「皆! もうすぐ、ローグタウンにはいるわよ! ここは、航海の要所だから、当然、海
軍もあるわ。 だから、くれぐれも、目立つ行動は慎むように・・・って、そこ!ちゃん
と、聞いてる??」ナミは、そう言って、クルーの一部を指さす。
その指の先には・・・ルフィならぬ、ゾロとサンジ。
「・・・で、俺は、ここで、刀をあと2本、調達しねえといけねえし、てめえは、食料とか
の買い出しがあるんだろ? ついていってやりたいのは、山々だが、ここは、仕方ね
え。 いいか、知らねえ野郎なんかに、ニコニコ愛想振りまいたり、変な女に付いてい
ったりすんじゃねえぞ。 まあ、声掛けるぐらいは、てめえの挨拶代わりだと言うこと
で、許してやるが・・・いいか、絶対に・・・」
ゾロは、サンジにこっそり忠告する。
「くどい!! なんで、てめえが、いちいち、俺の行動に口出すんだよ。 てめえは、
俺の親父か? クソジジイだって、そこまでは、言わなかったぞ。 だいたいなあ、俺
が、レディ以外の野郎なんかに、ニコニコ愛想振りまくとでも思ってんのか? それに
なあ、綺麗なレディを目の前にして、お茶に誘うのは、男としての礼儀って言うもんだ
ろうが!」
サンジは、何で、ゾロにそこまで言われるのか解らず、キレて、言い返した。
「てめえ、この前、俺と買い出しに行ったときの面、覚えてないのか? 店の親父共
に、にっこり笑いかけてよう・・・アレは愛想振りまくって言ってるんだよ! あれは、
要らぬ誤解を招く元だ。 絶対に止めろ。 ・・・それに、俺だけだって言ったのは、全
部、嘘か? 首にすがりついて、俺だけだって、昨日の夜もそう言ってなかったか?
ん?」
ゾロは、ガシッとサンジの腕を掴んで、最後の言葉を、サンジに耳元で、そっと囁く。
「!!・・・////馬、馬鹿。 それは、それ。 これはこれだろ。 うんもう、わかった、
わかったぜ。 言うとおりにしてやるぜ。 この強欲エリョ剣士、め。」
ゾロに耳元でそんな声で囁かれて、サンジが言うことを聞かないわけがなかった。
「うっし!」
ゾロは、軽く握り拳を作った。
「・・・ねえ、そこ! もういい加減、恋人達の語らいはすんだのかしら・・・さっきから、
人の忠告、全然聞いてなかったでしょ? 良い度胸してるわよ、ね? ゾロ、あんた、
刀の代金、ちゃんと、自前で払いなさいよ。 ・・・それと、サンジ君、今回は、これ
で、買い出しお願いできるかしら。」
ナミは、にっこりとそう言って笑うと、いつもの買い出しのお金より1/3程少ない額をサンジ
に手渡した。
「・・・ナミさん・・・これだけですか?? これじゃあ、ちょっと、少ない・・・」
ナミから手渡たされた金額に、サンジは、シュンとしてナミに訴えようとしたが、ナミは、その
言葉を遮るように言葉を切り出した。
「あら、なにか?サンジ君。 これだけあれば、サンジ君の笑顔があれば、充分じゃ
ない。 買い物上手だモノね、サンジ君って。 ・・・ゾロ、何、そこで固まってんのよ。
ふふふ。 もういいわよ。 許して上げるわ。 はい、サンジ君、これ、残りのお金。
・・・それと、ゾロ、今回は、3倍返しで、刀の代金、貸して上げるから、ちゃんと、そろ
えておいてね。 三刀流が、刀1本じゃ、戦力に響くものね。」
ナミは、ゾロとサンジの様子を充分に楽しんでから、そう言った。
もちろん、ゾロから、借用書をとるのも、忘れない。
ナミは、一人、キッチン前のテラスから甲板を眺めて、ため息を吐く。
(いつも、何を言っても自分勝手に行動する船長の面倒を見なきゃならないのに、
プラス、この湯気が出そうな程に熱い二人の面倒まで見るのかと思うと・・・ああ、一
気に、気分は、急降下、よ。 恋は、盲目とは、本当の事よね・・・あのゾロが、魔獣と
人々に怖れられ、鷹の目にも一目置かれるほどの剣士が・・・こんな嫉妬丸出しの、
エロ親父になるなんて・・・誰が、想像する?? フッ、誰も、思わないわよ、ね・・・
船長は、あの通りの海賊王一筋の馬鹿野郎だし、その双璧をなす二人は・・・
ホモ・・・ あたし、やっぱり、船、間違ったのかしら・・・)
(・・・ナミ・・・お前の考えてることは、よくわかるが、俺としては、それを上手く手なず
けているお前の存在ほど、恐ろしく感じるモノは、無いと思うゾ・・・ 俺・・・絶対、乗
る船、間違ってる・・・)
ナミがため息を吐くのを、遠巻きに見ていたウソップは、誰にも知られないように、心の中で、
そっと呟いた。
そう言う二人の思いは、全く伝わらず、メリーの頭の上では、ルフィが、その左側では、ゾロ
とサンジが、人目をはばからずに、いちゃいちゃしていた。
まあ、晴れて、身も心も恋人同士になって間もないこの二人に、今、誰が何を言おうと、それ
は、無駄というモノである。
「ゴールド・ロジャーの処刑台、見に行ってくる〜!!」
ルフィは、言葉を言い終えないうちに、船から飛び降りていなくなってしまった。
「もう・・・あいつったら、自分が賞金首になってること、すっかり忘れてんじゃないの。
あたしも、買い物に行ってこようっと。 じゃあ、皆も、買い物済ませたら、なるべく早
く、船に戻ってきてね。」
ナミは、そう言って、買い物に出かけた。
「じゃあ、そろそろ、俺も・・・てめえ、ちゃんと言いつけ守れよ、な。」
「てめえこそ、気を付けろよ。」
「ふん、俺は、てめえと違って、身持ちは、かてえほうだから、心配すんな。」
「ば〜か、そうじゃねえよ。 てめえは、迷子になんねえように、気を付けろって、そう
言ってんだ。」
「ぐっ・・・努力する。 じゃあ、サンジ、後で。」
「おう!」
ゾロはそう言うと、刀鍛冶の店にサンジは、市場へとそれぞれ、向かった。
「おい・・・俺は、最後まで、無視かよ・・・」
ウソップは、自分の身の不幸を嘆きつつ、武器と防具を調達しに出かけた。
「ふ〜ん。 さすがに大きな街だけあって、食材やら色々な物が揃ってるよなあ・・・
レディ達もすげえ綺麗だし・・・久々に、俺の触手も動きまくるぜっv」
サンジは、たくさんの人々の中から、器用にも美女だけをその目に映しながら、一人浮き浮
きと街中を歩き回った。
ふと、目の前のカップルに目を留める。
鮮やかな緑色の短髪・・・
耳に、三連の金のピアス・・・
白いジジシャツに、腹巻き・・・
これは、この後ろ姿は・・・どうみても・・・ゾロ。
横を見てみれば、黒髪のショートボブのレディ。
可愛くて、キュートな感じの女の子・・・
どっからみても、お似合いのカップル・・・
手には、その姿に似つかわしくない長刀・・・
ゾロと同じ剣士なのか・・・
女剣士・・・と聞いて、サンジは、ゾロが言っていた、親友を思いだした。
確か、『くいな』ちゃんとかと言ってたよな・・・
ゾロが、世界一の剣豪になりたいのは、そのくいなちゃんとの約束のためだと・・・
そのくいなちゃんが、今、どうしているのかは、ゾロは、何も言わなかったけど・・・
彼女を大事にしているのは、その話し方から、良くわかった。
時折、横を向いて話すゾロの顔が、見たこともないような笑顔だったので、サンジは、声を掛
けることが、できずにいた。
・・・ゾロって、レディに、こんな顔することもあるんだ・・・
・・・それは、この子だからなのかなあ・・・
サンジの瞳には、その女の子が、ゾロには特別に感じられているように、映った。
・・・俺に向ける顔と・・・・・・全然、違う・・・・
・・・俺には、あんな心から晴れやかな笑顔・・・向けたこと・・・・ねえ、な・・・
俺には・・・いつも・・・心を隠したような・・・・そんな顔・・・
笑っていても・・・怒っていても・・・こんな心の底からというような表情じゃ・・・ない・・・
・・・それって・・・その違いって・・・どういうことなんだろ・・・
それを、目の前に見せつけられると・・・・
胸が・・・痛い・・・・・・息が・・・・上手く・・・・できねえ、よ・・・・ゾロ・・・・
サンジは、暫く、その二人のあとを歩いていたが、我慢できずに、その場にしゃがみ込んでし
まった。
こみ上げてくる感情・・・
ゾロを信じてる・・・それは、今も変わらない・・・けど・・・
・・・けど・・・それさえも、こんなに簡単に崩れてしまっている・・・
ゾロの、あの言葉に嘘はない・・・
『俺をくれてやる』・・・そう言ったあいつの言葉は、嘘じゃないと信じてる・・・
・・・でも・・・でも・・・俺の心は・・・・なぜ、こんなに・・・・痛いのだろう・・・・
・・・なぜ、俺の身体は・・・こんなに・・・息が、出来ない・・・・
早く・・・帰ろう・・・・あの船に・・・・
そうすれば、どうってことなくなるさ・・・
こんなこと・・・こんなこと・・・
一旦、船に帰ったサンジだが、一人でいると、またあの場面が思い出され、それをうち消そう
と、また、市場に戻っていく。
「すっげえ!! エレファントホンマグロじゃねえか!! 俺に売ってくれ!!」
サンジは、子供の時、図鑑でしか見たこともない本物の魚に、先程までの沈んだ気持ちを払
拭しようと、手に入れる決意をする。
そして、不本意ではあるが、料理コンテストで腕を振るうことになった。
それを観客に混じって誇らしげに見守る男が一人・・・
(しかし・・・驚いたよなあ。 たしぎとかいったっけ? 他人のそら似でも、あんなに、
くいなに似てるとはなあ。しかも、同じ剣士ときたもんだ。 偶然って言うのは、本当
に恐ろしいぜ。 まあ、ひょんなことで、刀も、ただで揃えられたし・・・俺って、ラッキ
ーだな。 サンジの料理人としての姿も見られるし・・・・あいつ、本当に料理している
ときが一番、綺麗なんだよなあ。 その姿を皆に見られるのは、口惜しいが、それ
が、俺だけのもんって思うだけで、許せる気持ちにもなってくるときたもんだ。 俺も、
たいがい、大人になったよなあ・・・)
そう、自分自身で頷きながらサンジの様子を目を細めて黙って見つめている。
サンジが、自分のことで、複雑な思いに捕らわれていることなど、全く思いもしないで。
「おい、あの料理人、見てみろよ。 すげえ綺麗だな。 ここら辺の者じゃねえぞ。
お日様に金色の髪の毛がキラキラと輝いててよ、あの、蒼い瞳が、堪んねえよなあ。
あの細腰も、なんとも・・・一度で良いから・・・フゴッ!!」
「ああ、すまん。 大丈夫か? ちょっと、伸びをしちまったら、腕が、あたっちまっ
て・・・って、もう、聞こえてねえか。 全く・・・これだから、あいつを一人で、出歩かせ
るのは、嫌なんだ。 本人の意識に関係なく、寄ってくる馬鹿共が、うじゃうじゃいる
からな。 あいつ、本当に、フェロモン出してんじゃねえのか? って、いってる間に、
あいつ・・・本当に、いい顔するよなあ。」
ゾロのひじ鉄をもろに食らって、地面に倒れた男に向かって、そう呟いて、ゾロがステージの
上のサンジに見惚れていると、後ろの方で、なにやらひそひそと話す声が、聞こえてきた。
「・・・いいか? あのコック、表彰式が終わり次第、かっさらって・・・うしし・・・俺達の
船に乗せるんだ。 あのコックさえいりゃあ、俺達の航海は、順風間違いねえから
な。 旨い料理食わして貰って・・・へへへ、夜のお相手も、たっぷりとして貰おうじゃ
ねえか。 いいか、ぬかるんじゃねえぞ、てめえら。」
「へい、お頭。」
どこかの海賊船の一味が、そう言って、ひそひそと悪巧みを練っている。
ゾロは、その話し声がする方へと、移動する。
そして、一通り、その悪巧みを聞いてから、こう言った。
「ふ〜ん、面白そうだな。 だがなあ、あいつは、てめえらの手には、おえないぜ。
ああ見えても、あいつ、強いからな。 てめえらなんか、まとめて地面に蹴り倒される
のが、せきのやまっと言うとこだな。 まあ、その前に、俺にその話を聞かれてた身
の不運を、嘆くんだな。」
「なにをー! やっちまえ!!」
ゾロは、そう言ってかかってくる海賊達を、先程手に入れた三代鬼徹を鞘から抜いて応戦す
る。
「!この切れ味は・・・流石、妖刀と言われるほどがある・・・すげえ・・・」
ゾロは、その切れ味に感心しながらも、手加減を加えて、そこそこに痛めつけた。
ざわざわと会場がその騒ぎにざわめいて、サンジも、その騒ぎの方へ目を向ける。
ふと、その騒ぎの中に、ゾロの姿を見つけ、自然と、瞳が合ってしまった。
サンジを見て、ニヤリと不敵に笑うゾロ。
サンジが、大好きな顔の一つ・・・
たぶん、この騒ぎは、ゾロが起こしたものだろう。
サンジは、笑うゾロの顔に、胸が、キュンとして・・・
また、先程のゾロとレディの顔が重なって・・・・
思わず、黙って瞳を伏せた。
そして、そのまま、料理を続ける。
「???おかしい・・・サンジの野郎、確かに、今、俺と目が、合ったよ、な? 何で、
無視すんだ? なんでだ?」
先程のたしぎと並んで歩いてる姿をサンジが見ていたなどど思いもしないゾロは、訝しげに
サンジをみつめる。
料理コンテストは、大方の期待通り、サンジの優勝で、幕を閉じた。
サンジは、商品のエレファントホンマグロを肩に担いで、船に向かう。
「お疲れさん。 俺も、持つよ。」
ゾロは、サンジにそう言って近づいてきた。
「ああ、どうも、な。」
そう言ったサンジの表情が、今ひとつ、暗い。
「・・・サンジ、何か、あった・・・」
「サンジ君、ゾロ、ルフィが、ルフィが、大変よ! 海軍も動き出したようだし・・・お願
い、ルフィを探して船に連れてきて! あたし、ウソップと一緒に、船を出す準備する
から・・・ 雲行きも、何だか、おかしいわ・・・嫌な予感がするの。 頼んだわよ、二人
とも!! 行くわよ、ウソップ!!」
ゾロがサンジに聞くよりも早く、ナミがウソップを引き連れて、サンジ達の元に来てそう言っ
た。
「わかった、ナミさん。 ルフィのことは俺達に任せな。 ウソップ! これ頼んだゾ。
しっかりと、それ運べよ。 それと、ナミさんを絶対に守りきれ! わかったな。 行く
ぞ、ゾロ!」
サンジは、ナミにそう言って、エレファントホンマグロをウソップに抱えさせると、ゾロに声を掛
けて、ルフィの元に急いだ。
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