Pure Boy


その3.



 




「ん・・・・・・もう、朝か・・・・。」

朝日が差し込んで、俺はその眩しさに瞳を開ける。

俺の瞳の前には、寄り添うように眠っているゾロ。

俺の身体を自分の胸に抱き抱える様に眠ってる。

その顔をじっと見つめた。

浅黒い肌。

切れ長の瞳。

薄い形の良い唇。

どれをとっても、ゾロの全てのパーツが俺の為に存在するかのように感じた。

スッとその頬を撫でてみる。

シャララ・・・と、ゾロの耳についている金色のピアスが音を鳴らした。




・・・・・そう言えば、こいつ、いつからこのピアスしてるんだろ・・・?

ジャングルで逢った時から、もうしてたしなぁ。




そんな事を思いながら、まっ、良いか。と身体を起こそうとしたが、ゾロの抱く腕の力が強く

て、とても外せそうに無い。




ククク・・・・・大きな子どもだ。




「おはよう、ゾロ。 朝だ・・・。」

その耳元にそっと囁く。

ゆっくりとゾロの瞳が開き、幸せそうにゾロが俺に微笑んだ。

純真無垢な子どものように・・・・。

「おはよ、サンジ・・・。」

そのまま、俺の唇に自分のを重ねるゾロ。

その口付けにうっとりと受け流していると、ゾロの舌が俺のを絡め取った。

昨日と同じ、背筋がゾクゾクと快感を呼び起こす。




ああ、もう・・・・・・

朝から、こんな事やってる場合じゃねえのに・・・・・




欲情に飲み込まれそうになる自分を必死で振り払い、ゾロの身体を両手で押した。

「んっ・・・・んんっ・・・・・」

ブンブンと首を横に振って、塞がれている唇を外す。

「っはぁ・・・・・ゾロ、ダメ! そのチューは、ダメ!!」

めっ!と子どもをしかりつけるように、ゾロにそう言った。

「何故? サンジ、昨日、した。 サンジしたように、俺、チューした。 何故、ダメ?」

不満げに、俺にそう言うゾロ。




確かにな・・・・俺がてめえに教えたけどよ・・・。

今、それをやられると・・・・・俺が・・・・

ああ、もう・・・・




俺は、この純粋な野性児に頭を抱えた。

「・・・・・・・・サンジは嫌? 俺のチュー・・・嫌?」

少し傷ついたように、ゾロはそう呟く。




ああ、だから・・・・・・・そんなんじゃねえのに・・・。




どうにも、俺はゾロに弱いらしい。

「あのな・・・・朝のチューは違うんだ。 あのチューは夜だけ・・・・今は、これだけ、なっ?」

そう言って、ゾロの唇に軽く触れた。

「うん!わかった!サンジ!」

そう言ってゾロは、何度も嬉しそうに俺の唇に口付ける。




だからさ・・・・・・・あのなぁ・・・・・・




俺はそんなゾロに苦笑して・・・・・・・気が付けば既に、お昼を時計が回っていた。

「ほら、ゾロ。 買い物に行かなくちゃ。 てめえの服とか、食料とかな。  それに、今日

は・・・・・・・・・夫婦になった初めての日だから。 お祝いしよう。 これから、毎年、この日は

二人で、な? ・・・・・・・11月11日。 ククク・・・・覚えやすいだろ・・?」

俺は、壁に掛けてあるカレンダーを指差しながら、ゾロにそう話す。

「お祝い?!」

「ああ、誕生日みたいなもんだ。 そうだ、てめえの誕生日もこの日にしよう。 そうすれば忘

れないしな・・・。」

「誕生日?!」

ジャングル育ちのゾロには、こういった類は無縁だったようで、いまいち理解できてないよう

だった。

「おう、てめえが生まれた日って事だ。 生まれてきてありがとうって感謝する日。 てめえに

はねえから、俺が決める。 今日がてめえの誕生日&俺達の夫婦記念日だ。」

俺は、ゾロにわかるようにそう説明して、外出の用意をする。

「わかった。 今日が誕生日で夫婦の日だな。」

ゾロはゾロなりに納得したらしく、そう言ってにっこりと笑った。

ちょっぴり、夫婦の日って言う響きが、恥ずかしかったけど・・・・




まっ、良いよな?

同棲も夫婦も同じようなもんだから・・・・。




それから、俺はゾロを連れて、街に出かける。

ゾロには見るもの全てが珍しいらしく、キョロキョロと辺りを見渡しては手に取り、匂いを嗅ご

うとする。

「・・・・・・ゾロ、お願いだから、マネキンの匂いを嗅ぐのだけは、止めてくれないか。」

俺はゾロを引っ張りながら、やっとこさ、目的のブティックに入る。

「あら、サンジ君、久しぶり。」

マヌカンのお姉さんがそう言って俺に微笑んだ。

「ああ、本当久しぶりvv お姉さんも元気そうで良かった。 実はさ、今日はこいつの・・・・」

お姉さんにそう挨拶して、後ろにいるゾロを振り向く。

・・・・・・と、そこには、ゾロの姿は無かった。

「ゾ、ゾロ?!」

俺は慌てて、店の外に飛び出す。




あの馬鹿・・・・・何処に言ったんだよぅ。




「ゾローッ!!」

俺は必死で、ゾロの姿を探し回った。







30分後、俺はやっとゾロを見つけた。

なにやら、知らない老夫婦と話をしている。

と、言うか、なんかゾロの様子が変だ。

困っているような、どうして良いかわからないような、そんな表情。

大方、道でも聞かれて困っているんだろう、と、俺はゾロに近づいた。

「ゾロ、ここで何をしているんだよ。」

後ろから、ポンとゾロの肩を叩く。

「あ、サンジ。」

俺の姿を見て、ゾロはホッとしたようにそう言って微笑む。

「あの・・・・ゾロになんか用ですか? こいつ、ここに来たばっかりで・・・・」

俺はゾロに代わって話を聞こうと、その老夫婦に声をかけた。

「ゾ・・・・ロ・・・・。 本当にその方は、ゾロとおっしゃるんですか? ああ、神様!!」

そう言って、その老婦人の方が急に目頭を押さえて泣き出す。

なんだか、様子がおかしい。




関わらない方が良さそうだ。




「あ、あの・・・・・失礼します!」

そう判断した俺はゾロを引っ張って、慌ててその場を後にした。

それから、暫くは何事もなく、俺達は楽しい日々を過ごしていた。

昼間はゾロを実家の店に預けて大学へ行き、夕方からはゾロと共に、実家の店を手伝う。

万事順調だった。

ゾロも、店の仕事に慣れてきて、俺達は、本当に・・・・・・・幸せだった。










半年後。

部屋のチャイムが突然鳴った。

「なんだよ、せっかくの休みなのに・・・・」

俺は二人きりの時間を邪魔されたと、そうブツブツと文句を言いながら、ドアを開ける。

そこには、いつか見た老夫婦が立っていた。

「・・・・・申し訳ありません。 実は・・・・・ここでは、なんですので、もし宜しければ、我が家に

お越しくださいませんか・・・? お願いします、是非・・・。」

「お願いします。 どうか・・・・」

驚いている俺達に、その老夫婦は頭を下げた。

あまりに真剣な老夫婦の申し出に、俺達は嫌と言えなくなる。

なんとなく嫌な予感がした。




多分、ゾロに関係する事なんだろうけど・・・・・・一体?!




放っとける筈も無く、老夫婦に言われるまま、ゾロと一緒に部屋を出た。

黒塗りのリンカーン・・・・・・しかも、運転手付き。

一見して、この老夫婦が金持ちだとわかる。

こんな人達が、俺のゾロになんの用があると言うんだろう。

その老夫婦の家は、高級住宅地の一角にあった。




・・・・・・家じゃなくて、屋敷だろ、これは・・・。




門扉が自動的に開き、自動車でそのまま玄関まで乗りつける。

メイドらしい女性と執事らしい男が出てきて、恭しく車のドアを開けた。

「さっ、こちらへどうぞ。」

老夫婦に案内されて、ゾロと一緒に中に入る。

「ゾ、ゾロ。 ・・・・頼むからじっとしててくれよ。」

辺りをキョロキョロ見渡して落ち着かないゾロに、俺はそう声を掛け腕を取って、椅子に腰掛

けた。

老夫婦は、そんなゾロを見てにこやかに微笑んだ。

「・・・・・・あの、話って・・・?」

俺は、ゾロを見つめたまま話をしようとしない老夫婦に向かって、そう話を促す。

「あ、ああ、申し訳ありません。 実は・・・・」

そう言って、ご主人が一枚の写真を俺に差し出した。

少し赤茶けた古い写真。

家族写真なんだろうか。

母親は赤ん坊を抱いて父親に寄り添うように微笑んでいる。

俺は、その写真に釘付けになった。

だって、その父親が・・・・・・・・・・・ゾロにそっくりだったから。

なんとなく、先がわかってしまった。

案の定、老夫婦は、ゾロが自分達の亡くなった孫だと主張する。

興信所を使い、ゾロの素性を調べさせたという。

そして、ゾロが身に着けているそのピアスこそがその証明だと。

婦人は確信を持った表情でサンジにそう告げた。

「・・・・・・・・・わかりました。 ゾロ、ちょっと見せて、な?」

俺はゾロにそう言って、ゾロの耳にあるピアスを手に取る。

老夫婦の視線が一心にそこに注がれた。

薄れてはいたが・・・・・・・紋章らしきものは確かに刻まれている。

「確かに、それらしきものが刻まれてますね。」

俺はそれだけ言うのがやっとだった。

自分で血の気が引いていくのがわかる。

ゾロは、ゾロであって・・・・・

身内とか、家族とか・・・・・・

そんなものが存在するなんて、思っても見なかった。

だから・・・・ずっといつまでも一緒にいられると、そう単純に思っていた。

「サンジ? どした? 具合悪い?!」

俺の様子にゾロが心配そうに顔を覗く。

「いや・・・・・・・なんでもねえよ。 心配するな。 それよか、凄いぞ、ゾロ。 てめえ、ここん宅

の子どもだったんだ。 いや、正確には孫だな。 ゾロ、てめえに家族がいたんだよ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・良かったな・・・。」

俺は笑顔を作って、ゾロにそう言った。

「家族?! 俺の家族、あのジャングルにいる。 ここでは、サンジだけ。」

ゾロは、俺の言葉を理解し切れていないようだった。

手を取り合って喜び合う老夫婦が、瞳の端に映る。




そりゃ、そうだな・・・。

死んだと思っていた孫が生きていたんだ。

しかも・・・・・自分の子どもにそっくしな・・・・

けど・・・・・・・・・・

これから、ゾロは・・・・・・

俺達は、どうなるんだろう・・・・?




俺は素直に喜べなかった。

俺だけのゾロが・・・・・・・この時点でいなくなってしまったから。

「済み・・・・・・・・ませ・・・・ん・・・・・俺・・・・・・帰り・・・・」

椅子から立ち上がろうとした俺は、そのショックでそのまま気を失ってしまった。







「・・・・・・サンジ・・・・大丈夫? サンジ・・・・」

ゾロの心配そうな声で目が覚める。

気が付けば、ホテルのスウィートルームのような上等の部屋に俺は寝かされていた。

「ゾロ、どうしたんだ、その服・・・。」

俺は起き上がり、そう声を掛ける。

淡い白色のシルクのシャツに上品そうなカシミヤの紺のベストと同色のズボン。

見た目に上流階級のボンボンのような格好。

同じゾロなのに、着る物でこうも違うのかと、俺は瞳を見張った。

「あ、ここの人がコレ、着てと言った。 良く似合うからって。 サンジ、俺、似合うか?」

嬉しそうにゾロは俺の前でベストを引っ張る。




・・・・・・・本当に良く似合うよ。

俺の・・・・・俺のゾロじゃないみたいだ。




チクンと胸が痛んだ。

「サンジ・・・・?」

「あ、ああ・・・・・良く似合ってるよ、ゾロ。」

心配そうなゾロに、俺は精一杯の笑顔を向ける。

ふと、ドアの方を見ると、老夫婦に仕える執事が俺に頭を下げていた。

「あのな、ゾロ・・・・。 俺、あの人達と話があるから、ここで待っててくれないか? 良いか? 

ちゃんとここの人たちの言う事を聞いて、待ってるんだぜ。」

「わかった。 サンジ、待ってる。」

ゾロは俺の言う事に素直に頷く。



きっともう・・・・・・・

逢う事はねえよな・・・。

バイバイ・・・・・・俺のゾロ。




「じゃあな、ゾロ・・・・・・・・・・・」

後に続く『さよなら』の言葉を呑み込んで、俺は執事と共に、その部屋を出た。

「じゃあ、私達にゾロ君を返していただけるんですね?!」

老夫婦は、本当に嬉しそうに俺に確認を取る。

「ゾロは・・・・・物じゃないから、返すなんて、そんな・・・。 それに・・・・・・本当の家族がいる

なら・・・まして、こちらのような立派な御宅があるなら、戻るのが、あいつにとっても幸せなこ

とだと思うから・・・。 じゃあ、オレ・・・・・・・失礼します。 あの・・・・・ゾロを・・・・・どうか宜し

くお願いします。 あいつなんにも知らないから・・・・・なんにも・・・・ッ・・・」

我慢していた涙が溢れそうになった。

「じゃあ、これで・・・」

俯いたまま、顔も上げず頭を下げ、俺は屋敷を出る。

早く出て行きたかった。

感情を抑えてられる間に・・・。

「あの・・・・・これを。 心ばかりで恐縮ですが、今までのお礼としてお渡しするようにと・・・」

後ろから、メイドの女性が追い掛けてきて、俺に封筒を差出した。

「・・・・・・ありがとう。」

俺はその女性ににっこりと笑い、その封筒を受け取る。

「では、失礼致します。」

女性は恭しく俺に頭を下げ、屋敷の中に入っていった。




こんなもの・・・!!!




屋敷の門をくぐり、俺はその封筒の中身も見ずに、丸めて道に投げ捨てた。




あんなものが欲しくて、ゾロと一緒にいたわけじゃない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰ってこなければ良かった。

あの楽園で・・・・・・・・・・・・・ずっと暮らしていれば良かった。




「ゾロ・・・・・・ゾ・・・・・ロッ・・・・・・・・ごめんな・・・・。」

俺は、ゾロが何も知らずに俺を待っているであろうその部屋の窓を見上げて、そう呟く。

これが、ゾロにとって幸せな決断だとそう自分に言い聞かせながら・・・・。

初めて・・・・・・・・・人前で・・・・・・・・・・・・・・・泣いた。








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<コメント>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チュド〜ン!
ごり押しで、ロロ誕に持ってきて、しいましぇん。(;一_一)
ラブラブな二人に波風立ててしいましぇん。
・・・・・・とっととずらかろう。