Pure Boy


その4.



 




それから、ゾロのことは新聞でも取り上げられ、週刊誌やマスコミなどで、話題となった。

社交界・・・財閥・・・御曹司・・・・・・・どれをとっても、俺とは無縁の世界の事で・・・・。

完全に、俺のゾロはもういなくなったと言う事で・・・・・。

あれから、もう数ヶ月が経とうとしているのに、俺は相変わらず眠れなくて・・・・

あのマンションで独りで暮らせずに、実家に戻って生活していた。

・・・・・・・・・・ゾロと暮らした時のまんま、あの部屋は時間が止まってる。




もう・・・・・・・・・・戻っては来ねえのに・・・・。












「あ、ナミさん、おはようございます。」

大学で見かけた後姿に、俺はいつものようにナミさんに微笑んで挨拶する。

「・・・・・・・サンジ君、最近、どうしたの? なんか疲れてるみたい。 この頃、ちっとも遊びに

行かないし・・・・・どっか具合でも悪いの?」

いつものように振舞っているつもりでも、ナミさんにはわかっちゃったようだ。

「いえ・・・・・・・ちょっと眠れなくて・・・・・。 ああ、けど、気にしないで下さい。 実家の方が

忙しいだけですから。」

「なら、良いけど・・・・・・あ、そうだ。 今度の土曜日、暇? 友人にパーティーに誘われたん

だけど、彼氏同伴って言うのよねぇ・・・。 あたしをエスコートしてくれると嬉しいんだけど

な? ダメ??」

ナミさんなら、いくらでも相手がいるだろうに、そうやって俺に気を配って声を掛けてくれる。




ありがとう、ナミさん。




「えっ?! 俺ですか? ハイ、喜んでvv」

その気持ちが嬉しくて、俺はそう言って返事した。

「じゃあ、10日ね。 午後7時にショッピングモールの広場で。」

ナミさんは、ホッとしたようににっこりと微笑んでそう言うと立ち去っていった。

「・・・・・・10日かぁ。 もう・・・・・・一年経つんだ。」

俺は、ナミさんの言葉に一年前の事を思い出す。

あの楽しくて、嬉しくて・・・・・・・これ以上幸せになんかなれないと、そう思ったあの日・・・。

ずっと二人でお祝いしようと、誓った・・・・・あの日。

「ヤベッ・・・参ったなぁ。 涙腺・・・最近、ずっと緩んでるな・・・。」

俺は溢れた涙を手でゴシゴシと拭き取り、講義を受けに学舎へ向かった。








11月10日。

街は晩秋の彩で装い、行き交う恋人達は仲良さげに腕を組んで歩いていく。

俺は、約束の時間、10分前に広場に着いた。




今日は、ナミさんをしっかりとエスコートしなくちゃ。

それに・・・・・・・・いい加減、吹っ切らないとな。




時計を気にしながら、ナミさんが来るのを待つ。

そんな時、一台のリンカーンが俺の前で停まった。




黒塗りのリンカーンだなんて・・・・・・ヤダヤダ・・・見たくもねえ。

幸先悪いよな・・・。




そんな事思いながら俯いて下を見ていたら、急に声が聞こえた。

「サンジ!!」

「えっ?!」

俺は、その声に驚いて顔を上げる。

だって、それは、忘れもしない・・・・・・・・・・・・ゾロの声だったから。

運転手がドアを開けるより早く、中の人物が降りてくる。

「・・・・・う・・・・そ・・・・・」

俺はその姿を見て、逃げ出した。

その腕に掴まれたら、もう離せない事を知っているから。

見ただけで・・・・・そう・・・・・




こんなにも、俺は、ゾロを欲している。




泣いて顔がぐちゃぐちゃだろうが、通り過ぎる人が異様な目で見ようが、構わなかった。




この半年間、必死で乗り越えようと何度も泣いて・・・・泣き暮らして・・・・

やっと、どうにか区切りをつけようと・・・・・・

そう思い始めたばかりだったのに・・・・・・




「サンジ!!待て!!」

だんだんとゾロの声が近くなる。

俺は追い詰められるように、ビルの屋上へと昇った。

「来るな!! ゾロ・・・・・・来るなよ・・・・。 頼むから・・・・・・黙って・・・・・黙って・・・帰っ

て・・・・・」




・・・・・・一緒にいられないとわかっている。

触れたら・・・・・・・・離れる事が出来なくなる。

そんな想いをもう一度味わう位なら・・・・・・・いっそ・・・・・・




俺はそう言って、屋上のフェンスを越える。

「サンジ!!どうして?! 俺、ずっと待ってた! ずっと、ずっと待ってた!!」

ゾロの言葉が、胸に痛い。

俺に言われるまま、ゾロは、あの屋敷でずっと待っていたに違いない。

「ゾロ・・・・・・あの家が、てめえの家だ。 あの人達がてめえの本当の家族だ。 俺は・・・・・

違う。 俺達は、一緒じゃダメなんだ。」

「何故?! おじいさん、おばあさん、俺の家族って、わかった。 けど、サンジも家族だろ?

サンジも俺の家族!! 夫婦は、家族って言った!! 夫婦だろ!!サンジーッ!!」

俺の言葉に、ゾロはそう言って絶叫した。

その姿は、泣いていないのに・・・・・・・泣いているよか痛々しかった。

「ッ・・・・ゾ・・・ロ・・・・」

駆け寄って、抱き締めてやりたかった。

けど、どうにも身体が言う事を聞かない。




どれが、ゾロにとっての幸せなのか・・・。




葛藤が俺の心の中で鬩ぎ合う。

「・・・・・サンジが行くところ、俺も行くと言った。 サンジが、そこに行くのなら、俺もそこに行

く。 俺は、何処だって平気・・・・・・サンジと一緒なら、何処でも平気だから・・・・。」

サッとゾロが、フェンスを乗り越え、俺の隣りに来た。

これ以上、俺に何を言えると言うんだろう。

こんなにも、俺を愛し、慕ってくれている、心優しき・・・・・俺の・・・・・・

「ゾロ!!」

俺は、ギュッとゾロに抱きついた。

「サンジ・・・・やっと逢えた。」

スッとゾロの手が、俺の頬に触れる。

どれだけ、この手の温もりを欲しただろう。




触れたかった。

抱き締めたかった。




どちらからともなく、互いの唇が触れる。

久しぶりの口付け・・・。

「んっ・・・・ふ・・ぁ・・ッ・・・」

俺達は、のめり込むように深く口付ける。

時間が止まれば良いと、そう思った。

何度も、何度も口付けを繰り返す。

「ごほっ!! まことに申し訳ないのですが・・・坊ちゃま方・・・。」

急に近くで、そう声がした。

俺は、心臓が凍りそうなくらい、驚いた。

そこには、にっこりと笑みを湛える運転手。

「あの・・・・・そのようなところでなされましても、危のうございます。 宜しければ、続きは、

お部屋に帰ってからが宜しいかと・・・・・」

そう恭しく言われた。

恥ずかしかった。

「じゃあ、そのように・・・。」

ゾロはそう言うと、俺を抱え上げて軽々とフェンスを越える。

本当なら、ここで、降ろして貰って歩いた方が良いんだけど・・・・

俺・・・・・なんかもう腰が砕けて・・・・・歩けないから・・・。




だから・・・・・・・気をつけてたのに・・・。




ちょっぴり、こんな場所でゾロと口付けたことを後悔しながらも、そのままゾロに身を任す。

「では、坊ちゃま、私が車までお抱えしましょうか?」

「いや、良い。 サンジは、俺しか抱いちゃダメだから。」

そう言って、腕を差し出していた運転手の脇を、俺を抱いたまま颯爽と通り抜けるゾロ。




本当、真顔でそんな事言うなよな。

聞いてるこっちが恥ずかしい。




俺は恥ずかしさで、顔をまともに上げれない。

「クスクス・・・・そうでございましたか。 それは、失礼致しました。」

後ろで、運転手の忍び笑いも聞こえてくる。




あー、もう、俺・・・・・・死んじまいてえ・・・。




そんな時、俺の携帯が鳴った。

「もしもし・・・あ、ナミさん?!」

「あっ、サンジ君、ごめん・・・・実は・・・」

相手は、ナミさんだった。

どうやら、本命の彼氏から、俺を同伴する事を止められたらしい。

待ち合わせをすっぽかしたと言うお詫びの電話だった。

「ううん、全然気にしないで。 じゃあ、おやすみ・・・。」

俺は、笑顔で携帯を切る。

「その電話、誰?!」

じっとゾロに睨みつけられた。

「あ、うん、ナミさんからだ。 今日、デートする予定だったから・・・・。」

車に乗せられ、俺はゾロにそう答える。

「デートしてたのか? サンジ、俺と夫婦なのに、デートしてたのか?!」

そう言って、あからさまにムッとされた。




・・・・・・なんで、こう・・・・可愛いんだ、こいつは・・・・




「ばぁ〜か、してねえよ。 しようと思ったけど、てめえが来たじゃねえか。 なっ?」

込み上げてくる笑いを抑えながら、笑顔でそう言ってやった。

「サンジ、絶対にダメだからな。 俺以外とデート、絶対にダメ!」

真顔で、そう言い返された。

それから、俺達はゾロの屋敷に戻って、ゾロは老夫婦に自分達の意思をちゃんと伝えた。

あのマンションで、俺と一緒に暮らしたい事。

俺と一緒じゃなきゃ、ジャングルに帰るとまで、言い切ってくれた。

本当に・・・・・・・・嬉しかった。




いつの間に、こんなに頼もしくなったんだろう。

初めて逢ったときから、この顔に、俺は・・・・・・・・・恋してる。




俺は、横にいるゾロの顔を見つめながら、ドキドキが止まらない。

「初めて・・・・ゾロ君が、私達に我侭を言ってくれましたね。 とても嬉しい事です。 それでこ

そ、家族でしょう? 本当に嬉しいです。 ゾロ君がお好きなようになさりなさい。 別れて暮

らしていても、私達は家族ですから。」

老夫婦は喜んで、俺達の事を認めてくれた。

「じゃあ、これから帰ります。 俺達の部屋に・・・。」

ゾロは、老夫婦に挨拶をして、俺の腕を取って部屋を出る。

「オ、オイ! いいのかよ?! こんなに簡単に出てきて・・・」

「良いんだ。 さぁ、早く!! 時間が無い!!」

車に乗り込み、俺達は、マンションに向かった。

「早く! 早く!!」

「ちょっと待てって!!」

そう急き立てるゾロに、俺は慌てて鍵を開け、部屋に入る。

リリリリリッと、ゾロの腕時計のアラームが鳴った。

「サンジ!間に合った!! 夫婦の日だ!! おめでとう!!」

俺を抱え上げ、ゾロはそう言ってベッドに飛び込んだ。

壁に掛けてあった時計も、午前0時を告げる。

「ククク・・・・・・おめでとう、ゾロ。 今年も・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・二人でお祝いだ。」

それから、俺達は、久しぶりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・夫婦した。

 

「・・・・・Happy Birthday Dear ゾロ・・・・。」

翌朝、俺は隣りで俺を抱えて幸せそうに眠っているゾロにそっと囁く。




この幸せが、ずっと続きますように・・・・。

来年も・・・・・・そして、その次の年も・・・・・

Happy Birthday・・・・・。

ずっと、二人でお祝いしような・・・・・。




それから、その頬に、優しく口付けを落とした。













<END>


 



<コメント>

やっと・・・やっと終わりました!
ひえぇぇぇ〜〜、全部で90KBもあるぅ〜・・・。(死)
本当に、なんでこれをロロ誕に持ってくるかなぁですよね。(蹴)
しかも、これって・・・・ギャグ系?せつな系??(笑)
ゾロが幸せになれば良いんです!(宣言)
いつもと一味違う可愛いロロノアをお送りしましたvv
では☆

<ロロ誕部屋>