EDEN'S EYES


その1






商人のウソップは、街から家に帰る途中、道を間違え、森の奥深く、迷い込んでいた。

「・・・・・ここは、何処なんだ。 やはり、道を間違えたか。 早く、早く家に戻らないと・・・・・

子供達が・・・・・・・・・・ きっと、皆、私の帰りが遅いので、心配しているはず。 うわっ!!」

薄暗い森の中で、ウソップは、足を踏み外し、崖から落ちて、そのまま、気を失ってしまった。

次の朝、ウソップが目を覚ますと、そこは、見たこともない部屋だった。

ウソップの腕には、包帯が巻かれ、誰かが、手当してくれたようだった。

「・・・・・・こうしてはいられない。 一刻も早く、家に帰らないと・・・・・・・あの子が・・・・・

一番末のあの子が、どんなにか、私のことを心配しているだろう・・・・・・・」

ウソップは、そう呟いて、その屋敷を出る。








ウソップには、可愛くて、美しい子供が、3人いた。

長女のアルビダ。 流れるような美しい黒髪を持つ、地元でも評判の美しい娘だ。

次女のナミ。 キュートで活発で、オレンジ色の髪の毛の、誰からも好かれるとても

頭のいい娘。

・・・・・・そして、末の息子のサンジ。 3人の中でもひときわ美しく、金色の髪の毛と

蒼い瞳を持つ、亡くなった最愛の妻に、一番そっくりで、一番心優しい子。

ウソップが、遠い街に出かけると聞いて、一番心配したのが、サンジであった。

ウソップが、お土産が、何が良いか3人の子らに尋ねても、サンジだけは、ウソップが、

無事に帰ってくれたら、それで良いと、何一つ、欲しいモノを言わなかった。








外に出たウソップは、目の前の景色に目を奪われる。

「・・・なんて美しい花園だろう・・・・・・・・」

そこには、ウソップが、今まで見たこともない美しい花々が、咲き乱れ、そよそよと風に

そよいでいた。

(そうだ、あの子には、お土産を買ってきていない。 この花を、あの子に持って帰ったら、

どんなに喜ぶだろう・・・・)

ウソップは、目の前に咲いていた花をそっと、手折った。

「その花に触れてはいけない!!」

ウソップの後ろから、怒鳴り声がした。

「ヒッ。 ・・・・・・すみません。 子供の喜ぶ顔が見たくて、つい・・・・・・・」

ウソップの中には、手折られた花が1輪、揺れている。

「私は、この花園の管理人。・・・・・・・・ここは、神々の花園。 ・・・・・・・その花を手折った

者は、神の罰をその身に受けなくてはならない。 見たところ、お前は、ただの人間。 

神の雷をその身に浴び、一瞬にして、お前の命は、消し去るだろう・・・・・・・・・。」

花園の管理人は、ウソップにそう話す。

「ヒエッ!! そ、それだけは、ご勘弁を・・・・・・・・・・・・もし、私が、このまま家に帰らなけ

れば、可愛いあの子達が・・・・・・・・あの子達が頼れるのは、私しかいないのです。

どうか、お願いです。 この花は、お返ししますから、どうか、私を家に帰らせて下さい。 

お願いです・・・・・・お願いします・・・・・・・・」

ウソップは、管理人にすがりつき、懇願する。

「・・・・・・・・・お前には、子供がいるのか? しかし、一度手折られた花は、二度とは元に

戻らない。 ・・・・・・・・・神の罰は、受けなければならない。 ・・・・・・・・・・・・しかし、

お前を助け、この花園に連れてきた私にも、責任はある。 ・・・・・・・どうだろう・・・・・・・

お前の代わりに、私が、神の罰をこの身に受けよう。 心配しなくても良い。 私は、

死ねない身体なのだ。 その昔、禁を犯し、禁断の果実をその口にしたとき

から・・・・・・・・・・・・・・・・・この呪われた身体と共に・・・・・・・・・・・・・

私は、ここで、ずっと、この花園を管理し続ける運命を背負った者だから・・・・・・・・・・・

しかし、死なないと言っても、神の罰は、3日にも及び、さすがの私でさえ、歩くことはまま

ならぬ・・・・・・・・・・だが、その間、この花園を枯らすことは出来ない。

その代わりに、私の代わりに、この花園の世話をする者を一人、ここに寄越して欲しい。

・・・・・・・・・どうだ。 約束できるか?」

管理人は、ウソップが不憫に思われて、そうウソップに、提案した。

「はい! お約束します! 必ず、代わりの者をこちらに寄越します。 ですから・・・・・・」

ウソップは、管理人の提案に一も二もなく約束すると、先程手折った花を管理人に差し

出した。

「・・・・・・この花は、お前を待っている子供にやると良い。 ・・・・・・・・・・では、明後日、

その者を迎えに来る・・・・・・・・」

そう言って管理人は、その姿を異形なモノに変え、ウソップを、住んでいる町の近くまで、

送った。

ウソップは、慌てて、家に帰り、子供達に、無事会えたことを心から喜んだ。

・・・・・・・そして、先程の約束を、子供達に話して聞かせる。

「嫌よ! ・・・・・・そんな恐ろしい化け物が、管理するような花園なんて・・・・・・・・

絶対に、私は、嫌っ!」

アルビダは、ウソップからお土産に頼んでいたドレスを貰うと、そう言い放つ。

「お姉さんの言うことももっともだけど・・・・・・・・・お父さん、お約束したんでしょ??

・・・・・・・・怖いけど・・・・・・仕方ないわ。 あたしが、その花園に、行ってあげる。」

次女のナミは、そう言って、ウソップから、お土産の本を貰った。

「ナミ姉さん! そんな恐ろしいところに、ナミ姉さんを行かせるなんて、できない!

父さん! 俺が、俺が、その花園に行くよ。 ・・・・・・その花、俺のために、

手折ってくれたんだろ? ・・・・・・・綺麗な花だ。 ・・・・・・・こんな綺麗な花を育ててる

奴だもの。 ・・・・・・それに、父さんの命の恩人だ。 ・・・・・・・・きっと、優しい奴だよ。

俺が、その花園に、行く。」

サンジはそう言って、ウソップの手から花を受け取ると、花瓶にさして飾った。










翌日。

約束通り、花園から迎えが来て、サンジは、その花園に着いた。

綺麗な花が咲き乱れ、サンジは、この世のモノとは思われないその美しい景色に

瞳を奪われ、しばし佇む。

その花園に、無心に花に水をやる人物を見つけた。

サンジは、早速、その人物に近づき、声を掛ける。

「俺は、サンジ。 ・・・・・・約束通り、これから、あんたの代わりに、この花園を世話を

精一杯させてもらいます。 もしよかったら、あんたの名前を、教えて貰えますか?」

「・・・・・・私の名は、ゾロ。 ここの管理人だ。 お前には、明日から、この花達の世話を

お願いする。 水は、近くの泉から汲み上げ、屋敷の前に毎朝、置いておく。 私が、神

の罰を受ける3日間、くれぐれも、花を枯らせないように・・・・・・よろしく頼む。

・・・・・・・そして、私の部屋には、決して近づくな。 いいな。」

ゾロはそう言って、振り返り、サンジに瞳を向ける。


神々の花園に祝福されるように、舞う花びらの中に、金色の髪の毛が、サラサラと流れる。

透き通るような蒼い瞳は、ゾロに、その昔、自分が追放された楽園を思い起こさせる。

・・・・・・・・・・もう二度と帰れぬ、遙か彼方の楽園の・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・部屋は、一番奥の部屋以外なら、自由に使って良い。 今日は、疲れただろう

から、ゆっくりするといい。」

ゾロはそれだけ言うと、水を汲みに、近くの泉に向かう。


・・・・・・・・・あいつ・・・・・・・・何であんな悲しそうな瞳で・・・・・・・・・・俺を見るんだ。

あんな悲しい瞳・・・・・・・・・俺は見たことない。 

きっと、心に深い傷を負っているんだろうな。 

・・・・・・・・・・ここは、綺麗だけど・・・・・・・・・・・・一人では、寂しすぎる・・・・・・・・・・

「・・・・・・・あいつは、ずっと、ここで、一人で、住んでいたのかな。」

サンジはそう呟いて、屋敷に向かった。














「あ〜あ、何にもすることがないから、とりあえず、ご飯でも作るか。」

サンジは、そう言って、食事の用意を始めた。

辺りが夕闇に染まり、屋敷からいい匂いが漂ってくる。

「よし、できたっと。 あとは、あいつが帰ってくるのを待つだけ・・・・・」

サンジは、テーブルに食器を並べて、イスに腰掛け、ゾロの帰りを待った。

暫くして、ゾロが帰ってきた。

「お帰り、ゾロ。 俺、ご飯作って待ってたんだ。 一緒に、食べよう。」

そう言ってサンジがゾロの手を引っ張り、テーブルに着かせる。

「あ、ああ・・・・・・」

ゾロは、初めてのことにとまどいながら、サンジに言われるまま、イスに腰掛けた。

サンジは、嬉しそうに、料理をテーブルに並べると、ゾロに食べるよう進める。

「・・・・・美味い。 ・・・・・・・・・・・・こんな美味しいモノは、初めて食べる。」

「だろ?! へへへ、俺、料理の味はいつも、皆に誉められるんだ。」

ゾロに美味しいと感想を言われ、サンジは、にっこりを笑った。

その笑った顔を、ゾロは暫く見つめる。

サンジの心遣いに、ゾロは、心が温かくなるのを感じた。

胸がジーンとと熱くなる。

「・・・・・・本当に、美味いよ。 サンジ、ありがとう。」

ゾロは、そう言って、にっこり笑った。

「・・・・・・・・なんだ、笑えるじゃん。 俺、初め、ゾロのこと、凄く怖い奴だと思ってた。

怖くて・・・・・・・寂しそうで・・・・・・・・・・」

「?俺が、寂しいだと??」

ゾロは、サンジの言葉に驚いて、そう呟く。

「ああ、ゾロ。 あんたの瞳は、凄く寂しそうだ。 ・・・・・・あんたの瞳見てると、俺、何とか

してやろうと思いたくなるんだ。 ・・・・・・初めてあった奴なのに・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・なんか、嫌なんだ。 ・・・・・・・・・辛いんだ。 ・・・・・・俺に出来ることが

あったら、言ってくれよ。 俺、あんたの力になりたいんだ。」

サンジは、真剣な瞳でゾロにそう言った。

サンジの言葉に、ゾロの心は、激しく揺らいだ。


・・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・求めては・・・・・・・・・いけない・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・俺に構うな。 その気持ちだけで充分だ。 お前は、後4日後には、家族の元に

帰れる。 ・・・・・・・その間だけ、この花園の花の世話をしてくれるだけで良い。

・・・・・・・・・そろそろ時間だ。 先に寝てて良いぞ。 ・・・・・・・・それから、光を見ても、絶対

に、近づくな。 わかったな。」

ゾロはそう言って、屋敷を出ていった。

「・・・・・あいつ・・・・・・何処に行ったんだ?」

サンジがそう呟いて、キッチンの窓から外の景色を眺めると、山の頂上が光に包まれて

いる。

山頂は、暫く光り輝いていたが、そのうち、また夜の闇に消えた。

「・・・・・・・・・凄い光だったな・・・・・・・・・・一体、何の・・・光だろう・・・・・・・・・」

サンジがそう言って、自分の部屋に入ろうとしたとき、ゾロが、血だらけになって帰ってきた。

「おい、大丈夫か? 一体どうしたんだ!」

サンジは慌てて駆け寄る。

「来るな!! 俺に構うなと言ったはずだ。 ・・・・・・・・・・・転んだだけだ。 さっさと寝ろ。」

ゾロはそれだけ言うと、自分の部屋に入り、鍵を掛けた。

「・・・・・・・ゾロ・・・・・・・・」

自分の無力さに、サンジは、キュッと唇を噛んだ。










・・・・・・・・・・・・・・やめてくれ。 

・・・・・・・・もう、俺に構うな。 

・・・・・・・・これ以上、サンジの心に触れたら・・・・・・・・・・

・・・俺は・・・・・・・・・・・・お前を返せなくなる。

・・・・初めてサンジを見たときから・・・・・・心惹かれていた・・・・・・・・・・

・・・・・・もうすぐ、いなくなるとわかっている者を・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・サンジと俺とは、住む世界が違う・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・それがわかっているのに・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・俺の心は、こんなにも、サンジを求めてしまう・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・俺には・・・・・・・・・・・許されない。


ゾロはそのまま、傷の痛みと心の痛みに、気を失った。














   
<next>    <kiririku−top>    <map>


 


<コメント>

『美女と野獣』パートU・・・・・・
そう、ロロ誕部屋に置いてあるモノと同じコンセプトで書き始めたもの・・・・・
はあ・・・・・・もう・・・・参った。
はてさて、サンジの親父が、ウソップかい!(笑)
アルビダ姉さんにナミ姉さん。 ははは。もう笑うっきゃないね・・・・(-_-;)
それでは、続きを、どうぞ!!