ピンクの雪が降ったら・・・・


その1






季節は、冬・・・・・

誰もいないひっそりとした公園で、サンジは、雪が降ってくる空を見上げる。

「・・・・・なあ、ゾロ。 雪って、どうして白なんだろ。 もっといろんな色になれば、

もっと、楽しく感じるのに・・・・・」

サンジは、そう言って、ゾロを見る。

金色の髪の毛にひらひらと舞い落ちる雪・・・・・

その様子に、ゾロは、瞳を細めた。

「・・・・・じゃあ、お前は、何色の雪が見てみたい?」

ゾロは、そう言って、サンジの首にマフラーを巻いてやる。

「ん、ありがとう。 ・・・・俺は、どうせなら、ピンクの雪が見てみたいなあ・・・・・・

綺麗だと思わねえ? 一面、ピンク色なんだぜ。 雪兎とかもピンク色でさ、皆、

温かい気持ちになって、幸せになれそうだろ? 俺、ピンクの雪が降ったら、絶対に

幸せになれそうな気がするんだ。 ・・・・・白い色は、なんだか、荘厳すぎて・・・・ 

俺、変かな?」

サンジは、そう言って笑った。

「・・・・じゃあ、俺が、お前のために、いつか、ピンク色の雪、降らせてやるよ。

・・・・・それまで、ずっと、俺の側に居てくれないか? ・・・・・・結婚しよう、サンジ。

・・・・・正式には、籍、入れられないけど、俺、お前となら、幸せになれる。 

・・・・・嫌か?」

ゾロはそう言って、サンジに、プラチナの指輪を差し出した。

サンジは、突然のゾロの言葉に、驚いて声も出せずに、ゾロを見つめた。

「・・・・・嫌か?」

ゾロは、もう一度、静かにそう言って、サンジの言葉を待った。

「・・・・・・ゾロ。 ・・・・・・本当に? ・・・・・俺で・・・・俺で、良いの? 

・・・・・俺、男だし、ゾロの赤ちゃん、産んであげられないよ。 ・・・・・それでも・・・・・

それでも・・・・良いの?」

サンジは、こみ上げてくる涙を堪えて、反対にゾロに聞く。

「ああ、男だろうと、かまうもんか。 子供は、いらない。 お前がいれば、俺は、

何も、いらない。 サンジ、もう一度言う。 俺と、結婚してくれ。 俺を幸せにしてくれ

ないか?」

ゾロは、そう言って、サンジの頬に手を当てて、静かに微笑んだ。

「っ・・・・・ゾロ。 俺も・・・・・俺も、ゾロと結婚したい。 ・・・・・・俺も、幸せにして下

さい。」

サンジは、溢れる涙をそのままに、そう言って、ゾロに抱きついた。

「「二人で、幸せになろうな。」」

ゾロとサンジは、そう言って、雪の降る公園で、口付けを交わす。

外灯に照らされて、真っ白な雪が、夜の闇に静かに降りつもる、そんな夜だった。
















++++++++++++++++++



「じゃあ、サンジ、行ってくる。 あっ、今度の日曜日、時間、開けといてくれるか?

ちょっと、一緒に行って欲しいとこがあるから・・・・・じゃ、ノラ、サンジのこと、頼んだ

ゾ。」

ゾロは、そう言うと、サンジの頬にキスして、いつものように、会社に出かけた。

「うん、気を付けてな。」

「ニャ〜ン」

サンジと共に、猫のノラも、そう啼いて、ゾロを見送った。






ゾロとサンジの出会いは、2年前にさかのぼる。

2年前の雪の降る夜。

18歳のサンジは、コンビニで、深夜のバイトをしていた。

すでに両親は他界し、祖父と生活していたサンジだったが、その祖父もその年、病で亡くな

り、身寄りのなくなったサンジは、生活のために、大学を中退して、アルバイトで生計を立て

ていた。

キキキーーッ!!

「ブギャーッ!」

軋むような車のブレーキの音と、猫のけたたましい泣き声が、丁度、ゴミを捨てに裏に出て

いたサンジの耳に届いた。

サンジは、その声にハッとして、すぐに、道路に出る。

そこには、いつも、深夜、コンビニの売れ残りの弁当を漁りに来るちょっぴりでぶっちょの野良

猫が、口から血を吐いて倒れていた。

「ノラーッ!!」

サンジは、慌てて、駆け寄る。

身寄りのないサンジにとって、この猫は、唯一の友人だった。

毎晩、決まったように、コンビニの裏にやってきては、売れ残りの弁当を漁る。

初めは、追い払っていたサンジだったが、いつの間にか、ノラ相手に、色々な一日の出来事

など、話して聞かせるようになっていた。

ノラの方も、サンジを気に入ったのか、食べ終わった後も、暫くは、黙ってサンジの言葉を聞

いている。

サンジは、そんな時間が、一番好きだった。

それでいてノラは、決してサンジに媚びるようなマネはせず、サンジの休憩が済むころになる

と、いつのまにか、姿を消す。

一人と一匹は、そんな関係だったのだ。

「ノラ、ノラ、しっかりしろ!」

サンジは、コンビニのバイトのことも忘れて、ノラを抱き締める。

ぐっしょりと、エプロンにノラの血が付く。




・・・・・・嫌だ・・・・ノラ・・・・・・・・死ぬな・・・・・・

・・・・・・神様、お願いです・・・・・・

・・・・・・もう、これ以上・・・・・・俺の・・・・・・大事な・・・・・・

・・・・・・大事なモノを・・・・・・持っていかないで・・・・・・

・・・・・・これ以上・・・・・・俺から・・・・・奪わないで下さい・・・・・・

・・・・・・神様・・・・・どうか・・・・・・・俺から・・・・もう・・・・・・奪わないで・・・・・・




サンジの瞳は涙で溢れかえり、もうノラの姿さえ、その瞳に映っていなかった。

「大丈夫だ。 まだ、死んじゃいない。 すぐ、病院に行くぞ。」

半ば放心状態のサンジの隣で、そう言った声が聞こえてきた。

サンジは、その声に反応して声の方を向く。

そこには、緑の髪の毛の短髪で精悍な面持ちの見知らぬ男が居た。

「さあ、急いで。 お前の猫なんだろ? まだ、助かるかもしんねえから。 

大丈夫だ、急げ。」

男はそう言って、コートを脱ぐと、ノラをそのコートにくるみ、自分の車に乗せる。

「お前は、そこのコンビニのバイトだろ? お客さんが、待ってたぞ。 この猫のこと

は、俺に任せて、お前は、早く店に戻って、着替えて自分の仕事しろ。 大丈夫だ、

俺に任せろ。 あとで、また来るから・・・・」

その男は、そう言うと、ノラを乗せて、車を走らせた。

『大丈夫だ。』

その男の言葉が、サンジの心に響いた。

なぜだか理由は解らないが、ノラは、大丈夫だ、と、サンジは、漠然にそう思った。

サンジは、それから急いで、コンビニに戻り、血で濡れたエプロンを取り替えると、そのまま、

バイトを続けた。

夜が白み始め、サンジは、ようやく、バイトから解放される。




・・・・・・ノラ・・・・・大丈夫だったかな・・・・・

・・・・・・なんで、俺・・・・・こんなに安心してんだ・・・・・・

・・・・・・全然知らないあいつの言葉を・・・・

・・・・・・なんで、俺、こんなに信用してんだろ・・・・・

・・・・・・とりあえず、片っ端から、動物病院、あたってみるか・・・・・




サンジは、そう考えて、裏口から出て、道路に走った。

「いよう、以外に早かったな。 お前の猫、全然、元気だぜ。 前足、骨折っただけ

だ。 口から血を出したのは、少し、舌を切っただけだと。 今、病院に入院してるぞ。

・・・行くか?」

ノラを車で連れていったあの男が、そう言って、サンジに話しかけてきた。

その肩には、うっすらと雪が積もっている。




・・・・・・いつから?

・・・・・・いつから、こいつ、外にいたんだ・・・・・・

・・・・・・なんで、全然知らない俺の・・・・・ノラのために、そこまでするんだ・・・・・・

・・・・・・こんな優しい奴が、まだ、いるんだなあ・・・・・・




「・・・・・・ありがとう。 俺、サンジだ。 でも、なんで身も知れない俺の・・・・猫のた

めに、あんたは、そこまでしてくれるんだ?」

サンジは、そう言って、その男に聞いた。

「・・・・別に・・・・理由なんてないよ。 ・・・・それに、俺は、お前の名前と顔、知って

るぜ。 何度も、あのコンビニには、お世話になってたからな。 まあ、お前が俺のこ

と覚えてないのは、ちょっと、ショックだがな。 俺は、ゾロだ。 ロロノア・ゾロ。 

さあ、行くぞ、猫、待ってるぜ。」

ゾロはそう言って、笑った。

サンジは、その顔に暫く見とれていた。

「ん?どうした? 行くぞ。」

「ん、ああ・・・・」

そして、ゾロとサンジは、動物病院へ行き、ノラは、ゾロのマンションで飼われることになり、

ゾロとサンジは、親密さを増して、つき合い始めた。

そして、この前のプロポーズをきっかけに、二人と一匹の生活を始めたのだった。








+++++++++++++++++++++



・・・・・・あっ、あんなとこに、猫が・・・・・アブねえな・・・・・

・・・・・・轢かれてもしたら、どうするんだ。

・・・・・・しゃあねえな・・・・・・




ゾロは、駅の前の道路の端にうずくまっている猫を見つける。

そして、どうしても、放っておけなくなって、その猫に近づいた。

猫は、見たこと無いゾロに驚いて、さっと、身を翻し、道路に飛び出る。

「あっ、馬鹿! そっちじゃねえよ・・・・・」

そう言って、ゾロは、慌ててその猫を捕まえる。

パパーーッ!!

けたたましいクラクションの音が、間近に聞こえ、ゾロが見ていた視界が歪む。

グシャッという何かが潰れる音と、ガツンと気の遠くなるような衝撃がゾロを襲った。




・・・・・・・・サンジ・・・・・・・・




ゾロの意識は、そこで、途絶えた。

「なあ、今の・・・・見たか?」

「ああ、あれは・・・・・・死んだな。 馬鹿だな、あんなとこにいた猫、助けようとして

・・・・・自分が、死んじまったら、どうしようもねえのにな。 ・・・・・・あ〜、運転手の

奴、顔、真っ青だぜ。 いくらいきなり飛び込んできたからって・・・・あれ、絶対に、

酒飲んでるぜ・・・・・」

「・・・・・・でも、あいつ・・・・・まだ、若いだろ・・・・・家族とか、いるのかな・・・・」

「さあな、いても、俺達には関係ねえよ。 やばっ、おい、急がないと、遅刻だゾ・・・」

「おい、ちょ、ちょっと、待てよ・・・・」

駅の前で起こった事故を見ていた大学生の声がする。

それは、ゾロが、会社に向かった10分後のことであった。














++++++++++++++++++



「さて、ノラ、俺達も、掃除するか・・・・・」

サンジは、そう言って、寝室に向かう。

「ニャアーッ!!」

急に、ノラが、玄関のドアをがすがすと引っ掻いた。

「こらっ、玄関に傷が付くだろ? ・・・・・外に出たいのか? ・・・・・仕方ないな。

ちゃんと、暗くなる前には、戻って来いよ。」

サンジは、そう言って、渋々、玄関を開けて、ノラを外に出してやった。

ノラは、走った。

ノラには、ゾロの身に危険が迫っているのを本能で、感じ取っていた。

・・・・・そして、先程の事故現場に着いた。

「にゃあぉん・・・・」

ノラは、一声啼いて、道ばたに倒れて動かないゾロの側に寄って、身体をすり寄せる。

しかし、ゾロの身体は、冷たく、動かなかった。

『ノラ・・・・・・・サンジを、頼むな・・・・・・』

ノラには、そう言うゾロの声が聞こえたような気がした。










    
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<コメント>

いきなりの死にネタです。 申し開きはしません。
それでも、おつき合い下さると言う方は、次へお進み下さいませ。
やっぱり、止めたいかたは、すぐに退出して、甘いモノを読んで下さい。
それで、少しは、気分が落ち着くと・・・・・・(-_-;)
ルナは、ゾロリストで、ロロスキーです。 これは、真実です!
サンジ・・・・・少し、可哀想すぎますね・・・・・・