・・・・・なんで、俺、あんな奴が、好きなんだろ・・・・・
・・・・・・俺は、絶対に、面食いだ。
・・・・・・・趣味だって、悪くねえ・・・・・
・・・・・・・・それなのに・・・・・・・・・
・・・・・・・・・なんだって、あいつが、こんなに好きなんだろ・・・・・・・
・・・・・・・・それがわかれば、苦労しねえな・・・・・
・・・・・・・わからねえから・・・・・・・
・・・・・・俺らしくもなく、うだうだと悩む。
・・・・・でも・・・・・・・・・・それが、恋っていうもんだろ・・・・・・・・・
++++++++++++++++++
「ナミさ〜んvv オレンジのタルトと、オレンジフレーバーティー、如何ですか〜vv」俺は、そう言って、テラスで、地図を見つめているナミさんに声をかける。
俺は、この間、ルフィに誘われて、このゴーイングメリー号のコックとして、夢を叶えるため、
船に乗り込んだ。
まあ、表向きは、そんなところだ。
・・・けど、本当の事言うと、俺は、あいつに、惚れて、あいつの側に、いたかったんだ。
そう、あのジジイのいるバラティエを、飛び出してまでも、一緒にいたかった。
俺は、そんなに恋愛関係がある方じゃない。
見た目の派手さほど、恋愛って呼べるものは、多くはない。
俺は、こうみえても、一途な方だから・・・・・
どうやら、俺は、とことんのめり込むタイプらしい。
それで、上手くいった試しはねえが・・・・・・
また、今回は、俺は、とんでもねえ奴に、惚れちまった。
ロロノア・ゾロ・・・・・またの名を、海賊狩りの魔獣・・・・・・・・・
そう、れっきとした、男、だ。
この恋は、障害がありすぎる。
・・・・けど・・・・・・もう引き返せない。
俺は、走り出してしまった。
・・・・・恋は、障害があるほど・・・・燃えるもんだぜ。
「ルフィーッ! てめえらの分も、キッチンに用意してあるから、食って良いぞ!」
俺は、ナミさんにお茶をつぎながらそう船頭に座って、ウソップと釣りをしているルフィーに声
をかける。
「ひゃほーっ! おやつだ、おやつ〜♪」
「サンキュー、サンジ。」
ルフィとウソップは、俺の言葉を聞いて、キッチンに走っていく。
「さてっと、次は、あいつを起こしに行くか・・・・・」
俺は、そう呟いて、ナミさんの元を離れようとした。
不意に、ナミさんから、呼び止められる。
「サンジ君。 どうせ、あいつ、食べたりしないわよ。 いい加減、ほっときなさいよ、
あんな奴。」
ナミさんは、少し呆れたような顔をして、俺にそう忠告する。
ナミさんの言うことは解ってる。
きっと、この後に起こることを、心配しているんだろう。
どうせ、あいつは、俺の作ったモノなんか、口に運んだりしない。
飯はともかく、おやつなんて・・・・・・きっと見向きもしねえだろうな・・・・・
・・・・けど、俺の目的は、それじゃねえ。
そりゃ、食べて貰うと嬉しいけどよ、それ以上に・・・・・・
俺は、あいつと、言い争ったり、喧嘩したり・・・・・
・・・・それが・・・・・その時間が、欲しいんだ。
・・・・・その時だけ、あいつの瞳に、俺が、映るから・・・・・・・・
「いえ、ナミさん、あいつをこのまま、ほっとくのは、コックとしてのプライドに拘わりま
す。 毎回あんな態度とられると、意地でも、食わせたくなりますからね。 あっ、ナミ
さんは、どうぞお構いなく。 じゃあ、俺、行ってきます。」
俺は、そう言って、ブランデーをたっぷり入れた、ゾロ仕様のオレンジタルトを持って、船尾に
向かう。
・・・・そう、俺は、なんだかんだいっても、結局は、あいつに食べて欲しくて・・・・・
見た目は、他のと変わらない、ゾロ専用の甘さを控えた物をこっそりと、用意して有るんだ。
・・・・・それなのに、あいつときたら、毎回、見た目だけで、いらねえと言って、そのあと、見
向きもしねえ。
・・・・・・それが、また、腹が立つ。
・・・・・だから、蹴りを入れる。
・・・・そして・・・・・喧嘩になる。
毎回、同じ事の繰り返し・・・・・・
「おらっ! 起きろ! てめえ。」
俺はそう言って、あいつの腹巻きの上に、蹴りを落とす。
これでも、手加減は加えてんだぜ。
本気でやって、怪我させたら、どうもこうもないからな。
「ウグッ。 ・・・・・てめえ・・・・・・なんで、毎回、同じ事、言わすんだ! いちいち、人
を起こすのに、腹に、蹴りを入れるんじゃねえ!! それに、俺は、甘い物は、食わ
ねえ! この前も、そう言ったはずだ!」
ゾロはそう言って、サンジの胸ぐらを掴む。
「なあ、そう怒らずに、これ、食って見ろよ。 一口で良いからさ・・・・」
俺は、キレるのを我慢して、努めてやさしく、そう言った。
「いらねえ!」
あいつは、そう一言、言って、また、あぐらを掻いて、瞳を閉じる。
その態度に、俺は、プチ〜ンと、キレた。
「なんだーっ、その態度は!! せっかく、俺様が、わざわざ作った物を、食べもしね
えって言うのは、どういう了見だっ! この・・・・・くそまりもっ!!」
俺は、言うが早いか、あいつの腹に、また蹴りを入れる。
「グハッ! ・・・・てめえ! マジ蹴りする事ねえだろっ! そんなどうでも良いこと
で、いちいち、俺に突っかかってくんな!! 目障りだ!!」
ゾロは、人を殺しかねないように瞳で俺を睨み付ける。
・・・・・そうそう、この鋭い瞳も・・・・・・好きなんだよな。
・・・・・なんか、背中がぞくぞくっとして・・・・・
・・・・・俺って・・・・危ない奴・・・・・かも。
そんなことをこの状況で、考えていること自体、俺は、あいつに、イカレてる証拠だな。
「・・・・些細なこと・・・・だと?! ふざけんなっ、てめえ! オロすっ!!」
俺は、自分の考えに苦笑して、それを隠すように、怒ってみせる。
「・・・・・上等だ。 てめえなんか、返り討ちだっ!」
案の定、あいつは、好戦的な瞳で、俺に、かかってきた。
・・・・・この瞬間が・・・・・
・・・・・堪らなく・・・・・好きだ。
・・・・・俺だけを映している、その瞳が・・・・・・好きだ。
・・・・・言葉なんか、いらねえ・・・・・・
・・・・・この時間を共有している・・・・・・
・・・・・その事実だけで・・・・・・・
・・・・・充分だ。
バキッ! ドカッ!
「はい、そこまでにしてね。」
ナミさんが、いつものように、俺達を鉄拳で止めに入った。
楽しい時間は、これにて終了・・・・・
ゾロは、ナミさんと俺を睨み付けて、また、甲板に腰を下ろす。
俺はというと、タルトののった皿を持って、キッチンに戻った。
「・・・・・今回も、そんなに甘くねえんだけどな・・・・・・」
俺は、誰もいないキッチンで、そう呟いて、ゾロのために作ったタルトを口に運んだ。
「て、敵襲っ!! 敵が攻めてきたぞーっ!!」
見張り台にいたウソップが、慌ててそう叫ぶ。
俺は、夕食の仕込みを途中で止めて、甲板に飛び出した。
甲板には、ざっと20人。
どこかの海賊共らしい。
大きなガレオン船から、次々とこの船に乗り込んでくる。
俺は、片っ端から、自慢の蹴りで、海に叩き落としてやる。
戦力的には、話にならないくらいクソショボイ奴らだが、人数が、多い。
クソッ。 ・・・・キリがねえ・・・・・・・
俺は、近くで、闘っているあいつに、視線を送る。
あいつは、俺の意図を理解したように、ニッと、笑った。
・・・・・そうなんだ。
この瞬間、言葉よりも俺達は、もっと深いところで、わかりあえてる・・・・・
・・・・・・この高揚感が・・・・・堪らなく、俺を熱くする・・・・・
「「じゃ、行くかっ!! ルフィーッ、ウソッープッ、船は任せた!!」」
俺達は、同時に叫んで、ガレオン船に、乗り込んだ。
すぐに、周りは囲まれる。
だが・・・・・背中合わせに闘う俺達の敵じゃねえ。
あうんの呼吸で、次々と、敵をなぎ倒し、俺は、真ん中のマストをへし折って、ゾロは、船倉
に、穴を開ける。
バキバキーッ!!
と、もの凄い音と共に、大きなガレオン船が、海に沈んでいく。
ゴーイングメリー号に取り残された海賊共は、逃げ場を失って、ルフィの技で、遙か彼方に消
し飛んだ。
「お疲れさん!」
「おう!」
俺とあいつは、戦況をたたえって、腕をクロスさせた。
・・・・・・そんな些細なことさえ、嬉しい。
「さてっと、仕込み、仕込み・・・・」
俺はそう言って、上機嫌で、キッチンに向かった。
夕食も済んで、昼間の戦闘で疲れていたウソップとルフィとナミさんは、さっさと、部屋に戻っ
ていった。
俺も、明日の仕込みを簡単に済ませ、部屋に戻ろうとした。
ふと見ると、甲板にあいつの姿。
あいつは、やはり甲板で、一人で酒を飲んでいた。
「・・・・全く、いつも酒だけ飲むなって、そう言ってるのに・・・・・付き合ってやるか。」
俺は、そう呟いて、冷蔵庫の物で、適当に、つまみを作ると、辛口の酒を持って、あいつのと
ころに、向かった。
「おい! 酒だけ飲むなって、いつも言ってるだろ? ほらっ、食えよ。 俺も付き合
う。」
俺は、そう言って、つまみを手渡して、隣に座った。
あいつは、意外そうな顔をして、俺を見つめる。
「な、なんだよ。 俺が、てめえと飲んだら、可笑しいか。」
俺は、ゾロの視線に居たたまれなくなって、そう言った。
「・・・・いや、別に・・・・・俺は、嫌われてるって、そう思ってたからな。
驚いただけだ。」
ゾロは淡々とそう言った。
・・・・・そりゃ、そうだろ・・・・・
・・・・・なにかにつけ、突っかかっていたからな・・・・・
・・・・・馬鹿、気付けよ。
・・・・・それは、愛情の裏返しなんだよ・・・・・・
・・・・・けど・・・・・・そんなの、無理だよな・・・・・・
・・・・・俺、言うつもりねえし・・・・・
「別に、俺は、てめえのこと、嫌いじゃねえよ。」
俺は、そう言って、苦笑し、あいつに酒を注ぐ。
あいつは、黙って、注がれた酒を飲んだ。
それから、俺達は、色々な話をした。
バラティエであった面白い話・・・・・
あいつの故郷の話など・・・・・・
あいつは、本当に楽しそうに、夢を誓った親友の女の子のことを俺に、話して聞かせた。
・・・・・ゾロは・・・・・本当に、その子のことが・・・・好きだったんだな。
・・・・・あいつの一番大事な人・・・・・か・・・・・・・
俺は、その話を聞くのが辛くなってきて・・・・・・
その話を楽しそうにするゾロの顔が見れなくなって・・・・・・
酒にはあまり強くねえのに、がばがばと飲み干した。
「お、おい。 いくらなんでも、飲み過ぎやしねえか。」
あいつが、心配して、俺に声をかける。
・・・・これが、飲まずにいられるか・・・・・・・
・・・・・そんな顔して・・・・・・俺のこと・・・・・心配なんか・・・・・・する・・・な。
・・・・・・喋っちまいたくなる・・・・・・
・・・・・・・洗いざらい・・・・・・・俺の・・・・・・閉じこめた想い・・・・・・
・・・・・・あいつには、迷惑なだけの・・・・・・・・想い・・・・・・
・・・・・そんな瞳で・・・・・・見るんじゃねえよ・・・・・・
「・・・・・ゾ・・・・ロ・・・・・」
俺は、あいつの頬に手を添えて・・・・・唇に・・・・触れる。
「なあ・・・・・・俺と、してみねえ?」
思わず、俺の口から飛び出した言葉・・・・・・
あいつは、何も言わねえ。
「なあ、性欲解消しねえか? 別に、てめえの穴貸せって言うんじゃねえ。
・・・・・俺が、抱かれてやるよ。」
俺は、開き直るように、そう、あいつに言った。
「・・・・・てめえ、相当酔ってやがるな。 いい加減にしろよ。 さあ、もう、寝ろよ。
聞かなかったことにしてやるから・・・・」
あいつは、そう言って、俺の身体を押しのける。
・・・・・拒絶された・・・・・
・・・・・・やはり、この想いは・・・・・・・・
・・・・・・・届くことは・・・・・・なかった・・・・・・
一気に、心の中が、冷たくひび割れて・・・・・・
堰を切ったように・・・・・・
涙が・・・・・・・・止まんねえ・・・・・・・
「酔ってなんか・・・・・・・俺は・・・・・・・・酔ってなんかねえっ!!」
俺は、そう言って、あいつに、涙を見られるのが嫌で、そのまま俯いて、その場を離れた。
・・・・・・・・一緒に、飲まなければ良かった。
・・・・・・・聞かなければ良かった。
・・・・・・話さなければ良かった。
・・・・・そしたら、今までと同じで、済んだものを・・・・・・
・・・・自分の手で・・・・・・・・・それさえ、失った。
・・・もう・・・・・・・あの楽しかった時間さえ・・・・・
・・取り戻せねえ・・・・・・・
俺は、キッチンの灯りを消して、一人、キッチンのソファーに、腰掛ける。
あんな拒絶をうけて、男部屋で寝ることは、できなかった。
あいつが眠る部屋に一緒に、眠れるほど、強くなかった。
できることなら、この船を下りたかった。
・・・・・・・明日から、どんな顔して、あいつに向かい合えば良い?
俺は、キッチンに置いてあった強い酒の力を借りて、強制的に眠りについた。
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