今すぐ、Kiss Me!


その1







ゴーイングメリー号のいつもの昼下がり。

「あー・・・・また、失敗しちゃった。 上手くいかないなぁ。」

チョッパーはそう言って、テーブルの上のフラスコに入った液体をシンクに持っていく。

「どうした、チョッパー。 また新しいランブルボールの試作してるのか?」

サンジは、おやつのワッフルを焼きながら、近づいてきたチョッパーにそう話しかけた。

「あ、うん・・・・そろそろね、新しい能力を開発したいなぁってそう思ってるんだけど、

上手く成分が融合してくれなくて。 薬が無駄になっちゃった。 ねえサンジ、これ捨

ててくれる?」

シンクに背の届かないチョッパーは、そう言ってサンジにフラスコを手渡す。

「ああ、良いぜ。 もうすぐおやつも出来上がるし、今日はこのくらいにして・・・」

サンジはそう言いながら、フラスコの中の液体をシンクに流していると、ルフィがいつものよう

にサンジの腰に腕を巻き付け飛んできた。

「サンジーッ!! おやつーっ!!」

「ンアアァッ!!」

ルフィに巻き付かれバランスを崩したサンジは、手にしたフラスコごと、仰向けに床に倒れ込

む。

ビチャッ!!

フラスコの中の液体は、ものの見事にサンジの顔にかかった。

「ルフィ!! てめえ、何度言ったらわかるんだよ!! この俺様に飛びついてくるな

と言って・・・・ゲホッ!! くそう・・・・てめえのせいで、見ろ! 薬が引っかかっちま

っただろうが!!」

サンジは顔を手で拭い、立ち上がるとルフィにそう言って怒鳴る。

「あ、わりい、サンジ。 すっげえ良い匂いがしててさ、俺、我慢できねえで・・・

わりい。」

「ったくよ。 てめえ、本気で悪いと思っちゃねえだろ・・・。」

サンジはそう言って、ルフィの頭に踵を落とした。

瞬時にルフィの身体が床に沈む。

「サンジ! 大丈夫か?」

チョッパーが心配そうにサンジを見つめる。

「ああ、大丈夫だ。 おい、ルフィ。 早くおやつ食いたかったら、ウソップ達を呼んで

こい。」

「よし、わかった!!」

サンジの言葉に、ルフィは何事もなかったかのようにウソップ達を呼びに行った。

「本当、しょうがねえ奴・・・。」

サンジは側にあったタオルで顔を拭うとシンクに立ち、手際よく焼き上がったワッフルを皿に

盛りテーブルに運ぶ。




・・・・ん?

・・・・・・気のせいか? 

テーブルがだんだん大きくなってくようだが・・・。




「サ、サンジーーーッ!!!」

自分の後ろで驚きの声を上げるチョッパーに、サンジは振り向いた。

「・・・・・チョッパー、てめえでかくなったな。 変形したのか?」

いつもとは違うチョッパーの大きさにサンジは思わずそう聞く。

「ち、違う・・・。 サンジ・・・・身体が・・・・うおぉ〜〜!! サンジが、縮んだーー

っ!!」

チョッパーは、一人あたふたしてサンジの前でそう絶叫した。

「ん?縮む?? ・・・・・・・・・・うげっ!! なんじゃこりゃあ!!!」

サンジは、その時初めて自分の身に何が起こったのかを知る。

手足はどう見ても子供サイズ。

いつもはきっちり着こなしているスーツが、いつの間にかブカブカになっていた。

サンジは、慌ててキッチンの壁に置いてある姿見で自分の姿を映す。

手足だけではない。

身体のどの部分を見ても、立派な子供だった。

チョッパーと同じくらいの高さの・・・・・3、4歳の幼児がそこにいた。

「おい、チョッパー!! 俺、俺、どうなっちまったんら?? なんれ俺、縮んでんら

よ?! ありゃ、言葉までろれちゅがまわりゃなくなって・・・。」

喋っていた言葉さえ、呂律が回らなくなっていく。

「わ、わからない。 あっ、もしかしてさっきの薬・・・・」

「薬?? ・・・・って、しゃっき顔に掛かった奴かーっ!!」

サンジはそう叫んで、床に転がっているフラスコを見る。

「うん、そうとしか考えられないよ。 俺、皆に・・・・」

「おのりぇ・・・・クソゴムーーーッ!!」

チョッパーの言葉の途中で、サンジはもどかしげにシャツを引きずりながらキッチンを飛びだ

していった。

「おい! ウショップ!! ルヒはろこだ、ルヒは!!」

キッチンに向かっているウソップを捕まえて、サンジはそう捲し立てる。

「ハァ?? だ、誰だ、お前は?! いつ、この船に乗った?! ナ、ナミ〜!! 

変な子供が船に乗ってるぜーっ!!」

ウソップは、見掛けない子供の姿にそう言ってナミを呼んだ。

「もう・・・・・何馬鹿なことを・・・・。 え?! やだ、この子、誰?」

ナミは、小さくなったサンジを見て、逆にウソップに尋ねる。

「いやらなぁvvナミしゃんvv 俺れすよ、俺vv」

サンジは、いつもの口調でナミにそう言い返した。

ナミは、サンジの側までくると、顔を両手で挟みサンジの顔を確認する。

「俺って・・・・そして、このグルグル眉毛・・・・。 まさか・・・・・サンジ君?! 

えっ?!なに??一体どうしちゃったの??」

「ナミしゃんvvやっぱり俺ってすぐわかってくれたんれすねvv さしゅが、俺のナミしゃ

んvv よくぞ聞いてくらしゃいまちた。 実は、あのクショゴムのせいれ・・・・・。」

サンジはナミに抱きつくとそう言って、事の次第を話して聞かせた。

「・・・・そう、そうだったの・・・。 けど・・・・・・可愛いvv なんて可愛いのかしらvv」

ナミはそう言って、サンジを胸に抱き締める。

金色の髪とまあるい大きな蒼い瞳・・・・・それに子供らしいぷっくりとした頬。

プラス、呂律の回らない幼児言葉・・・。

19歳のサンジとは全然違う無邪気な可愛らしさに、ナミは大いに母性本能を擽られた。

「は〜いvv ナミしゃんvv 俺、幸せれすvv」

「・・・・・・中身は、全く同じだな・・・。」

瞳からハートを飛ばしナミに抱きつくサンジに、ウソップは呆れ顔でそう呟く。

「けど、この可愛さに免じて許してあげるvv うふふ、ちょっとからかいに行こうかし

ら・・・。」

ナミは、サンジを抱き上げると、船尾で眠っているはずの人物のところへ向かった。

そして、サンジに耳打ちして床に下ろす。

「了解! ナミしゃんvv」

サンジは、にっこりと笑ってナミにそう返事すると、ちょこんとゾロの膝の上に座った。

「じょりょ〜・・・・・なぁ、じょりょ・・・・起ちて・・・。」

サンジは、わざと甘えた口調でゾロの頬をぴたぴたとその小さな手で叩く。

膝に乗っかられた重みと聞き慣れない声で、ゾロはゆっくりと瞳を開けた。

「んげっ!! 誰だ!お前!!」

ゾロは、自分の瞳の前の幼児の姿にそう驚きの声を上げる。

「クスクス・・・。 まら、わかんねえ? 俺らよ、俺。」

サンジはそう言って、ゾロを見てにっこりと笑った。

「サ、サンジィ?!」

「あい、しぇいかいれす。」

サンジはそう言って嬉しそうにゾロの首に抱きつく。

ふわっとサンジ特有の香りがゾロの鼻を擽る。

柔らかな感触につい、手が出そうになる。

ゾロは、軽く眩暈を起こした。

「んがっ!! な、なんだ、てめえ、一体どういう・・・・・。 おい!ナミ!! てめえ、

またなんかしたのか? なんでサンジが、こんなに?!」

ゾロは、驚きで身体を硬直させ、ナミを睨み付けてそう叫んだ。

「・・・・・・あんたねぇ。 口の利き方に気を付けてよね! 行きましょう、サンジ君。」

ナミは、ゾロの頭に拳を振り下ろすと、サンジを抱き抱えキッチンに向かう。

「痛えっ!!って、えっ?! おい! ナミ?!」

ゾロもまた、慌ててナミを追いかけてキッチンへと向かった。















その後、クルー達は、サンジの異変にキッチンに勢揃いしてチョッパーの説明を聞いていた。

「・・・・・・っで、チョッパー。 話を総合すると、サンジ君は元に戻せるのね?」

「うん。 薬の成分はわかっている。 もうすぐ試作の解毒剤も完成するから、

これをサンジが飲めば、元の身体に戻る筈なんだ。」

ナミの言葉に、チョッパーは、そう言ってビーカーの液体を取り出す。

「あとどれくらいかかるの?」

「そうだな・・・。 あと科学反応がおきるのに二時間ぐらいかな? それからまた成分

に有害なモノが含まれてないかを調べるのに一時間。 夕方までには出来ると思う

けど。」

ナミの言葉にチョッパーはそう言ってビーカーをまた薬箱に収めた。

「・・・・・そう。 まっ、今日中には元に戻りそうだし、仕方ないわね。 ・・・・それに、

このサンジ君、とっても可愛いんだものvv 暫く、あたしが面倒をみてあげるvv」

ナミはそう言ってサンジを抱き上げる。

「ちょっと、待て、ナミ。 それは俺に任せて貰おうか。」

キッチンにきて初めて口を開いたゾロがそう言って、強引にナミからサンジを引き剥がした。

「やっだぁ・・。なによもう・・・痛いじゃない。 ったく・・・サンジ君のことになると異常

よね、あんた。 まっ、これだけ可愛いんだから、傍に置きたいって言う気持ちもわか

らなくもないけど・・・・。 あんた、理性保てるの? あたしは、嫌よ。 この船から犯

罪者を出すのは・・・。」

ナミはそう言って意味ありげにゾロを睨み付ける。

「じょりょ〜vv おりぇ、ナミしゃんが良いなvv」

そう言ってにっこりと笑うサンジに、ゾロの頬はだらしなく緩んでいく。

「ダメだーっ!! サンジは、誰にも渡さねーっ!!」

ゾロはそう叫ぶなり、キッチンのドアへとサンジを抱き抱えたまま走った。

「ハイ、やっぱ、そこまでね。」

ナミの天候棒が、容赦なくゾロの後頭部に襲いかかる。

「やっぱり、あたししかいないわねvv さっ、行きましょうvvサンジ君vv こんな魔獣の

傍においてたら、すぐに食べられちゃうわ。 近寄っちゃダメよ。」

ナミはそう言ってゾロの腕からサンジを取り返すと、そのままキッチンを出てテラスに向かっ

た。

「ばいばい、じょりょ。」

サンジは、ナミの肩口から顔をひょっこりと出して手を振っていた。




クーッ!! 可愛い・・・・可愛すぎるだろ、これは・・・。




「ナミの奴・・・。 絶対に後で叩き斬る!!」

ゾロはグッと拳を握りしめ、俯したままそう呟く。

「いや、この場合、俺もナミの意見を尊重するぞ。 ゾロ、てめえ、危なすぎ・・・・。」

ウソップは、ゾロに聞こえないような声でそっと呟いた。









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<コメント>

・・・・・・ロロノア、馬鹿。 この一言に尽きると。(笑)
一気にお題の通り、10歳のチビナスにしとけばいいのに、
これ幸いに、チビチビナスまでしちゃいました。 だってせっかくなんだもん。(死)
次回から、お題の通りですねvv
ロロ・・・・・危ない奴です。(笑)