SPIRIT OF THE SWORD


その4.



 




「父さん!! クソッ!!」

「おっと、サンジ、動くなよ・・・・・こいつの命が惜しいならな・・・。」

クロコダイルは、今度はゼフを盾にとり、サンジを見て冷酷に笑う。

「クロコダイル!!勝負だ!!」

折りしも、ゾロもそう言って部屋に蹴破ってきた。

「おや・・? これはこれは・・・・・今日は、お客さんがやたら多いな。 フフ・・・・丁度

良い。 一つ余興を見せて貰おうか・・? サンジ・・・お前の足技、とくと拝見しようじ

ゃないか。 ・・・・・見物だ、な・・・・。」

クロコダイルは笑いながら、そう言ってゼフの首にナイフを突き当てる。

それから、サンジに、顎をしゃくってゾロと対決するように命じた。

「・・・・・クソッ! ・・・・・・【ゾロ】、あんたに恨みは無いが・・・・許してくれ・・。」

サンジは、ハァと大きく息を吸って呼吸を整えると、ゾロに向かって蹴りを繰り出す。

「クッ! どこまでも腐った野郎だぜ・・・。」

ゾロは、サンジの蹴りをすれすれで避けながら、クロコダイルを睨みつけた。

サンジが相手では、剣で相手するわけにもいかず、ゾロは防戦一方で、やがて壁際に追い詰

められる。

「これで、最後だ!」

サンジがそう言って、ゾロの喉元に蹴りを放つ。

ゆらりとゾロの周りに、緑色のオーラが立ち昇った。

「・・・・・申し訳ないが、俺も、ここでやられるわけにはいかないんでな。 闘う相手が、

違う・・・・ごめんな、サンジ・・・・・少し、休んでいてくれ・・・・。」

サンジの放った蹴りを素手で掴み、そのままその身体を腕の中に引き寄せる。

「・・・ロロノア・・・?」

マスクの奥に忘れられない眼光を見止めたサンジはそう呟くが、それはすぐにゾロの唇で塞

がれた。

ゾロは返事の代わりににっこりと笑って、サンジの鳩尾に拳を埋め込む。

ガクンとサンジの膝が床に崩れ、ゾロは、サンジをゆっくりと床に寝かせた。

「さて・・・・・茶番はもう終わりだ。 俺には、その人質は意味がねえ。 その不利な状

態で俺と闘うか、それとも、その人を放して俺と勝負するか。 選ぶのはお前だ。」

ゾロは剣を抜いて、クロコダイルの前に立つ。

「フフ・・・・上等だ。 その勝負、受けて立とう。」

クロコダイルはそう言うと、壁に飾ってあった長剣を取り、ゼフの足に突き立て動きを封じて、

その身体を解放した。

鋭い金属音と、息をも吐かせない激しい動きに、床が共鳴し揺れる。

数十分後、息のあがったクロコダイルは、すぐ傍に倒れているサンジに目をつけた。

「・・・・・・そう言えば・・・・何故だか、貴様はこいつには剣を向けてないな?

・・・・・・・なんでだろうな・・・?」

勝ち誇ったようにクロコダイルの口元が歪む。

スッと、サンジの身体の上にクロコダイルの剣が近づいた。

「てめえは、どこまで汚ねえんだよ!!」

そう叫んだゾロの身体から、凄まじい緑色のオーラが迸る。

剣の閃光が、空を斬る。

勝負は、一瞬で決着がついた。

「ガハッ!! ッ・・・・・なにが・・・・・起こった・・・・?」

全身を血で染め、クロコダイルがそう呟いて床に沈む。

「・・・・・・はぁはぁ・・・・知ってどうする・・・・てめえの負けだ。」

肩で息をしながら、ゾロは、床に倒れているサンジを抱きかかえた。

「・・・・・・ゼフ、サンジを頼む。」

ゾロはゼフにそう言って、シャンクスの元へ向かう。

壁の向こうから、激しい振動と鋭い金属音が聞こえてきた。

「【ゾロ】!!」

ゾロは、そう叫んでシャンクスに視線を向ける。

「ハァハァ・・・・ッ・・・・遅い!! もう死ぬかと思ったぜ・・。 っで、決着はついたみた

いだな・・・。」

立っているのもやっとな感じで、シャンクスはゾロの方を見返した。

ゾロは、無言で頷く。

「・・・・・という訳だ、鷹の目・・・・・お前と戦う意味が無くなった。」

シャンクスはそう言うと、剣を携えた腕を下におろす。

「・・・・・・・・そうか。 主は亡くなったか。 では、私の役目も終わった。 

・・・・・・・鷹の目、か。 久々にその呼び名を聞いた。 やはり、貴様だったのだな?

・・・・シャンクス。」

ミホークはそう言うと、シャンクスのマスクを斬り取った。

「・・・・・やっぱ、気付いてたか。 首都を離れて以来・・・・・20年ぶり、か。 しかし、

相変わらず、物騒なオーラ纏ってやがるな、てめえは・・・。」

シャンクスもそう言うと、ミホークが被っていた帽子を剣で取り上げる。

「利き腕をなくしたと風の噂で聞いて、確かめついでに来てみたのだが・・・・真紅の

オーラを纏う剣士は早々いないしな。 しかも、片腕で俺と渡り合おうとする無謀な奴

は、世界広しといえども、俺を鷹の目とあだ名で呼ぶ貴様くらいしかおらぬわ。 さて、

私も仕事は終わった。 また首都に戻るとするか・・・。」

「まぁ、待てよ。 どうせ、戻って国王に報告するだけだろ?クロコダイルの悪政の実態

を。 その前に、久しぶりに会ったんだ。 ゼフもいるし、一緒に再会を祝して飲もう

ぜ?」

その場を去ろうとしたミホークを、シャンクスはそう呼び止め、一緒に歩き始めた。

残されたのは、その会話についていけず呆然と佇むゾロだけ。

ゾロは、慌てて二人の後を追いかける。

「・・・・・・あのさ、シャンクス。 俺にわかるように説明してくれないか? この男は、

シャンクスの知り合いなのか? しかも、国王に報告? ミホークは、クロコダイルに金

で買われた傭兵じゃなかったのか?」

「ああ、わりい、わりい・・・。 コイツ、鷹の目は、俺が首都で騎士道を学んでいた時か

らの古い友人だ。 ジュラキュール家は、決して表舞台には立てないが、歴代国王直

属の影の騎士の家柄。 コイツも今回、国王から直々の命令でも受けたんだろう。 で

なきゃ、コイツが動くわけないからな。」

シャンクスは、ゾロにそう言って豪快に笑い飛ばした。

「じゃあ、なんで闘ったんだ? 闘う必要なんか・・・・」

「それは、違うぞ、小僧。 どんな事情があるにしろ、一度受けた命はきちんとこなすの

が、騎士道たるもの。 例え、主が悪名高き男だとしても、契約を交わした限りは、

守らなければならない、己の剣にかけて・・・。」

ゾロの言葉を遮って、ミホークがそう話す。

「・・・・・ところで、サンジは、どうしたんだ?」

「あっ! いけね!!すっかり忘れてた。 ゼフも来てたんだ・・・・怪我してる・・!!」

シャンクスから聞かれ、ゾロは、慌ててサンジとゼフのいる部屋へと駆け出した。

「ゼフが?! チッ!あのクソジジイは、寝てろって言ってたのに、やっぱ、来やがった

か。 ったく、世話が焼ける奴だぜ・・・。」

シャンクスも軽く舌打ちをして、その後に続く。

「おい!シャンクス! 走ると・・・・血が!・・・・・・・・・・・・・・・・・・遅かったか・・・。」

「ッ・・・・・馬鹿やろう・・・・・・早く言え・・・よ・・・・。」

走り出した途端、身体中から出血し始め、シャンクスはそう言いながら、フラフラと床に伏し

た。

「・・・・・・済まぬ。 手加減出来るほど余裕が無かったのでな・・・。」

ミホークはそう言って、シャンクスに肩を貸す。

「ヘッヘッヘ・・・。 どうだ? 片腕失くそうが、強かっただろ?俺は・・・。」

「まぁな・・・・・・・出来れば、利き腕が健在の時に真剣に闘ってみたかったな・・・。」

「じゃあ、俺が、世界最強かぁ??」

「ククク・・・・20年経とうが全然貴様は変わらぬな・・・。」

「てめえも、な・・・。」

シャンクスとミホークは、20年ぶりの会話に花を咲かせ、三人が待つ部屋へと歩いて行った。

その後、五人はシャンクスの屋敷に戻り、ゼフとシャンクスは手当てを受ける。

「ったく、ゼフ、てめえは大人しく寝てろってそう言ってたのに、勝手に屋敷に忍び込ん

で怪我しやがって・・・」

「ヘン、シャンクス、そう言うてめえも、鷹の目にやられてるじゃねえかよ! 切り傷ば

っか作りやがって、そんなんじゃ女がビビって寄って来ねえかもな? 自称色男も形無

しじゃねえか!」

「なにをぉ?!傷は男の勲章って言葉を知らねえのか?」

「ヘッ。 そりゃあ、弱い奴の戯言だろ・・・。」

「・・・・・二人ともいい加減にしろよ。 せっかくの酒が不味くなる。」

身体中包帯だらけで、酒を酌み交わし文句を言い合うシャンクスとゼフに、ミホークは苦笑して

酒を飲んだ。

「あれ? チビナスは、どうした? それに、ロロノアもいねえ・・・。」

「ああ、あいつらなら、さっき、部屋を出て行ったぞ。 貴様達があまりにうるさいので

な・・・。」

ゾロとサンジがいないのに気がついたシャンクスに、ミホークは、そう言って扉を指差す。
















その頃、別室にて・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・あのさ・・・・あのさ、俺・・・・」

「シッ! 黙って・・・・・・・続きは、態度で教えてくれないか・・・?」

ゾロは、片目を瞑ってサンジの唇の前に人差し指を立てる。

「・・・・・・・・・・・気障な奴。」

サンジは真っ赤な顔でそう言い返して、そっとゾロの背中に腕を回した。

「・・・・・初めてあの通りで逢った時から惹かれた。 会場で踊った時には、恋に落ち

てた。 こんな感情は初めてだ。 サンジ・・・・お前もそうだと思っても良いか?」

ゾロはサンジを抱きしめ返し、真摯な瞳でそう告げる。

「ああ。 初めて逢ったときに、その瞳に囚われた。 二度目に逢った時に、それが恋

だと知った。 ロロノア・・・・・お前と一緒だ。」

サンジは、真っ直ぐにその瞳を見つめ返して、その唇にそっと口付けた。

ゾロは、サンジを抱かかえると、そっとその痩躯をベッドに押し倒す。

「あ、あのさ・・・・ちょっと、これは・・・あの・・・・その・・・・・」

ベッドに運ばれて、サンジは慌てて身を捩った。

「・・・・・・嫌なのか?」

「嫌じゃないけど・・・・・・いきなりは・・・・早過ぎじゃないか?」

「嫌じゃないなら、問題ないな。 言っただろ? 俺は、我慢できない性質だって・・・。

・・・・・・もう・・・・・我慢できねえ・・・。」




こいつはーーーーーーーっ!!!!




耳元でそう囁かれて、サンジは真っ赤になって俯く。

それから、返事を言う代わりに、グッとゾロの頭を自分の方に引き寄せた。

風に揺らめく蝋燭に、二人のシルエットがゆっくりと重なっていく。









「・・・・・・・やられちゃったかなぁ、サンジ・・・。」

「・・・・・さぁな、知るか、んなもん・・・。」

「せっかく7年ぶりの再会だったのになぁ・・・。」

「全く、あんな何処の馬の骨ともわからぬ奴に、チビナスを取られるとは・・・。」

「いや、ロロノア家は、王国きっての名家だぞ。 継承者がいるなら、復興はたやすい

だろう。」

「おお! じゃあ、問題ねえな。 それよか、クロコダイルの後は、誰がこの街を仕切る

んだ?」

「・・・・・・・さぁ?」

「あ・・・・・・それは、公的に、サンジだと思うぞ。 今夜のパーティーの席でクロコダイ

ルの後継者として紹介されたからな。 クロコダイルがいなくなった今、後継者は

サンジになるというわけだ。」

「なるほど・・・。」

「名門ロロノア家の後継者と総督の組み合わせか・・・・。 あいつら、大変だぜ、これ

から・・・・。」

「まっ、あの二人なら・・・大丈夫だろ。」

「ククク・・・・そうだな、問題ねえか・・・・。」

「では、あの二人の未来に・・・・・・」

「「「乾杯!!!」」」

こうして、その事実を知らされる翌朝まで、ゾロとサンジの夜は甘く過ぎていったのでありまし

た。











「ねぇねぇ、知ってるかい? また【ゾロ】が現れたってさ。 今度は、悪徳金貸しを懲ら

しめたらしいわよ。 素敵よねぇ・・・・華麗な剣裁きに、流れるような身のこなし・・・。 

【ゾロ】って一体何者なんだろうね? ずっと前からいるのに、全然年を取らなくて・・・・

私も、あの二人に直に逢ってみたいものだわ・・。」

「助けられた娘さんに話を聞いたら、一人は、蒼い瞳の綺麗な若い男性だったそうよ。 

そして、もう一人を【ゾロ】と呼んでいたとか・・・。 蒼い瞳といったら、新しく総督にな

られたサンジ様を思い浮かべるわね。 もしかして・・・・・・なわけないわよね・・・。」

今日も街は、【ゾロ】の活躍を噂する。

それから、街は少しずつ平和になり、治安も良くなってきた。

しかし、犯罪は後を絶たない。

「さあ、ゾロ、そろそろ、出番だ!」

「ああ、じゃあ、行くか!」

月夜の晩に、ロロノア家から動く影、二つ・・・。

黒装束に身を包み、黒いマントにマスクして・・・

颯爽と現れては悪者達を懲らしめる。

伝説は、またここから始まった。






<Fin>



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<コメント>

やられちゃったのよ・・・サンジ・・・。(笑)
如何でしたでしょうか、皆様?!
中世のお話は、大好きなんだけどなぁ・・・。
如何せん、才能がついていかない・・ゲフゲフ・・・
それにしても、【ZORRO】の映画、台詞も仕草も濃過ぎだよ!
さすが、ラテン系!(笑)
ミホークとシャンクスとゼフ・・・・この取り合わせが、好きだなぁ。
ゾロとサンジよりも会話に熱が入っちゃったのは、ルナの趣味☆
お楽しみいただければ、嬉しいですvv
では☆