Smell of a cigarettte


その1



 




 いけ好かねえ野郎だと思った。

 女と見りゃ鼻の下伸ばして気障な口説き文句を垂れ流し。

 男には容赦なくその端整な顔立ちからは想像もつかないような暴言を浴びせ掛けて。

 初対面の俺等の夢を嘲笑いやがった。

 さぞかしてめえはご立派な人生プランを持って日々お気楽に過ごしてやがるんだろうな。

 夢に向かって突き進もうとしている俺達には理解出来ねえ奴だと、その存在を自分の中から排除した。

 どうせもう二度と会う事などない、一レストランの一コックなんだから。

 __________そう、俺には関係無い。

 そう思い、無視を決め込んだ。

 なのに。

 深手を負いながらもナミを追い、傷付いた体に鞭打って再びルフィと合流した時。

 目に飛び込んできた、金色。

 まさか、と我が目を疑った。

 だが・・・・・・・・・それは紛れも無い現実で。
 
 もう二度と会う事は無いと記憶から抹消しかかった男の顔が、そこにはあった。




































 俺が思った通り、奴は何の事情も知らねえくせにナミに愛想を振りまいて、終いには俺を馬鹿にしたような言葉を発しやがった。

 こんな野郎が仲間になるなんて、俺は絶対に認めねえ。
 
 ナミを助ける為にアーロンパークへ向かう途中まではそう思っていた。

 だが、敵陣に着き、ルフィが戦闘不能になっちまって海へと投げ落とされた時。

 コイツの隠された実力を知った。

 只のコックだと思っていた俺の目の前で、幹部クラスの魚人相手に互角の戦いをしている。

 そのおかげで、俺は一匹に集中して戦う事が出来た。

 更にはもうルフィのタイムリミットがまじかに迫った時、自らの危険も顧みず海へと飛び込むその姿に。

 さっきまでの自分の考えを訂正した。

 口が悪かろうと、態度がムカつこうと。

 コイツの仲間に対する想いを、ほんの少しだけ感じる事が出来たから。

 だから・・・・・・・・・・・・・俺は朦朧とした意識の中でアーロンと対峙し、アイツが海へと潜る時間を稼いだ。

 その後、やっと自由になったルフィがアーロンと死闘を繰り広げ________

 村に、平和を取り戻した。



































 村挙げてのお祭騒ぎの最中。

 俺はアイツと何故だか向かい合って料理を食っていた。

 何を話すでもなく、只黙って酒を煽り村人が騒ぐ様子を眺めていたその時。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なあ。」

 不意に掛けられた言葉。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ?」

 ぶっきら棒に答える。

 すると、俺の目をジッと見詰めながら

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・怪我、平気なのか?」

 と聞いてきた。

 少し驚き、でも平静を装って

 「ああ、これくらい問題ねえよ。医者に縫ってもらったしな。」

 そう答える。

 「でもよ、あの医者全治2年って言ってたぜ?」

 「ああ、そうだな。だが・・・・・・・・・・・・・・んなもん、寝りゃ治る。これまでもずっとそうやってきた。」

 そんな俺の言葉に、一瞬身体の動きを止め、そして__________

 「ははっ!テメエらしいなぁ!」

 そう言って、笑った。

 その笑顔に何故だか________目が惹き付けられ、逸らす事が出来なくなった。

 そんな俺を余所に、ナンパをしようと席を立って喧騒の中へと消えていったアイツの後姿をただ黙って見詰めるしか出来なかった俺。

 煩い程鳴る鼓動を何処か遠くの出来事のように思いながら_________




































 それからグランドラインに向けて再出発して。

 船は活気に満ち溢れていた。

 以前はただ皆で集まって適当に食事を取るだけだったキッチンからはいい香りが漂ってきて。

 その中心にはいつもアイツの姿があった。

 何もしなくても、3食温かくて美味い料理が食えるようになり。

 乱雑になっていた男部屋も小奇麗になり。

 山のように積まれている事が多かった洗濯物も影を潜め。

 同じ船とは思えない程、生活環境が向上したのは、全てアイツのおかげ。

 仲間になり、共に生活するようになって初めてアイツの内面がわかるようになってきた。

 自分の事よりもまず他人の事を優先する性格とか。

 一見豪快な性格に見えるけれど、内面は繊細で儚げな部分が多くを占めているとか。

 口汚い言葉の中にも相手に対する気遣いが潜んでいるとか。

 知れば知るほど、興味深い相手だな、と思った。

 そして__________

 その思いは日増しに強くなっていく一方で。

 気付けば知らずに視線がアイツの姿を追っていたり。

 声がする方へ用もないのに脚を向けてみたり。

 もっともっとアイツの事を知りたいと思う自分が居た。

 その感情が何なのか知る術を、俺は持っていない。

 だから_______ずっとこのまま、時が過ぎていくんだとばかり思っていた。

 あの日が来るまでは。




































 見張りを終え、夜食を食べにキッチンへと向かう。

 そこで用意されているものを食べ、寝るのが俺の最近の日課だった。

 自分で暖める手間があるが、それを差し引いてでも食う価値がある程、サンジの夜食は美味かった。

 いつものようにドアを開け、中に入る。

 ____________と、目に入った人影。

 「・・・・・・・・・・・・・・・おう、見張り終わったのか。ちょっと待ってな、今暖めてやる。」

 俺の顔を見ずにそう言うと、コンロに火をつけた。

 内心有り難いと思いつつ、自分の席の椅子を引いて座り、出来上がりを待つ。

 程なく、湯気の出るポトフが机の上に置かれた。

 「ほらよ。」

 「・・・・・・・・・ああ、サンキュ。」

 身体が冷え切っていた事もあり、スープの温かさが体内に染み渡るようだった。

 そんな俺を只黙って見るめるサンジ。

 全て食い終わり、不思議そうに奴の顔を見ると、少し慌てたように空いた皿を流しへと片付ける。

 「・・・・・・・・・・・・・・美味かった、ご馳走さん。」

 滅多に言わない言葉が口から出てきた。

 サンジも驚いたように振り返り、俺の顔を凝視する。

 「・・・・・・・・・・・・・・何か、気味悪いなぁ、てめえが美味いなんて言うとよ。」

 視線を逸らしながらも口調が何処か嬉しそうで。

 「・・・・・・・・・・・・・お前の料理は美味いっていつも思ってるがな。」

 更にそう付け加えると、見てわかる程サンジの頬が赤く染まった。

 「バッ、てめ・・・・・・・・・・・んな事・・・・・・・・・・・・・」

 下を向きながらモニョモニョと言葉を濁すその仕草を目にした途端。

 突如、自分の中に凶悪な感情が宿った。

 この身体を組み敷き、思う存分啼かせてみたいと。

 痩身を揺さぶり、突き上げ、乱れて喘ぐ様を見たいと。

 その瞳に、自分だけを映したい、と______________

 薄々、自分がサンジに惹かれている事には気付いていた。

 最初はそんな事認められる筈もなかった。

 だが、どう足掻いても自分の気持ちに嘘などつけない。

 その気持ちを素直に認め、心の奥底に封印しておこうと自らに科した。
 
 その想いが今、出口を求めて溢れ出ようとしている。

 ここに居たらヤバイと直感した。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあな、お休み・・・・・・・・・・・・・・」

 そう告げ、男部屋に戻ろうとした俺を引き止めたのは。

 サンジの、柔らかい手だった。


































 俺の腕を掴まえながら下を向いているサンジに、極力感情を抑えた声で問い掛ける。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ?」

 俺のその言葉にゆっくりと上がる顔。

 それは__________妖艶な微笑みを浮かべていて。

 今まで見たことも無い表情だった。

 途端に鼓動が騒ぎ出す。

 その顔を見てはいけない、と頭の中で警鐘が鳴り響く。
 
 だが、目を逸らす事が出来ない。

 そんな俺の顔をじっと見つめたまま、サンジの口から零れ落ちた言葉、それは____________





















 『なあ、俺とセックスしねえ?』


















 耳がイカレたのかと思った。

 自分の願望が聞こえさせた空耳かとも。

 だが、目の前のサンジは未だ誘うような顔で、俺の首に腕を回してくる。

 「長い航海、お互いに溜まるだろ?陸に着きゃ綺麗なお姉さまにお相手してもらえるけど、そうすぐに上陸出来ねえかもしれねえし。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何、言って・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「こういった船じゃ常識だろ?それに俺初めてって訳じゃねえし。ま、俺じゃ勃たねえってんなら話は別だが・・・・・・・・・」

 言い終わる前に唇を塞いだ。

 サンジの言葉に、傷付いた自分が居る。

 男とヤるのは初めてじゃないと言い放ったコイツに、どうしようもなく我慢が出来なかった。

 ならば遠慮などする事は無いと、荒々しく身体を捻じ伏せた。

 頭の中で思っていた通りに突き上げ、揺さぶりって。

 だが、想像と違っていたのは__________

 サンジの顔は、一度たりとも見えなかった。

 ずっと背中だけを向けられていた。

 喘ぐ声を押さえ、必死に耐えていた。

 縋る手を伸ばされる事が無かった。

 ______________________________それだけ。




































 あの夜から、俺達の関係は変わってしまった。

 二日と空けず身体を提供してくるサンジ。

 それを黙って受け入れる俺。
 
 何か話すでもなく、只自分の快楽だけを追う姿を見詰めるだけ。

 こんな関係を望んでいたんじゃない。

 こいつを組み敷きたいとは思っていたが、それは互いの気持ちが同じであるって前提だった。
 
 自分の気持ちを受け入れてくれ、尚且つコイツも自分と同じ気持ちだったら、という前提。

 だから、そんな事があるはずも無いと諦めていたのに。

 今俺はこうしてサンジを貫き、揺さぶり続けている。

 こんな虚しい関係になるのならば、サンジからの誘いなど拒絶してしまえばいい話だろうが。

 一度知ってしまったこの熱を。

 この身体を。

 手放す勇気など、俺は持ち合わせていない。

 愛情など存在しない行為だと理解していても。

 だから今日も俺は___________サンジを、抱く。

 こんな事なら、いっそ・・・・・・・・・・・・・・・・出会わなければ良かった。









  
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<コメント>

ひろ様のゾロ誕部屋より頂いて参りましたvv第2弾vv
ゾロ視点の片思い切ない系ですよんvv
何も言うことは、ありません・・・・・・
このまま最後まで、ごゆっくりと、この素敵なSSを堪能して下さいませvv
さすが、お師匠様vv 素敵過ぎっすvv くぅ〜・・・せつないぜ・・・・・(泣)
(↑いや、ルナが勝手にそう思ってるわけで、ひろ様には、ご迷惑ですが。)
こんな素敵で格好可愛い二人が一杯の、素敵なひろ様のサイトは、
こちらから

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