BEGINNING





ここは、ゴーイングメリー号・・・

それぞれの夢を野望を叶えるために、今日も、このグランドラインを、順調に航行中であっ

た。






ある日。

夕食の片づけと、明日の仕込みを終えたサンジが、一人、キッチンで酒を飲んでいた。

(今日は、何か、いい気分だよな・・・ やっぱ、あれかな・・・ そう、あれは、嬉しか

ったからなあ・・・)






サンジが言う、あれとは、今日の夕食の時の出来事だった。

この前、ある島で、買い出しに行ったとき、ふと、前を見たら、ゾロが買い物をしていた。

何を買っているのかと、気付かれないように、遠巻きに観察していたら、奴が、買ったのは、

見たこともない白いぷるぷるとした四角いババロアみたいなモノだった。

(あのゾロが、何で、甘いモノを??? ちくちょー、俺の作ったおやつなんて、見向

きもしねえ癖に!!)

サンジは、怒りを露わにし、ゾロが見えなくなってから、その店に向かった。

「おっさん。 今、緑頭が買っていった奴、俺にも、1つくれ!」

そう言って、店の主人から、ふんだくるように手に取ると、一口、口に放り込んだ。

(な、なんだ? 全然甘くねえ。 ババロアじゃなかったのか? それにしても、妙な

味だ。 何て言うんだろ??)

店の主人は、サンジの突飛な行動に唖然としながら、こう言った。

「兄さん。 あんた、『豆腐』って、知らないのか?」

「ああ、初めて食った、こんなの・・・ で、これ、どうやったら作れんだ?」

サンジは、店の主人に事細かに、その豆腐の作り方と材料を聞いた。

(よし! みてろ。)

サンジは、店の主人から、材料を分けて貰い、買い物を素早く済ませると、おいしい『豆腐』

の作り方に没頭した。

そして、今日、夕飯の時、準備していた自家製豆腐をテーブルに1人ずつ皿に入れて、出し

た。

もちろん、店の主人から特別に分けて貰った、しょうゆという調味料と共に。

サンジとしては、この『しょうゆ』も、自前で作りたかったのだが、主人の話だと、最低でも3ヶ

月はかかるらしい。

それこそ、熟成した美味しいしょうゆを作るなら2、3年はかかると言われ、サンジは、あえな

く断念したのだ。

いくら、料理の天才だとしても、時間ばかりは、どうしようもない。

「サンジ、これ、うめえぞ! もうないのか?」

「これ、お豆腐でしょ? 本当、サンジ君って、何でも作れちゃうのね。 すごいわ。」

「ホント、ここまで美味しく作れるのって、凄いわ。」

「おお、サンジ。 これ、お前が作ったのか? お前、料理に関しちゃ、天才だな。」

「お、俺は、初めて見る。 凄いな、サンジは・・・ うん、美味しい。 ね、ゾロ。」

「ああ、うめえな。」

「「「「!!!????」」」」

ゾロの一言に、一瞬、キッチンに、異様な緊張が走った。

サンジもまた、ゾロの一言に、思わず、固まってしまった。

初めて、ゾロが、サンジの料理に美味いといった・・・

「「「・・・・・・・・・・・・・」」」

「???どうしたんだ?皆。」

「ふが、うが・・・ぐんが・・」

「???」

チョッパーとルフィと、当のゾロだけが、そのことに気が付いてない。

「べ、別に、何でもないわ。 本当、チョッパーが言うとおり、美味しいわよ。 

ね、サンジ君。」

ナミに、急に言葉をふられ、あわててサンジが、我に返る。

「あっ・・・いや、ナミさんや、ロビンさんに誉められると、それだけで、作った甲斐があ

るってもんです・・・お、俺、洗い物、してきます・・・」

サンジは、そう言って、皆に背を向けると、流しに立った。

(くっそ〜。 何だって、あんなサラッと、言うんだよ。 ゾロが、美味いっていった・・・

美味いって・・・ べ、別に、俺は、ゾロの為に作ったんじゃねえゾ。 ただ、俺の知ら

ない食べ物があるのが許せなかっただけだ・・・別に、ゾロが何て言おうと・・・ 

でも・・・美味いって・・・)

サンジは、ドキドキしている自分を隠そうと、一生懸命に、鍋を磨いた。

(・・・サンジ君・・・可愛すぎるわ・・・・この馬鹿剣士には、もったいないくらい・・・

けど、この馬鹿剣士は、全然、気付いてないようだけど・・・)

ナミは、一人、小さなため息を吐いた。

サンジが、ゾロを気にしているのは、ナミにはわかっていた。

それが、一種の恋愛感情だと言うことも。

そして、ゾロも、サンジを意識してるのは、間違いない。

ナミ曰く、

「だって、お互い嫌いなら、何で、しょっちゅう目が合うの? 人間、嫌いなモノ、嫌悪

するモノは、自分の視界には入れないわ。 互いに、目で追ってるから、しょっちゅう

目が合っちゃうのよ。 目で追う理由?そんなの、簡単よ。見ていたいからに決まって

るでしょ?」

なのである。

さすが、観察眼にはすぐれているナミであった。








そんな上機嫌なサンジが、とっておきのワインを飲んでいるところに、ゾロが、やってきた。

「いよう。 てめえも飲むか? つきあえよ。 今日は、何か気分がいい。」

そう言って、サンジは、自分が座っている隣の席を、バンバンと叩いた。

すでに、サンジは、かなりの量を飲んでいるらしく、上機嫌にゾロを誘う。

ちょうど、のどが渇いていたこともあり、ゾロは、その誘いに乗って、隣に座り、酒を飲んだ。

そして、たわいもない話などを、サンジが一方的に、話まくる。

(珍しいな。 こいつから俺を飲みに誘うなんて・・・)

ゾロは、サンジから(飲みに)誘われるとは、思ってもいなかった。

ただでさえ、目が合えば、喧嘩している二人である。

よほど前世で、因縁があったに違いない。

そう思えてくるほど、何かにつけ、サンジとは喧嘩ばかりしていた。

一言言えば、十返ってくる言葉。

言葉でかなわないので、無視すると、今度は、無視したことに、突っかかってくるサンジ。

ルフィ達といるときのサンジとは、まるっきり別人だ。

(無邪気に笑って、こっちまでなんか楽しい気分になってくるあの顔を、俺の前では、

絶対にしねえ。 それに、最近、何かに付け、奴とは目が合う。『勝手に見てんじゃね

え!』『見てねえ!』『いいや、見た!』などと、また馬鹿らしいことで、喧嘩になっち

まう・・・一体、俺にどうしろっていうんだ。 俺、何で毎日、あいつに振り回されてん

だ? 確かにあいつを見ていると、あの細い身体、バキバキにしてえなんて思った

り、つい、あいつのこと目で追ってしまう自分がいる・・・なんでだろ? 

・・・考えるのは最近、あいつのことばかり・・・俺って、よほど、あいつのことが気にい

らねえんだな。 いや、あいつが、俺を嫌ってるんだよな。)

それが、ゾロのサンジに対する心象であった。

(それが、今晩に限って、サンジが上機嫌に(飲みに)誘ってきやがった。 へらへら

した面してよ〜。いっつも、こんな顔してりゃ、結構可愛いんだが・・・っておい、何考

えてんだ? しっかし、こいつ、色白いなあ。ナミなんかより、ずっと色白いんじゃねえ

か。 ・・・何か、いい匂いがする・・・どっからだ??)

ふわっと、ゾロの頬にサンジの髪が触れた。

「ドクンッ」

(うわっ!! びっくりした。 な、なにあせってんだ・・・何で、俺、こんなにドキドキし

てんだ・・・)

ゾロは、あわててグラスの酒を飲み干した。

「・・・聞いてんの・・か?・・ロロ・・・」

サンジは、酔いが回ったのか、フラフラして、ゾロの肩にもたれかかり、上目遣いで、ゾロの

顔を覗き込んだ。

「!!!!!」

(うっ。 何考えてんだ・・・俺・・・)

ゾロは、自分の下半身に目を向けた。

(何で、俺・・・男相手に・・・勃ってんだ?! なんでだ?! ・・・落ち着け、相手は、

サンジだぞ・・・男だぞ?! 冷静になるんだ・・・)

ゾロは、酒瓶を手に持つと、一気に口に流し込んだ。

「こ、こら! このクソ剣士!! 酒をそんな水のようにごくごく飲むんじゃねえ! 

ヒック。 酒は、しっかり、味わってだな・・・ヒック。」

サンジが、いつものように、シャツの襟首を掴んで、突っかかってきた。

「うっさいなあ・・・どういう飲み方をしようと、俺の勝・・・手・・・」

そこまで言いかけて、サンジの手を払おうと、腕を掴んだ瞬間、ゾロは、固まってしまった。

酒のせいで上気した顔・・・・

じっとゾロの顔を見る蒼い瞳・・・

ボタンのはずされたシャツから、白い肌と鎖骨が、ゾロの目に飛び込んできた。

「ゴクリ。」

ゾロは、思わず、嚥下した。

(ちくしょー!! 何だって、俺は・・・落ち着け・・・落ち着くんだ・・・)

ゾロは、自分の中に起こりつつある感情を排除すべく、黙って目をつぶった。

「うん?! てめえ、どうした?? どっか具合悪いのか?」

サンジがあわてた様子で、声をかけてきた。

(!!!止めろ。今は、俺にかまうな・・・ほっといてくれ・・・)

ゾロは、心の中で、サンジにそう言った。

「本当、てめえ、ちょっと顔、赤いぞ? 熱有るんじゃねえのか?」

そう言って、サンジは、自分のおでこを、ゾロの額にくっつけた。

「!!!っつ・・/////」

ガタンと、ゾロは、イスから転げ落ちた。

「お、おい。大丈夫か?」

サンジが、フラフラとした足取りで、ゾロの側に行く。

ふわっと、またあのいい匂いがして・・・ゾロは、サンジを抱きしめていた・・・

「好きだ。 サンジ・・・」

ゾロは、自分の声に驚く。

(今、俺・・・好きだって言わなかったか? ・・・そうなのか・・・・)

ゾロは、自分の心に問いかける。

今までのこと・・・

何故、自分がいちいち、サンジの挑発に乗って喧嘩していたのか・・・

むかつくと思いながらも、喧嘩している間が、少し楽しくなっていたこと・・・

皆の前で笑っているサンジの顔を見て、もっと、近くで見てみてえと思ったこと・・・

敵が来て、背中にサンジの存在を感じて闘った時の、一人じゃ感じたことの無かった高揚

感・・・

いつの間にか探していた視線の先に見えるサンジの姿・・・

どれもこれも、皆、思い当たる理由は、ただ一つ・・・

(そうだ、俺は・・・サンジが好きなのだ。 だから、こうやって、こいつを、抱きしめた

かったんだ。 バキバキに壊したいなんていって、自分をごまかしていただけだ・・・)

「サンジ・・・好きだ。」

ゾロは、抱きしめる腕に、力を込め、サンジを見た。





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<コメント>

何か、また、書きたくなってしまったのだよ・・・
こんな始まり方も良いかなって思って・・・
これは、健全(?)に終わるつもり・・・
こう言うのも、たまには、良いよね・・・