LOVE JACK


その2.



 




「んなっ!!! ない!! 無い、無い、全然ねえじゃねえかーーーっ!!!」

翌日、朝一番にサンジの絶叫が、ゴーイングメリー号に響き渡る。

明け方、つかの間の睡眠をとり、他のクルー達のために朝食の食材を取りに倉庫に入った

サンジが初めに見たものは、そこに山のようにあったはずの消えた食材。

いや、消えているのだから、正確には、見えていないのだが、それは、サンジが絶叫するに

は十分の出来事だったのだ。

「・・・・・ルフィ。 ネタはちゃんとあがってんだ! 白状しやがれ、このクソゴム!! 

てめえだろ! アラバスタまでちゃんと計算して食材保管してたのに・・・!!!」

「い、いや、俺は知らねえぞぉ・・・。全然知らねえなぁ・・・。」

甲板に正座をさせられ、サンジから追及されているルフィは、頑としてシラをきり通す。

「てめえしかいねえんだよ!! とぼけねえで、いい加減白状しろよ!! ・・・・おい、

ルフィ、口の周り、なんかついてるぜ・・?」

「うげっ!! ヤバッ!! 倉庫で食った奴の食いかすが・・・!!」

サンジにカマをかけられ、ルフィは、慌てて口の周りを手で押さえた。

「・・・・・・・・・・やっぱ、てめえじゃねえか!! このクソゴム!!」

サンジはこめかみを引くつかせ、ルフィに情け容赦無しの蹴りを叩き込む。

「ったく、こっちは、寝不足と、腰が痛くて動くのも、だりいって言うのに・・・。」

そうぼそりと誰にも聞こえないような声で呟いて、サンジはすぐ傍で気持ち良さ気に転寝して

いる人物にきつい瞳を向けた。




てめえのせいなんだよ! てめえの・・・!!

ったく、あっちの方でも魔獣なんだから・・・・。

けど・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなとこも・・・・・。




自然と見つめている顔が緩んでくる。

そっと近づいて・・・・その唇を塞いでやりたい衝動に駆られる。

サンジは、暫くの間、夢見心地で、傍に眠る剣士の顔をじっと見つめていた。

「サンジ君、大丈夫?」

不意に、サンジの頭上でナミの声が聞こえ、サンジは慌てて顔を引き締め、ごまかすように

ナミに話し掛ける。

「ナミさ〜んvv お願いだから、鍵付き冷蔵庫買ってくださ〜いvv」

それをナミの隣で見ていたビビから、クスクスと笑みがこぼれた。

「クスクス・・・。 わかったわ、サンジ君。 考えといてあげる・・・。」

ナミもそう言って、全てを見通したかのように意味ありげに微笑んだ。

二人の女性にからかわれ、ばつが悪そうにサンジの頬に一瞬だけ赤みが差す。

「さ、さてっと・・・・・・・・ウソップ、チョッパー、おい、なんか釣れてるか・・・?」

サンジは、足早にそこから離れると縁で釣りをしているウソップ達の元へ行った。

「てめえらもかよっ!!」

食材の残りを慌てて呑み込むウソップ達をそう怒鳴りつけ制裁を加えた頃、ルフィが、サンジ

に空腹を訴える。

「ったく・・・・誰のせいだ、誰の・・・。 わかった。 もう一度、倉庫覗いてなんかねえか

見てみるから・・・・・。」

サンジはそう言うと、仕方なく腕まくりして、また倉庫に入っていった。
















一方こちらは、Mr.2ボン=クレーが乗るスワン号(?)。

「絶対にMr.3を見つけるのよぅ! 小船一艘も見逃すんじゃないわよぅ!! 

じゃなかったら、あちしがMr.1に消されるじゃない!! 冗談ぢゃないわよぅ!!!」

任務遂行が出来なかったボン=クレーは、慌ててMr.3を追い掛けアラバスタへの航路を航行

していた。

途中の海底噴火の靄もなんのその、頭の中は、任務失敗の焦りで一杯のボン=クレーであ

る。

「あら・・・? なんてキュートなカルガモちゃんvv」

靄の中、急に目の前に現れたカルーに、思わず抱きついてしまったボン=クレー。

当然、釣り糸に括り付けられているカルーと共に、ウソップ達に釣り上げられてしまった。

「なんなのよぅ、ここは! いやん、あちしったら、急に現れたカルガモちゃんに抱きつ

いちゃって・・・・こんなことしてる場合じゃ・・・!! あれ〜〜・・・!!!」

慌ててカルーから離れたのは良かったのだが、下は、海。

「冗談ぢゃないわよぅ〜!! 助けて!!あちし、かなづちなのよぅ!! ちょっとそこ

のあんた! 黙って見てないで助けなさいよぅ!!」

哀れボン=クレーはそう言いながら、ど派手に海に沈んでいく。

「なんだ、ありゃ・・・? チッ、仕方ねえ・・・。」

気味の悪い叫び声に目を覚ましたゾロは、放っておくわけにもいかず、刀を縁に立てかけ海に

飛び込んだ。

海の中にゆっくりと引きずり込まれていくボン=クレー。




ああ、あちし、ここで死ぬのね・・・。

美人薄命・・・・やっぱり、ヒロインには悲劇が似合うわ・・・。

なんでいってる場合じゃないわよぅ!!

まだ死ねないわよぅ!!

ドラマなんかだと、こういう時、必ずヒロインを救い出す素敵なヒーローが、現れるのよね〜。

・・・・・・どうせなら、精悍な逞しいタイプの男が良いわん。

・・・・・・そう・・・・こんな顔・・・・あら・・・なかなかに良い男ぢゃない・・・。

ああ、逞しい身体。

・・・・・なんて力強い腕なのかしら・・・。

見つけたわん・・・・・・・あちしのヒーロー!!




海中で自分を引き寄せ、船に引き上げてくれたゾロに、ボン=クレーの心は、ときめきモード。

ボン=クレーの頭の中では、ゾロが自分と赤い糸で結ばれる運命の人と化していた。

正に、想い込むオカマほど、恐ろしいものは無い・・・。

ゾロを見つめるその瞳にも、ハートのマークがくっきりと浮かんでいる。

その視線に気が付いて、ゾロは、背筋が寒くなるのを感じた。

「・・・・・・やっぱし、見捨てときゃ、良かったか・・・?」

ゾロは、自分の視界からボン=クレーを排除するため、サンジのいる倉庫へと足を向ける。

「ちょっとちょっと、待ちなさいよぅvv 良いもの、見せてあげるからv」

ボン=クレーはそう言って、慌ててゾロの行く手を阻んだ。

それから、サンジを除く他のクルー達の目の前で、マネマネの実の能力を披露し始める。

「んじゃあ、いくわよぅvv」

そう言って、ボン=クレーは自分の前に並んでいたクルー達の頬をスッと触れていった。

そして、最後に、ゾロの頬に触れた時、キュンとボン=クレーの胸が熱くなる。




ああ、あちし、やっぱり、この顔、好き・・・。




ずっとゾロの頬に触れていたい衝動を必死で押し留め、ボン=クレーは、唯一つの事を確認す

る為にルフィ達に姿を変えた。

「あちしはね、顔だけじゃなく、身体までそっくしにできるのよぅvv」

そう言って、ボン=クレーはナミなった自分の身体をクルー達に曝け出す。

ガボンと顎をはずして驚きまくっているクルーに混じり、興味無さ気に呆れ顔のゾロの姿があ

った。




おっし!!

この船には、ダーリンの相手はいないって事よね。

やっぱし、あちし達は、結ばれる運命・・・・。

そう・・・・・この出逢いが、全ての始まり・・・・・けれど・・・。

ダーリン・・・・・あちしは、もう行かなくては・・・。

あなたにもう一度逢う為に・・・・。

任務を遂行してくるわん・・・。




心なしかやや青ざめた表情のゾロに熱い視線を送るボン=クレー。

その瞳は、少女漫画のヒロインのごとく輝いていて・・・・誰の目にも異様に見えた。

「じゃあ、そろそろあちし、行くわ。」

「えーっ!! もう行っちゃうの?!」

そう言って引き止めるチョッパー達の声に、ボン=クレーはグッと涙を堪える。

「恋愛と友情って奴は・・・・・・・付き合った時間とは関係ナッスィング!!」

グッと親指を立てて溢れる涙を讃えた瞳で見つめる先は、やはりこの男。

ロロノア=ゾロ。

三刀流の剣士。

イーストブルーでは、『海賊狩りのゾロ』と呼ばれ、『血に飢えた魔獣』として恐れられていた

男。

しかし、現在、船内恋愛中。

しかも、相手は、口と足癖の悪さに定評のある闘う天才料理人のサンジ(男)。

他のクルー達から、別の意味で恐れられているゴーイングメリー号のきっての戦闘要員。

それをボン=クレーが知るのはまだまだ先の事であった。

「ばいばい、ダーリンvv あちし、きっと貴方の元に帰ってくるわんvv その時こそ、

あちし達の本当の始まり・・・・。 ダーリン、離れていても、あちしの愛情は変わらない

わvv」

船に飛び降りる寸前で、スッとゾロに抱きついて耳元でそう囁いたボン=クレー。

「じゃあ、皆。 また逢いましょう。」

微動だにしないゾロを尻目に、ボン=クレーはそう言って迎えに来た船に乗って去って行った。

「ふぅ〜・・・。なんなのよ、あいつってば・・・。 ん?ゾロ? やだ、どうしたの? 

顔真っ青よ?」

「・・・・・・・いや、なんでもねえ・・・。 ちょっと気分が悪くなっただけだ。」

ナミの言葉に、ゾロはそれだけ言うと、フラフラと船尾の方へと向かう。

そのすぐ後に続く不穏な空気をまとったサンジの足音にさえ気付く余裕もなく・・・。

「はぁ〜・・・。 なんなんだよ、あいつは・・・。」

思い出しても身震いしそうな悪寒に耐えながら、ゾロはゆっくりと腰を下ろした。

すると、サッと自分の前に飛び出してきた見覚えのある姿が瞳に映る。

それは、紛れも無く愛すべき料理人。

朝方まで愛を囁きあい確かめ合ったはずの恋人の姿。

ただ違うのは、その身に纏う不穏な空気。

「おらっ!! このクソ腹巻!! さっきの抱擁はなんなんだよ!! てめえはあんな

のが趣味なのかよ!! それとも真性のホモなのか? この船で・・・しかも俺が見て

る瞳の前で・・・・・あんな奴と・・・・あんなオカマ野郎と抱き合うなんざ、許せねえー

っ!!」

サンジはそう叫ぶや否や、座り込んでいたゾロめがけて蹴りを繰り出す。

「うわっ! なにすんだ、このクソコック!! 危ねえだろが!!」

ゾロは、すれすれのところで鞘でその蹴りをかわしながら立ち上がった。

「ちくしょーっ!! このホモ剣士!!ホモ侍!! マリモの癖に・・・・マリモの・・・・

っ・・馬鹿野郎・・・!!」

サンジは、思いつくままに悪態をつき、ゾロに蹴りを繰り出していく。

ちょうど、サンジが倉庫から出てきた時、ボン=クレーがゾロに抱きついていた。

ゾロは、それに抗う事すらせず、黙ってされるままになっていた。

いや、実際には、あまりの嫌悪感にゾロが固まって動けなかったのだが・・・。

出てきたばかりのサンジにそれがわかるはずも無く・・・。

沸々と湧き上がってくる怒り・・・嫉妬・・・。



いやだ・・・・・こんなの・・・・

こんなの・・・・・・俺じゃねえ・・・・

・・・・・・認めたくねえ・・・・




あんなに怒りに満ちていたはずなのに、サンジの鼻の奥がツンとし始める。

だんだんと、視界が揺らいでいく。

蹴り出す足にも力が入らなくなってくる。

終いには、サンジは、そこにただ立ち竦んでいるだけだった。

「ちくしょーっ!! 俺だけ・・・・俺だけがてめえにハマってく・・・・俺だけが・・・・・

てめえに・・・・!!!」

抑えていた感情が言葉となって口から漏れる。

ポロポロと流れるようにサンジの頬を涙が雫す。

サンジは、それを見られまいとゾロに背を向け声を殺した。

「・・・・・・・・サンジ・・・。」

ゾロは、優しくサンジの名を呼び、後ろから抱きしめる。

「っ・・触るな!! あいつの匂いがするその身体で俺に触るな!!」

サンジは振り向きもせず、そう言ってゾロの腕を撥ね退けた。

「・・・・・ったく。 人の気も知らねえで・・・。 わかった。 匂いがしなきゃ良いんだ

な。」

ゾロはため息を深く吐き、そう言うと、刀を縁に立て掛け、そのまま海に飛び込んだ。

「ゾ、ゾロ!!」

いきなり聞こえた水音に、サンジは慌てて振り返り、船の縁から海を見つめる。

ゾロは、海面に浮上するとずぶ濡れのまま、船に上がり、サンジの前に立った。

「・・・・・これで、もう匂いはしねえだろ。」

ゾロはそれだけ言うと、ギュッとサンジの身体を抱き締める。

「馬鹿・・・・たったそれだけのことで・・・・・馬鹿だろ、てめえ・・・・。」

サンジは、涙声でそう言って、そっとゾロの首に腕を回した。

「サンジ・・・さっき言った事、撤回しろよな。 俺はホモじゃねえから。 お前じゃなきゃ

勃たねえし、それ以前に他の奴と犯る気も全くねえから。」

ゾロは、真顔でサンジの耳元でそう囁く。

ドクンとサンジの心臓が音を立てた。




なんで、こいつは真顔で、そんな殺し文句が言えんだよ。

・・・・・・・ほら見ろ。

たった一言で・・・・・・もう・・・・・・・・・・・・・俺・・・・・・・・落ちてる・・・・。




「んな恥ずかしい事言うんじゃねえ!! それに、見てみろ!!俺まで濡れてしまった

じゃねえか! ったく・・・・。風呂入んなきゃならなくなっただろ・・・!!」

口で悪態を吐きながらも、どうする?と上目遣いでゾロの顔を窺う。

「・・・・・・当然だ、な。」

ゾロは、ニヤリと口角を上げサンジにそう告げると、サンジの手を取り、そのまま風呂場に歩き

出した。

キッチン前のテラスでナミと一緒に二人の様子を傍観していたウソップは、目の前を横切り風

呂場に向かう二人に視線を向ける。

「おいおい、ナミ。 放っといて良いのか? あいつら、また暫く出て来ねえぞ。 

それに、まだ陽が高えし・・・。 なぁ、ナミ・・・」

テーブルでなにやら計算しているナミに、ウソップはそう話し掛けた。

「あー、うるさいわね。 良いんじゃないの? どうせ、食材は全然無いんだし。 

食材が無いんじゃ、サンジ君でも、どうしようもないし・・・・。 それにあたし、今それど

ころじゃないの。 絶好のカモ発見よvv B・WオフィサーエージェントNo.2と言え

ば、結構な稼ぎの筈よね・・・? これは良いお得意様になるわvv」

ナミはウソップにそう返事して、満面の笑みを浮かべる。

俗に言う、魔女の微笑み・・・・。

「・・・・・・・おい、ナミ。 もしかしてそれって・・・・。」

「そうよ? なんか文句ある?」

「いいえ、なんでもありましぇん・・・・。」

グッと瞳の前に握り拳を見せつけられ、ウソップは力なくそう返事するしかなかった。

「ウソップさん、愛情って素晴らしいものですよね。」

そう言って、少女の眼差しでゾロとサンジの背中を見つめるビビと・・・。

「えっ?! ゾロとサンジって今からお風呂に入るのか? 俺も、一緒に入っちゃダメ

かな・・・?」

そう言って、二人の後をついていこうとするチョッパー。

「待て、チョッパー。 今は、行っちゃあ、ダメだ。 二人揃って出てくるまで、風呂場に

は絶対に近づくな。 わかったか? これはお前の命に関わる事だ。 この船の決まり

事の一つだ。 あの二人が風呂や部屋に籠ったら、絶対に近づいてはならない。 

そうしねえと、大いなる災いがお前の身にふりかかるであろう!!」

ウソップは、預言者のような口ぶりでとくとくとチョッパーに言い聞かせる。

「ええーっ!! 大いなる災いって?! い、命に関わるのか?!」

「きゃあvvウソップさんvv それも愛なんですよねvv愛vv 海賊って奥が深いわ〜

vv」

チョッパーもビビもそう言ってウソップの話に耳を傾けた。

「よおし、それじゃあ・・・。 これまでに俺が受けた数々の試練・大いなる災いについ

て君達に教えてあげよう。」

二人の反応に気を良くしたウソップが、また色々と話をし始める。

ふと、ナミが、甲板に瞳を向けると、甲板の上でルフィが大の字になってひっくり返っていた。

「ナ〜〜ミ〜〜・・・・。 俺、腹減ってもう、動けねえ・・・・。」

「そんな事言ったって、元はと言えば、あんたのせいなんだからね。 黙ってそこで寝

てろ!」

ルフィの力ない声に、ナミはそう冷たく言い放つと、また計算をし始める。

「全く・・・。 なんて海賊船なのよ・・・・まともな奴があたしだけじゃないのよ・・・。」

ぼそりと呟かれたナミの言葉に、ウソップ達は聞こえてないフリを通すことにした。

「エッエッエッ・・・。 海賊って、本当に面白いよね、ビビ。」

「ええ、本当に。 ウフフ・・・私、この船に乗れて良かったわ。」

チョッパーとビビは、ウソップの話に適当に相づちを入れながら、そう言って笑いあった。




ゴーイングメリー号、アラバスタ王国到着まで・・・・・・・・・・・・・あと数日。

嵐の前の穏やかな(?)日の話・・・。








<END>




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<コメント>

はぁ・・・・。ボンちゃん入れるとどうもコミカルになりますね、内容が。(笑)
前回が、シリアス目だったので、その反動なのかな・・?
もっとサンジにやきもちを妬かせようと試みたのですが、
中途半端で終わっちゃったなぁ。(死)
それに、『jack』とした割には、あまりジャックしてなかったし・・・。
まあ、ボンちゃんとゾロの出逢いのシーンと言う事でvv(っておい!)
次回は、いよいよアラバスタ編!
エース登場まで書きたいんだけどな。(希望)
それでは、また☆