「いらねえ・・・」
その言葉と
戻ってきた綺麗な箱
「それはもらえねえ・・・」
開ける事もしてもらえなかったのは
突き返されたプレゼント・・・
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一週間も前からゴーイング・メリー号は港町に停泊中。
今日も俺は一人でお買い物。
だってさ・・・だってさ・・・明日は愛しい人の誕生日。
明日は朝から準備に忙しいから、いっぱい料理を作って祝うんだ。
大切な人の生まれた日を・・・。
船が港に入ってから、毎日・・・毎日俺は町を歩く。
いつもなら、俺の右手は無骨だけど・・・温かくて・・・
大きな手が包みこんでくれているのだけれど・・・
今回は我慢・・我慢・・・
だってさ・・・ゾロへのプレゼント買うんだぜ?
なのに・・・本人いたんじゃ意味がない。
びっくりさせたいじゃないか・・・
驚かせてさ・・・でも喜ぶ顔が見たいじゃないか・・・。
だって、俺はゾロの恋人だもの・・・
二人仲良く手を繋いで・・・町を歩く恋人なんだから。
毎日・・・毎日・・・町を歩いて俺はゾロへのプレゼントを探す。
あまり、コレが欲しいとか言わない奴だから何が欲しいのか
いまいちよくわからなくて・・・
探しても・・・探しても・・・なかなか見つからない。
できれば最高の物を・・・贈りたい。
最高のプレゼントを贈りたい。
大好きな人のプレゼントに妥協なんてしたくない。
朝から町を歩いて・・・何度か通った道を俺は行きつ戻りつしている。
二日前・・・この店のショーウィンドウで見つけたもの。
町を歩いていて、唯一・・・惹かれたモノ。
一時間近く、その場に立ちすくんで・・・その金額に驚いた。
高価なモノを贈るのが・・・気持ちを表しているとは思わないけど
俺の気に入った物は・・・かなり高くって・・・
もっと探せば・・・他にきっとゾロにピッタリのプレゼントがあるはずだ
そう・・思って諦めた二日前・・・
そして・・・今。
もう差し迫ったゾロの誕生日。
その大切な日はそこに迫っていて。
明日は朝から忙しい。
最高の料理をいっぱい作らなくちゃいけないし、一ヶ月も前から
試行錯誤して作った『甘くないケーキ』
ゾロもきっと食べられるケーキを作るのだ。
ゾロの為に・・・
ゾロの生まれた事を祝うために・・・・
一生懸命に考えて・・・試作品を捨てるわけにもいかず・・・
上手く出来ない涙の味の・・・・ほろ苦いケーキを食べ続けた・・・。
そのおかげで・・・少し太ってしまったけれど・・・やっと完成したのだ。
愛しいと言う思いをたくさんこめた・・・甘くない・・・ケーキ・・・
ゾロの為のケーキ・・・そして・・ゾロの為の食事・・・・
準備の為にも俺には今日しか時間がない。
ピタリと止まる脚・・・ちらりと横に目を向ければ・・・そこには
二日前に見たあのショーウィンドウ・・・その中に輝く・・・
二日前と変わらない・・・俺を惹き付けるモノ・・・。
金額が変わるわけもなく・・・輝くのはモノだけではない。
「うぅ〜・・・・うぅ〜・・・・」
もう一時間はそうして、ガラスにへばりつき額をくっつけて見ている。
(高い・・・高い・・・うぅ〜でもきっと似合うだろうなあ・・・)
こんな細工は見た事がない・・・
きっとゾロだって気に入ると思うのだけれど・・・高い・・・。
胸の内ポケットにそっと手をやる。
(買えない事はないんだ・・・ナミさんに借金しなくたって・・・)
キュウっと内ポケットの物の形を確認するように、俺はソレを握る。
(でも・・・これは・・・)
ぎゅっと目を瞑って考える。
目蓋の裏には・・・様々な船。
俺が乗ってきた船の・・・仲間達の顔。
最後はもちろん・・・・バラティエの仲間達。
そして・・・そして・・・・そして・・・・・・・・
「ジジィ〜・・・・・・・・・・・」
小さく呟いて・・・目をさらに強く強く瞑ると、ジンワリと熱いもの。
うわわ・・もう・・すぐ泣いちゃうんだ・・俺・・ジジィ・・・
ジジィ・・・俺・・・・俺・・・・・・・
「オイ・・・サンジ・・・?」
「ひゃああうう!!」
ポンと叩かれた肩に驚いて、サンジはおかしな声を上げて振り返った。
そこには、優しい瞳をして自分を見つめる恋人。
胸に当てていた手を、こっそり隠して・・・俺は愛しい人の顔を見上げる。
少し高いだけなのにな・・・けっこう差があるように思う身長。
「どうした?ん?泣いてんのか・・・」
優しく・・・優しく・・・ゾロが俺の頬を撫でてくれる。
剣だこで・・無骨なはずの手なのに・・・
いつでも、いつでも・・・優しい大好きな手。
キュっと目頭を拭ってくれる。
嬉しくって・・・幸せで・・・ニッコリ自然に笑いがでてしまう。
「・・・笑ったな・・・ん・・よし・・で、何があった?」
「・・・別に・・・目にゴミが入っただけ・・・」
背後のショウーウィンドウに気付かれないように、
俺はゾロの腕を取って歩きだした。
歩く度に遠くなる・・・ショーウィンドウに決心を固める。
かなり高いけれど・・・買えないわけじゃない。
片腕をゾロに絡ませながら、空いたもう片方の手でもう一度
内ポッケトを撫でる。
薄い四角形。
本来の目的とは違うけれど・・・これを使えば・・
買えないわけじゃない。
未来は大事だけれど・・・そこにはこの優しい恋人がいて
微笑んでいてくれなくちゃ・・・意味がない。
全部を使わなくても・・・少しだけでいいから・・・
だって・・・・
明日はこの愛しい剣士の誕生日なんだ。
最高のプレゼントを贈りたい。
最高の誕生日を祝ってあげたい。
きっと、凄く嬉しそうに笑って
きっと、凄く優しく・・・抱きしめてくれそうだから
大好きな恋人の誕生日。
最高の日に、最高の贈物・・・。
こっそり夕方にでも買いに戻ればいい。
今は・・・絡めた腕の温かさを満喫したいんだ。
ずっと、プレゼントを探していたから。
町に着いて、一度もゾロとお出かけしてない。
もうプレゼントも決まった事だし。
今日はゆっくりゾロに甘えよう・・・。
「んふふ・・な?お腹すかない?」
「そうだな・・・いい店でも見つけたのか?」
「うん!昨日通りかかったんだけど、凄くいい匂いがしてた」
「なら、そこで食うか」
「やった!」
ゾロは優しい・・・。
ニカリと笑って、ゾロが絡めていた腕をそっと外して
俺の手を握り締めた。
指と指を絡めて、暖かい大きな手が俺の手を包み込む。
そのゾロの繋ぎ方が大好き。
優しくって・・でも離さないって・・・そんな感じで・・・。
簡単にはほどけないその力強さ・・・
あぁ・・・大好きだ・・・。
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夕方閉店近くに。
そのこじんまりとした店に、駆け込んできた客。
綺麗な黄昏時の金色に輝いた、その空気の中を。
ふんわりと流れる金色の見事な髪。
慌てて走ってきたからか、朱に染まった頬。
白い肌を、真っ黒なスーツで隠した青年。
ショーウィンドウに飾られたモノを売ってくれと、息を詰まらせながら
店主に懇願した。
店主は青年に、その品を見せる。
輝かせた瞳は綺麗な青い色。
言葉も出ないのか、コクコクとうなづく度
金色の髪が揺れる・・・仄かに舞う柔らかな香り。
店主は微笑んで、包む為店の奥に向かう。
その品は・・・見事な細工が施された
『三連のピアス』
その奇妙な数に、客は見事な細工だけれどと諦めて通り過ぎて行く。
もう・・何十年もこの店に飾られたモノは。
二日前、目の前の青年に見初められた。
いつまでも・・・何十年も飾られていたのに・・・その不思議な金属は
くすむ事なく・・・二日前から・・更なる輝きを見につけたように
店主は思っていた。
きっと、この青年を待っていたのだろう。
「プレゼント・・・なんです・・大切な人の・・・」
青年はそう言って、嬉しそうに笑った。
あぁ・・とても・・とても・・大切な人なのだろうと店主は思う。
この綺麗な青年に・・・これだけの笑顔をさせる者。
深い緑の包装紙を取り出し、綺麗に包んでいく。
そして、金と銀のシックなリボンを掛けて・・・青年に差し出す。
驚いたようにその包みを見て、華が咲いたように笑って
青年は、50万ベリーをカウンターに置いた。
どれも・・綺麗な新札ばかり。
何度も嬉しそう笑って・・・青年は溶けるように
黄昏の中を駆けて行った。
二日前・・・一時間も外で眺めていた姿
そして、今日・・・
先ほどの・・・最高の笑顔を背後に現れた
男におしげもなく咲かせて・・・
緑の髪の・・・
鋭い瞳の剣士・・・
体格の良い・・・その剣士の瞳の・・・その優しげな感情。
店主はクスリと笑った。
その耳には三連のピアス。
あぁ・・・どうか・・・
最高のプレゼントが良い日を運んできますように
店主は目先に立ち、空を仰いだ。
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先ほどまで、薄い四角形しかなかった内ポケット。
俺はそこをそっと撫でる。
どこか暖かく感じるのだから・・・不思議なものだ。
今は小さな小箱が入ってる。
綺麗にラッピングされた・・・
ゾロの色に・・・そっと添えられた俺の髪と同じ金色のリボン。
その心遣いが嬉しくて・・・
店の主人の優しさが嬉しくて。
大好きな人の生まれた日を・・俺だけじゃなく・・・
皆が祝福してくれているようで・・・
見上げた空は・・・金色に染まっている事。
そんな些細な事さえ・・・とっても幸せ。
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酒宴の席はもう最高潮を少し過ぎて・・・。
追加の料理を作るのも、落ち着いてきた頃。
ふと、キッチンの小窓から見える皆の顔。
楽しそうに笑って・・・
夕方から続く・・・剣士の誕生パーティー。
朝から忙しかったけれど、それも皆ゾロの為。
全てが愛しい人を祝うためだと・・・そう思うと・・・嬉しくて嬉しくて・・
いつも以上に張り切って作った料理。
好物ばかり並べた、甲板の大きなテーブルは黄昏の光に包まれて。
始まった・・・未来の大剣豪の生誕祭。
ゾロは・・・何度も何度も・・・『おいしい』と言ってくれた。
その度に贈られたたくさんのキス。
頬に
額に・・・・
手の甲に・・・
嬉しくて・・嬉しくて・・俺がお祝いしてるのに・・・
俺がゾロを幸せにしたいのに・・
俺ばかりがこんなに幸せになってしまって・・いいのかなって思う程。
一段落した酒宴の後片付けをしながら、甲板を見る。
小窓からは皆が少し照れた表情をしてゾロに笑いかけている。
小さな包みから・・・
大きな包み・・・
皆が笑って・・・ゾロも嬉しそうにして・・・
それぞれの心からの贈物を手渡す。
その光景に・・・キッチンの椅子に掛けられたスーツへと視線は移る。
嬉しそうに・・・
嬉しそうに・・・
ゾロは受け取っていた・・・プレゼントよりも・・・
考えて、悩んで贈ってくれるその気持ちに感謝して。
ゾロは嬉しそうに微笑んでいた。
大丈夫・・・
最高のプレゼント・・・
きっと・・・みんな以上の笑顔で・・・ゾロは受け取ってくれるだろう。
早く片付けて・・・ゾロに渡したい・・ゾロに言いたい・・・。
「よし!チャキチャキいくぞ!」
掛け声と同時に皿を洗う事に専念する。
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「よし!こんなもんかな・・・」
くるりと見渡す限り綺麗なシンク。
今日はいつも以上に無理をさせてしまったから。
朝から・・・パーティーの用意・・・普段の食事も・・・
ピカピカにして満足すると、俺はスーツに手を伸ばす。
内ポケットのある所をそっと撫でると・・・
そこはふっくらとして・・・。
ドキドキと煩くなってきた心臓を、落ち着けるためにタバコを一本銜える。
「オイ・・・サンジ・・・」
火をつけようとした瞬間・・・ヒョコリと現れた緑色。
「ゾ!!!!・・ゾ・・ゾロ・・・」
「・・・その・・・もう皆潰れちまったんだけど・・・」
俺の驚いた声に、ゾロも驚いた様子で、ポリポリと頭を掻いた。
「何だ・・・・皆、結構飲んでたからな・・・ゾロは?もう少し飲むのか?」
ドキドキと煩い心臓の音を聞かれはしないかと、少し大きな声を出してしまう。
「あ・・あぁ・・・そうだな・・・少し・・・」
「ん・・ちょっと待っててな・・何か作るし」
「いい・・・酒飲むだけでいい・・・」
「ばぁーか!何度言わせんだよ、酒だけなんてダメ、身体に悪いだろ」
俺はさっき洗ったフライパンを出すと、火を入れようとマッチをすった。
「いいから・・・ただ・・ゆっくりてめえと飲みたいだけだ・・・」
やんわりと俺の手を包み込む大きな手。
背後からオレを囲うように抱きしめて・・・
耳の傍からゆっくりと吹かれた空気が、俺の持っていたマッチの日を消す。
ゾロの腕の中で身体を反転させて、その広い胸に顔を埋め込んだ。
温かなゾロの体温。
「俺も・・・ゾロとゆっくり飲みたい・・・」
「そっか・・・」
「ん・・あ・・でも」
「どうした」
「俺もプレゼント・・・あるんだ」
いつもは包み込んでくれるゾロの手を、今夜は俺が包み込むように握って。
そっと椅子に座らせる。
スーツの中から取り出した、小箱をゾロにそっと差し出す。
「おめでと・・・ゾロ・・」
「ありがと・・・」
嬉しそうに微笑んで、ゾロはプレゼントを手にする。
照れくさくって・・・饒舌になる俺の口。
「凄く悩んだんだぞ!高くって・・・凄く高かったんだからな・・・
でも・・・やっぱ・・・その・・恋人だし・・いいものあげたいし・・・
だから・・ありがたく受け取りやがれ!・・・・・??」
ゾロは、じっと金色のリボンを見つめている。
すぐに開けて欲しくって・・・
できれば・・すぐにでも・・・
けれどゾロはじっとしてリボンを見ていて・・その視線はドンドン険しくなっていく
「ど・・どうした・・・」
不安になって・・・ゾロの険しい顔を見つめる
「これ・・・今日の昼間会った店で買ったのか?」
「・・・・そう・・だけど・・・・」
驚いた、ゾロには内緒にしたかったのに・・・
やっぱり見つかっていたのだろうか・・・あのショーウィドウの中身。
おろおろしていると、険しいゾロの瞳がぶつかって・・・
そうして・・ゾロは低い声で問う。
「高かっただろ・・・金はどうした・・・」
「へ・・・・?」
「大金は持ってねえだろ?ナミにでも借りたのか?」
突然で・・しかも予想していなかった質問に・・・俺は驚く。
「いや・・・貯めてたお金・・・で・・だけど・・・」
気に入らなかったのだろうか・・・・
でも、今だ包装を解いてもいないし・・・。
「お前が昔から貯めてた金か?」
「そうだけど・・・」
「いらねえ・・・」
その言葉と
戻ってきた綺麗な箱
「それはもらえねえ・・・」
開ける事もしてもらえなかった
突き返されるプレゼント・・・
「どうして・・・・ちゃんと開けて見てくれよ!」
「中身の問題じゃねえ・・・お前の問題だ・・・」
「へ?」
「ちゃんと・・・考えてみろ・・・自分のやった事・・・」
そう言ってゾロはキッチンから出て行った。
ペタンと床に座って・・・その後姿を何度も何度も思いだす。
コロコロと転がり出た・・・プレゼント
いまだ・・・開けられもせず・・・
その中身を外に出しても貰えず・・・
綺麗な箱のまま・・・
「ふ・・・っく・・・ふ・・・えぇ・・・」
涙がボロボロ零れて・・・
声さえも・・・とめられず・・・
俺の涙は溢れ出す・・・
冷たい・・冷たい・・床よりも
ゾロの言葉が・・態度が・・・痛い・・・
皆のプレゼントは貰ってたじゃないか
皆のプレゼントはその大好きな手で・・・
大事そうに開けられて・・・
幸せそうに・・・その手の中にあったのに
どうして・・・
どうして・・・
どうして・・・
俺のプレゼントはダメなんだよ・・・
「中身の問題じゃねえ・・・お前の問題だ・・・」
ゾロは言った・・・プレゼントの問題じゃないんだって
問題なのは・・・・俺・・・??
それは・・・
それは・・・
それは・・・
「ふあ・・・・・ん・・・」
いつまでもいつまでも・・・・
俺の涙と・・・
俺の泣き声は響いていた・・・
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