ローたん’S バースディー

by ANNIVERSARY


その3






その夜。

「もしもし、俺。 サンジか? ・・・・・あのな、言い難いんだけど・・・・明日、帰れそうにない

んだ。 ・・・・ちょっと、予定外のことが起こってて・・・・・サンジ・・・・・おい、サンジ、聞いてる

か?」

ゾロからの電話は、サンジの不安を的中させるモノだった。

「・・・・な・・・・・なんで・・・・・なんで・・・・ゾロ・・・・・・でも・・・・11月11日までには帰ってこ

れるよな? そこまで、長く、いないよな?」

サンジは、グッと涙を堪えて、ゾロの返事を待つ。

「・・・・・・ごめん、サンジ・・・・・・ヘタしたら、来月一杯・・・・・戻れねえかも・・・・・けど、俺、

なるべく早く帰るようにするから・・・・・」

ゾロは、間をおいて、静かな声でそう告げる。

「っ・・・・なんで・・・・・どうして・・・・・だって・・・・・だって・・・・ふぇ・・・・・11日は・・・・・11日

は・・・・俺達の・・・・ヒックッ・・・・・・結婚記念日じゃねえか・・・・・ゾロの・・ふっくっ・・・・・

誕生日じゃねえか・・・・・・なのに・・・・・・なのに・・・・ふぇっ・・・・・・」

サンジは、堰を切ったように、泣き出した。

「・・・・サンジ・・・泣くな・・・・泣かないでくれ・・・・・頼むから・・・・・お前に泣かれるのが一

番、堪える・・・・・だから・・・・泣かないでくれ・・・・・サンジ・・・・・」

ゾロは、優しく宥めるようにサンジの声を掛ける。

「うっくっ・・・・・ゾロの馬鹿・・・・馬鹿野郎・・・・・ゾロなんか・・・・・ヒックッ・・・・ずっと・・・・・

ずっと、仕事してれば良いんだ・・・・・・・・俺やラピスのことなんか忘れて・・・・・・もういい

っ・・・・もうなにも、聞きたくないっ!」

「お、おい! サンジ・・・」

サンジは、感情のままに、電話を一方的に切ってしまった。




・・・・・わかってるんだ・・・・・

・・・・・本当は、仕方ないことだって・・・・・

・・・・・俺達のために、働いてくれてるんだもんな・・・・・

・・・・・だけど・・・・・・

・・・・・俺達・・・・・もう1ヶ月、会ってないんだぜ・・・・・

・・・・・俺の心は・・・・・悲鳴を上げてるのに・・・・・・

・・・・・もう限界だって・・・・・そう叫んでるのに・・・・・

・・・・・ゾロは・・・・違うのかな・・・・・・

・・・・・ゾロは・・・・平気・・・・・なのかな・・・・

・・・・・どんなことがあっても・・・・・・

・・・・・この日だけは、家族でお祝いしようって・・・・・・

・・・・・そう言ってた・・・・・じゃねえか・・・・・

・・・・・それなのに・・・・・・それなのに・・・・・

・・・・・ゾロ・・・・・・もう・・・・・忘れた?・・・・・




鳴り響く電話のベルのだけが、いつまでもロロノア家にこだました。









次の日から、サンジは、いつも以上に、厨房で、忙しく動き回った。

少しでも、ボーとする合間が出来ることを怖れるように、何かしら身体を動かし続けるサンジ。

ゼフは、その様子を深いため息を吐いて見守っていた。

昨夜遅く、ゾロから、ゼフの元に電話が入った。

何度連絡を取ろうとしても、サンジの方が、ゾロからの電話を取ろうとしないと・・・・・

サンジの様子が心配だから、様子を見てくれないかと言う電話だった。

ゾロには、自分に任せろと言ってはみたものの、今のサンジを見ていたら、叱咤するのは、

逆効果に思えて、それでいて、他に良いアイデアは思いつかず、ゼフは、ため息を吐いて、

サンジを見守るほか無かった。

働いている時間はなんら前と変わりないが、店が終わると途端に、ポロポロとラピスの前で

も泣き出す始末・・・・

ラピスの方も、そんなサンジの様子に子供ながらに胸を痛めているのか、一緒になって、

泣き始める。

以前から、夕方になると決まって言っていた、『ローたんは?』の言葉も、最近は、口にしなく

なった。







そして・・・・・11月11日。

やはり、ゾロが帰ってくる気配はない。

というか、サンジには、今ゾロがどうしているのかさえわからない。

あの日以来、サンジは、電話に出なくなってしまった。

携帯電話の方も、電源を切ったまま・・・・

一切のゾロとの接触を断ち切ってしまった。

そうでもしないと、サンジの心は、壊れそうだった。

今また、ゾロの声を聞いてしまうと、自分は、またゾロを責めてしまう。

どうしようもないこととわかっていても、ゾロに側に居てと泣き叫んでしまう。

それが、ゾロにとって、辛い仕打ちとわかっていても、自分は、止められそうにない。

ゾロの仕事の邪魔には絶対になりたくなかった。

・・・・けど、笑って平然とする強さも持ってなかった。




・・・・・・でも・・・・・ゾロに・・・・・会いたい。




相反する心に、サンジは、神経をすり減らしていた。

「いよう、しけたつらして、どうした。 ラピちゃんvv 元気でちゅうか〜vv」

閉店間際・・・・サンジが、今一番会いたくない奴が、店にやってきた。

ゾロの会社の社長、シャンクスと部長のベンだった。

「すいません、お客さん、もう閉店なんですよ。」

サンジは、表面上の挨拶をして、ラピスを抱いてさっさと厨房に戻る。

「おいおい、全く・・・・すげえ、嫌われちまったな、こりゃ・・・・ まっ、仕方ねえけどよ。

なあ、サンジちゅうわんvv 俺達、お腹ぺこぺこなのよんvv なんか食わせてvv」

相変わらず、人の気なんか無視して、言いたいことを言うシャンクス。

サンジは、叩き出したい気持ちをグッと堪えて、厨房にはいると、簡単なピラフを作って二人

の前に出す。

「・・・・これ食ったら、出て行けよ。 あんた達の面なんざ、見たくもねえ。」

サンジは、そう吐き捨てるように言う。

「おおっ怖っ! はいはい、言われなくても、出ていきますよん。」

シャンクスはそう言って、食べ始めた。

「ああ、ごちそうさまvv さて、帰るとするか・・・・おい、ベン、ここの勘定、お前頼むな。」

「馬鹿か、あんたは・・・・社長が、社員から飯驕って貰ってどうする。 普通は、逆だろ?」

「なに、そんな堅苦しいこと言ってんの、ベンちゅうわん、お前と俺の仲じゃねえか・・・・・・

第一、男は、ぐちぐちいつまでも、細けえことは、いわねえんだよ。 ほらっ、行くぞ。」

「・・・・・全く、あんたって人は・・・・・」

ベンは、シャンクスに言い負けて、しぶしぶ食事代を払う。

「おっ、サンジ、忘れてた。 わりい、これ、ゾロの奴に、渡してくれねえか。 重要な書類な

んだよ。 至急なっ。」

シャンクスは、そう言って、ドアの前から戻ってくると、サンジに茶封筒を渡す。

「えっ?! 何言ってんだよっ! ここに、ゾロがいるわけねえじゃんかっ! あんたが・・・・

あんたのせいで・・・・・」

サンジは、こみ上げてくる怒りに身体を震わせて、シャンクスを睨み付ける。

「ああ、だから、悪かったって。 今うちの会社、人手不足なんだ。 で、なあ、この書類を持

っていける奴が、全然いねえんだ。 この中に、渡航手続き一切の書類が揃ってる。 

なあ、サンジ、すまねえが、ひとっ走り、ロスまで、この書類、届けてくれないか?

とっても、重要な書類なんだよ。 なっ、頼む、この通りっ!」

シャンクスは、そう言って、手を合わせる。




・・・・・何言ってんだ・・・・・この人は・・・・・・

・・・・・俺が、ゾロに・・・・・

・・・・・ゾロに、書類を届ける??

・・・・・だって・・・・・だって、そんな子供のつかいじゃねえんだぞ・・・・・・

・・・・・海外だぞ・・・・・

・・・・・俺・・・・俺が、行っても良いのか?

・・・・・ゾロに・・・・・ゾロに、会えるのか?

・・・・・俺・・・・・ゾロに会いに行って・・・・良いのか?




「なに、ぐずぐずしてやがる。 さっさと、家に帰って、行く準備してこい。 ラピスの分も、忘れ

んじゃねえぞ。 ほらっ、時間がねえ・・・・・さっさと、二人分用意して来いッ!」

シャンクスの言葉に、ボーっと突っ立ったまま動かないサンジに、ゼフは、そう言って、ラピス

を抱き上げる。

「う、うん・・・・・ありがとう、シャンクス。 俺・・・・俺・・・・・」

サンジは、そう言って、ギュッとシャンクスに抱きついて感謝した。

「うほうvv 役得だな、俺vv でも、サンジ、少し、痩せたぞ。 もう少し、俺としては、グラマー

な方が・・・・・いやいや・・・ゲフゲフ・・・・ 別に、俺達が、頼んだことだからな。 さっ、俺達

が、空港まで乗っけてやるから、さっさと、準備して来いよ。」

抱きつかれたシャンクスは、にやにやと笑うと、ポンポンとサンジの頭を撫でて、そう言った。

サンジは、一目散に家に戻ると、自分とラピスの身の回りのモノをバッグに詰め、再び、店に

向かった。

それから、サンジとラピスは、空港までシャンクス達に送って貰い、一路、ゾロのいるロスへ

と旅立った。









「うわあ、ラピス、見てみろよ、この透き通るような高い空・・・・・すげえな。 日本と全然、違

うよな。 ・・・・・・もう日が変わっちまったけど・・・・・一日ぐらい遅れたって良いよな。 ラピ、

ローたんにもうすぐ、会えるぞ。」

「ローたん・・・・・いる?」

「うん。 ここに、ゾロはいるんだ。 もうすぐ、会えるからな。」

サンジの心は、ラピス以上にうきうきと高揚し、見るもの全てが、色鮮やかに染まっていく。

サンジは、ベンに言われたとおりに、ゾロが、泊まっているアパートへ、道を急いだ。




・・・・・本当、大学行ってて、良かったぜ。

・・・・・確か、さっきの人の話だと、ここら辺に・・・・・




「あった、ここだ。 ここのアパートだ。 203・・・・・203っと・・・・ 

Excuse me・・・・Anyone else?・・・・」

サンジが、アパートの呼び鈴を鳴らす。

暫くして、品のいい老婦人が、顔を出した。

「あ、あのすみません・・・・・こちらの203号室に住むロロノアの家族の者なんですが・・・・・

って、英語じゃないと、通じないか・・・・ええっと・・・・・Excuse・・・・」

サンジがそう言って、英語で、会話しようとしたときに、流暢な日本語が聞こえた。

「あらっ、あなたも、日本の方ね。 ふふふ、私、昔、日本にいたの。 だから、日本語で大丈

夫よ。 ロロノアさんなら、今は、お仕事でいないわよ。 あなた達のことは、彼から色々と聞

いているわ。 本当に、綺麗な方ね。 早くロロノアさんが、帰りたがる気持ちわかるような気

がするわ。 それに、なんてキュートな女の子なの。 ロロノアさん、溺愛してるって感じね。

これじゃ、側にいないとなにかと心配よね。 あっ、そうだ。 彼を驚かせてやりましょうよ。 

ふふふ、きっと、目を白黒させて驚くわよ。 ささ、入って、こっちよ。」

その老婦人は、そう言って、サンジとラピスをアパートの自分の部屋に招き入れた。

老婦人の部屋は、綺麗に整頓されていて、婦人の趣味の良さを感じさせる室内であった。

「あの、本当に、すみません。 俺達、お邪魔じゃないですか?」

サンジは、申し訳なさそうに、老婦人に言った。

「Non・・・全然! それどころか、ロロノアさんの話に出てくるあなた達に出会えて、本当に、

嬉しいのよ。 私、一度で良いから、逢ってみたいって、そう思ってたんですもの。 さっ、彼

をびっくりさせてやりましょう。 あなた、ええっと、サンジさんだったわよね? 貴方のお料

理、とても上手だと言ってましたよ。 私にも、食べさせてあげたいと、はにかんだ笑顔でそう

言ってました。 全く、私の料理を食べながらですよ・・・・・」

老婦人は、大げさに不機嫌さを装って、そう言って笑った。




・・・・・/////あ〜、ゾロの奴・・・・・

・・・・・恥ずかしい奴・・・・・そんなことまで、喋ってんのか・・・・・




サンジは、恥ずかしくなって、顔を真っ赤にして俯いた。

「ふふふ、そう恥ずかしがらないで。 日本の男性は、奥さんのこと、あまり誉める人、いない

ですね。 それは、ダメです。 せっかく愛し合って結婚したのに、素直に良いところは、誉め

てやるべきです。 その点、ロロノアさんは、良い旦那様ねvv」

「・・・・・・はあ・・・・・」

そう言ってウィンクする老婦人にサンジは、ますます真っ赤になってしまった。

「さてっと、サンジさん。 貴方の腕前、披露して下さいねvv 材料は、冷蔵庫の中にありま

すから、自由に使って下さい。 今日は、皆で、お祝いしましょう。」

老婦人は、そう言って、サンジをキッチンのカウンターに案内する。

手入れの行き届いたキッチンは、とても使いやすく設計してあり、食材や、キッチン用品の善

し悪しからも、この老婦人が、かなりの料理の腕前をもつと推測された。

サンジは、進められるままに、冷蔵庫の食材を使って、様々な、ゾロが好む料理を作った。

テイストは、和でありながら、どことなく西洋風で、高級ホテルのディナーにも負けないほど

の豪華さである。

「Woo!! 素晴らしいね、サンジ。 ひとつ、先につまんでも良いですか??」

老婦人はそう言うと、前菜の一切れを口に入れた。

「おう、やっぱりね、サンジ、あなた、バラティエのシェフ、ゼフ、知ってますね。 貴方の作る

料理、とても、ゼフの味によく似ています。 バラティエで、修行しましたか?」

老婦人は、サンジにそう尋ねる。

「あなたは、オヤジを、いや、父を知ってるんですか? 俺、ゼフの息子なんです。」

「えっ?! 貴方、男の人? ごめんなさい、てっきり、女の人かと・・・・ こんなに綺麗で、

男の人だと気が付きませんでした。 貴方が、あのオーナーゼフの一人息子さんだったんで

すね。 私とゼフは、昔、同じ店で、修行していたことがありました。 あの頃は楽しかったで

す。 フランスのピエールとゼフと私と・・・・競い合うように、料理の腕を磨きました。 でも、

ゼフの料理に関する腕は、そのころから、超一流でしたよ。 こんな偶然・・・・本当に、嬉し

いわ。」

老婦人は、そう言って、ギュッとサンジの身体を抱きしめた。

「あ、あの、その、変に思わないんですか? 俺、男なのに、ゾロと結婚してて、その上、

子供までいて・・・・」

サンジは、老婦人が、全然驚く様子を見せないので、そう聞いてみた。

「Non・・・何故? 男の人だろうが、女の人だろうが、好きなら、一緒にいたいのは、普通で

しょ? それが、結婚という形式を取るかそうじゃないか、ただ、それだけの違いね。 

サンジさん、あなたは、ロロノアさんを愛していて、ロロノアさんも、貴方を愛している。 

だったら、別に結婚していても、なんら、不思議はないわ。 それに神様は、あなた達を祝福

してくれたから、こんなにキュートな子供を授けて下さったのよ。 何も恥じること有りませ

ん。 それに、ここ、ロスでは、同性同士の結婚が、認められつつありますから・・・」

老婦人は、そう言って、にっこりと笑った。

「あっ、じゃあ、俺、ゾロの好きな酒、買ってきます。 この辺に日本食のお店有りますか?」

サンジは、老婦人の言葉に、心が温かくなるのを感じた。

「じゃあ、3人で、出かけましょう。」

老婦人は、そう言って、ラピスとサンジを連れて、日本食を扱う店に向かった。









   
<next>    <back>    





<コメント>

この【ANNIVER...】シリーズ(って、するつもりか?!)には、
たくさんのオリキャラがでてくるんですよ。
だって、原作のキャラに使える奴がいないんだもん。
この老婦人、今回名前出してないですけど(単に考えたくなかっただけ・笑)、
ゼフの過去とか色々と知ってるんですよ。
その話は、また次の機会にでも・・・今は、まだ秘密だニャーvv
しかし、この二人、海外ばかり、良く行くよね・・・・
次回は、どこに飛ばそうかな??(笑)
次で、終わりますvv