LOVE WORD


その2.


 




賭けをしようか・・・楽しい賭けを・・・

世界で唯一つのモノを賭けて・・・

その賭けに勝てたら・・・

どんな願いでも、叶うと言う

禁断な賭け・・・

さぁ・・・私と賭けを・・・




「どうしたんですか?サンジさん・・・?」

キルケーにそう声を掛けられて、サンジはハッと我に返る。

「いえ・・・何でも。 ちょっとぼーっとしてただけですよ。 あ、そうだ。 お茶でも如何

ですか?」

「じゃあ、頂こうかしら。」

「かしこまりました。 暫く待ってて下さいねv」

そう言ってキルケーに微笑むと、サンジはシンクへ向かった。

「何をしてるんですか?」

暫くして、サンジがトレーに紅茶と焼き菓子をキルケーの元へ運んでくる。

テーブルの上には見た事もないカード。

・・・これ? これは・・・占いなの。 結構当たるんですよ? 貴方も占っ

てあげましょうか?」

キルケーはそう返事をすると、数枚のカードをサンジの前へ置いた。

あら・・・今日、貴方、良い事があるわ。 思ってもみなかったところからプレゼントが

届くって・・・何かしら・・・? そして・・・貴方には大事な人がいるみたい。 その人も

貴方の事、同じくらい想っていて・・・相思相愛・・・羨ましいわ。」

そ、そんな事までわかるんですか? プレゼントって・・・誰からだろ。 もしかしてナ

ミさんがv」

キルケーの言葉にサンジは照れつつも、瞳をハートにして思いを巡らせる。

けど・・・・」

けど? なんですか?・・・何か、悪い事でも?」

急に黙り込んだキルケーに、サンジは一瞬にして不安そうにそう訊ねた。

サンジさん・・・とても言い難い事なんだけど・・・」

尚も言いよどむキルケー。

「なんか気になるなぁ・・・キルケーちゃん、言って下さいよ。」

サンジに促されるように、キルケーは言葉を続けた。

その愛する人が居なくなるって・・・カードはそう言ってるわ。 ・・・死神。 その人、

近いうちに死ぬわ。」

えっ?! ちょ、ちょっと待って下さい。 はは・・・やだな。 そんな事ある訳ないで

すよ・・・あいつに限っては絶対・・・あ、俺、ナミさん達にもお茶出してきますね。」

サンジは、キルケーの言葉を一笑に付して甲板のテラスに居るナミのところへ向か

う。

・・・・だと良いわね。 けど・・・ほら、運命の輪が回り始めた・・・」

キルケーは遠ざかるサンジの背中にそう呟いて、ゆっくりと紅茶を口にした。

 

そんな事、ある訳がねェ。

あのクソマリモに限って、んな事ある訳がねェ。

今までだって、死に掛けた。

けど、いつだって潜り抜けてきた・・・跳ね返してきた。

それが・・・そう簡単に死ぬ訳がねェ。

所詮占い・・・外れる事もある。

そう・・・キルケーちゃんには悪いけど、その占いは当たらねェよ。

けど・・・なんで、キルケーちゃん、ゾロの事知ってるんだ・・・?




テラスで新聞と書物に瞳を通しているナミとロビンに紅茶を勧めながら、サンジは瞳

の端で眠っているゾロを捉える。

いつもと変わらず、腕を枕に転寝しているゾロ。

そんなゾロから死神の気配など微塵も無く、サンジは自分の考えに確信した。

そこへ、クーが手紙を運んでくる。

それは、サンジ宛のバラティエからの手紙。

バラティエにいるコックたちの近況や、店の事、サンジへの励ましの言葉など色んな

事が列ねてあった。

そして、ゼフからも・・・『心配なんかしてねェ。』と一言。

サンジの心の中に温かいものが流れ込んでくる。

初めての手紙・・・バラティエから・・・ゼフから・・・嬉しい手紙・・・

クスクス・・・・良かったわね、サンジ君。 素敵なプレゼント貰って・・・」

「はい、ナミさんv 俺、めっちゃ今、幸せで〜す!!」

ナミの言葉に、サンジは本当に嬉しそうに返事して、それからふとさっきの事を思い

出した。




・・・・当たった。

キルケーちゃんの占い・・・・当たった・・・




サンジはナミへの会釈も早々にキルケーの居るキッチンへ戻る。

キ、キルケーちゃん、さっきの・・・」

「・・・・当たったのね。」

そう言ってキルケー淋しそうな表情で、サンジの前に立つ。

「私の占いは、当たるの。 ううん、占いじゃなくて、これは予知。 私・・・・未来がわ

かるのよ。」

「じゃあ、あのクソマリモも、死・・・・」

そこまで言ってサンジは言葉を呑み込んだ。

「ええ・・・・私には見えるの・・・彼を失って嘆き哀しむ貴方の姿が・・・」

キルケーの言葉に愕然として言葉も出ないサンジ。

「でも・・・・貴方は私の命の恩人。 うまくいくかどうかはわからないけれど、運命を

変える方法が一つだけあるわ。 それは・・・」

「どんな事でも・・・アイツが生きてられるなら・・・」

サンジに選択肢など残されていなかった。

・・・・そうね。 貴方なら勝て・・・・うっ・・・」

「? キルケーちゃん?!」

言葉の途中で倒れこんだキルケーをサンジが抱き抱える。

「クスクス・・・本当に勝てるかしら? このあたしに・・・」

先程とは打って変わったキルケーの表情。

「君は・・・誰だ・・・?」

サンジの口から自然と言葉が出た。

「あたしは、キルケー。 闇に堕ちた魔女・・・愛の空しさを知り闇に身を堕とした者。 

さぁ、あたしと賭けをしよう・・・・この未来の運命を変えたいなら・・・あたしに、見せな

さい・・・貴方の強さを・・・信じる愛を・・・・」

妖艶な笑みを浮かべ、キルケーはそうサンジに伝える。

サンジの背中に嫌な汗が伝う。

それでも、引く訳にはいかない。

「・・・・わかった。」

「成立ね・・・」

サンジの返事に、キルケーはスッと手をサンジの額に付け、呪文を唱える。

なっ?!・・・・ぅ・・・」

意識を失ったサンジの身体が静かに床に横たわる。

さぁ・・・・目覚めたらゲームの始まりよ。 ふふ・・・・愛する者を失って、その後で記

憶を取り戻した貴方・・・・絶望に・・・失った愛に、嘆く貴方はきっと今より数倍も美し

いわ。・・・最高のコレクションになるわね、きっと・・・」

頬に掛かるサンジの髪の毛を掻きあげ、キルケーは再び妖艶に微笑んだ。

 

 

 

 

「おい! 起きろ!クソコック! どうかしたのか?」

自分を揺さぶる感覚と聞き慣れてない声にサンジはゆっくりと瞳を開けた。

珍しいな、テメエが寝こけてるなんて・・・疲れたのか?」

ゾロはそう言って、サンジの顔を覗き込むと、傍を離れ、棚から酒を一瓶取り出

す。

おい・・・・ちょっと待て。 テメエ、一体、誰の許しを得て、酒取ってんだ。」

サンジは起き上がるとすぐに、ゾロの前に立ちはだかる。

あ? ああ、悪い。 ちぃと喉渇いたから、飲もうと思ってよ。 悪かった。 んじゃ、

貰ってくぜ。」

ゾロは、そう言うとサンジの脇をすり抜けてキッチンを出て行こうとした。

ぁあ?! ちょっと待て! 悪かったと言いながら、持って行くたぁ、どう言う了見

だ?! つか・・・テメエ、誰?」

怒鳴りながらも、真顔で首を捻るサンジに、ゾロの手から酒瓶が落ちる。

「あ? なに寝惚けてんだ?クソコック。 冗談にしちゃ笑えねェよな・・・」

ゾロは落ちた酒瓶を気にするでもなく、サンジに近づいて睨み付けた。

「何が・・・つか、テメエ、誰だよ? 馴れ馴れしく俺に近づくな。」

サンジはスッと足を掲げると、その身体を軽く止める。

見つめる視線は、冗談を言っている風にも見えず、ゾロは一瞬、困惑するが、思い立

ったように声を張り上げた。

チョッパー!!! すぐ来てくれ!!! クソコックが! クソコックの様子が可笑し

い!」

言うが早いかキッチンを出て、ゾロはチョッパーをサンジの元へ引っ張ってくる。

その騒ぎに皆もキッチンへ駆け込んできた。

チョッパーはゾロに促されるまま、サンジを診察する。

・・・・どうだ?チョッパー。 やっぱおかしいだろ?」

ゾロの声にチョッパーは困惑気味にこう語る。

う・・・ん・・・・なんて言うか・・・どうしてかは、わかんないんだけど・・・あの・・・そ

の・・・・」

なんなんだよ、チョッパー。 勿体つけずに早く言え。 何処が悪いんだ?このクソコ

ックは・・・」

なかなかはっきりと言わないチョッパーにゾロは苛つき、鋭い視線を投げかけた。

「だ、だから・・・えっと・・・記憶障害・・かな。 なんでかわかんないけど・・・ゾロ

の・・・・ゾロの記憶だけ・・・・サンジから消えてる・・・」

「「「ええーーーーーっ?!」」」

ナミ、ウソップ、ルフィの声が船にこだまする。

ゾロはその場で固まったまま、サンジとチョッパーの顔を交互に見つめた。

「・・・・・ゾロに関してだけ、記憶が全く無いんだ・・・サンジ。 他は皆覚えてんの

に・・・なんでか、ゾロだけ・・・身体は調べた限りじゃ何処にも異常なかった。」

チョッパーはそう呟くように告げると、ゾロの視線をかわすように深く帽子を被り直す。

「まっ・・・そう言う事だ。 けど、もう覚えたから、大丈夫だ、ゾロ。 お前も仲間なん

だからよ。 昔はどうあれ覚えてねェし、仲良くやろうや。」

サンジはそう言って紫煙を揺らすと、ニッとゾロに微笑んだ。

「っざっけんなっ!! 仲間?! 仲間だと?!」

ゾロは、ガッとサンジの胸倉を掴むと必死の形相で睨み付ける。

「グッ・・・何・・・しやが・・・る・・・」

サンジは、それに応戦するように膝をゾロの鳩尾に沈め身体を捩った。

床に膝をつき、蹲るゾロ。

「サンジ!!ゾロ!!」

真ん中でオロオロするチョッパーを挟み、ゾロとサンジは睨みあい続けた。

「今更・・・・今更無かった事にできっかよっ!!クソッ!!」

ゾロはそう吐き捨てるようにサンジに言葉を投げかけると、そのままキッチンを出て行

った。

無言で重苦しい雰囲気が漂うキッチン。

「何が今更、だ。 馬鹿じゃねェのか・・・・・。 さっ、あんなの放っておいて、ナミさ

ん、おやつでも如何ですか? 今日のガレットは紅茶味ですよ。 ほら、テメエらも手

ェ洗ってきやがれ。」

サンジはそう言って、重苦しい雰囲気を払拭するよう殊更に明るく振舞った。






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<コメント>

やっとこさ、始まったです。(笑)
次はちゃんと早めに書きますから・・・ええ、きっと・・・(遠い目/マテ)