ピンクの雪が降ったら・・・・


その2






「・・・・・・・・遅いなあ、ゾロ。 いつもならとっくに、帰ってくる頃なんだけど・・・・・・・

それに、なんで、今日に限って、ノラも帰ってこないんだ?」

サンジは、会社から帰ってこないゾロを、夕飯も食べずに、待つ。

時計の針は、10時を回り、サンジは、ふと、不安に駆られた。




・・・・・まさか、ゾロの身に、何か起こったんじゃ・・・・・・・

・・・・・・いや、そんなはずねえよな。

・・・・・・・けど・・・・・・・もし・・・・・・・・

・・・・・・・・いやだ、そんなこと、考えたくもねえ。

・・・・・・・・・俺、ゾロまで失ったら、生きていけねえよ・・・・・・

・・・・・・・・・・早く・・・・・・早く、帰って来いよ・・・・・

・・・・・・・・・くそっ、こんな時に、ノラまでいないなんて・・・・・

・・・・・・・・ダメだ・・・・・俺・・・・・・変なことばっかし、さっきから、考えてる。

・・・・・・・早く帰ってこい・・・・・・ゾロ・・・・・・ノラ・・・・・・・・




ピンポーン・・・・・

サンジが、言いしれぬ不安を抱え、一人テーブルに俯せていたら、玄関のチャイムが鳴っ

た。




・・・・・・・あっ、やっと、帰ってきたか・・・・・




「もう、遅いじゃねえか。 俺、心配してたんだぞ。」

サンジは、そう言いながら、玄関に出迎える。

「・・・ああっ、済まなかったな。 今日は、いろいろとあって・・・・・連絡するの、

忘れてた。」

ゾロは、そう言って、サンジにいつものようにキスすると、鞄を渡した。

「・・・・そんなに、大変だったのか? ・・・あんまり、無理すんじゃねえぞ。 

俺、お前が、出世しなくても、側にいてくれるだけで、良いんだから・・・・・・ 

風呂、入るか? ちょっと、疲れてるみたいだぞ。」

サンジは、そう言って、ゾロが脱いだ背広を片付ける。

そして、夕食を温め直しにキッチンに行った。

「ああ、じゃあ、そうさせて貰う・・・・・・」

ゾロは、そう言って、風呂場に向かった。

「うわっ! あちっ!!」

ゾロの声が、キッチンまで聞こえる。

「?ゾロ?? どうした? お風呂、熱かったのか?? ・・・・けど、42度になってる

けど・・・・・お前、いつもは、もっと熱いのに入るじゃねえか・・・クスクス・・・

変なの??」

サンジは、ゾロの声が可笑しくて、そう言って、笑った。

暫くして、ゾロがお風呂から上がってきた。

「ゾロ、どうしたんだ? 風呂、熱くなかっただろ? ・・・・なのに、あんなガキみてえ

な声だして・・・・俺、笑っちゃったよ。」

サンジは、そう言って笑うと、ゾロにビールを注ぐ。

「ああ、いやな。 外にずっと居たから、身体が冷たくなっててな、それで、いつもよ

り、熱く感じて・・・・・」

ゾロは、そう言って、注がれたビールを飲んだ。

「・・・・・・でも、良かった。 ゾロが、あんまり遅いんで、俺、変な心配しちゃったよ。

・・・・・・そう言えば、ノラの奴、まだ、戻ってこないなあ・・・・・何やってんだろ・・・・」

サンジは、ふと思い出したようにそう呟く。

「ノ、ノラのことなら、大丈夫じゃねえか・・・・・元々、野良猫だったし・・・・・そのうち、

ちゃんと戻ってくるさ・・・・・・・ さっ、飯にしようぜ、俺、腹減っててさ・・・・・」

ゾロは、そう言って、ご飯を口にかきこんだ。

「ブハッ! ・・・・あちい・・・・・」

ご飯の後に、みそ汁を口に含んだゾロは、そう言って、みそ汁の具をサンジに飛ばした。

「ゲッ・・・・・汚ねえな、ゾロ・・・・・・・そんなに、熱かったか? このみそ汁・・・・・・」

「ああ、すげえ熱かったぞ。 舌・・・・・やけどしたみてえだ・・・・・」

ゾロはそう言って、舌を出す。

「ははは・・・・・てめえ、本当に、可笑しいぞ、今日は。 ・・・・どら、見せてみろよ。」

サンジは、そう言って、ゾロの側に顔を寄せる。

そして、ゾロの舌をぺろんと自分の舌で、舐めた。

「もうこれで、痛くねえだろ?な?」

サンジは、そう言って、クスクスと笑った。

「お、おう・・・・・・」

ゾロは、サンジの行動にとまどいながらそう答えた。






「じゃあ、行ってくる、サンジ・・・・・・」

「行ってらっしゃい、ゾロ。」

次の日も、ゾロは、サンジに見送られて、会社に向かった。

そして次の日も、また次の日も、穏やかな日々が、続いていった。

「・・・・・・・なあ、ゾロ。 てめえ、明日、俺をどっかに連れていくって、そう言ってなか

ったっけ?」

その週の土曜日、サンジが、思い出したように、ゾロにそう告げる。

「ああ、それは、また、今度だ。 俺、明日、仕事なんだ。 ごめんな、サンジ。 

せっかくの休みだって言うのに・・・・・今度、な。」

ゾロは、そう言って、サンジの髪を優しく撫でた。

「へへ、ま、いっか。 ・・・・・ところで、ゾロ。 あの日から、ノラ、まだ戻ってこねえん

だ。 俺、やっぱ、その辺、探してみるわ。」

「ああ、そうしてくれ。 ・・・・・・やっぱ、気になるか? ノラのこと・・・・・」

「当たり前だろ? 俺達、家族じゃねえか。 あいつは、猫だけど、れっきとした、俺

の家族だかんな。 ・・・・・ゾロは、違うのか?」

サンジは、そう言って、不安げにゾロを見上げた。

「・・・・・いいや、そうじゃねえよ。 俺達は、家族だ。 ・・・・・ノラも、幸せ者だな。 

サンジが、こんなに可愛がってくれてるから・・・・・・」

「・・・・・・ちょっぴり、妬けた?? ・・・・けど、俺の一番大事な奴は、この世で、たっ

た一人だけ。 ・・・・・・・ゾロ、てめえだけだよ。」

サンジは、そう言って、軽く口付ける。

「・・・・・俺もだ。 ・・・・・・なあ、サンジ。 あの夜、お前が言ってたこと、まだ、覚え

てるか? ピンクの雪の話・・・・・・」

ゾロは、腕の中にサンジを抱いて、そう言った。

「ああ、俺が、ピンクの雪が見たいって言ったら、ゾロが、俺が、見せてやるって・・・・

そう言って、プロポーズしてくれたんだよな。 俺、すげえ嬉しかった。 本当に、一瞬

だけだけど、ピンクの雪が、降って来たのかって、思うくらい、幸せになった。 

・・・・・俺の願い事が、叶ったから・・・・・ 家族が欲しいって・・・・・・・・・・だから、

もし、ピンクの雪が、本当に降ったら、今度は、ゾロの願い事、俺が、叶えてやるよ。」

サンジは、そう言って、にっこりと笑った。

「・・・・・ありがとう、サンジ。 俺の願いは、お前が、幸せでいること・・・・・・

・・・・・・・それだけだ。」

ゾロはそう言って、唇を重ねた。







翌日。

「じゃあ、サンジ、行ってくる・・・・」

「行ってらっしゃい、ゾロ。」

ゾロは、いつものように、会社に出かけた。

「さてっと・・・・さあ、掃除、しねえと・・・・・」

サンジは、そう言って、掃除をし始めた。

バサッ!!

ゾロの書斎を、片付けていると、会社の書類のようなモノが、いきなり、落ちてきた。

「もう、ゾロの奴・・・・・これ、会社で使うものじゃねえか・・・・・・・全く、しょうがねえ

奴だな。 俺が、いないと整理もできねえんだから・・・・・・・会社に、連絡してみる

か・・・・・」

サンジは、そうブツブツと呟いて、その書類を手に、ゾロのいる会社に電話をかける。

「もしもし、あっ、すみません。 営業第3課のロロノア・ゾロ、お願いできますか?」

「えっ?! 営業第3課ですけど・・・・・はあ・・・・・そうですか・・・・・いえ、いいで

す。 はい、すみませんでした・・・・・・・」

サンジは、電話先の声に、驚いて、半ば呆然とした。




・・・・・・ゾロ・・・・・・会社、辞めた??

・・・・・・そんなの俺、聞いてないよ・・・・・・・

・・・・・・なんで、そんな重要なこと、俺に黙ってんだ・・・・・・

・・・・・・それも、今日も、会社だなんて、嘘ついて・・・・・・・

・・・・・・それとも、どっか他の会社に転職したのかな?

・・・・・・そんなこと・・・・・全然言ってなかった・・・・・・・

・・・・・・どうしちゃったんだろ・・・・・ゾロ・・・・・・




サンジは、驚きと悲しみと怒りで、その場を動けずにいた。

ピンポーン・・・・・

暫く経ってから、玄関のチャイムが鳴った。




・・・・・・ゾロだ。

・・・・・・俺、怒ってんだからな・・・・・・

・・・・・・ちゃんと、説明してくれるまで、絶対に許さねえからな・・・・・・




「ゾロ! 俺、怒って・・・・・あっ、すみません。 あの・・・・・どちら様ですか?」

サンジが、そう言いながらドアを開けると、玄関には、ゾロの姿ではなく、初老の婦人の姿が

あった。

「あっ、あなたが、サンジさんですね。 初めまして、ロロノア・ゾロの母親でございま

す。」

ゾロの母親を名乗る婦人は、そう言って、深々と頭を下げた。

「えっ、あっ、あの・・・・・ゾロのお母さん???」

サンジは、思わぬ訪問者に、慌てる。

「はい、ゾロの母です。」

「あっ、お母さん、ゾロは、今、会社に行って出かけてるんですが・・・・・お待ちになり

ますか?」

サンジは、そう言って、母親を部屋に招き入れた。

母親は、リビングのイスに腰掛けると、テーブルの上に、風呂敷包みをそっとのせた。

「・・・・・本当に、あの子が言っていたとおりの・・・・・素敵な・・・・・・方・・・ね・・・・」

そう言って、母親は、急に目頭を押さえる。

「なっ、どうしたんですか、お母さん・・・・・なんか、あったんですか?」

サンジは、その様子に慌てて、母親の肩に手を添えた。

「・・・・・本当に・・・・優しくて・・・・・あの子が、貴方を選んだのが、わかりましたわ。

・・・・・本当は、今日、貴方と一緒に、家に来てくれるはずでした。 この前、電話し

てきて、今、一緒に住んでいる奴が居るから、一度、会って欲しいと・・・・・・

俺の人生のパートナーだからと・・・・・あの子、照れたように・・・・・・そう・・・・・

言って・・・・・・・なのに・・・・・・ごめんなさいね。 ・・・・・・貴方に辛い思いをさせて

しまって・・・・・・本当は、あの後、すぐにこちらに来たかったんだけど・・・・・・

どうしても・・・・・・どうしても、現実が、受け入れられなかったの・・・・・・・あの子

が・・・・・あの子が・・・・・・この世から居なくなったなんて・・・・・・どうしても・・・・・・

思えなかった・・・・・・・」

母親はそう言って、ポロポロと涙を流した。

「・・・・・・・お母さん? 何言って・・・・・・ゾロは・・・・・ゾロは、ちゃんと、俺と・・・・・

昨日も、おとといも・・・・・今朝だって・・・・・俺と・・・・・・俺と一緒だったんですよ

・・・・・・やだな・・・・・冗談、きついですよ・・・・・・・・ははは・・・・・そんな笑えない

作り話・・・・・やめてくださ・・い・・」

サンジは、そう言って、笑おうとした。

しかし、母親の姿からは、それが冗談だとは、思えなかった。

母親は、泣きながら、その風呂敷包みから、ゾロの位牌と、小さな陶器の箱をサンジの瞳の

前に置く。

「・・・・・・・これが・・・・・・・・あの子の・・・・・骨です・・・・・・・きっと、貴方の側に行

きたいでしょうから・・・・・そう思って・・・・・・・持って・・・・・来まし・・・・た・・・・・・」

そう言って、母親は、泣き崩れた。




・・・・・・嘘だ・・・・・・・嘘だ・・・・・・嘘だーっ。

・・・・・・・ゾロは、ずっと、俺の側にいた・・・・・・一緒にいた・・・・・・

・・・・・・・・そう、今朝まで・・・・・・・俺達は・・・・・・・・

・・・・・・・・・一緒だった・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・なのに・・・・・・・なのに・・・・・・・なんで・・・・・・・

・・・・・・・・・・・こんなこと・・・・・・・嘘だ・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・けど・・・・・・・この箱に、入ってるのは・・・・・・・じゃあ・・・・・

・・・・・・・・・・・・・この箱に入ってる骨は・・・・・一体・・・・・・誰の・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・嫌だ・・・・・もう、何も考えられない・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・ゾロ・・・・・・ゾロ・・・・・・早く・・・・・・早く、帰ってきてよ・・・・・・・




母親は、サンジの姿に居たたまれなくなって、そっと、家を後にした。

サンジは、茫然自失で、その場にうずくまって動けなかった。

時間だけが、刻刻と過ぎていく。

「・・・ただいま、サンジ、今、帰ったゾ・・・・・」

そう言って、夕方、ゾロが、家に帰ってきた。

しかし、サンジは、玄関に現れなかった。

「おい、サンジ。 どうした? なにか、あったのか?」

その様子を不審に思ったゾロは、そう言って、キッチンに入ってきた。

サンジは、昼間のまま、うずくまるようにしゃがみ込んでいた。

「?・・・・サンジ、どうした?? 今、帰ったぞ。」

ゾロはそう言って、サンジのそばに近づく。

「・・・・・・お前、一体、何者だ・・・・・・なんで、なんで、ゾロの姿で現れた・・・・・・・

お前は、本当に、ゾロなのか? だとしたら、あの母親だっていった人の話は・・・・・

全てでたらめなのか? ・・・・・・なあ、ゾロ・・・・・・お前は、ゾロだよな・・・・・・

俺の・・・・・・俺の大切な・・・・・ゾロだよな・・・・・・ ・・・・・・・・なあ、お前、いつから

猫舌になった? あんなに熱いのが好きだった癖に・・・・・なあ・・・・・・・・

なあ・・・・・何でも良いから喋れよ・・・・・・ゾロ・・・・・・ゾロ・・・・」

サンジは、ゾロの顔を見て、堰を切ったように涙をこぼした。

重苦しい沈黙が、二人を包む。















「・・・・・ごめんな、サンジ・・・・・・・ごめん・・・・・・・俺・・・・・ゾロの最後の願い・・・

・・・・・・叶えてあげたくて・・・・・ごめん・・・・・サンジ・・・・・・」

ゾロの姿をした者は、そう言って、玄関から飛び出していった。

「っ・・・待って・・・・・ゾロ・・・・・・・ヤダ・・・・・行っちゃ・・・・・ヤダ・・・・・・・お化けで

も・・・・・幽霊でも・・・・・・そんなの、どうだって良かったんだ・・・・・・・戻ってきて・・」

サンジは、慌てて、後を追いかける。

キキキーーッ

バンッ

劈くようなブレーキ音と、何かがぶつかったような鈍い音が、サンジの耳に届いた。

サンジは、慌てて道路に向かう。













・・・・・・・そこには、ノラの姿があった。

ノラは、車に轢かれて、倒れていた。

「こ、こいつが、そこから、飛び出してきやがったんだ。 ・・・・俺のせいじゃないから

な。 飼い猫だったら、ちゃんと飛び出さないように見張っとけよな・・・・・」

車の運転手は、そう言って、車からも降りようともせず、そのまま姿を消した。

「・・・・・・・ノ・・・・・・ラ・・・・・・・・・」

サンジは、フラフラとノラに駆け寄る。

ノラの身体からは、微かに、ボディーシャンプーの匂いがした。

「・・・・・・・お前だったのか・・・・・・お前が・・・・・・」

サンジはそう言って、ノラを抱き上げる。

しかし、ノラの瞳は、二度と開くことはなかった。











「あらっ? 寒いと思ったら・・・・・雪よ。 ・・・・・変ねえ、天気予報は、雪なんか降る

って言ってなかったのに・・・・・・」

「きゃあ、見て・・・・・この雪、ピンクよ・・・・・・ピンクの雪だわ・・・・・・・なんで??」

側を通る女子高生達の歓喜の声が、聞こえる。

サンジは、空を見上げた。

空から、ピンク色の雪が、ゆっくりと、降ってきた。

サンジの心に、声が聞こえる・・・・・








『俺、ピンクの雪が降ったら、絶対に幸せになれそうな気がするんだ。』

『俺が、お前のために、ピンクの雪を降らせてやるよ・・・・』

『本当に、ピンクの雪が降ったら、今度は、ゾロの願い、俺が、叶えてやるよ・・・・』

『俺の願いは、サンジ・・・・・お前が、幸せでいること・・・・・』














「・・・・・・ありがとう、ゾロ・・・・・ノラ・・・・」

サンジは、ピンクの雪を見上げながら、そっと呟く。









『俺が、お前のために、ピンクの雪を降らせてやるよ・・・・』

『俺の願いは、サンジ・・・・・お前が、幸せでいること・・・・・』






『俺、ピンクの雪が降ったら、絶対に幸せになれそうな気がするんだ。』







<END>





   
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<コメント>

如何でしたか? 
なんだか、こんな暗い話、書きたくなってしまって・・・・・(-_-;)
全然幸せじゃない終わり方なんですけど、
悲劇って言う訳じゃないと思うんですが・・・
死んでも想われてる愛情の重さとかそう言うのが、書ければなあって、
そう思ったんですが・・・・・・言い訳ばっか・・・(-_-;)
ああ、ルナの性格じゃないんだな、これが・・・・・
けど、ここのコンテンツは、こんな感じかな・・・・・(汗)