・。」

ゾロは、サンジの耳元でそう囁くと、スッと手にサンジの前髪を一房掴む。

それから、ハッとして顔を上げたサンジの前で、その金色の髪の毛に唇を落とした。

二人の視線が絡み合う。

「なんだ、サンジ・・・そこにいたのか・・・。 そろそろ、疲れただろう・・・部屋に戻って

ゆっくり休むと良い。」

そう言って近づいてくるクロコダイルの声に、サンジは慌ててゾロから視線を逸らした。

「し、失礼する・・・・・。」

サンジは、それだけ言うと、クロコダイルの脇をすり抜けて、広間を出て行く。

「いやあ・・・素敵なダンスをお披露目して頂いて・・・私も目の保養になりましたよ。 

サンジはあれで、少々気難しいところがあって人前であのように踊るのは初めて・・。

・・・・・・貴方は・・? 何処かでお会いした事がありましたかな?」

クロコダイルは、ゾロにそう言うとにっこりと笑った。

「いえ・・・・今宵、初めてお逢いします。 申し遅れました。 私はゼロと申します。 

王家の資産調査でこの街に滞在しております。 クロコダイル様のお名前は、首都に

て聞き及んでおりました。 とても才覚溢れるお方だと・・・・。 それにしても、お綺麗

なご子息ですね。 しかもダンスもお上手だ。」

ゾロもまたそう挨拶して、にっこりと微笑み返す。

「それは、どうも・・・。 私の自慢の息子でして・・・・どうぞ、ゆっくりとしていってくださ

い。 では、私もこれにて退席させていただきます・・・。」

クロコダイルはそう言ってゾロから離れ、広間を出て行った。

「・・・・・何が、自慢の息子だ・・。 あの好色ジジイが・・・!! 明け透けに、嫉妬の

目を俺に向けやがった。 後数時間で自分の命が狙われるとも知らずに・・・・。」

ゾロはクロコダイルの姿が見えなくなってから、吐き捨てるようにそう言う。

「・・・・オイオイ、ゾロ。 何腹立ててやがる。 紳士は如何なる時も冷静に感情を出さ

ない、だろ?」

その様子を遠くで見ていたシャンクスがそう言いながらゾロの前に現れた。

「ちゃんと斬りかからずに、会話してやったじゃねえか。 どんだけぶった斬ってやりた

かったか・・・。 ところで、下調べはちゃんと出来てるんだろうな・・? クロコダイルの

部屋は?」

「まぁまぁ、そう慌てるな。 部屋は、二階の一番右端だ。 使用人の話じゃ、今夜は、

二階は人払いされるらしい。 ・・・・・という事は、だ。 ・・・・サンジの命も危ねえって

事だ。 サンジの事だ、クロコダイルに抱かれる時を狙って、一矢報いるつもりだろう

な。 ミホークが離れる隙はその時しかないからな。あいつの考えそうな事だ・・・ゼフ

に・・・・そっくりだな。 さぁ・・・・俺達のパーティーの始まりだ。 ミホークは、強いぜ。 

覚悟は、良いか?」

シャンクスはそう言うと、ゾロの肩を叩き、広間を出て行く。

「・・・・・当然だ。 この日の為に、俺は今、ここにいる。 あいつは・・・・サンジは殺さ

せないし、触れさせない。 たった今、決めた。 俺は、サンジをクロコダイルから奪っ

てやる。」

ゾロは、シャンクスの後に続き広間を出ると、黒装束にマントを纏い、マスクをはめた。

「おやおや・・・・いつの間にか、復讐の他にも、目的が出来たみたいだな。 まっ、い

いか。 行くぜ!!」

シャンクスも、ゾロと同様の衣装に身を包むとそう言って、クロコダイルの部屋に向かう。

「・・・・・待て。 お前たち、何者だ? ここから先は、通さん。」

途中の廊下で、ミホークがそう言って二人の行く手を阻んだ。

「チッ! ゾロ!ここは、俺が引き受けた!! お前はクロコダイルの部屋に急げ! 

サンジ・・・頼んだぜ?」

シャンクスはそう言うと、長剣を構え、ミホークと対峙する。

「しかし・・・・」

「大丈夫だって! 俺にだって時間稼ぎぐらいはできるさ・・・さっ、早く行け!!」

「フッ、笑止。 片腕の剣士の相手をさせられるとは、私も落ちぶれたものだ・・・。」

二人の会話に、ミホークはそう呟くと剣を抜いた。

「まぁ、お手合わせして貰えればわかるさ。 さぁ! とっとと行け!!」

「ああ、後で必ず逢おう!!」

シャンクスに急き立てられ、ゾロは、その場から駆け出す。

目指すは、一番右端の部屋・・・。

クロコダイルとサンジのいる部屋へと・・・・。










「・・・・・どうした?サンジ・・・。」

部屋の中では、緊張した面持ちのサンジを見て、クロコダイルがそう声をかける。

「・・・いいえ。 きっと緊張しているのでしょう。 ・・・・・・・やっと待ち望んだ時が来た

のですから・・・・・」

サンジはにっこりと笑ってクロコダイルに近づくと、キッと表情を引き締め、クロコダイルの身体

めがけて、渾身の蹴りを放った。

「グッ!!」

不意を突かれてクロコダイルの膝が、床につく。

「ずっと、ずっと・・・・・この時を待ってたぜ。 てめえが一人になるこの時を、な!」

サンジはそう呟いて、クロコダイルの背中に足を振り上げた。

スッと、クロコダイルの姿がサンジの瞳の前から消える。

「クックック・・・。 そうだよ、その瞳・・・。 従順なフリをしていながら、決して心まで

許してないその瞳に惹かれてた。 にっこりと笑いながら、その瞳の奥に湛えた冷徹

なまでの蒼いオーラ・・・。 それを蹂躙した時に、お前の瞳に映るのは、何色なんだろ

うな・・・?」

クロコダイルは、瞬時にサンジの背後に回ると、サンジの身体を力強く抱きしめる。

「グッ・・・。 クソ、離せ!! てめえなんかに自由にされて堪るか!!」

サンジは必死で抵抗するが、身体を密着され、足技も封じられてしまってはどうにも出来な

い。

「お前が、復讐のために足技を学んでいた事も知っている・・・・だが、所詮は足技。 

こうやって、封じてしまえばどうしようもあるまい。 従順な人形も良いが・・・・やはり、

感情を露にした人間が一番だ。 お前は綺麗で、嗜虐心をそそる・・・好いおもちゃ、

だ・・・。」

クロコダイルは、サンジの耳元でそう囁き、そのまま床に押し倒した。

「クッ・・・止めろ・・・!!」

こみ上げてくる涙と屈辱に、言葉が詰まる。

首筋にざらつくクロコダイルの舌の感触に、全身の血の気が引いた。




いやだ!!

いやだ!!

・・・・・・・・・・・・・ロロノア・・!!




涙と共に溢れた言葉は、先程知り合ったばかりの男の名・・・。

先程のゾロとの出逢いのシーンばかりが、サンジの脳裏に鮮やかに甦る。




・・・・・・・・せめて・・・・・・

もう一度・・・・・・

・・・・・・・・・見てみたかったな・・・・・。




サンジは、流れる涙をそのままに瞳を閉じ、一切の抵抗をやめた。

「ん・・? なんだ、もう観念したのか? フフ・・・まぁ、よい・・・。」

クロコダイルは、サンジの身体から力が抜けたのを知ると、そう呟いてサンジの肌に手を這わ

す。

「・・・・・・・・・そこまでにして貰おうか・・・。」

カチリとトリガーの絞る音が、クロコダイルのすぐ後ろで聞こえた。

「誰だ?!貴様・・?」

クロコダイルは、慌てた様子も無く、そのまま振り向かずにそう尋ねる。

「・・・・・・なんだ、もう声を忘れたのか? 俺は、言っただろ? 必ず、チビナスを取り

戻しに、てめえの前に現れるってな・・・。」

そこに立っていたのは、ゼフだった。

「父さん・・・!!」

その声にサンジは瞳を見開いて、ゼフの方を見る。

「おう!チビナス、すっかり遅くなっちまった。 待たせたな。」

ゼフはそう言ってサンジを見て、にやりと笑う。

「拳銃を使うのは、主義じゃねえが、てめえに封じられた足が疼くんでな・・・・背に腹

は代えられねえ。 さぁ、チビナスを離すんだ。」

「ククク・・・・それで、俺に勝ったつもりか? ・・・・・両足共、失くしておくべきだった

か・・・。」

クロコダイルは、不敵な笑みを浮かべるとスッとサンジの首筋に隠し持っていたナイフを当て

る。

「さぁ、どうする? これでも引き金を引いてみるか?」

ツーっとサンジの首筋に赤い雫が流れる。

その様子を見て、一瞬、ゼフが怯んだ。

「その一瞬が、命取りだな・・。」

クロコダイルは、サッとサンジから飛びのくと、一瞬のうちにゼフの拳銃を叩き落す。

それから、ゼフの義足を叩き割り、ゼフを羽交い絞めにした。








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<コメント>

ゾロの台詞が・・・・・臭い!!(笑)
しかも、ミホークと闘うのは、シャンクス。(爆)
まぁ、それは色々とあるので・・・・
さあ、次でラストです!