雪月花


雪の章...その1






「うわあ、寒いと思ったら、雪が降ってるのね。 ・・・・サンジ君、まだ、仕込みやって

るかしら・・・・ なにか、温かいモノでも飲ませて貰おうかな。」

新しい海図の作成で、起きていたナミは、キッチンで、飲み物を貰おうと、自分の部屋を出

る。

先に、ゾロが、酒を持って船尾の蜜柑畑の影に消え、甲板で、サンジは、また暗い闇の海を

見つめていた。

ナミが、部屋から出てきたのにも、気付いてなさそうだ。

その姿は、闇の海に溶け入りそうで・・・・雪と共に、サンジが消えてしまいそうで・・・・

ナミは、ギクリとした。

「・・・・・・どうしたの? サンジ君、こんなところに居て・・・ 風邪、引いちゃうわよ。」

自分の思ったことをうち消すように、ナミはそう、声を掛けた。

サンジは、その声にはじかれたように、後ろを振り返った。

「ああ、ナミさん。 ・・・・なんでもないんです。 ・・・ちょっと・・・・思い出してただけ

で・・・ナミさんこそ、どうしたんですか? こんな時間に・・・・・・・なにか温かいモノで

も、入れましょうか。」

サンジはそう言って、ナミににっこりと笑うと、タバコをもみ消して、キッチンに向かう。

「・・・・・・じゃあ、そうしてもらおうかしら。」

ナミは、船尾にわずかに感じる気配に気付きながらも、サンジの言葉にそう返事して、一緒

にキッチンへ入っていた。












++++++++++++++



・・・・・・そう、この船には、ナミが居る・・・・・・・

・・・・・あいつの好きな・・・・・・女が・・・・いる・・・・・・

・・・・これが・・・・現実・・・・・・

・・・これが・・・・運命・・・・・・

・・・・俺が・・・・いくらあがこうと・・・・・・

・・・・・その事実だけは・・・・・・

・・・・・・覆せねえ・・・・・・・・




ゾロは、蜜柑の葉に積もった雪を手のひらに握って、自分の額に当てる。

雪は、手のひらの熱で、ポタリポタリと滴をたれ、ゾロの額を濡らした。

「・・・・・冷めてぇ・・・・・」

ゾロはそう呟いて、また酒を飲み始める。




・・・・・・早く・・・・・・早く、真っ白に・・・・・・

・・・・・・・真っ白に降りつもれ・・・・・・

・・・・・・・・俺の心が・・・・・

・・・・・・・・・溶けないうちに・・・・・・

・・・・・・・・・・溶けて溢れ出す前に・・・・・・

・・・・・・・・・・・俺の心に・・・・・・

・・・・・・・・・・降りつもれ・・・・・・・

・・・・・・・・・降りつもって・・・・・・

・・・・・・・・二度と溢れてこないように・・・・・・

・・・・・・・俺の心を・・・・・・・

・・・・・・凍らせてくれ・・・・・・・




「・・・・・もう、空か・・・・・仕方ねえ、もう1本、貰ってくるか・・・・・」

ゾロは空いた瓶を海に投げ捨てると、そう言ってキッチンに向かう。

キッチンのドアノブに、手を掛けると、中から、楽しげに笑うサンジとナミの声が聞こえた。

「あはは、いやだなあ、ナミさんは・・・・・ 俺、そんなに、どっかに消えちゃいそうでし

た?」

「ええ、本当に・・・うふふ、なんで、あたしったら、あんなこと思ったのかしら。 

きっと、この雪のせいね。 ・・・・あなたが、命がけであたしを・・・・あたし達を助けて

くれたから・・・・・・」

サンジの言葉に、ナミは、そう言って静かに微笑んだ。

ナミが言っているのは、ドラム島での出来事・・・・・

あの雪の国で、サンジは、ルフィとナミを助けるために、自分を犠牲にした。

結局、助かったモノの、死んでいてもおかしくない状況でもあったのだ。

「・・・・・でも、サンジ君、あんなこと、もう絶対に、しないで。 あんなことで、あなた

が死んでたりしたら・・・・あたしは・・・・・あたし達は・・・・」

ナミは、そう言って、ギュッと唇を噛む。

あれからずいぶんと時間が経っているのに、ナミは、そのことを思い出すだけで、ギュッと胸

が締め付けられる。

サンジは、いつも、そうなのだ。

自分のことより人のため・・・・・仲間のために・・・・・・

・・・・・その命でさえ投げ出してしまう。

自分が愛されることは望まずに・・・・人には愛を与え続ける・・・・・

・・・・・それが、当然だというように・・・・・

「・・・・ナミさん、すみません。 俺、そんなつもりなかったんです、本当に・・・・・

あなたに、辛い思いさせるつもりは・・・・・」

サンジは、そう言って、ナミを抱き締める。



ゾロは・・・・・・その光景をキッチンの窓からそっと見つめていた。

ドアノブに触れた瞬間、聞こえてきたナミとサンジの笑い声・・・・・

ゾロは、ドアノブから、スッと手を離した。

その空間に入ってまで、酒を取ってこれるほど、ゾロは、無神経ではない。

いや、サンジとナミだからこそ、ゾロは、その空間に入るのを躊躇った。

・・・・・しかし、なぜだか、その場をすぐ後にできなかった。

そのまま、吸い込まれるように、窓から中を覗いていた。

・・・・・・そして・・・・・・・・さっきの・・・・

・・・・・・・決定的な場面・・・・・・・・




・・・・・・・わかっていた・・・・・・

・・・・・・・・本当に、わかっている・・・・つもりだった・・・・・・

・・・・・・・・・しかし・・・・このシーンは・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・はっ、ざまねえな・・・・・・

・・・・・・・・・・・・このくれえ・・・・・最初から・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・わかりきってたこと・・・・・・・




ゾロは、ギュッと拳を握りしめて、そのまま踵を返した。

口の中に、鉄の味がした。

ゾロは、部屋に戻り、ハンモックに身体を横たえた。

・・・・・眠れなかった・・・・・

・・・・・あのシーンが頭から離れない・・・・・

・・・・・サンジとナミが抱き合っていた・・・・あのシーンが・・・・・

・・・・・ゾロの心から・・・・・消えてはくれなかった・・・・・・

・・・・・それでも、ゾロは、目をつぶって時間が過ぎるのを待つより他はなかった。










++++++++++++++++++++



「ふふふ、サンジ君、こんなところ、あいつに見られたら、どうするの? あいつ単純

だから、勘違いするかも知れないわよ。」

ナミは、そう言って笑って、サンジの身体から離れる。

「・・・・別に、あいつがどう思おうと、俺は、ナミさんなら、勘違いされても良いですよ。

願ったり、叶ったりじゃないですかvv」

サンジはそう言って、瞳をハート型にしている。

「・・・・本当に、そう思ってる? ・・・・だったら、本気で付き合ってみる? 

サンジ君?」

サンジの半ばふざけるような態度に、ナミは、やや怒ったような顔で、そう言った。

「・・・・・・すみません。 ・・・・俺、また、ナミさんを怒らせてしまいましたね。

・・・・・けど、あいつ・・・・俺のこと、全然なんとも思ってねえし・・・・・それどころか、

俺のこと・・・・・嫌ってるんですよ・・・・・・・・」

サンジは、ナミの言葉に、シュンとして、寂しそうに笑って、そう言った。

「・・・・まあね。 相手が相手だし・・・・あたしがどうこう言うのもなんだけど、いつま

でも、自分の気持ちって、隠し通せるモノじゃないわよ。 たとえ通じなかったとして

も、自分の気持ちを伝えることは、大切なんじゃないかしら。 人生は、一度きり

よ・・・・・・・後悔は、したくないでしょ? あ〜ぁ、柄にもないこと言っちゃった。 

ありがとう、サンジ君、美味しかったわ。」

ナミは、そう言って、キッチンを出ていった。











「・・・・ありがとう、ナミさん・・・・・・でも、俺・・・・・そこまで、強くないんですよ・・・・・

・・・・・・狡いんですよ・・・・・俺・・・・・」

サンジは、誰もいなくなったキッチンで、そう呟いた。

「さてと・・・・俺も、寝るか・・・・」

そう言って、サンジは、男部屋に向かった。







「おうおう、人の気も知らねえで、皆、ぐうすか寝てやがる・・・・」

サンジは、そう呟いて、空いているソファーに腰を下ろす。

タバコに火を付け、ふと辺りを見回すと、目の前のハンモックに眠っているゾロの背中が、瞳

に映った。

サンジの頭に、先程のナミの言葉が浮かぶ・・・・・

『人生は、一度きりよ・・・・・・』

サンジは、タバコをもみ消すと、そっと、ゾロの側に立つ。

そして、そっと、その緑色の髪の毛に軽く触れた。

見た目よりも柔らかな感触が、サンジの手のひらを撫でる・・・・・

ゾロは、動かない。

サンジは、じっと、ゾロの顔を見つめ続ける。

昼間では、決して近づけない・・・・・距離・・・・・・

その瞳が閉じている間だけ近づける・・・・・・距離・・・・・・




・・・・・どうして・・・・・俺は・・・・・こいつなんだろ・・・・・・

・・・・・・どうして・・・・・他の人じゃ・・・・・・ダメなんだろ・・・・・・

・・・・・・・どうして・・・・・・・

・・・・・・・・どうして、俺は・・・・・・




サンジは、その顔に吸い寄せられるように近づいていく。

気が付くと、寝息が頬に触れるぐらいにサンジは、ゾロに近づいていた。

「・・・・なんか、ようか・・・・・」

急に、瞳を閉じたままで、ゾロが、そう呟く。

サンジは、突然すぐ側で発せられたゾロの声に心臓が、凍り付いた。




・・・・・気が付いた・・・・・・

・・・・・・気が付かれた・・・・・・

・・・・・・・俺が、側にいるの・・・・・・・

・・・・・・・・ばれて・・・・・・・・

・・・・・・・どうすればいい?

・・・・・・何て言い訳すればいい?

・・・・・ダメだ・・・・・・この思いに気が付かれたら・・・・・

・・・・絶対に・・・・・ダメだ・・・・・





「・・・・・べ、別に・・・・・・てめえが、変な面で眠ってたから・・・・・

・・・・・・・・見てただけだ・・・・・」

サンジは、慌ててそう答えると、ゾロのそばを離れ、ソファーに腰掛ける。

動揺を抑えようと必死で、タバコに火を付けるが、上手くいかない。

「チッ・・・」

サンジは、舌打ちして、火を付けるのを諦めた。

「・・・・本当に・・・・それだけか?」

ゾロは、そう言って、やっと、閉じていた瞳を開け、サンジを見る。

眠れずにいたゾロは、入ってきたサンジの気配を敏感に感じ取っていた。

触れることは叶わなくても、その気配だけでも、感じていたかった。

それが、自分に許される最大限の行為だと、そう思った。

近づくことさえ叶わないサンジの・・・・・サンジの気配だけでも・・・・その身に感じたかった。

だから・・・・・サンジが、自分に近づいてくる気配に、ゾロは思わず息をのんだ。

まさか、サンジの方から、自分に近づいてくるなんて・・・・・

実は、自分は眠っていて、夢でも見てるんじゃないかとさえ思えた。

サンジの手が、自分の髪に触れたとき、そこから、雪のように溶けていくんじゃないかと思っ

た。

髪の毛の1本1本にまで、サンジの体温を感じ取った。

全部の神経が髪の毛に集中するのを感じた。

溢れる感情を押しとどめようと必死だった。

だが、そんなゾロの感情をお構いなしに、サンジの前髪が、ゾロの頬を掠めた。

・・・・・・・もう、限界だった。

ゾロは、声を発し、サンジの気配は、その声で遠ざかっていった。

ゾロは、その結果とサンジの言葉に、当然だと思った。

・・・・・しかし、心の奥底で、一瞬だけ感じた小さな希望に、縋り付きたかった。

「・・・・・本当に・・・・それだけか?」

ゾロは、サンジを見つめて、もう一度、同じ言葉を言った。

ぴたりと、サンジの動きが・・・・・止まった。

重い沈黙の時間が続く・・・・・

サンジは、ただ、俯いたままだった。

サンジの頭の中に、また、ナミの言葉が、聞こえる。

『一度きりの人生・・・・・・後悔はしたくないでしょ?』




・・・・・・・そうだよな、一度きり・・・・・一度きりの人生なら・・・・・・

・・・・・・・心は手に入らなくても・・・・・・・

・・・・・・・身体ぐらい・・・・・・・

・・・・・・・心は絶対に手に入らねえけど・・・・・・・

・・・・・・・入らねえって、そうわかってるけど・・・・・・

・・・・・・・うまくいけば・・・・・・

・・・・・・・一度だけでも・・・・・・

・・・・・・・それで、手に入るのなら・・・・・・

・・・・・・・それが、たとえ一瞬の気まぐれだろうと・・・・・

・・・・・・・それで、ゾロが・・・・・一度でも、手に入るのなら・・・・・・

・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・




「・・・・・・・・なあ、溜まってねえか?」

暫くの沈黙の後、サンジが、おもむろにゾロにそう声を掛けた。

「?・・・・なにが?」

ゾロは、唐突なサンジの言葉が理解できない。

「・・・・だからさ・・・・・てめえも・・・・男だろ? 男だったら、なにかと、船にいると溜

まってくるだろ? ナミさんとロビンさんには、とてもいえねえし・・・・・俺さ、溜まって

んだ。 この船じゃ、てめえぐらいしか、相手にできそうにねえし・・・・ 

ヤんねえか?」

サンジは、俯いたまま、独り言を言うような声でそう言った。

「・・・・・・・・・・。」

ゾロは、返事をしない。

「いや、別に、てめえを抱きてえって、いってるわけじゃねえよ・・・・・・・俺が・・・・・・

俺が、てめえに、抱かれてやるよ。 ・・・・俺、慣れてるし・・・・・・」

サンジは、そう言って、ゾロの顔を見て笑った。

相変わらず、ゾロは、何も言わない。

「まっ、てめえが、嫌なら、仕方ねえ。 ・・・・・悪かったな、変な事言って・・・・・

忘れてくれ。 俺も、寝るから・・・・・・」

サンジは、そう言って、ソファーに横になった。




・・・・やっぱりなあ・・・・・・

・・・・・嫌な奴は・・・・たとえ性欲処理のためでも、抱きたくねえよね・・・・・

・・・・・・はは・・・・・思いっきし、撃沈か・・・・俺・・・・・

・・・・・・・ナミさん・・・・・やっぱし・・・・ダメでした・・・・・・・

・・・・・・・・俺には・・・・・・これぐらいしか・・・・思いつかなくて・・・・・

・・・・・・・・・慣れてるって、嘘ついてみたところで・・・・・・・

・・・・・・・・・・相手にされなきゃ、意味ねえよな・・・・・




サンジは、瞳を閉じて、わからないように、グッと拳を握りしめた。






   
<next>




<コメント>

高島悠樹様のサンジ中心イラストサイトの開設を祝して、
サイト名の【SNOW DROP GARDEN】をイメージして作らせて頂いた
同名駄文の続編です。
だんだんドツボに填っていってるような気がします・・・・・(-_-;)
こ、こんなんで、ハッピーに、持っていけるんでしょうか??
すっげえ、不安なんっすけど・・・・(汗)
・・・・もし、このままだったら・・・・・・
ルナ、タコ殴りされる???
・・・・・・そ、それは・・・・嫌っす・・・・・(汗)