It’s Mine!


その1.







俺とあいつが、めでたく両想いとなってから一週間。

クルー達には、まだ知られていない。

知られるわけには、いかないだろ?やっぱ。

だってさ・・・・・・。

いつも喧嘩ばっかりしていたあいつと、恋人の関係になっただなんて・・・。

しかも、レディ至上主義の俺が、だ。

あんなまりも野郎に惚れたとバレちゃあ、死活問題になりかねねえ。

しかも・・・・・・俺が・・・・・・・

受け入れる側・・・・。

まっ、流れだ、流れ。

深くは突っ込むなよ・・・。

けどよ・・・・・。

あいつが・・・・・あのロロノア・ゾロが、俺のもんだって・・・。

そう宣言したいのも、偽らざる俺の気持ち・・・。

・・・・・複雑なんだよなぁ・・・。








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ある梅雨の晴れ間の穏やかな午後。

俺は、洗濯物を干しに船尾に向かう。

と、まぁ、表向きはそんな感じで、実のとこ、眠っているあいつの傍に近づきたいだけだ。

「あ・・・・・・いた・・・。 ゾ・・・」

「お〜い!!ゾ〜ロ〜ッ!!」

俺の前をそう叫びながら、ルフィが通り過ぎていく。




また、しくじっちまった。

せっかく、あいつの名前を呼ぶチャンスだったのに・・・。




そう、俺は、あいつの名前をまだ呼んだことが無い。

『クソまりも』とか、『クソ腹巻』とか、そういう言い方は毎日言ってるんだけどな・・・。

やっぱ、こうなんつうの、恋人・・・・になったからには、名前ぐらいちゃんと呼んでやった方が

いいと思うし・・・・。

・・・・・・俺が、呼びたいんだ。

なんかこう、恋人らしいだろ?その方が・・・・。





 

「な〜んだ、そうか。 おう、わかった。 じゃあな〜。」

話が済んだのか、ルフィは、そう言ってゾロの傍から離れた。

「うっし! チャンス到来! おい、ゾ・・・」

「あのさー、ゾロ・・・。 ちっと手伝ってくれねえか?」

そう言って、俺の言葉を遮ったのは、ウソップだった。

「ああ、今行く・・・。」

あいつは、のそりと起き上がると、ウソップのところに向かう。




・・・・・クソッ! ウソップの野郎・・・。

・・・・・・今夜は、きのこ料理だ。




俺は、仕方なく、洗濯物を船尾に干す事にした。

但し、視線だけは、ちゃんとあいつに注意を向ける事も忘れない。

よくよく観察してみると、あいつは、結構、皆に頼られてるのがわかった。

頼られているというか・・・・・いつから始終、あいつの周りには誰かしらがいて・・・。




そう言えば、昼間、俺の相手をする時って・・・・・喧嘩してる時だけ・・・?

それって・・・・・すんげえ情けなくねえ・・・?




そんな事を考えながら、あいつの顔を見る。

あいつは、優しい瞳で、ウソップやルフィと談笑していた。




・・・・・・・・・・・俺が、恋人なのに・・・。

恋人の俺が、なんで、あいつの傍にいられないんだ・・・?




そう考えてると、その光景にむかついてきた。

「よしっ!! 決めた!!」

俺は、ある決意を胸に、手早く洗濯物を片付ける。

題して、『ロロノア・ゾロ=俺のもの大作戦!』とでも言っておこう。

どういう作戦かは、後で説明する事として・・・・とにかく、実行しなくては。

「ん? なに話てんだ?」

空になった籠を脱衣所に放り込んで、談笑しているあいつとルフィの間に割り込む。

「あ? いや、別に? ちょっと昔の話をしてただけだ。」

「そうそう、ゾロ、あん時、お前、あの小さな女の子が作ったおむすびを食ったんだよなぁ。

ぐちゃぐちゃに踏みつけられた砂だらけの砂糖おむすびを、な。 ニシシ・・・。」

「あ、あれは・・・その・・・・やっぱ、礼儀だろ、俺の為に一生懸命に作ってくれたもんだった

からな・・・。」

ルフィの話に、あいつは照れたようにそう言った。



・・・・・そんな顔するんじゃねえ。

可愛いだろうが・・・。

そう・・・・こいつは、優しいんだ、本質的に・・・。

本人は全然無意識なんだけどな。

見た目のクールさとのギャップがまた魅力って奴・・?




惚れた欲目からか、俺はそんな腐った事を考えながら、先程の作戦を実行に移す。

「ふ〜ん・・・。 そういう事があったのか。 なぁ、ゾロ。 もし俺の料理が凄え不味くても、

残さず食ってくれるか?」

俺は、にっこりと笑って、あいつにそう聞いてみる。

俺の笑顔に、あいつも、ルフィも、そしてウソップまで瞳を見開いて驚いた。




本当、失礼な奴らだぜ・・・。

俺だって、笑う事ぐらいある。

まっ、俺の笑顔は、レディと・・・・・・愛するものだけに向けられるものなんだがな・・・。




「なっ? 食うよ、な?」

もう一度、満面の笑みであいつに確認を取る。

「あ、ああ。 食べる。」

あいつは、そう言ってくれた。

まっ、この際、あいつの口の端が、ヒクついていたのは、見なかったことにしておこう。

「・・・・・・サンジ、お前、なんか悪いもん、食ったのか?」

そう真顔で、ウソップが俺に言った。




ウソップ。

特大のきのこ、決定。




「あん? そりゃあ、俺に喧嘩売ってんのかよ。 コックの俺が、そんな変なもん口にするわ

けねえだろ・・・。 口にするなら、まず、てめえらだ。」

そう返事した俺に、ガボーンとウソップとルフィの顎が外れる。

「まっ、俺の料理が不味い事なんて、絶対にあり得ねえ事だけどな・・・。 そう、断言される

と、えへへ・・・なんか凄え愛情をひしひしと感じたなぁ。」

俺は、ルフィとウソップの事は一切無視してそう言って、再度あいつを見て微笑んだ。 

「・・・・・・愛情って・・・おい・・・。」

俺の話を聞いていたウソップが、我に返ったようにそう突っ込みを入れる。

「あ? 知らなかったのか? こいつは、ゾロは、俺に惚れてんだぞ。 あ、ナミさんには内緒

にしてくれよ。」

俺は、ウソップの耳を自分の方に引っ張って、そっとそう囁いた。

またウソップは、顎を外しかけたようだ。




全く、失礼な野郎だぜ。

まっ、仕方ねえか。

いきなりの衝撃的発言だもんなぁ。




そうニヤニヤしながら、ウソップを見ていると不意に、鋭い視線を感じた。

「・・・・・おい、クソコック。 一体、これはどういうことだ?」

そこには、俺を睨みつけているあいつの姿。




おー、おー。

眉間に皺が寄ってるぜ。




「またまた、照れてんのか? 良いじゃねえか、どっちみちわかることだろ? 俺達がそういう

仲だって事は・・・・。」

俺は、にやりと笑ってそう言うと、あいつの肩に肘を乗せた。

「う゛・・・・。そりゃあ、そうだが・・・・。 俺は、てめえの為に隠した方が良いのかと思ってた

ぜ。」

あいつはそう言って、照れながらも、俺の腰を引き寄せる。

「マ、マジっすか・・・?」

悲鳴にも似たウソップの呟きが聞こえたが、この際、そんな事どうでも良くなってきた。

間近で見つめるあいつの瞳に、キスしたくなってきたから。

どちらからともなく、顔が近づく。

そして、もう少しで・・・ということろで、思わぬ声が俺に届いた。

「サンジく〜んv 悪いんだけど、なにか冷たい飲み物でもいただけるかしら?」

「はぁ〜い!!ナミすわ〜んvv 今、お持ちしま〜すvv」

俺は、近づいてきたあいつの顔を強引に押しのけると、一目散にキッチンに走った。

あいつのむかついてる顔が瞳に浮かぶが、これとそれとじゃ比較にならねえ。

ウソップやルフィには知らしめるのは良しとするが、ナミさんだけには知られたくねえんだよ。

俺が、このクソ剣士にゾッコンだって事だけは・・・。










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