突き返されたプレゼント


後編






コロリと転がる床の上。
緑の包装を施されたプレゼントが一つ

「いらねえ・・・」

その言葉と
戻ってきた綺麗な箱

「それはもらえねえ・・・」

開ける事さえしてもらえなかったのは
突き返されたプレゼント・・・

同じ床の地続きに・・・ペタリと座り込んだ細い身体。
なぜかわからぬ恋人の・・・
言葉の真意は伝わらず・・・
悲しみだけが、支配する・・・細い肩を震わせて・・・
必死に押し殺した嗚咽は・・・
真夜中の大切な日を過ぎても、明け方を迎えても・・・
止む事なく・・・船員の心を酷く奮わせる。

ある者は、眉根を寄せて・・・
ある者は、心配そうの隣に眠る剣士を見つめ
ある者は、同じように涙を瞳に溜めて
ある者は、真っ直ぐに男部屋の天井を睨んで・・・



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何十年もその店に飾られていた、一つの品物。
鈍く光る、見事な銀細工の三連ピアスは今頃・・・
恋人達の語らいに参加できているだろうか・・・
店の主人は布団にもぐり微笑む・・・
きっと、あの二人に出会うため、作られたのだろうとさえ・・・思う。
人の手を一身にその身に受けて、作り上げられたモノ達は・・・既にもう誰かの為に
作られたモノなのだと、昔家に住んでいた職人が言っていた。
その者が現れるのを、作られたモノ達が待っているのだと。
実は・・・魂を込めて作られた物は・・・自分を手に入れる人を選んでいるものなのだと。
今ならそうなのかもしれないと、その職人に言えるだろうと店主は思う。

あの綺麗な若者と
精悍な剣士の・・・二人の為に三連のピアスはきっと作られたのだろう。

あぁ・・・どうか・・・
最高のプレゼントが良い日を運んできますように



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「中身の問題じゃねえ・・・お前の問題だ・・・」

そして、真意を込めそこねた者は揺れるハンモックで零れる嗚咽を
聞き逃さぬよう・・・目を開いている。
自分の思いはきっと伝わるはずだと、それだけを胸に込めて
疼く自分の心を必死に隠して・・・どうか、気付いて・・・
自分のした事の重大さを・・・そんなそんな・・・お前に惚れたわけではない。

いつでも、海の先を見つめ
いつでも、夢を語り・・・夢の為に駆けている
そんなお前に恋をした・・・最優先事項は・・・自分であって欲しい・・・
それは真実だけれど、現実ではなくて・・・
夢に輝く蒼い瞳に恋をした、その心に恋をした・・・

どうか・・・泣き止まぬ君よ・・・
その涙の先で・・・気が付いて欲しい・・・愛しているからこそ・・・
愛しているからこそ・・・・君の間違いを正したいのだ・・・

君が大切だと思ってくれている、オレの生まれた日は
過ぎてしまったけれど・・・オレ達の時はその日で止まっているはずだ。
どうか、止まった時を君の力で動かして。
そうすれば・・・あの綺麗なプレゼントを・・・
オレの緑と・・お前の金色の飾られた美しいあの箱を
開ける事ができるだろう・・・。



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明けた太陽の光に、サンジは顔を上げる。
瞳は酷く痛んでいたし・・・目蓋はきっと腫れているだろう。
「みっともない・・・・」
ぽそりと出た言葉に、サンジはキッと前を向く。
泣いてばかりではダメだ、自分の問題にゾロが怒りを露にした。
自分の中の問題を・・・ちゃんと見つめなければ・・・気が付かなければ。
冷えた床から立ち上がり、軋む足腰に叱咤する。
「とりあえず、朝飯だ・・・・」
サンジはシンクに向かい、袖を捲くる。
小窓から差し込む朝の光に、気分を落ち着けると大きく深呼吸を・・・。

バラティエで生活をするようになってから、サンジの習慣だった。
死にかけた、自分の命に恵みを与えてくれる食物たち・・・。
ゼフと二人、あの岩場での長い期間・・・どれだけ・・・食べ物のありがたさを知ったか。
身にしみて感じた食物のありがたさを、サンジは自分の手で他の者に振舞う。
新たな姿を与えて、他の人々に生きる糧を贈る。
そうする事で・・・失われる物もある。。
生きるために他の物の命を食べる・・・少しでもそのありがたさを忘れぬために・・・
サンジは大きく祈りを捧げながら、深呼吸する。
自分は生きているのだと実感する為・・・大きく息をして・・・生きている証を・・・。



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いつもと同じ、朝食が終わって。
いつもと同じでない、二人に船員達は何も言わずにいた。
わかっていたから、二人はきっと自分達で糸口を見つけるのだろうと。
自分達の問題に、自分達できっと解決するだろうと。

もしも、愚痴を言いたいなら・・・聞いてあげよう。
もしも、泣きたいなら一緒に傍にいてあげよう。
もしも、何か薬が欲しいなら、処方してあげよう。
もしも、笑いたいなら・・・一緒に笑ってあげよう。

でも、それは解決への決心と心の強さを補うためで・・・最後の一押しに過ぎない事。
きっと、知っている二人だから・・・
きっと、わかっている二人だから・・・。
だから、背中を押してあげる事はしよう・・・でもその先は自分達の問題だから
船員達は何も変わらぬ日常を過ごす。
それが二人の為でもあるとわかっているから。

「・・・ナミ・・・」
不遜な影にナミは眉間に皺を寄せて見上げた。
読んでいた本が見えないと、口を開こうとしたが止めておく。
その真剣な眼差しに・・・ゾロの一途さを見つけたから。
「何?」
「頼みがある・・・もう少しこの街に留まる事は出来ねえか?」
「・・・・いいわよ、多分この
23日は出港できないから・・・」
「何・・・?」
「時化が近いの、昼過ぎには宿をとるつもり」
「・・・そうか・・助かった・・」
ゾロは心底ほっとしたように、胸を撫で下ろした。
その様子を見つめながらナミはおかしくて仕方がない。
世の中では『海賊狩り』と恐れられる男が、目の前であからさまに恋をして
おたおたとしているのだから。
ナミに言わせれば、なんともまだるっこしい事この上のないのだけれど、
これが等身大なのだろうかと、こんな幼く甘い恋をしてこなかった事が
悔しい感じもする。
(実は本当の恋なんてした事ないとか・・・?まさかね・・・)
「それにしても珍しいわね、あんたが私にお願いなんて」
「ん・・・あぁ・・今回ばかりはな・・・サンジが気が付かなくちゃいけねえんだ」
「・・・ふ〜ん・・・」
白い小さな丸テーブル。
始めはこんな可愛いものなどこの船にはなかった。
最初はデッキチェアだけで、寝転がって読書をしていた気がする。
腕がすぐ疲れるし、あまり目にも良くないなぁと思い始めた頃、気が付けば
倉庫にしまわれていたのを見つけたのだ。
何処かから出てきたのだろうと、思ったけれど・・・今思えばそんな事があるはずもなく。
気が付けば可愛らしい、黄色のチェックのクロスが掛けられ
今は花も一輪挿しの花瓶に飾られている。。
いつでも、気が付けばそこにあるそんな優しい心配り。
(少し手を貸して上げましょう・・・いつものお礼もこめて・・・)
「早くサンジ君が気がつくといいわね・・・」
「あぁ・・・すまなかったな邪魔して・・・」
ゾロが後ろを向いて手をふって歩いて行く、その度に、チャリチャリと鳴る刀の鍔。
「どういたしまして・・・」
見上げた上空の雲は速い速度で、流れて行く。
「少し・・・羨ましい・・・あなた達がね・・・」
小さな呟きは空に消えて行った。

「ナミさん・・・今いいですか?」
少しすると今度はサンジが申し訳なさそうにやって来た。
「何かしら?」
ガラス製のティーカップを置く。
そういえば、これも気が付けば増えていたものであったとナミは思う。
キラキラと綺麗に輝くガラスのカップ、欲しかった物の一つ・・・。
「少し・・・街を歩きたいんですけど・・・出港伸ばしてもらえませんか?」
「あら、奇遇ね。私もこの町綺麗で気に入っていたのよ、
だから少し街で泊まろうかなって思ってたの」
「・・え?・・・・」
「街の中央に白い時計塔があるでしょ?」
「はい」
「そこの近くにこじんまりとした、綺麗な宿を見つけたの。そこに泊まってるわ」
「わかりました・・・すいません無理を言って」
サンジは深々とお辞儀をして、礼を言う。
「別に無理なんてしてないし、サンジ君があやまる必要もなと思うけど?」
「・・・・ナミさん・・・」
「行ってきなさいよ、何か見つかるかもしれないわ」
「ハイ・・・そうですね・・・見つけないと何かまだ、わからないけど・・・」
「ふふ・・今回はいつもみたいに泣かないの?」
「昨日いっぱい泣きましたよ?知ってるでしょ・・・」
「知らないわ・・・どこかで悲しそうに鳥が鳴いてたかもね」
「今回は俺の問題だって言われたから・・・ちゃんと考えなくちゃって・・・・」
「そう・・・頑張って・・・」
「ハイ・・・じゃ行って来ます。あ、冷蔵庫にサンドウィッチがあります」
「ありがと・・・」
コツコツと軽やかに遠ざかって行く背中。
その細い背中にどれだけの、苦しみを抱えているのだろうか・・・・。
ナミはそんな事を考えて少し悲しくなる。
どうか・・・もう昨日のような鳥の鳴き声を聞かぬように。



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昼を過ぎ・・・夕方近くまでサンジはブラブラと歩き周った。
何を考えてもゾロの言葉が、頭を回って・・・考えや思いが纏まらない。

何日も・・・何日も考えて・・・考えて・・やっと見つけたあのピアス。
三連のものなど既製品ではなく、仕方ないから二つ買おうかと思っていた。
そして、綺麗にラッピングして・・・・そうしたら・・・
あの優しい瞳で・・あの大好きな緑の瞳で・・・。
あの大好きな大きな手で、受け取ってもらえると思っていたはずだった。
そうなると、確信していた昨日の夜。
突き返されたプレゼントは、今も胸のポケットに入っている。
そこが、痛くて・・痛くて・・・堪らない・・・痛いのに・・・でも
その理由がわからない・・わからない事が悔しくて・・・。
涙は・・・枯れたと思っていたのに・・・頬に雫が流れる。
いつも、優しく怒るだけのゾロがあんなに怒りを露にしたのだ。
自分はよっぽどの事をしたのだろう・・・・戒めるために言われた言葉と
突き返されたプレゼント・・・・。
「・・・・涙・・・・?」
ふと気になって、見上げた空から雫が落ちてきた。
時化に伴う雨が・・・降り始める・・・・。



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バシャバシャと走る街の片隅で、ゾロは天の恵みから逃げる人々を
見つめていた。
昼過ぎに船員全員が宿に移って来た。
風が思ったより早く、時化が早まるとナミが言ったからだ。
宿に向かう一行の中に、サンジの姿はなかった。
当たり前のように、サンジと自分に割り当てられた部屋の窓枠にそっと寄りかかる。
雨から逃げる人々、急に振り出した雨はかなりの雨足になっている。
コンコン
扉を叩く音に返事を返すと、ヒョコリとナミが顔を出した。
「降って来たわね・・・・」
「そうだな・・・」
「・・・・・・心配・・・・・?」
「そりゃな・・・・・」
「いい事教えてあげる、サンジ君は雨の事も、宿に移る事も知らないわよ」
「何??!!」
「私言わなかったもの・・・今頃どうしてるかしらね?」
「・・・・・・・・何考えてやがる・・・」
「静かに二人になれる時間が必要でしょ?ほら傘よ、持って行きなさい」
押し付けられた大きな傘を、ゾロはじっと見つめていた。
そうなのかもしれないと、ゾロは思う。
自分の怒りのままサンジに言葉を浴びせたけれど。

伝わっていなければ?
もしも、ちゃんと伝わっていなかったら?
このままサンジとすれ違う事になりはしないだろうか?

この激しい雨のように・・・その先にお互いがいるのに・・・。
その激しい小さな雨粒のせいで見失ってしまうように・・・・
もう、出会わないまま行ってしまわないだろうか?

「・・・・行ってくる・・・・」
「ハイハイ・・・いってらっしゃい」
駆けて行くゾロの背中は、静かに小さくなっていく。
その腰に三本の刀はなかった。
窓枠に置き去られた刀達、その一つ一つを撫でてナミは微笑む。
「やっぱり、私のは本気の恋じゃなかったのかも・・・」
大切な物を忘れてでも、駆けて会いたい人など・・・いなかった。
お互いをあんな風に、大切にして・・・でも二人ともが同じ位置にいる・・・。
そんな関係は理想だけれど・・・だから難しいもの・・・・
駆けて失くしたくない者・・・・見つかるだろうか?
「やっぱり・・・かなり羨ましい・・・かな?」
いまだ気が付かない小さな恋心。
子供時代を置き忘れた航海士が穏やかに微笑む、
黒曜石の瞳の少年の影に気が付くのはあと少し・・・。



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酷くなった雨脚をしのぐために、サンジは街中を駆けた。
行きかう人々が自分と同じように、頭を庇いながら走り周っている。
目の前に、見慣れた金色が揺れている事に気が付いた。
雨のせいで視界が悪い。
目の前に自分の髪とよく似た、ハニーブロンドの女性が走っている。
大きな紙袋から、フランスパンがヒョコヒョコ揺れているのが可愛らしい。
走る姿の不自然さにサンジは慌てて、女性の隣に駆けて行った。
前を走っていた女性は妊婦だったのだ。

何度も礼を言う、女性にハンカチを貸しやっと入り込めた店の軒先。
二人の目立つ金髪の持ち主達はは、無言で空を見つめていた。。
妊婦が走ってはいけないと、サンジは持っていた荷物を変わりに持ち
できるだけ近い店の軒先を見つけて入り込んだのだ。
「本当に・・・ありがとうございました・・・」
「いいえ・・それより・・・ほら裾濡れてます・・・貸して・・・」
ハンカチを受け取り、屈みこんでマタニティドレスの裾を拭う。
「そんな・・大丈夫ですから・・・」
「ダメですよ、濡れてたら身体を冷やしてしまうし・・・ね?」
にっこり笑って、サンジは樽を見つけて座るように言った。
「すいません・・・私・・・アンナといいます・・・
買い物中に雨が降って来てビックリしてしまって・・・つい・・・」
「俺はサンジ・・・でも走ったりしてはダメですよ?」
「えぇ・・・わかってはいるんですけど・・・主人が待ってると思うと・・・」
そう言って、アンナの見つめたのは左手の薬指。
そこには、変わった指輪がされていた。

木の指輪。
手で木をくり貫いたものなのだろう。
手作りと言えば聞こえはいいが、かなり無骨な物だった。

「あぁ・・・これ・・・ふふ、おかしいでしょ?」
「いえ・・・」
「いいの・・・これで十分なの、主人はコックをしてるんです、自分の店を持つのが夢だっ
たの」
「へぇ・・・・コックですか。ボクもコックなんですよ?」
「あら!そうなの!!奇遇ね」
「雨が止むまで少しお話しましょうよ?そうね・・・じゃあ・・この指輪の話・・・」
「いいんですか・・俺なんかの初対面な人間にそんな話・・・・」
「えぇ・・どうしてかしら・・あなた・・えっとサンジさんて凄くお話しやすそうなの・・・」
「じゃ・・・聞かせて下さい・・・」
「えぇ・・・」
アンナは腰まで届く綺麗な髪を、そっと纏めながら言う。
まだ、サンジと変わらない少女のような面影を残すその顔は幸せそうだ。
よくみれば、ピンク色のマタニティドレスもサイズが大きいように見える。
「自分の店の為の貯金で・・私達・・あまり豊かではなかったの・・・」
そういいながらもアンナの横顔は微笑んでいる・
「でもね・・・私、働いてるあの人が大好きで・・・全然苦に思わなかった。
子供が出来たとわかった時あの人店を諦めるって言ったの・・・」
「え?」
「子供の養育とかでお金がかかるでしょ?自分が必死にコツコツ貯めてきたお金を、
子供の為に・・・使おうって・・・・」
「優しいですね・・・」
「優しい??冗談じゃない・・・私は夢を必死に追う彼が好きだったの・・・その手伝いを
する事が私の夢だったの・・・」
「・・・・・!!」
「ひっぱたいたわ・・」
アンナのブルーグレーの瞳が空を見つめていた。
微かに光が零れている、雨はじきにやむようだった。
「そうしたら、次の日この指輪を持って来たの」
「彼が作ったんですか?」
「・・・ふふ・・バカでしょ?不器用なのにさ・・・料理以外ではね・・・大事な手なのに・・
切り傷だらけにして・・・朝早くに走ってさ・・・」
サンジはアンナの言葉を、どこか遠くで聞いていた。
ゾロの怒りの理由が・・・開けるように見えた。
きっと、ゾロもアンナのように殴りたいくらい・・・怒りを覚えたに違いない。

胸ポケットには昨日のプレゼントと、薄い四角形・・・。
ゾロは覚えていたのだろう、自分の語った話を・・・。
いつか、オールブルーを見つけたら・・・・自分の店を開きたい。
自分の力で・・・建てたい・・・・。
ゼフと会う前から、いつも胸ポケットに入れて一番長く共にした四角形。
初めて乗った船の船員に頼んで、自分の口座を開いてもらったのだ。
銀行の身分証カード。
絶対に引き出さない・・・・店を開くために・・・貯めるんだと。
小さな手のひらに握りこんだ硬貨を、預けるのが楽しみだった。
バラティエに居ても、続けた。
始めの頃は、チップをもらえると半分をゼフに渡し残りを貯めていた。
バラティエが繁盛し始めれば、給料も出た。
預けた金額の全てが、サンジの生きていく・・・生きた証だった・・・。
その話をしたのは・・・・きっと恋人になってすぐの頃。
ゾロは覚えていたのだ・・・些細な酒での会話を。

『木材ならオレが切ってやるぞ・・・』
『そうか、ならナミにばれない様に、安い物探さなきゃいけねえな・・・』
『昔金のない時は、大工の仕事もしてたから、オレも好きなだけ使ってくれよ?』
『何一つ悔いのない店を考える時間はたくさんあるさ・・・』
『店に住むんだろ?俺の・・・その・・・部屋もあるのか?』

あぁ・・・思い出す。
あの優しい言葉達を・・・見つめていたつま先が、滲んできた。
どうして・・・あんな事してしまったんだろう・・・?
どれだけゾロが自分の事のように、話をしてくれていたのか。
二人の部屋の話や、店の内装や・・・・節約の方法や・・・
あんなに二人で語ったのは・・・・・。
ひとえに店の資金の為なのに・・・・一人で貯めていた今までとは違い・・・・
ゾロも照れくさそうに、参加してくれた・・・・
一人の店の夢が・・・・いつか二人の店になっていたのに・・・・

「指輪なんか・・・別にいい・・・あの人の夢の為に、ギリギリまで働いたわ・・・
おかしいでしょ?全然辛くないの・・・・自分の夢でもあるからかな?あの人が作る
最高の料理を、それを待つ人に届けるの・・・花を飾って・・・掃除をして・・・・」
アンナの幸せな顔に、サンジも自然と微笑んしまう。
「この木の指輪・・・いつかちゃんとしたのを買うって聞かないんだけど・・・
私・・・このままでいいかなって思うんだ・・・最高のプレゼントだもの・・・」
「そうですね・・・凄く綺麗です・・・」
気が付けば、雨が止み。
高い空にうっすらと虹が出ている。

「あ!!主人だわ!!」
それまで、空を見上げしんみりとしていたアンナが声を上げた。
幸せなベルに似た音色の・・・涼やかな声。
本来の彼女の声なのだろう・・・・。
晴れた街並みは、雫を受けキラキラと輝いている。
目の前のわき道から、一人の男が現れた。
少し・・・ゾロに似ているとサンジは思う。
黒髪に、白い肌のアンナの主人を・・・きっとその瞳のせいなのだろう。
穏やかで・・・温かな深い緑の瞳。
愛して止まない・・・・ゾロの瞳に似ている。
「それじゃ!私行くわね?本当にありがとう」
手を振って駆け出して行く、アンナの髪が太陽に輝いてキラキラしていた。
眩しいのはきっと太陽のせいではないんだろう、アンナ自身が恋をして
輝いているんだろうとサンジは思う。
走って駆けつけたアンナを叱りながら、主人はサンジに会釈をした。
穏やかな・・・風が吹き抜ける。
腕を組み歩き出す二人を見送るのが、なんだか照れくさいとサンジは思う。
見つけた答えをゾロに言うため、サンジも二人に背を向けて店の軒先から出ようとした。
「サンジさん!!!」
「・・・??・・・」
アンナの大きな声にサンジが振り返ると、手を振って揺れる長い金色の髪。
「今日私達の店がオープンするの!!よかったら来て下さいね!!」

夢を追い続けて・・・どれくらい走るのだろう。
アンナや主人は手に入れた・・・夢を。
その先はきっと・・・幸せも困難も待ち受けているだろうけれど・・・
きっと、二人手を繋いで・・・少し先にはその腕に愛しい子供抱いて・・・
きっと乗り越えていくのだろう・・・。

大きく手を振って、サンジはそれに答えるとまた歩き出す。
さぁ・・・次は自分の番だと。



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歩き出した矢先に、サンジは人の胸にぶつかってしまた。
鼻先をくすぐる太陽の匂いに、顔を上げればそこには・・・
「ゾロ・・・・」
名前を呼べば、きつく抱きしめられた・・・・存在を確かめるように・・・強く。
そっと、その背中を抱きしめてサンジ広い胸に顔を埋めた。
心音が安心を伝えてくれる。
「ごめん・・・俺・・・バカな事した・・・」
「・・・・サンジ・・・・」
「大事な夢の為に貯めてた金・・・・使うなんて・・・ゾロが怒って当然だよ
俺だって・・・自分の為にゾロが刀売って買ったプレゼントなんかいらないもん」
「・・・気が・・ついたのか・・・」
「うん・・・俺・・・ゾロの為とか言いながらさ・・・自分の事ばかり考えてた・・・」
「よかった・・・ちゃんとオレの好きなサンジだ・・・」
キュウっと抱きしめられる腕を、心地よく感じてしまう。
「説明もせずに突き返したりしたから・・・もし、サンジが気がつかないでオレの事
嫌いになっちまったらって・・・・すげえ・・・・怖かった・・・」
首筋にかかるゾロの、囁きにサンジは震える。
幸福で・・・ゾロが優しくて・・・ゾロは自分の為に怒ってくれたんだ。
なのに嫌うはずなんかないのに・・・・サンジは心の中でくすりと笑う。
「ゾロはちゃんと信じてくれたろ?俺が気がつくこと・・・それが凄く嬉しい・・・
ごめんな・・・ゾロ・・せっかくの誕生日なのにさ・・・祝ってあげられなくて・・・
プレゼントあげたかったのに・・・こんな事になって・・・」

胸にしまわれた小箱・・・。
行く当てのない悲しいプレゼント。
「くれよ・・・サンジのプレゼント・・・今度はもらう・・・サンジが、俺の惚れたサンジが
くれるなら・・・・貰う・・・」
「へ?ゾロが惚れた俺・・・・どんな俺?」
「オレはな、夢を追いかけて・・・オレの事すら忘れるくらいに・・・海を見つめて
生きるサンジに惚れた・・・。もちろん、お前の一番にはなりたいけどな、夢を追いかける
姿
が一番好きだ・・・その綺麗な瞳に・・・映る海を見るのが・・・好きだ・・・」
「ゾロ・・・」
ゾロの言葉が嬉しいとサンジは思う。
そこまで深く愛してくれる事・・・そこまで深く・・・自分を知ってくれている事に。
ゆっくり離した身体を、サンジは名残惜しい気もしながら・・・。
「だから、いつものオレの好きなサンジに戻ってくれたなら・・・・やっぱオレはお前から
プレゼントが欲しい・・・」

ゆっくりと・・・時間をかけて紡がれる言葉
その言葉が・・・心に染みて・・・サンジの瞳に涙が溢れる。
よかった・・・この人を好きになれて・・・・
よかった・・・この人と共に生きられて・・・
この人が傍に居てくれて・・・
この人が・・・生まれてくれて・・・
よかった・・・よかった・・・出会えて・・・よかった・・・・

ほろりと零れた涙にサンジは慌てる。
もう、泣かないと誓ったのに・・・何度も破ってしまっている。
「ん・・・ありがと・・・俺も・・剣豪になる為に鍛錬してるゾロが好き・・・大好き・・・」
「あぁ・・・」
「・・・・・これ・・・遅くなったけど・・・プレゼント・・・」
胸のポケットから出された緑の箱。
金色のリボンは・・・少しよれてしまっていたけれど・・・
また、贈られるべき人に渡った大切な物。

恋人の手で、未来の大剣豪の耳に飾られたピアス。
きっと、二人を待っていたに違いない・・・珍しい三連のピアス。
銀細工の見事なピアスは、晴れた日の光を存分に受け・・・十数年ぶりの命を得る。
飾られたピアスに微笑むサンジと、今一歩新たな道を歩けた事に微笑むゾロと・・・。
二人、光溢れる店先で、そっと唇を重ねる。
一日遅れた誕生の祝いを込めて・・・
一日遅れた祝いの言葉の礼を込めて・・・



++++++++++++++++++++++++++++++++++++



店先の二人の青年。
やはり、最高の贈物は最高の日をもたらすのだと・・・
店の主人は思う。
今、窓越しに・・・精悍な褐色の耳に飾られた三連のピアス。
昨日まで十数年の時をこのショーウィンドーで刻んでいた。
今は、光輝き・・・幼く・・・優しい恋人達の元。
本来の輝きを取り戻している。

どうか、この二人に・・・最高の人生のあらん事を・・・
店の主人は晴れた空に願ってやまなかった。


その夜・・・街の片隅の小さなレストランで・・・。
二度目のパーティーが開かれた・・・
麦わら海賊団のそれぞれが思い思いのプレゼントを持って・・・
開店したばかりの店に笑顔で入っていったと言う・・・。



HAPPY・・・・HAPPY・・・・
BIRTHDAY・・・・ZORO・・・MY・・・LOVER・・・・





<END>








<コメント>

茜ちゃまのロロ誕部屋から、頂いてきましたvv
本当に、優しくて、思いやり溢れる作品ですよねvv
お互いを思う気持ち・・・信じる心・・・凄く素敵ですvv
しかし・・・・店開店費用を貯めているとは・・・・
なんてうちの二人と違うのかしら・・・・(TOT)
それは・・・書いた人の性格っすね・・・・やっぱり・・・(笑)
本当に、素敵な頂き物で、大満足vv

こんな素敵なSSがあって、いよいよ地上活動もスタートされた
茜ちゃまのサイトは、
こちらから、飛べますですよ〜っv


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