「カチャ。」ゾロは、倉庫のドアを開け、中に入る。
薄暗い倉庫の中で、サンジは、床に片足だけ投げ出した格好で座っていた。
ゾロが、入ってきたことにも、全く気が付いていない。
ゾロは、すぐに、サンジを見留めたが、サンジの格好に、目を奪われて動けないでいた。
陽に透けてキラキラと輝く金の髪。
いつもは、きっちり着込んでいるジャケットを脱ぎ、緩めたネクタイとシャツの間から、細い首
筋が見え隠れしている。
焦点の定まらない、揺れる蒼い瞳。
本当に、男なのかと疑う程の、白くて細い腕。
そして、その腕の先から伸びた指が、あの形のいい唇に触れていた。
「ゴクリ。」
ゾロの喉が鳴った。
・・・・・・・・まいった。
自分の気持ちに気づいた途端、これかよ・・・・。
ゾロは、実直に己の存在を主張する下半身に、思わず苦笑した。
これ以上見ていたら、身がもたねえ・・・・。
「おい!」
ゾロは、わざと大きな声で、サンジに声をかけた。
「えっ?! あっ。」
サンジは、びっくりしてゾロの方を見たが、すぐに俯いてしまった。
何で、ここに、ゾロが??
『ゾロのキスは嫌じゃなかった。』
自分の考えていた事が、ゾロに見透かされそうで、サンジはゾロの顔が、見られなかったの
だ。
「・・・何のようだ。」
サンジは、ポケットからタバコを取り出すと、火を付け、努めて冷静に言い放った。
「・・・俺に、何か用か?」
「・・・・・・・・・。」
確かに、自分からサンジに声をかけたのだが、ゾロは、次の言葉を考えていたわけではな
い。
言うべき言葉はあるのだが、いざ、面と向かって言うとなると、言葉が出てこない。
ゾロは、どう切り出せばいいのか、言葉を選んだ。
「お前、さっき、ルフィとキス・・・」
そこまで言いかけたとき、突然、サンジが、声を荒げた。
「ああ?! てめえ、さっきのことで、文句でも言いに来やがったのか?!」
こいつ、さっきの見て、俺に嫉妬したのか?
・・・そんなに、ルフィが、一番大事かよ。
・・・クソッ。
・・・だったら、あんな事・・・あんな事、俺にすんじゃねーよ。
俺、馬鹿みてーじゃねえか。
馬鹿みてえに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悩んじまったじゃねーか。
サンジは、額に青筋を立てて、捲し立てた。
「ありゃ、さっきのは、どう見たって、事故だろ?!事故!! てめえが、ルフィしか見
てねえのは、よ〜くわかってるがな。 くだんねえ嫉妬で、俺にいちゃもんつけんじゃ
ねえ! 悪いが、被害者は、俺の方なんだよ!! そんなに大事なら、首輪付けて、
ずっと側に置いとけよ!!やんのか、こらあ。」
そういうと、ゾロを睨み付けて、戦闘態勢に入った。
・・・さっきまでのサンジは、どこに行った?
俺は、声掛けねえ方が、良かったんじゃねーのか?
ゾロは、訳の分からないサンジの剣幕に、大きなため息を一つ吐くと、サンジの前に立つ。
「何で、俺が、ルフィを側に置いとかねえといけねえんだ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
サンジは、戦闘態勢を崩さない。
「良いか、良く聞け。 俺は、確かに嫉妬している。」
「だから、それは、俺のせいじゃ・・・」
「良いから、聞け!」
ゾロは、サンジの言葉を遮って、話を続ける。
「いいか。 俺は今、嫉妬している。 それはさっきも言った。 でもそれは、俺が嫉
妬しているのは、てめえにじゃねえ。 ルフィにだ。 俺の言っている意味、わかる
か。」
サンジは、ポカンと口を半開きにしたまま、固まっていた。
銜えていたタバコが、ポトリと床に落ちる。
ゾロは、もう一度、息を吐くと、片手を額にあてて、言葉を続けた。
「だから、俺は、てめえに、惚れている。」
そういうと、ゾロは、固まったままのサンジを、正面から抱きしめた。
こいつが・・・・・・ゾロが・・・俺のこと・・・・・・
好きだって・・・・・・・・好きだって、言ったのか?!
何言ってんだ?
・・・俺は、男だぞ・・・・?
男が男に・・・・・・・言うか?普通。
・・・・・・・・・・俺の聞き違いかも。
・・・・・・・いや、新手の嫌がらせかも。
・・・・そんなキャラじゃねえハズだが・・・・?
サンジは、そんなことを考えながら、ゾロの顔を見た。
ゾロの顔が、だんだんと近づいてくる。
軽く触れるだけのキス。
それからついばむようなキスに変わった。
サンジは、必死で抵抗したのだが、体格の差は歴然で、それは全くの無駄に終わった。
・・・やっぱりこいつとのキスは・・・嫌じゃねえ。
いや、むしろ・・・・・・・
「・・・んん・・・あ・・・ん・・・ふ・・・・んっ」
知らず知らず、サンジの口から声が漏れる。
その声に反応するように、ゾロのキスは深くなった。
サンジの唇を割って侵入すると、歯列をなぞって、狭い口内で逃げ場のないサンジの舌を
簡単に絡み取って吸い上げる。
下唇を軽く甘噛みされたサンジは、背中にジーンとした痺れを感じて、身体中にその感覚が
広がっていくのを感じた。
「ふ・・・・あっ・・・ん・・・・んん・・・」
次々に送り込まれる刺激に、飲み込めなくなった唾液が、サンジの口の端から流れ落ちるよ
うになった頃、やっとゾロは、唇を離した。
言葉を失ったサンジは、力一杯抗議の瞳をゾロに向ける。
ゾロは、暫くサンジの顔を見ていたが、それから、さらにギュッと抱きしめた。
「痛てえよ、この筋肉馬鹿。」
サンジは、締め付けられた腕の痛さに、それだけ言うのがやっとだった。
そして、やっと思考を再開させる。
・・・・・・・・マジかよ。
ゾロは、マジで、俺が好きなのか?!
・・・好き・・・き・・・キス・・・って、俺、またこいつにキスされたのか?!
・・・しかも、やっぱ、嫌がってねえじゃん。
・・・・ということは、俺もこいつが好きなのか?
好きだから、キスが嫌じゃねえのか?!
・・・ま、まて、まて、おい、早まるな、俺!
結論出すのはまだ早え。
俺は、絶対、ノーマルだ。
お、女の子の方が好きに決まってる。
・・・となると、こいつが、やっぱりホモなのか?
そこまで考えると、サンジはゾロにこういった。
「てめえ、ホモなのか?」
「あん?」
ゾロは、眉間にしわを寄せ、抱いた腕を緩めると、サンジを睨み付けて、こう言った。
「てめえ、俺が、ここまで言ってやったのに、まあだ、わかってねえのか!!
男だの、女だの、そんなの関係ねえ。 足癖が悪かろうと、女好きでしょうもない野郎
だろうと。 サンジ、俺は、てめえだから、惚れたんだ。 てめえ以外の野郎なんて、
興味ねえ!!」
サンジは、緩んだゾロの腕から、やっと身体をはずした。
そして、ポケットからタバコを取り出すと火を付け、落ち着かせるように、肺にタバコの煙を吸
い込んだ。
「・・・・・てめえの気持ちは、充分に分かった。 だがなあ・・・俺は、俺の気持ち
は・・・・正直まだわかんねえんだ。 やっぱり、俺は、レディが好きで。
・・・で、でも、てめえとのキスは嫌じゃねえんだ。 ルフィとやったときは、気持ち悪く
てゾッとしたのに・・・何でか、てめえとは、嫌じゃねえ。 初めは変な呪いにでもかか
っちまったんじゃねーかと、本気で思ったりもしたんだが、そうでもねえみてえだ。
とにかく、俺は、てめえも、てめえとのキスも、嫌いじゃねえ。 ・・・ただ、それが、
それだけじゃ、俺が、てめえを好きだとは、言い切れねえんだよ。 ・・・だから、今は、
わからねえとしか言えねえんだ。」
サンジは、正直に、今の気持ちをゾロにうち明けた。
ゾロは、片手で、サンジの頬に触れ、挑戦的な瞳で、サンジにこう言った。
「わかった。 今は、これで我慢してやる。 だけど、俺は、こんだけで引くつもりはね
え。 わからねえなら、わかるように、必ず認めさせてやる。 ・・・サンジ、絶対、
てめえは俺のもんにしてみせる。」
「俺は、物じゃねえ!」
ゾロのキザな台詞に、耳まで赤くなったサンジは、速攻、蹴りを食らわした。
「おっと、アブねえ。」
ゾロは、蹴り出したサンジの足を掴むと、そのままサンジを引き寄せる。
「もう一度、消毒してやる。」
そういうと、サンジの顎に手をかけ、唇を塞いだ。
「調子に乗るんじゃねえ!!」
サンジは、掴まれた足に、腰を捻って回転を加えると、その反動を利用して、反対の足で、
ゾロの背中に渾身の一撃を食らわした。
ドカッ!!
ゾロは床に沈んで、動かない。
・・・なんだよ。
いつもは、『おう。』とか、『ああ』とか、必要以上に話さねえ癖して。
何でこう、今日は、饒舌なんだよ。
おまけに、あんな臭い台詞、平気で人に言いやがって、こっちが、恥ずかしくなるじゃ
ねえか!
このエロマリモ!!
サンジは、床に倒れたゾロを後目に、そのまま昼食の食材を持って、倉庫を出ていった。
ゾロは、サンジが倉庫から出ていって、暫くして起きあがった。
「痛ってえー。」
あの野郎、本気で俺に蹴りかましやがった。
ちったあ、手加減しろってんだ。
俺は、そのまま立ち上がると、腰に手をあてて、首をコキッ、コキッと、2、3度、左右に振っ
た。
けど、本当にクルクルと、良く表情の変わる奴だよな。
口の悪さに、反比例して、表情は素直なんだよな。
俺は、さっきまでのサンジの表情を、思い出した。
ルフィの名前出した途端、青筋立てて怒った顔。
告った後に、ポカンと口を開けて・・・。
クククッ・・・すんげえ、子供っぽかったよな。
そして、キスしたときの、あの表情・・・・
瞳なんか、トロンとして、白い肌が、上気して、ピンク色に染まりやがる。
よくあれだけで、止めれたよなー。
日々の修行の賜物だな。
やっとの事で、キスを止めて、奴の面見たら、今度は、うるうるした蒼い瞳で、俺のこと、見つ
めているし・・・。
俺は、真剣に、誘っているのか、怒っているのか、悩んだぜ。
思わず、理性がぶっ飛んで、加減も忘れて、サンジを抱きしめちまった。
あと数秒、サンジの声が遅かったら、そのまま、奴を床に押し倒してたぜ。
・・・・・・惜しかったな・・・・・・・
そんな俺の気持ちも考えもしねえで、あいつは、俺を、ホモ呼ばわりしやがって・・・・
いい加減、俺は、キレそうだったぜ。
いくら何でも、鈍すぎるだろう? あれは。
俺は、真剣にサンジに、もう一度、告白した。
そしたら、奴も、真剣に答えてくれた。
「今は、まだ、わかんねえ・・・」 とな。
そりゃ、そうだな。
いつも喧嘩ばっかで、ソリがあわねえと思っていた野郎から、いきなり告られて、『俺も好き
だ。』なんて答える奴なんて、いねえな。
いや、告る俺も俺なんだが・・・・
あの場合、馬鹿じゃねえかと冷やかされて笑われるか、ビビって、逃げ出すか、どっちにして
も、悲惨な結幕を迎えていても、おかしくなかったはずだ。
それでも、サンジは、俺とのキスは、嫌じゃないと言った。
ルフィとのキスは、ゾッとしたが、俺とのキスは、嫌じゃねえと・・・・
それって、脈有りって事じゃねえのか?!
俺は、それを聞いて、絶対、俺のもんにしてやるって、決めたんだ。
10年前に欲しかったもんが、また俺の前に現れて・・・・
もう、誰にも絶対、渡したくねえ。
少しでも、望みが有るんなら・・・・・。
いや、無くてもだ。
俺は、サンジを諦めねえ。
そう、腹をくくったら、憑き物が落ちたように、すっきりした。
俺の決意を奴に言ったら、真っ赤になった奴から、即効で、蹴りが飛んできやがった。
蹴りの威力がやけに弱いんで、照れてるだけだ、そう思った。
くっ、可愛い奴。
そう思ったら、また、キスがしたくなっちまった。
俺は蹴った足を掴んでサンジを引き寄せると、
「(ルフィにされた分を)もう一度、消毒してやる。」
と、奴の顎に手をかけて、キスをした・・・・・・
って、ここまでは、良かったんだがなあ・・・・。
あのあと、マジギレしたサンジから、本気の一撃をくらっちまうとはなあ・・・。
ちと、やりすぎたか・・・
俺は、ポリポリと頭を掻いて、倉庫のドアを開けた。
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<おまけ>
「全く・・・せっかく、密室(=倉庫)というシュチエーションだったのに、ゾロってば、
何で、サンジ君を押し倒さなかったのかしら・・・ サンジ君、嫌がんなかったわよ、
ぜったい。 ・・・・・・ウソップも、そう思うでしょ?」
「いや、俺にふらないでくれ・・・」
「ああいう、サンジ君みたいな、超ニブちんには、もっと強引に、押して、押して、押し
まくって、既成事実作って、納得させちゃえば良いのよ。」
「いや、一概にそうは・・・・って、おい、それって、犯罪にならねーか?」
「何か、言った? ウソップ。」
カチャリ、棒に手をかけるナミ。
「いいえ、何も、言ってましぇーん。」
「ッで、バッチリ、撮ったんでしょうね?」
「・・・・・・・・・・・。」
無言で、フィルムを渡すウソップ。
「あらいやだ。 ちゃんと現像してから、渡してよね。 大丈夫vv ちゃんと、売り上げ
の一割は、還元してあげるからvv これからも、頼むわよ〜。 さあ、忙しくなるわよ
〜vv」
ナミは、サンジをからかいに、いや、相談に乗るために、キッチンへ向かった。
「ゾロ、サンジ。・・・許してくれ、二人とも・・・・。 俺は、・・・俺は、魔女の手先に成り
下がってしまった・・・・。 ・・・・カヤ・・カヤ。 俺は・・・俺は、やっぱり、乗る船を、間
違えたのかも知れない・・・・。 すまん、俺、生きて帰れねえかも・・・・・」
ウソップの嘆きは、澄み切った青空に、むなしく消えていった。
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<コメント>
・・・・・かなりしょぼくてすみません・・・・
どういう書き方したらいいかなと検討中。
やっぱり1行開けた方が良いのかな。
なかなか進展しない二人ですが、やっと、ゾロが行動に出ます。
うちの二人って、かなりな天然・・・・
ゾロ→サンジ(うちのサンジは、意地っ張りで、ボケボケですからね・・・)って感じが強いんですけど、こんな駄文で良かったら、また続き読んで下さいませ。
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