Magic


その1







「クソッ、雨足が酷くなってきやがった。 どこかに雨宿りする場所は・・・・ん? なんだ、あの

店・・・・・・ついでだ。 入ってみるか。」

サンジは、買い出しの途中で雨に降られ、通りかかった店に立ち寄る。

「おや、お客さんとは、珍しいね。 いらっしゃい。 待ってたよ・・・・ヒッヒッ・・・。」

薄暗い店の中で老婆が一人、サンジをみとめてそう声を掛けてきた。

「いや、待たれても困る。 たまたま雨が降ってきて・・・・なあ、婆さん、ここは一体何の店

だ?」

売り物らしい物が見当たらない店内を見渡して、サンジは不審げにそう老婆に聞いた。

「ここかい? ここは、願いを叶える店。 ほれ、あんたは、コレに呼ばれて来たのさ。」

老婆はそう言うと、サンジの目の前のテーブルを指し示す。

サンジがさっき見渡したときには確かに何ものってなかったそのテーブルには、いつの間に

か金のチェーンが一つ濃緑色のビロードの布の上に飾られていた。

薄暗い灯火の中、キラキラと輝くそのチェーンに、サンジは思わず見入ってしまう。

老婆は、サンジの心情を見透かすように、したり顔で笑った。

「俺の願い? ・・・・オールブルーのことか? 残念だが、婆さん、それは、俺自身で叶える

もの。 こんなチェーン一つで安易に叶えようとは思ってないぜ。 悪いが、帰らせて貰う。

俺には、他に願いなんてねえから・・・・。」

サンジはそんな老婆を一瞥してそう言うと、ドアの方へと歩いていった。

「片恋・・・・・・それも、決して叶わない想いを、その胸の内に隠してるね。 苦しくはないの

かい? その願い、叶えたいとは・・・・・思わないのかい?」

老婆は唐突に言葉を紡ぐ。

ピクッとサンジの動きが止まった。

「このチェーンが、その願いを叶える物だとしたら? ・・・・・決して高くない買い物だと。

・・・・そう思わないかい? ・・・・・ヒヒヒ・・・」

老婆は薄笑いを浮かべ、そう言ってサンジを見る。

それからサンジの瞳の前にそのチェーンを差しだした。




・・・・・こいつ・・・・なにを・・・・。

・・・・・なんで、この婆さんが、俺の気持ちを知ってる・・・。

・・・・・気味が悪い婆さんだ。

・・・・・関わらねえ方が良いに決まってる・・・・・良いに・・・。




そう思いながらも、サンジは、そのチェーンから瞳が離せなかった。

「使い方は簡単。 その想い人の首に掛けるだけさ。 それだけで、その人はあんたに惚れ

る。 女であれ、男であれ、その人に他に好きな人がいようと、関係なく掛けたあんたを好き

になる。 ・・・・・どうだい? 素晴らしいマジックアイテムだろ? 買っていきなよ。 このチェ

ーンは、あんたに買われたがっている。 あんたが、この店に入ってきたのも、何かの縁だ。

100万ベリーと言いたいところだが、50万に負けとくよ。 今のあんたの全財産だが、払う

だけの価値は、有ると思うよ。 その苦しさから解放されるんだ。 想いが叶うんだよ。 瞬時

に、ね・・・・ヒヒヒ・・・。」

老婆は、そう言うとサンジの手の平に細長い箱をのせる。

「まいどあり・・・・・。」

老婆のそう言う声が背中に聞こえたと思ったら、サンジは、街中にぽつんと立ちつくしてい

た。

「・・・・・今のは、一体・・・・ん?? ゲッ!!何だよ、この箱は!! おい!クソ婆!! 

俺、買うなんて一言も・・・・。」

サンジは、そう怒鳴りながら、店があった後ろの路地を振り返る。

しかし、そこには有ったはずの店は無く、行き止まりの壁があっただけだった。

いつの間にか、あんなに降っていた雨も止んで青空が広がっている。

「なんだよ。 何だって言うんだ・・・・・ハッ、お金・・・・・畜生!! 俺の全財産・・・・あれ

は・・・・・あの店の出来事は、白昼夢なんかじゃねえってことだよな。 けど・・・・・本当にこ

れマジックアイテムなのか? 俺、騙されてんじゃ??」

サンジは、箱の中の金のチェーンを手にとり、じっと見つめた。

すっと黒い影がサンジの横を通り過ぎる。

そして次の瞬間、サンジの手からその金のチェーンが消えた。

「あっ、このクソッ! 待ちやがれ!!俺の全財産!!」

サンジは、その黒い影を追いかける。

「誰が待つかよ!」

金のチェーンをかっぱらった男はそう言ってチェーンを首に掛けた。

「ざけんな! てめえ、俺から逃げようなんて10万年早ええ!! 喰らえッ!!」

サンジはそう叫んで、その男の背中に強烈な蹴りをお見舞いした。

「ゴフッ!!」

男はサンジの蹴りに壁に吹き飛ぶ。

「・・・・ったく。 これは返して貰うからな。 命あるだけありがたいと思え。」

サンジはそう言って、男の首からチェーンをはずそうとした。

その瞬間、さっとその男の手がサンジの腕を掴んだ。

「んげっ!! てめえ、まだ俺になんか・・・・!!」

そう言って男の頭に脚を振り上げようとしたとき、サンジは、その男の異様さに気が付く。

「俺と結婚してくれ! あんたが男でもそんなこと全然構わねえ。 ネックレス盗んだつもりだ

ったが、あんたは俺の心を盗んじまった。 ああ、愛してる。 今逢ったばっかりだというの

に、愛してる。 もうあんたしか愛せねえ・・・・愛してるぜ!!」

その男は、瞳からハートを飛ばし、さながら女性を口説くような勢いでサンジに迫る。

サンジの脳裏に、あの気味の悪い老婆の言葉がよぎった。




・・・・・本物だ・・・・。

このチェーンは、本物のマジックアイテムだ。

・・・・・凄いな、これ・・・・・・これなら・・・・・・。




サンジは、その男を地面に沈めるとそのチェーンを外し、ポケットに仕舞い、船に戻っていっ

た。













「ナミしゃんvv ただいま帰りました〜vv」

サンジは船に戻ると、テラスでお茶を飲むナミにそう言って挨拶をする。

「お疲れvvサンジ君vv 濡れなかった? 凄い土砂降りだったもんね。」

「ええ、本当に。 俺、シャワー浴びても良いですか?」

「ええ、良いわよ。 風邪引いたら大変だもんね。 本当にご苦労様vv」

ナミはにっこり笑ってサンジにそう言った。

「じゃあ、すみません。 そうさせて貰います・・・・。」

サンジはそう言って、着替えをとり、風呂場に向かう。

「・・・しかしなぁ。 これの魔力はよくわかったが・・・・・だいたい、俺がどうやってこれをあい

つにつけさせるって言うんだ? そんなこと出来るなら、こんなに悩んだりするわけねえじゃ

んかよ。 よく考えてみりゃ。 ・・・・やっぱ、損したよなぁ、これ・・・・。」

サンジは、脱衣所でもう一度、チェーンを手にとり、ハァーッとため息を吐いた。

「あっ、サンジ君、忘れてたわ!! ゾロがさっき、先に入って・・・・。」

そう言ってナミが勢い良く脱衣所のドアを開ける。

「「うわっ!!」」

サンジは慌てて後ろに飛び退き、丁度上がろうとしていたゾロとぶつかるように倒れ込んだ。

「っ・・・・・痛てえ。 なんだよ、もう・・・・。」

サンジはそう言いながら、ゾロの上から退こうとする。

しかし、それはゾロがサンジをその腕の中に抱き締めたことによって遮られた。

「???? へっ?! 何考えて・・・・・アーーーーッ!!」

サンジは、ゾロに抱き締められたままの格好で驚きの声を上げる。

ゾロの首に輝くその金色のモノ・・・。

それは、まさしく金のチェーン・・・・・だった。

「お、おい。 クソ剣士・・・・いい加減、離せよ。 ナミさんが誤解するだろ・・・。」

サンジは小声でそう言って、慌てて身を捩る。

すぐにその金のチェーンをゾロの首から取れば良かったんだが、もうそれどころではなかっ

た。

心臓がバクバクと音を立てる。

抱き締められたゾロの腕の熱さに頭がクラクラしてくる。

耳元で聞こえるゾロの鼓動の早さに、身体中の血が騒ぐのがわかった。

「嫌だ、もう離さねえ。」

ゾロは、子供のような言い分でサンジをきつく抱き締め離れようとしない。

「ちょ、ちょっと、サンジ君、ゾロ、大丈夫?」

ナミが心配そうに覗いて声を掛けた。

「あ、ハイ。 なんでもないですから・・・大丈夫です。」

サンジは、それだけ言うのがやっとだった。

「・・・そう? なら良いけど。 じゃあ・・・・。」

ナミはゾロとサンジが重なって倒れているのを、さほど気にすることもなくテラスに戻っていっ

た。

「・・・・はぁ・・・参ったぜ。 それにしても・・・・なぁ、俺、痛えんだけど、離してくれないか?」

「・・・・・俺から逃げないか?」

ゾロはサンジの言葉にそう言ってサンジの顔を覗き込む。




うっわぁ・・・・・間近で見た・・・・・。

・・・・・・そんなに見るなよ・・・・・マジ、照れる・・・・。

心臓、バクバクしてきたぜ。

・・・・・落ち着け、俺・・・・。




間近で見たゾロの瞳にサンジは慌てて瞳を逸らす。

「あ、ああ。 逃げねえから。 頼む、離してくれ。」

サンジの言葉に、ゾロはやっと腕を緩め、ゾロとサンジはとりあえず立ち上がった。

「あのよ・・・・こんなところで言うのもなんなんだけどよ。 俺、てめえが好きなんだ。 さっき、

てめえに触れたとき、心臓がドキドキして。 なぁ、俺、変か? そうだよな、変だよな。 

てめえも俺も男なのに。 それはわかってんだ。 だけど・・・・俺、嘘、吐けねえよ。 てめえ

が男でも、俺は、好きなんだ。 てめえは嫌か? こんな俺を気持ち悪いと思うか? 正直に

言ってくれ。 俺、覚悟は出来てる。 けど・・・・諦めきれねえ。」

ゾロは、真剣な眼差しでサンジにそう言う。




・・・・・・ゾロが、俺を好き?

・・・・・・ゾロが・・・・・俺を・・・・。

・・・・・・欲しかった言葉が、今、ここにある。

・・・・・・それがこのチェーンのせいだとしても。

・・・・・・少しだけなら、夢見ても良いよな。

・・・・・・ずっと・・・・・・ずっとってわけじゃねえから。

・・・・・・今だけ・・・・今少しの時間だけ・・・・・。

・・・・・・俺に魔法を掛けて・・・・・。




「・・・・・・ゾロ。 俺も、てめえが好きだ。 ずっとずっと、初めて見たときから、てめえが好き

だった。」

サンジはそう言ってゾロに抱きついた。

ずっと胸の奥に秘めた想い・・・。

絶対に言うことの無かった言葉・・・。

思わずサンジの瞳に涙が溢れる。

「・・・・・サンジ。」

ゾロは、サンジの身体を優しく抱き締め返し、顎に手を掛け口付ける。

「・・・・馬鹿だな。 泣くことなんてねえだろ。」

そう言ってゾロは、今まで見たこともない優しい笑顔で、サンジの涙を拭った。

瞳の前にキラキラと輝く金色のチェーン・・・。

「ん? ・・・・・どうした? なんでこんなものが・・・・。」

サンジが見つめるその先に気が付いたゾロは、そう言って自分の首に掛かっているチェーン

を取ろうとする。

「ダメだ!取るな!! ・・・・まだ、取らないでくれよ。 頼むよ、ゾロ・・・。」

サンジはそう言って、ゾロの手を掴んだ。

「・・・・てめえがそう言うなら・・・。 けど、これ、てめえのだろ?良いのか? 俺が、つけてて

も・・・。」

「ああ。 それ・・・・てめえにやる。 だから、はずさねえでくれ・・・。」

「・・・・わかった。はずさねえよ。 てめえから貰った物なんて、はずせねえよ。」

サンジの言葉にゾロはそう言って、ギュッとサンジを抱き締める。

「ゾロ・・・ゾロ・・・好きだ・・・。」

サンジは何度もゾロの名を呼んで、その腕と口付けの熱さに、感情の赴くままその身を任せ

た。







<next>




<コメント>

にょ〜〜vv これって、パラレルにした方が良かったのかしら?
いや、厳密に言えば全部がパラレルなんっすけどね。(笑)
初めのHは省く! だって・・・・・
ここはグランドライン・・・何があっても不思議ぢゃない!(なんじゃそりゃ)
と言うことで・・・・・逃げる!!(笑)