KISS<SUKI<KISS    

その1



 

    

 

ココヤシ村で、改めて仲間にした航海士ナミを乗せて、ゴーイングメリー号は、順調に航海を

続けていた。

少し前に仲間に加わった料理人サンジも、今ではすっかりうち解けて、航海はますます、

順調に進んでいる。

・・・・・・ごく一部を除いては・・・・・・・

「サンジ〜!メシ〜!! 腹減った!!」

いつもの通り、大食らいの船長の一言で、ゴーイングメリー号の朝は、始まる。

「メシ〜! メシ〜!」

と、まとわりついてくるルフィを、サンジは、

「わかったから、ほら、これでも食って、ちょっと待ってろ! もう少しでできっから。」 

と、軽くあしらい、

「ナミさ〜んvv おはようございま〜すvv 今日も、お美しい〜vv」

の一声を添えて、絞りたてのグレープフルーツジュースを、絶妙なタイミングでナミの前に出

す。

「ありがとう。サンジ君vv」

ナミが笑顔でそう言った。

この二人、年齢こそ逆だが、姉と弟のように仲が良い。

一流の航海術と特異な過去を持つナミは、航海術の知識だけではなく、生活の面やら、医学

の面、はたまた経済(=お金)の面においても博識であり、ずっと、バラティエの中だけで育っ

てきたサンジにとっては、まさに、頼れる、尊敬すべき人物なのである。

逆に、ナミにとって、サンジは、優しくて、クルクルと表情豊かなところが、母性本能を刺激す

るのか、可愛くて感じられ、とても年上とは思えないのである。

「なあ、また少し、食材、分けてくんねえか?」

そう言いながら席に着いた、狙撃手兼職人のウソップに、サンジは、

「なんだ? また、何とか星でも作ろうと思ってんのか? 良いぜ。 メシ食ったら、

用意しとくから、あとで取りにこいよ。」

と、優しく返事をした。

本来、食材を食べずに、他に事に使うことは、料理人として、許すべき事ではないが、

先日も、調味料入れの棚を付けて貰ったりと手先が器用に動くウソップには、船の修理やら

何かと世話になっている。

言うなれば、ギブ&テイクってなわけで、料理に向かなくなった食材とかを、たまに融通して

やっている。

但し、サンジは、そんな食材管理の出来ない料理人ではない。

正確に言うと、サンジは、ウソップのために、わざわざ使用する食材とは別に取って置いてや

っている。

それを、『料理に向かなくなった。』などと言って、渡していたのだった。

そんなこんなで、今朝も、テーブルの上には、所狭しと美味しそうな料理が並んだ。

「あれっ、ゾロは?」

今にも飛びかかりそうなルフィを何とか押さえ込んで、ウソップが言った。

「もう、毎日、毎日しょうがない奴ね。 サンジ君vv お願いvv」

ナミのお願いに、サンジは笑顔で、

「わっかりました〜、ナミさんvv あっ、ナミさんは、お食事していて下さい。 

おい、クソゴム。人の分まで食うんじゃねえぞ。 ウソップ、てめえも食ってて良い

ぜ。」

そう言うと、キッチンを出ていった。








「全く・・・・毎回毎回、いい加減にしろってんだ! オリャ、てめえの母親でも、嫁さん

でもないんだぜ!!」

男部屋に入り、ハンモックで、ぐっすり眠っているゾロの腹めがけ、蹴りを1発おみまいして、

サンジは、ゾロにそう言った。

「グッ。」

腹に強烈な痛みを感じてようやく起きたゾロは、サンジの言葉に、

「母親や嫁なら、こんな起こし方しねえ・・・」

と、呟いた。

呟きは、しっかりサンジの耳に届き、

「なんだと?! てめえ。 寝汚えてめえを起こすのに、これ以上の起こし方があるか

ってんだ! エロマリモのくせして、人間様にたてつこうなんざ、100年、早えんだ

よ!! やんのか?コラア。」

と、戦闘態勢に入るサンジ。

「上等だ!てめえ。 その癖の悪い足、叩き斬ってやる!!」

ゾロは、こめかみをヒクつかせ、側にあった、和道一文字を手に取ると、バンダナを巻いて、

臨戦態勢に入った。

「てめえのクソ鈍い太刀筋なんざ、とっくに見切ってんだよ!! このエロ剣士!!」

とサンジは、足の裏で、剣先を受け流し、そのまま、反対の足で、ゾロの脇腹めがけて、

蹴りを放つ。

ゾロも負けじと脇腹を腕でブロックし、合間を詰めようと、サンジに飛びかかった。

ドカッ!!バキッ!!ガシャ−ン!!!

凄まじい音か、船内に響きわたる・・・・・。

「全く・・・サンジ君もゾロも、どうして、毎回毎回、ああなのかしら・・・」

キッチンでは、食事の終えたナミが、やれやれと言った顔で、紅茶を飲んでいた。

「ウソップ。また、船の修理、お願いね。費用は、ゾロの借金にしておくから。」

そう言うと、ナミは、サンジとゾロがいる男部屋へと向かった。









「もう!毎回毎回、一体何回、この船壊したら、気が済むの?」

ナミのげんこつが、ゾロとサンジを襲った。

「痛ってえ。 ナミ、てめえ、なにしやがる!」

「ああっ、怒ったナミさんの顔も素敵だvv」

いつも、喧嘩を止めるのは、ナミの鉄拳である。

恐るべし!ナミ。

ウソップが常々、『ゴーイングメリー号に影の支配者は、ナミだ。』と、カヤ宛の手紙に書

いているのは、案外嘘ではない。

「そもそも、このエロ剣士が、寝汚えのが悪いんで・・・」

「なんだと?! さっきから聞いてりゃ、エロ剣士だの、エロマリモだの、てめえ、

一体、何が言いてえ?!」

「ざけんなよ!エロマリモ!! てめえが、村で、俺に何をしたか、忘れやがったの

か?!」

「「えっ?!」」

ゾロと、ナミの声がハモった。




・・・・・・・・・・しまった。




サンジは、あわてて、黙り込む。

「何があったの、サンジ君? ゾロに何かされたの?」

ナミが心配そうな声で、サンジに聞いた。

心配しているのよと言いたげな顔を見せてはいるのだが、瞳の奥が、生き生きとしている

ナミ。

さすがにそれにサンジも気づいたのか、

「な、何でもないです、ナミさんvv ナミさんが気にするようなことじゃ、決して、ありま

せんからvv」

と、ごまかした。

「・・・・・・・・・・・・」

ゾロは、何も話さない。

自分としては、単純に、サンジに、薬を飲ませただけに過ぎなかったのだが、確かに、それだ

けでない事をやってしまっていたからだ。

一言でも話そうものなら、勘ぐりやすいナミの事、要らぬ誤解を与えて、墓穴を掘ることは、

どうしてもさけたかった。

「まあ、いいわ。」

ナミは、諦めたように言った。

そしてほっとした二人を見ながら、こう続けた。

「但し! 船を壊した罰は、受けて貰うわよ。 そうね。 今度上陸する島では、二人と

も、船番をやってね。 良い機会だから、お互い腹を割って話し合いをすると良いわ。

まだまだ先は長いんだから、こうしょっちゅう、船壊されたら、たまらないわ。 次の港

に着くのは、約1週間後の予定よ。 但し、その間に、もし、船を壊したりしていた

ら・・・・どうなるのか、わかってんでしょうね?!」

ここで、サンジは、おずおずとナミに向かっていった。

「あの〜、ナミさん。 俺、買い出しが有るんですけど・・・・」

「俺だって、折れた刀の代わりを調達しねえと・・・」

ゾロが、すかさず、横から口を挟む。

「ああ、そうね。 それだったら、船が着いたらすぐ行って頂戴。 戻ってきてから、船

番変わって貰うわ。 それと、ゾロ。 あんた、サンジ君と一緒に行って頂戴。 一人よ

り二人の方が、いっぺんで買い出し済むでしょ? それに、あんたが、一番お酒飲む

んだから、それくらい当たり前よね。」

ナミは、ゾロとサンジにそう言いきった。

「「・・・・・・・・・・・。」」

ゾロとサンジは沈黙した。

これ以上、ナミに何を言っても、無駄だと判断したのだ。

なんせ、この船のお金の管理は一切、ナミがやっているのだから。

そして、ナミは、男部屋を出るとき、思い出したように、こういった。

「あっ、ゾロ。 今回の修理代は、あんたの借金にしといたからね。 40万ベリー、

よろしくね〜。」

バタンッ・・・・・

「魔女め・・・」

ゾロは、拳をぐっと握りしめ、力無く、呟いた。







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