Smell of a cigarettte


その2









 「今日の昼前には予定通り島につくわ。今回の船番はウソップ、お願いね。残りはいつものように各自で宿を取って。」

 朝食が終わった後、ナミがそう言って一泊分の宿泊代を手渡ししていった。

 「はい、ルフィ。いい?これは宿に泊まる為のお金なんだからね?間違っても肉とか買うんじゃないわよ??」

 「それくらい俺だってちゃんとわかってるぞ!ナミ、お前失敬だな!!」

 「そう言ってて使っちゃうからうるさく言うんじゃない・・・・・・まあいいわ。使ったら野宿ですからv」

 サラッと非道な事を言ってのけ、笑顔でサンジの前に立つと

 「じゃあこれ。サンジくんには買出しのお金も一緒に渡しておくわね。出航間際に買出し宜しくねvv」

 そう笑顔で告げると

 「はぁ〜〜〜い、ナミさ〜〜〜んvvまっかせといて♪」

 これ以上ないって程顔を崩してヘラヘラと愛想を振りまく。

 それを極力視界に入れないよう横を向くと

 「はい、ゾロ。あんたも心配ないわよね。あ、そうそう。いい?迷子にだけはならないでよ?出来るだけ港の近くに宿取りなさい。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・んな心配いらねえよ。母親か、てめえは・・・・・・・・・・・・・」

 「迷うから言ってんでしょ!?遅れたら置いてくからね。」

 そう言い切ると乱暴に俺の手へと金を握らせキッチンを後にした。

 それに続き、他のクルーも上陸の準備の為部屋へと戻っていく。

 俺も洗い物をし出したサンジの背中に一瞬視線を移し、すぐに逸らしてその場から立ち去った。

 






























 ナミが予想した通り、昼前に島についた。

 「肉〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 
 朝食時のナミの忠告をあっさり無視したルフィが一目散に街中へと消えていく。

 「ったく・・・・・・・・・・・・・ま、アイツはほっときましょう。じゃあ私も買い物に行って来なくちゃ〜vv」

 久々の大きな港町という事もあり、ナミは目を輝かせながら足取りも軽くルフィが走り去ったのと同じ方向へと歩いていった。

 「じゃあな、ウソップ。飯はキッチンに用意してあるから、見張り頼んだぜ?」

 「お〜う、任せとけ!気をつけてな〜。」

 甲板に実験道具を並べているウソップに笑顔で声を掛けるサンジの横を黙ったまま通り過ぎ、縄梯子に手をかけた。

 それに気付いたウソップが

 「ゾロも気をつけてな〜。迷子になるなよ!」

 そう声を掛けてきたのに手を上げ答え、脚を踏み出す。

 _________________と、

 「あ、」

 サンジが俺に向かって何か言いたそうに口を開いた。

 一瞬立ち止まりそうになったが・・・・・・・・・・・・・あえて聞こえなかったフリをしてそのまま梯子を降りていく。

 今は、アイツと言葉を交わしたくなかったから。

 それにきっとまた、喧嘩越しな言葉を投げ掛けられるだけに決まっている。

 今日は、それさえも・・・・・・・・・・・・・・・・・聞きたくはなかった。

 そのまま俺もルフィ達と同様に街へ向かって歩を進めていった。






























 サンジとはここ三日程そういった行為をしていない。

 もうすぐ陸に着くとわかっていたから、それは当然の事だろう。

 俺達の関係は、アイツにとっちゃ只の性欲処理。

 それ以上でも、以下でもないんだから。

 陸で女を抱けるのなら、それまで禁欲していた方が得られる快感は高いだろうし。

 何より、俺達の関係はサンジからの一方的な誘いで成り立っている。

 俺から誘った事など、一度も無かった。

 それだけは・・・・・・・・・・・・・・・・・しないでおこうと最初にアイツを抱いた日に心に決めていた。

 俺の心の中だけでも、アイツとの関係は処理目的じゃないと思っていたかったから。

 自己満足でも、それだけが・・・・・・・・・・・・・・・俺にとっては、大切な事だから。

 行く当てもなく街中をふらつく。

 すると、一軒の綺麗にデコレーションされたショーウィンドウが目に留まった。

 そこには数字の「1」が四つ並んでいる。

 そう、今日は「11月11日」
 
 この街では何か特別な意味合いがあるらしく、そこかしこで記念セールやサービスがとり行われていた。

 そして________________今日は、俺の誕生日。

 その事はクルーの誰にも言っていない。

 勿論、サンジも知りはしない。

 前に一度聞かれた事はあったが、上手く誤魔化して言わずにおいた。

 俺がこの海賊団の仲間になり、サンジも加わってからというもの。

 仲間の誕生日には、物凄く豪華な食事が用意され、そして______________皆で、騒いで飲んで祝う。

 そして、アイツも・・・・・・・・・・・・・・・笑う。

 屈託無く。

 心を込めて作った料理と、その天性のサービス精神から紡がれる言葉で相手を幸せな気持ちにさせてくれる。

 だが、今の俺には・・・・・・・・・・・・・・・それを受ける資格があるとは到底思えなかった。

 自分の欲望の為に、差し出される身体を拒めずに抱いてしまう俺には。

 サンジの笑顔を欲する資格など・・・・・・・・・・・・・・・・・・・有りはしない。

 もし、俺達の間に何もなくて、只の喧嘩ばかりするいけ好かねえ野郎ってだけの、仲間ってだけの関係のままだったなら。

 今頃は船でサンジの料理と美味い酒で誕生日を祝われていたんだろう。

 そんな事をつい考えてしまう女々しい自分の思考にも腹が立つ。

 俺は何時からこんなにも弱くなっちまったんだ?

 こんな所で立ち止まっている暇など無い筈だ。

 鷹の目に敗れ、負った傷に手を当て心の中で念じる。

 それが今の自分には無意味な事だとわかってはいても、せずにはいられない。

 そうでもしていないと・・・・・・・・・・・・・・・・己の信念さえも揺らいでしまいそうだったから。

 





























 気付くと知らぬ間に色街に迷い込んでしまっていた。

 壁に寄りかかり、品定めをするような視線を道行く男達に向けている女達の間を黙ったまま進んでいく。

 今は女を抱く気分じゃなかった。

 いや・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サンジを抱いてから、女には興味が持てなくなっていた。

 媚を売るような笑顔も、きつ過ぎる香水の匂いも目障りに感じてしまう。

 この通りから抜け出そうと歩を早めたその時、つま先にコツン、と何かが当たった。

 「?」

 視線を下ろすと小さな箱が一つ、転がっている。

 拾い上げようとしゃがみ込んだその時、頭上から掛けられた声。

 「お兄さん、それアタシのなの。拾ってくれる?」

 内心しまった、と思った。

 これは女達が誘いを掛ける時の手段。

 まんまと乗せられてしまった事に腹を立てつつも冷静に断ろうと顔を上げかけたその時_____________

 知った香りに、ドクンと鼓動が高鳴る。

 ゆっくりとその女を視界に入れていった。

 長い脚、細身の身体、綺麗な指先。そして肩まで伸び、少しウェーブがかった金色の髪。

 真っ赤に塗られた唇には___________煙草。

 アイツと同じ、煙草。

 黙ったまま固まっている俺に妖艶に微笑みかけ、肩に手を置き耳元で囁かれる。

 「お兄さん、剣士さん?強そうね・・・・・・・・・・・・・・どう?アタシと。そんなに高くないわよ?」
 
 そう話す唇からはさっきまで吸っていた煙草の残り香が漂う。

 「ねぇ・・・・・・・・・・・・・・・・すぐソコなのよ。・・・・・・・・・・・・・・・行く?」

 俺の腕に自分のを絡め、上目遣いに誘いの言葉を並べる。

 そんなの無視してさっさとこの場から立ち去ればいいだけの話なのに。

 身体が言う事を聞かない。

 「どうするの?行くの?行かないの??」

 痺れを切らした女がそう言って腕を解こうとした瞬間。

 黙ったまま俺はその女が指差した宿に向けて歩き出していた。

 女も満足そうに腕を絡め直すと、そのまま俺を誘導し、宿屋の中へと入っていった。


































 部屋に入ると、女は手馴れた風に風呂場へ行き湯をバスタブにため、戻ってきた。

 「お湯が溜まったら先に入らせてもらってもいいかしら?あ、その前に一度お相手してもいいわよ?一応縛りとかはお断りしてるの。

 あくまでもノーマルでお願いね。見たところお兄さんはそっちの趣味は無さそうだけど・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪いが。」

 ペラペラと捲くし立てる女の言葉を遮り、静かに話し掛ける。

 「・・・・・・・・・どうしたの?」

 俺の態度に不審なものを感じたんだろう、女の声のトーンも下がっている。

 それでも笑顔を浮かべるその女に、正直申し訳ないと思いながらも素直に告げた。

 「・・・・・・・・・・・・・悪いが、俺はお前を抱こうと思って来た訳じゃねえんだ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何ですって??」

 俺の言葉に顔色を変え、怒りを露わにしながら

 「冗談じゃないわよ!何のつもり!?こっちはこれで商売してるのよ、それなら帰らせてもらうわ!!」

 そう声を荒げると、ドアから出て行こうとした。

 「・・・・・・・・・・金なら、払う。」

 「・・・・・・・・・・・え?」

 ドアノブに掛けた手を引き、ゆっくりと振り返ると不思議そうに俺を見つめ、目の前まで歩み寄ってきた。

 「どういう事?理解出来ないわ。抱かなくてもいい、でもお金は出すって事?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。」

 「ふ〜ん。・・・・・・・・・・・・・・・・・ならいいわよ。あ、お金は前金でお願いね?」

 楽な仕事だと思ったんだろう、女が提示した金額を払うと上機嫌でベッドに腰を下ろし寛ぎ出した。

 「でもさぁ、お兄さんも変わってるわね〜。初めてよ、お金払って抱かないなんて客。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 女が腰を掛けているベッドに寝転ぶと、天井を見上げながら女の話に耳を傾けていた。

 「この前なんかね、ヤバイ薬を手に入れたから飲んでみてくれなんて客もいて。冗談じゃないわよ!って叩き出してやったんだけど。

 でもさ、やっぱり生きてく為にはお金が必要じゃない?だからこの仕事も辞められないのよねぇ・・・・・・・・・・」

 女の話が途切れたのを見計らい、少し遠慮がちに声を掛けた。

 「なぁ・・・・・・・・・・・悪いんだが、一つ頼みがあるんだ。」

 「頼み?いいわよ、私が出来る事なら何でもするわ。言って?」

 すっかり心を許したようにさっきまでとは違う素直な笑顔を浮かべ、俺を見つめてくる。

 その笑顔に__________一瞬、アイツが重なった。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・煙草、を・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「煙草??」

 「ああ、煙草を・・・・・・・・・・・吸って欲しいんだ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それだけでいいの?」

 「ああ。」

 わかったわ、と微笑むと胸元から煙草を一本取り出し、口に銜えて火をつける。

 その小さな煙草から立ち上る煙がゆっくりと部屋に充満していく。

 ユラユラを揺らめく紫煙を目に映し、ゆっくりを瞳を閉じていった。

 それだけで、アイツが傍にいる様な気がして。

 アイツに包まれているような錯覚を覚える。

 こんなに感傷的になって、煙草の匂いさえも求めてしまうのは、多分・・・・・・・・・・・・・・

 今日が、誕生日だから。

 叶う事の無い願いを口に出してしまいかねない。

 だから一人で居る事を自ら望んだのに。

 結局、俺は奴の面影を求めて見ず知らずの女とこうしてここに居る。

 _______________全く、笑えねえよなぁ。

 すると、煙草を吸い終えた女が俺の横に身体を横たえ、寄り添ってきた。

 「・・・・・・・・・・・おい、俺は・・・・・・・・・・・・・」

 「ねえ、お兄さん。貴方、何か心に苦しいものを抱え込んでるんでしょ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「まぁ、無理にとは言わないけど・・・・・・・・・・・・・良かったら、話してみて?誰かに聞いてもらった方が心も軽くなるかもしれないし。

 見ず知らずの私にだったら、どんな事を話したって平気よ?もう・・・・・・・・・・・会う事もないでしょうし。・・・・・・・・・・・ね?」

 そう言いながら、母親が赤ん坊にするようにその胸に頭を導くと、ゆっくりと優しく髪を撫で上げられる。

 それに促されるように、自然と口が開いた。

 ポツリ、ポツリと話していく俺を無言で抱き締めながら、何も言わずに話を聞いてくれるその女に。

 内心感謝しながら、俺は心の内を吐露していった。
































 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう。お兄さんも大変な人好きになっちゃったのね。」

 クスッと笑うとずっと動かしていた手を止め、顔を覗きこんでくる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・まあな。」

 「ふふふ、でも私お兄さんの気持ち、ちょっとだけわかるかも。・・・・・・・・・・・・・・私もね、昔好きになった男が居たの。」

 窓の外に視線を移し、懐かしむように話始めた。

 「まだこの商売を始めて間もない頃、客として相手をした男に。・・・・・・・・・・とっても優しくてね。船がこの街に寄港している間、

 ずっと私の所に来てくれた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そのまま、この人と一緒に海へ出たいって何度も思ったわ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「でもね、結局彼は行ってしまった。想いを打ち明ける事もなく・・・・・・・・・・・・・それからしばらく立ち直れなかったわ。

 何で自分の気持ちを彼に伝えなかったんだろう、って何度も後悔して。例えダメだったとしても、気持ちを伝えさえすれば少しは

 救われたのに、って・・・・・・・・・・・・・・・・それだけが、今でも私の心残りなの。多分、一生・・・・・・・・・消えずに残る傷、ね。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか。」

 「だからね、お兄さん。」

 「ゾロだ。」

 「じゃあゾロ。貴方には私と同じ過ちを犯してもらいたくないのよ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・過ち?」

 「そう。自分の気持ちを誤魔化したままでいて欲しくないの。さっきの話・・・・・・・・・・・サンジさん、だっけ?彼に自分の想いを

 伝えてみるのよ。ちゃんと、相手の目を見て。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・んな事・・・・・・・・・・・」

 「出来なくはないわ。想いを告げて、拒絶されたとしてもその時は自分の心にケリをつけられるでしょ?このまま何も言わず、今の

 関係を続けていたら・・・・・・・・・何も生まれないし、何も変わらない。何時か後悔する時が必ず来るわ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが」

 「ダメでも、時間が解決してくれる。同じ船に乗るクルーなんだから、きっと笑い合えるようになるわよ。・・・・・・・・ねえゾロ、貴方幾つ?」

 「俺か?19だが・・・・・・・・・」

 「19!?いやだ、もっと上かと思ってた!!私より全然若いんじゃない!じゃあボウヤね。」

 「ボウヤなんて言うな・・・・・・・・・・・・・」

 「いい?ゾロ。貴方はまだ若いわ。今ならやり直しがきく。でも・・・・・・・・・このままだったら、ゾロも彼もきっとダメになるわ。それにね、

 性欲処理の為だけだとしても、嫌いな相手とは寝ないと思うの。少なくとも、彼はゾロの事嫌いじゃないと思うわ。」

 「それは・・・・・・・・・ねえよ。ただ単にあの船の中でそういった事に誘えるのは俺ぐらいしか居なかったんだろう。」

 自嘲気味にそう呟くと、フウッと盛大な溜息をつき

 「貴方のそういう考えは直した方がいいわよ!大体性欲処理だけで何で身体を差し出す必要があるの?それまでして嫌いな奴と

 するくらいだったら自分で処理しちゃえば済む話でしょ?・・・・・・・・・そこの所、よく考えなさい。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 黙ってしまった俺に、困ったように微笑むと再び胸元から煙草を取り出し、火をつける。

 「じゃあおまじないをしてあげる。・・・・・・・・・・・・・・・目を瞑って?」

 言われるままに目を閉じると、またあの匂いに全身が包まれる。

 「・・・・・・・・・・いい?これからもこの匂いだけを感じ続けるのか、この匂いを漂わせる本人を捕まえるのか・・・・・・・・全て、貴方次第よ。」

 暗示のように耳に注がれるその言葉に。
 
 俺は、心を決めた。

 例え馬鹿にされ、中傷されようとも。

 気味が悪いと蔑まされようとも。

 この気持ちを音に出して伝えてみようと。

 そうする事で、あの熱を失う事になったとしても・・・・・・・・・・こんなやり切れない想いを抱えたままではでいられる訳もないから。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとな。感謝する。」

 「・・・・・・・・・・・・・成功を、願ってるわ。」

 微笑を浮かべながらそう言うと、俺の頭を優しく撫で、立ち上がった。





























 何時の間にか外は雨が降り出し、道を濡らしている。

 「じゃあね。頑張って。」

 「ああ。世話になったな。」

 宿屋の前でそう言葉を交わし、互いに反対方向へと脚を向け歩き出した。

 数歩歩いて後ろを振り返ると、もう女の姿は無い。

 もう会う事もないだろう女に、いや・・・・・・・・・・・・・会う事もない女にだからこそ言えた本音。

 そうして自分の気持ちにケリをつける勇気を与えられた事に、感謝していた。

 『サンジに出会わなければ良かった』そう思っていた自分。

 だが今は___________出会えた幸運を無駄になど出来ない。

 どんな結末が訪れようとも。

 自分の気持ちに正直になろう。

 そう決心させてくれたあの女に出会えた事が、俺にとっては最高の誕生日プレゼントになった。

 この決心が鈍らないうちに_____と、脚を進めようとしたその時。

 視界の隅に映った、見慣れた金色。

 ________________まさか。

 俺はゆっくりとその人物の元へと脚を向け、歩き出した。

 それに気付いたらしいそいつは慌てて立ち上がり、こっちを向く。
 
 何時からそこに居たんだろう、全身はすっかり濡れてジャケットも色が完全に変わってしまっている。

 真正面まで歩み寄り、視線を顔に向ける。

 そのまま俺達は_____________何も言わず、ただ_____________見つめ合っていた。














   
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