もう一度キスしたかった・・・


その9







それから暫くして、サンジの家に思いがけない訪問者が現れる。

「く、くいなさん?! 一体どうして?!」

玄関に出たサンジは、瞳の前に現れたくいなにそう言って驚きの声を上げる。

「・・・・サンジ君、お話があるの。 ちょっと良いかしら?」

「あ、はい。 どうぞ・・・。」

サンジはそう言って、くいなを部屋にあげた。

「・・・・サンジ君。 ゾロね、海外に行っちゃったわ。 それもたった一人で。 あたしね、ゾロ

について来てくれって言われたら、ついていくつもりだった。 だけど・・・・ゾロってば、最後ま

であたしに言わなかった。 その代わりにあたしの父母に頭を下げて・・・・家を出て行ったの

よ。 わかる?この意味・・・?」 

くいなはそう言って、サンジにきつい瞳をむける。

サンジは、何も言えなかった。




・・・・・・・・そうか。

ゾロは、一人で歩き始めた。

自分の意思を持って・・・・俺と関わらない人生を・・・一人歩き始めた。




「フッ・・・。 そう言っても驚かないのね・・・? 貴方には、話していたのね、全部。 なによ、

あたしったらばっかみたい。 もしかしたらって・・・・あたしも貴方ぐらいには想われてるかし

ら、なんて・・・・そう自惚れたかったのに・・・。 やっぱり、結婚しなくて正解だったわ。 

正直言って、あたし、自分ち=医院を継いでくれる人じゃなきゃ嫌なの。 あんな辺鄙な国に

行って苦労するなんて真っ平。 貴方に、ゾロにフラれたなんて想われるのは癪だから、ちゃ

んと言いにきたの。 あたしからあんな奴、フッてやったのよ。 いるなら、のしつけてあげる

わよ。 あんな男よりもっと素敵な人見つけてやるわ。 じゃ、話はそれだけ。 バイバイ。」

くいなは、一方的にそう捲くし立てると、リビングをを出て行く。

「ありがとう、くいなさん。 けど、俺・・・・・行けないんです。」

サンジは、玄関を出て行くくいなの背中にそう言って寂しそうに微笑んだ。

「そんなの・・・あたしの知った事じゃないわ。 あたし興味無いもの。 けど、あの様子じゃ

一生、その国にいるかもね、ゾロは・・・。 貴方が羨ましい・・・・たくさんの未来を持っている

貴方が・・・。 じゃあ、お邪魔様。」

くいなはそう言って玄関を出て行った。 

「・・・・・・一生かぁ・・・・。」

サンジは、くいなの言った言葉の意味を噛み締めていた。



翌日。

「あれ? サンジ、お前、進路、変更したんだ。」

進路希望のプリントを覗き見て、シュライヤがサンジにそう声を掛ける。

「ああ。 俺、もう決めたんだ。 もう・・・・・迷わない。」

サンジはそう言って、そのプリントを担任の机の上に置いた。














5年後・・・。

「ゾロ先生。 なんか子供が熱出したみたいで・・・。」

「ん? じゃあ、そこに寝かせて・・・。 診てみるから・・・。」

「ゾロ先生。 急患です! 子供が猛獣に襲われて・・・!!」

「わかった。 すぐにオペの用意を!!」

「ゾロ先生・・・。 骨が外れた・・・・痛いよ・・・。」

「今、はめてやるから・・・。 痛いけど我慢しろよ・・。」



 

ゾロが、医療班として配属されたところは、とある奥地のベースキャンプ。

ずっと医者がいない状態の地域に派遣され、ゾロは毎日、2人の現地スタッフとともに、

忙しい日々を送っていた。

「ゾロ先生、せめて、あと一人先生がいると助かるんですけどね。 先生、ここに来てからろく

に、睡眠もとってないでしょ? 一応、協力隊事務所には掛け合っているんですが、なにぶ

ん、こんな辺鄙すぎる場所に来てくれるような先生は、いないのが現状でして・・・。 

ゾロ先生が、来てくれるって聞いて、それでも本当にその姿を見るまでは半信半疑で。 

来てもすぐ、半年ぐらいで根をあげて皆、戻ってしまうし。 ・・・・・・もう、5年になりますか。 

私達は、先生がいてくれるだけでありがたいんですが・・・・先生のお身体を考えると・・・・・

戻られても仕方ないと・・・。」

スタッフの一人が、食事の合間にそうゾロに話しかける。

「あ? 俺は、体力だけには自信があるんだ。 それに・・・俺は今、凄く充実してるんだ。 

帰るなんて考えてないよ。 出来れば、一生ここにいたい位だ。」

スタッフの心遣いに、ゾロは、笑顔でそう答えた。

「けど・・・・・・やっぱり、あと一人医者が・・・欲しいのは実情です。 このままでは、ゾロ先生

が倒れるのは時間の問題かと。 先生が倒れられては元も子も無いんですから。」

現地スタッフはそう言ってテントの外に向かう。

「・・・・・そうだよな・・・? せっかく俺が来たのに、ゾロが倒れると・・・・俺が来た甲斐がない

じゃん。」

スタッフとすれ違いに、見慣れない人物がそう言ってテントの中に入ってきた。

琥珀色のサングラスに・・・・・・・・金色の髪・・・。

苦笑いしていたゾロの手から、コーヒーカップが滑り落ちる。

「しっかし、暑いなぁ、ここは・・・。 おまけに口の中まで砂でじゃりじゃりするぜ・・・。」

そう言って入ってきた人物は、サングラスをゆっくりとはずした。

ゾロは、その人物に、驚きの声を上げる。

「・・・・・・・・・・・・・・サンジ?! 何で、お前・・・?!」

「へへへ・・・・来てやったぜ。 医者って結構大変なんだな。 大学出てから一年間びっしり

現場を踏ませられたぜ。 おかげで、ERもばっちしだ。」

サンジは、そう言ってゾロを見てにっこりと笑った。

「そんなこと言ってるんじゃない! なんで、お前がここに?! 母親はどうした? 事業は?

お前、跡取りのはずだろ? なんで医者になってんだ? なんで、ここにいるんだ?」

「もう・・・そんなに一度に聞かれても、答えられないって! 俺がここにいる理由・・・・?

それは・・・・簡単なこと。 ・・・・・もう一度、ゾロにキスしたかったから・・・・。 それだけだ。」

サンジは言うが早いか、ゾロに抱きついて口付ける。

ゾロは、瞳の前で起きていることが信じられなかった。

これは、疲れからくる幻覚ではないかと・・・。

ゾロは動けないでいた。

この痩躯に触れれば・・・・・消えてしまうのではないかと・・・そう思うと動けなかった。

夢でも、幻でも構わない。

この一瞬を・・・・・・自分から失いたくないと・・・。

「先生! ゾロ先生!! 急患です! 子供が象に踏まれて・・・」

まもなく、現地スタッフがそう言ってゾロを呼びに来る。

その声は、これは現実だとゾロに教えていた。

「ほらっ! 急患だ。 驚いている暇ないぜ。 わかった。 俺が診るから、子供はどこだ?」

「あ?貴方は??」

「ああ。 今日からこの地域に配属された医者、サンジだ。 よろしくな。」

きょとんとしてそう尋ねるスタッフにサンジはそう言って、その子供のところに向かう。

「おい、ゾロ!! さっさと来いよ! 俺じゃ、現地の言葉がわからないよ。」

サンジは、テントの中に顔だけ出して、ゾロにそう言って笑った。

「あ、ああ。 今、行く・・・・!!」

ゾロは、サンジの言葉にそう言って、慌てて駆け出す。

的確な処置のおかげで子供は無事助かり、その後も患者に溢れかえったテントに安息がや

ってきたのは、深夜になってからだった。

「はぁ~・・・。本当にERだな、ここは・・・。」

サンジは、そう言ってどっかりと椅子に腰掛ける。

「・・・・疲れただろ。 それより・・・・どうしてここへ?」

ゾロは、サンジにコーヒーを渡しながら、先ほどの疑問をサンジに尋ねた。

「だから、ゾロに会いに来たんだよ。」

「違う、俺が言いたいのは・・・」

「母さんが、『俺の人生だから好きにしなさい。』って。 それと・・・・・ゾロがこっちに来てから

すぐ、くいなさんが家に来たんだ。 なんか、俺に、ゾロがずっと待ってるって伝えに来てくれ

たみたいで・・・。 だから俺・・・・・決めたんだ。 ずっと傍にいようって。 その為に医者にな

って・・・・。 あんまり良い心掛けじゃないけど・・・・傍に行くからには絶対に離れたくねえ

し。 だったら、医者になろうって。 そしたら・・・・・ずっと一緒にいられる。 ・・・・・・5年も掛

かったけど・・・・・もう、絶対に離れたくないから・・・!!」

サンジは、ゾロの言葉を遮ってそう言うと、テーブルにコップを置いて、ギュッとゾロの首に腕

を回す。

「・・・・・サンジ・・・・夢みたいだ・・・。 もう一度、この腕にお前を抱けるなんて・・・・」

ゾロはそう呟いて、そっとサンジの唇を塞いだ。






初めて口付けたあの日も・・・・

初めて身体を併せたあの夜も・・・

そして、別れを決意したあの瞬間も・・・・






ずっと・・・・ずっと・・・・・

もう一度・・・・・・・・この唇に・・・・・キスしたかった・・・。







「ゾロ先生!!サンジ先生!! 急患です!!」

「おっし、行くか、サンジ!!」

「おう、任せとけ!! けど、その前に・・・ん・・・。」

「両先生!! チューしてる場合じゃないでしょ!! 後にしてください!後に!!」

今日も、とある奥地のベースキャンプでは、二人の医者が、患者の命を懸けて闘っている。









<END>





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<コメント>

はぁ~・・・。やっとやっと、終わりましたvv
無駄に長くてすいません。 それがルナなのです。(死)
けど・・・・長かったぁ。(-_-;)
ねっ?やっぱ、ゾロサンだったでしょ?
とりあえず、ほっと一安心。(何が?笑)
チューしてるゾロサンが今、ツボなのvv(死)
けど・・・・パラレルゾロってなんでいつもエリートなの?!
海賊ものが馬鹿だから??(笑)
違うよ、だって、ルナはロロスキーvvだからさ!!
それにしても、象に踏まれる奥地って何処よ?みたいな。(爆)
長らくのおつきあいありがとうございました!!
では★(脱兎!)