BEGINNING

その2






ポカンと、そう、ポカンと口を半開きにし、サンジは俺の腕の中で、固まっていた。

そして、抱きしめる腕の感触にやっと気が付いたのか、あわてて抵抗しだした。

「ば、馬鹿、お前!! 気色い!! 冗談は止めろよ!! 

放せ!このクソ剣士!!」

サンジは、そう言って腕をはがそうともがく。

「嫌だ、はずさねえ。 それに、お前、少しうるせえ。」

俺は、そう言うと無理矢理、サンジに口付けた。

「んんっ?!・・・んっ・・・んふ・・・んっんー・・」

俺の突飛な行動にサンジはドンドンと胸を叩いて抵抗した。

しかし、酔っているサンジが、俺にかなうわけがない。

俺は、かまわず、口付けを続け、唇を割って侵入すると、歯列をなぞって更に奥に舌を滑り込

ませた。

そして、逃げるサンジの舌をからめ取ると、吸い上げ、舐めまわしと、口内を深く丹念に蹂躙

した。

いつの間にか、抵抗は止み、サンジの腕が、俺の背中に回されていた。

「ん・・・んっ・・・ふぁ・・・んん・・・んあ・・・」

サンジの甘い吐息が、俺のからだに熱を吹き込む。

サンジの舌も、俺の舌の動きに併せだし、ピチャピチャと口元から淫靡な音が聞こえだした。

俺達は、10分以上、お互いの唇をむさぼった。

サンジは、虚ろな蒼い瞳で、俺を見ている。

「ロロ・・・これは・・・夢・・・」

サンジは、呂律のまわらない声でそう言うと、フッと意識を失った。

「お、おい!!サンジ!!」

俺は、必死で揺さぶってみた。

「zzzz・・・・」

静かな寝息を立てて、サンジは、俺の腕の中で眠っていた。

「・・・・・・・何で、ここで、寝る・・・・」

俺は、行き場の無くなった熱を持て余し、ため息を吐いた。





「ガチャッ。」

突然、キッチンの扉が開いた。

「サンジ君、何か、飲みもの・・・」

ナミがそう言って、入ってきた。

「な、なにしてんの?ゾロ!! ・・あ、あんた、まさか・・・」

ナミが疑いの目で俺を睨み付けている。

俺の腕の中には、安らかに寝息を立てているサンジの姿・・・

「あん?! これか? ・・・寝ちまってな・・・」

俺は、眠っているサンジに目を向けた。

「そ、そんなこと聞いてんじゃないわよ! あんた、サンジ君に、何か・・・」

「うるせえぞ、ナミ。 こいつが起きるじゃねえか。喉が渇いたんなら、てめえで、水飲

んで、さっさと寝ろ。 じゃまだ。」

俺は、ナミの怒鳴り声を途中で遮ると、静かな声でそう言った。

「・・・・・・・・・」

ナミは、無言で、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、それを持って、キッチンの扉を

開け、出ていった。

「あんた、サンジ君泣かせたら、ただじゃおかないからね!」

そう言い放って。

「そんなこと、するわけねえ。」

俺は、サンジを抱く腕を引き寄せた。

さらさらと流れる金色の髪が、俺の頬に触れる。

伝わってくるサンジの体温と重さが妙に心地良い。

(ずっと、こうしていたい・・・)

俺はそう思いながらも、サンジを抱いて男部屋に行き、ベッドに寝かせた。

「・・・サンジ・・・お前は、俺のこと・・・どう思ってる・・・」

俺は、サンジの髪を鋤きながら、ベッドの横で、そう呟いた。












・・・・・・・翌日・・・・・・



(うーっ、気持ち悪い・・・チクショー。 飲み過ぎた・・・ でも、もう、起きねえと・・・

ウグッ・・・何だ?! 身体が動かねえ・・・ 金縛りか? い、いや、腕は動くみてえ

だ。・・・何でだ?クッ、何かでかいロープに縛られてるみてえだ・・・確認しねえ

と・・・)

俺は、重い瞼をゆっくりと開けた。

すぐとなりに誰かがいる・・・

(誰だ?)

俺は、神経を開いた瞳に集中した。

ぼやけていた視界が、だんだんと鮮明になっていく・・・

「んなっ!!」

俺は、思わず、絶叫した。

「どうした?サンジ・・・」

チョッパーが、眠い目をこすり、俺を捜す・・・

「い、いや、何でもねえ。 寝惚けただけだ・・・チョッパー、まだ早いから、寝て

ろ・・・」

「うん・・・わかった・・・おやすみ、サンジ・・・」

チョッパーは、もそもそとまた、眠りについた。

「・・・・・・・・・・」

(落ち着け・・・俺・・・でも、何で、すぐ隣に、こいつが寝てんだ? 何で、俺、ゾロに

抱きつかれたまま、ここで寝てんだ?・・・昨日、何かあったのか? ・・・何か、取り

返しの付かないこと・・・やっちまったのか? クソ、覚えてねえ・・・・)

俺は、やっと、客観的に自分の置かれている状況を把握した。

さっき、縛られていると感じたモノは、ゾロの腕だった・・・

男部屋に、ただ1つの簡易ベッドに、ゾロと仲良く横になってる・・・・

もっと、詳細に言えば、ゾロが、俺を腕に抱きしめた格好で、眠っているのだ・・・

「ちくしょー、ビクともしねえ・・・」

俺は、腕を払いのけようと懸命に暴れた。

この体制だと、得意の蹴りも繰り出せない。

(何て、頑丈な腕なんだ・・・それに・・・なんで・・・てめえ・・・上半身裸なんだ?

 ・・・俺達、・・・何かあったのか・・・俺・・・もしかして、酔って・・・ゾロに・・・・言っち

まったのか・・・)

俺は、一瞬、目の前が真っ暗になってしまった。

この船に乗ってから出来た、俺の秘密・・・

決して、誰にも言えない・・・

きっと、この先、誰にも言うことのない・・・

俺の秘密・・・・

絶対に知られたくなかった・・・

特に、ゾロだけには・・・



俺の秘密・・・

それは、俺が、ゾロに惚れていると言うこと・・・

鷹の目との、あの闘いの中・・・

俺は、運命だと思った・・・

あいつが、俺の運命を決めた・・・そう感じた・・・

何を犠牲にしても、側にいたいと思った・・・

初めて・・・人を・・・欲した・・・

でもそれは、決して、表に出しては行けない・・・

決して、誰にも知られてはいけないこと・・・


俺は、自分の心に鍵をかけた。

全て、気持ちと逆の行動をとった。

そうすることで、本当の気持ちを封印した・・・・つもりだった。

(昨日、・・・何があったんだ・・・何で、ゾロが、こんなに近くにいるんだ・・・ずっと・・・

触ってみたかった・・・・ずっと・・・ずっと・・・我慢してた・・・・)

俺は、溢れる気持ちを抑えることが出来なかった。



髪にかかるゾロの吐息・・・

胸から腰に回されたゾロの逞しい腕・・・

触れ合う部分に熱が集中するのがわかる・・・



俺は、ゾロが起きないように、息を潜め、恐る恐る手を伸ばし、ゾロの頬に触れた。

「・・・・・・・・・・」

こみ上げてくる感情に、言葉が・・・・つまる・・・・

俺は、枕に顔を埋めて、息を殺して・・・泣いた・・・・

「・・・ゾ・・・・ロ・・・・好・・・・きだ・・」

俺は、誰にも聞こえない様なか細い声で、そっと呟いた。

そして・・・俺はまた・・・

自分の心を封印する。

全ては、平穏な航海のため・・・・

俺は、自分に言い聞かせる。

「オラッ!! てめえ・・・気色悪い腕どけろ!! 寝ぼけてんじゃねえ!! 

さっさとどけ!オラッ!!」

俺は、怒ったふりをする・・・

何でもないふりをする・・・

震える拳を握りしめ、俺は、ゾロの頭を殴った・・・・

「痛てえ・・・」

ゾロは、呻きながら、目を覚ました。

「いよう、お目覚めか?このエロ剣士。 ・・・昨日・・・何があったかは、思い出せね

えが・・・・とりあえず、この気色悪い状態を何とかしろ。 

・・・昨日は・・・すまなかった・・・・俺は、覚えてねえが・・・何かあったんなら・・・

頼む、忘れてくれ・・・」

俺は、泣きそうになる自分を叱咤して、そう、ゾロに言った。

ゾロが、俺を睨み付ける。

(は、は、は。 怒ッちまったか・・・そうだろな・・・)

俺は、ゾロの顔が見れなくて、目をそらした。

「てめえに指図されるいわれはねえ! 俺は、自分のとった行動を、簡単に忘れられ

るほど、軽く生きてるわけじゃねえ。 ・・・昨日のこと、覚えてねえだと?! 

ちょうどいい。覚えてねえなら、教えてやる。 良く覚えてろ。 俺は、てめえが好き

だ。 

てめえが俺を嫌っていても・・・俺は、もう、自分の心を認めっちまったからな。 

・・・嫌なら、俺を無視しろ。 俺をいない者として、扱え。 ・・・でも・・・少しでも・・・

ほんの少しでも、俺のこと考えてくれるなら・・・考える余地が、有るのなら・・・

・・・側にいてくれないか・・・」

ゾロが、真剣な眼差しで、俺にそう言った。

(馬鹿な・・・これは・・・夢だ・・・ ・・・俺の都合のいい・・・都合良すぎる・・・夢・・・)

俺は、呆然として、ゾロの顔を見た。

「・・・サンジ・・・好きだ・・・」

ゾロは、掠れた声でそう言うと、俺を強く抱きしめた。

抱きしめられた腕が・・・

触れるその部分が・・・

熱い・・・


その腕の中で、俺は、やっと、現実に戻った。

ゾロの優しい瞳が、俺の封印をとく・・・

「・・・お、俺・・・まだ、夢見てんのかな・・・こんな都合のいいことが、現実に・・・起こ

る訳ねえ・・・ ・・・でも・・・俺・・・夢でも・・・いいや・・・」

俺はそう呟くと、ゾロに微笑んで、もう一度、その頬に、こわごわと手を伸ばした。

触れた瞬間、夢から覚めるのではないか・・・・

そう思いながら・・・・

・・・けど、ゾロの頬は暖かくて・・・

夢じゃねえって・・・・教えてくれた・・・

「・・・ゾロ・・・ゾロ・・・ゾロ・・・」

俺は泣きながら、ゾロにしがみつく。

胸がいっぱいで・・・うまく、言葉が出ない・・・・は、は、笑っちまうよな・・

言葉が・・・言葉が・・・こんなに重いなんて・・・

この一言の重みに・・・俺の心は・・・悲鳴を上げる・・・

レディに言うのは、簡単だった・・・

俺は、今まで、簡単にその言葉を口にしてきた・・・なのに・・・

なのに・・・何故・・・今・・・言えないんだろう・・・

『本当に好きな人には、簡単に言えるモノじゃないわ。』

ちょっと前、ナミさんが、俺に言った言葉・・・

・・・そうだね・・・全く、その通りだ・・・


ゾロは、俺の顔に手をあてて、そっと優しく、流れる涙を、指で拭ってくれる。

「・・・俺・・・側にいて・・・良いのか? ・・・もう・・・隠さなくても・・・良いのか?・・・

ゾロ・・・夢じゃない?」

俺は、それだけ言うのがやっとだった。

「ああ、夢見てえな、本当の話だ・・・」

ゾロは、笑いながらそう言うと、俺に優しく、口付けた。

何て、優しいキスなんだろう・・・

何て幸せなキスなんだろう・・・

言葉より強く・・・

言葉より優しく・・・

言葉より深く・・・

ゾロの気持ちが、俺に伝わる・・・

「ゾロ・・・俺も・・・好きだ。」

そう言って、俺は、ゾロの背中に腕を廻した・・・








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<コメント>

このお話は・・・実は、キリリクNO.100の『サンジVSゾロの元恋人』
の前段階のお話でして・・・
凄く長くなりそうな予感がしてるので、
敢えて、ここできりました・・・
もう少ししたら、キリリクの方に本題をUPさせる予定ですので、
興味を持って頂けたら、そちらもご覧になってみて下さい。
って、まだ、草稿も書いてない状態ですが・・・(^_^;)

今回は、前半を、サンジ・ゾロ視点で、後半をサンジ視点で
書いてみました。こういうスタンダードな始まり方も、
ルナは、好きです・・・
ちょっと、消化不良の感が・・・何かが足りねえ・・・
おお、そうだ! いつもなら最後に誰かの落ちで終わるのに・・・
ちょっとだけ、シリアスに終わってしまった・・・
まっ、いいか・・・(逃!!)