LOVE ME×ラブミー



その1






アーロンパークの激闘を終え、ローグタウンを奇跡的に脱出したゴーイングメリー号のクルー

達は、一路、グランドラインに向けて航海をしている。













・・・・・・クッ・・・・・この匂いは・・・・・・・・




船尾で、昼寝をしていたゾロは、鼻につく匂いに、眉間にしわを寄せる。

漂ってくる匂いは、甘いお菓子の独特の香り。

甘いモノを苦手とするゾロには、この匂いが、大の苦手。

加えて、これから自分の身に起こるであろう事を考えると、眉間にしわが刻まれるのも、当然

のことと言えるだろう。

ゾロが、その場から逃げようかどうしようか考えている間に、その災難の元が、コツコツと

足音をさせて、やって来た。

「ゾロ! ゾ〜ロvv おやつ持ってきたぞvv 今日は、生クリームたっぷりのフルーツ

ロールだ。 ほらっ、食えよ。」

そうゾロに言って、にっこりと笑っているのは、コックのサンジ。

ゾロの災難の元だ。

別にサンジは、ゾロに嫌がらせをしているわけではない。

それどころか、ココヤシ村での祭りの夜に、ゾロに、

『俺は、てめえに一目惚れだ! 好きだーっ!!』

と、人がたくさん居るにも関わらず、そう宣言し、暇さえ有れば、『好きだからvv』の理由で、

ゾロのそばに寄ってくる。

いきなり、しかも男に、好きだと言われてハイそうですかと思う奴は、いない。

ましてや、そんな恋愛感情や、人付き合いをめんどくさいと考えているゾロにとっては、迷惑

以外の何ものでもなかった。

無視すれば、無視するなと、怒って蹴りを繰り出すし、ハイ、ハイといい加減な返事で済ます

と、調子に乗って、抱きついてきたりする。

思えば、あのことが、今回の災難を呼び起こしたと言っても良いだろう。

ココヤシ村を離れて、ナミとサンジが、仲間になったお祝いと称して、船で、パーティーが開

かれた。

その時、お祝い事には、これが付き物だと言って、サンジが、特大の生クリームケーキを作っ

て、皆に振る舞った。

ゾロは、見るのも嫌だったのだが、仲間になったばかりのサンジに、とりあえず気を使って、

そのケーキを受け取り、サンジが、キッチンに入っていったのを見計らって、ルフィに、ケーキ

を食べて貰った。

「美味かったぜ。 ごちそうさん。」

ゾロは、ルフィーが綺麗に食べた皿をサンジに渡して、酒を飲んだ。

別に、ケーキが美味しかったなどと言ったつもりは、ゾロにはなかった。

自分が食べなかったのが気が引けて、日頃は言わないこの一言が、あとあとこのような災

難を呼ぶとは、その時は、知らなかったのである。

初めて、ゾロに美味しいと言われたのが、ケーキだと、そう思いこんだサンジは、ゾロが、

甘いモノが好きだと思いこんで、こうやって、おやつになると、ゾロのところに、甘いモノを

運んでくるのだ。

好きな人に、好きな物を美味しく食べて貰う。

コックのサンジの愛情表現は、ここから始まっている。

ゾロは、サンジから、ケーキののった皿をとりあえず受け取ると、その甘い匂いに、眉間に

いっそう深くしわを刻む。




うぐっ・・・・・・この胃もたれしそうなほど甘い匂いが・・・・・・

・・・・・・やっぱり、ここままじゃいけねえよな・・・・・・・

・・・・・・甘い物は、食わねえと、そうサンジに、言っちまった方が良いよなあ・・・・・

・・・・・・よしっ! 今日こそは、言おう!




「あ、あのな、サンジ・・・・・」

ゾロは、いい加減、限界を感じて、サンジに、そう話しかけた。

「ん? 何だ、ゾロ? へへへ、今日のは、俺、自信作なんだ〜vv 早く食ってみろ

よ。」

甘い物が、好物だと疑わないサンジは、ニコニコと満面笑顔で、ゾロの顔を見つめている。

その瞳は、無邪気な子供の瞳そのもので、ゾロは、その後に続いたであろう言葉を、ケーキ

と共に、胃の中に、飲み込んだ。




だーっ!! 甘めえ・・・・・甘めえよ・・・・・・

・・・・・口の中が・・・・・うがあ・・・・・・酒飲みてえ・・・・・・

・・・・・俺・・・・・・すげえ、良い奴じゃねえか・・・・・・

・・・・・クソッ、あんな瞳で見られたら、とてもじゃねえが、食えねえなんて・・・・・

・・・・・誰だって・・・・言い出せるわけねえよな・・・・・

・・・・・それにしても・・・・・甘めえっ!!

・・・・・クッ・・・ダメだ・・・・・・酒・・・・・酒だ・・・・・・




ゾロは、青ざめた表情で、サンジに皿を渡すと、一目散にキッチンに走って、辛口の酒を手に

取り、喉に流し込む。




・・・・・ふーっ・・・・・やれやれだぜ。

・・・・・全く、食事は、俺にあわせて作ってくれるのはありがたいが・・・・・・・

・・・・・これだけは・・・・・・勘弁して欲しいぜ・・・・・

・・・・・けど・・・・・・なんで、俺、こんな目に遭いながら、サンジに気を使ってんだ?

まっ、仲間だからな・・・・・・しょうがねえ・・・・・よ、な?




ゾロは、自分のとった行動に、不可解さを感じたが、あまり深く考えるのは、不得手なので、

そのまま考えないことにした。

口の中から、甘い味が無くなって、ほっとテーブルで、一息吐く、ゾロ。

「もう、ゾロってば。 そんなに急いで、キッチンに来ても、ロールケーキは、もう無え

ぞ。 さっき、ルフィが、全部、食っちまったからな。 ・・・・でも、そんなにゾロが気に

入ったんなら、今からでも、作ろうか?」

サンジは、そう言って、にっこりと笑った。

「・・・・・人の気も知らねえで・・・・・はあーっ・・・・・」

ゾロは、そう呟くと、大きなため息を吐いて、テーブルの上に俯す。

もう、言い返す気力さえない。

「なあ、なあ。 明日は、どんなおやつが良い? 今日みたいなケーキが良いか? 

それともカスタードクリームをクレープ巻にして、間に、フルーツ入れた方が良いか

な??」

サンジは、そう言いながら、俯せているゾロの隣に座って、スリスリと猫のようにすり寄ってく

る。

ゾロの方は、明日のことを想像するだけで、げんなりとなる。

そんなとき、ふわっと、サンジの身体から、甘ったるい匂いが漂ってきた。

「そばに寄るんじゃねえっ!!」

ゾロは、つい耐えかねて、そう大声で、サンジに怒鳴った。

「・・・・・ふっ・・・ぇ・・・・ゾロ・・・・・怒った・・・・ゾロが・・・・ふぇ・・・・」

サンジは、そう言って、子供のように、ポロポロと涙を流し始める。

グスグスと鼻をすすり、まるで、19歳とは思えない泣き方だ。




・・・・・・こいつは・・・・・・一体、どんな育てられ方したんだ?

・・・・・・あーっ、もう・・・・・・クソッ。




「すまねえ、強く、言いすぎた。 悪かった、サンジ。」

ゾロは、そう言って、サンジの肩を抱いて、ポンポンと宥めるように、背中を叩く。

「・・・ゾロ、もう、怒ってねえ? ヒック・・・・・・俺、そばにいて良い?」

サンジは、泣きじゃくりながら、ゾロにそう言った。

「ああ、もうどうでもいいから、泣き止んでくれ・・・・・もう・・・・勘弁してくれよ・・・・・」

「うんvv ゾロ・・・・やっぱり、ゾロ、好きだーっ!!」

サンジは、瞳に涙を溜めて、それを手で拭うと、ギュッとゾロに抱きつく。

第二の虚脱感が、ゾロを襲った。




・・・・・・もう・・・・・本当に・・・・・勘弁してくれ・・・・・・

・・・・・・ルフィには悪いが・・・・・・俺・・・・船、降りようか・・・・な・・・・

・・・・・・誰か・・・・・・代わってくれ・・・・・頼む・・・・・




ゾロは、心底、己の身の不幸を嘆いた。

隣には、ゾロの名を呼びながら、腕を組んで離れないサンジの姿・・・・・




・・・・・こんなんで、戦闘になったら、人が違うみてえに、強ええんだから・・・・・

・・・・・しかし、本当に、線の細い奴だな・・・・・・

・・・・・この細さで、あの蹴りが、繰り出されるってんだから・・・・・不思議だよな・・・・・

・・・・・身体だって・・・・・俺の胸にすっぽり、入り込めるんじゃねえか?





ゾロは、そんなことを考えているうち、無意識にサンジを胸に抱きしめていた。




・・・・・なっ。

・・・・・やっぱり、そうだった。

・・・・・すんげえ、細い腰だ。

・・・・・ナミより細くねえか?




ゾロは、サンジの腰に手を回して、自分の考えに間違いがなかったことを確認した。

「・・・・あっ・・・・あのな・・・・ゾロ・・・・・気持ちは嬉しいんだけど、まだ、昼だ

し・・・・・・・・・・俺・・・・・まだ、これから、夕飯の用意とか・・・・・」

「うわっ!! あっ、すまん、つい・・・・・」

サンジが、モジモジして、ゾロの耳元でそう囁く声に、ゾロは、我に返る。

ゾロは、慌ててサンジの身体を引き離すと、そのまま、キッチンを出ていった。

「チェッ、なんだ、ゾロの奴・・・・・俺・・・・・キスぐらいなら、しても良かった

のに・・・・・」

サンジは、残念そうに、そう呟いた。












++++++++++++++++



・・・・・次の日・・・・・

サンジは、また、ゾロのところへ、おやつを持って現れた。

「ゾロvv ゾ〜ロvv 今日は、クラッシックショコラだぞ。 てめえが、甘い方が好きだ

と思って、ビターチョコじゃなくて、スウィートチョコで作ってみた。 ほら、食えよvv」




・・・・・・今日は、チョコケーキか?

・・・・・・これも・・・・・・ゲロ甘そうな匂いだぜ・・・・・

・・・・・・うっく・・・・・・見ただけで・・・・胃が凭れてきた・・・・・

・・・・・・ダメだ・・・・・・食えん・・・・・・

・・・・・・捨てよう・・・・・・海に・・・・・捨てよう・・・・・・

・・・・・・サンジには、悪いが・・・・・

・・・・・・食べ物を粗末にするのは、気が引けるが・・・・・・

・・・・・・これ以上は・・・・・・俺の身がもたん・・・・・・




「ああ、そこに置いといてくれ。 ・・・・・・あとで、食うから・・・・・・」

ゾロは、青ざめた顔で、サンジにそう告げる。

サンジが、その場を離れた隙に、海に、ショコラを投げ捨てようと、考えたのだ。

「わかった。 じゃあ、食べたら、キッチンに、皿、持ってこいよ。」

サンジは、そう言って、キッチンに戻っていった。

「・・・・あっ、俺、ショコラに生クリーム、添えるの、忘れてた。 持って行こうっ

と・・・・」

サンジは、キッチンに戻って、生クリームを添えてないことを思い出し、慌てて、またゾロのい

る船尾に向かう。

「ふーっ・・・・・今の内に、捨てる・・・か・・・・・」

ゾロはそう言って、立ち上がる。

そこへ、ウソップが、やって来た。

「よう、ゾロ。 なにしてんだ? お前、いつから、甘党になったんだ? サンジが、

この船に乗ってからというもの、ずっと、おやつ食べてるよな? 前は、甘い物は、

食わねえとか言ってたくせに・・・・・ おっ、そうか! とうとう、観念して、サンジと

付き合うことにしたのか。 まあな、恋人が作った物は、たとえ、口に合わなくても、

食ってやるのが、愛情だもんな。 うん、うん。 俺は、感動したぜ。 さすがの、魔獣

ロロノア・ゾロも、愛する人には、勝てねえよな・・・・」

ウソップは、一人ごちて、べらべらと喋り続ける。




・・・・・・この阿呆が・・・・・・

・・・・・・人の気も知らねえで・・・・・




ウソップの自分勝手な言葉に、ゾロは、プチッとキレた。

「ふざけんじゃねえ!! だれが、恋人だァ?!  いい加減にしろよ!!てめ

え・・・・・さっきから、ぐたぐたと勝手なこといいやがって・・・・・俺だってなあ、これ以

上、こんな甘いもん、見たくも、食いたくもねえんだよっ!! てめえに、俺の苦しみ

がわかるかってんだっ! 俺にとっては、苦痛以外のなにものでもねえんだよっ! 

サンジは、俺にとって、迷惑以外のなにものでもねえっ!!」

ゾロは、ウソップの胸ぐらを掴んで、そう一気に、捲し立てた。

「お、おい! ・・・・・ゾ、ゾロ・・・・・後ろ・・・・・」

ウソップは、ゾロの剣幕に怯えながらも、ゾロの背後を指さす。

「あん? なんだよ・・・・・・」

ゾロは、そう言って、ウソップの指さす方向を振り返った。

そこには、生クリームを持ったサンジが、黙って立ちすくんでいた。

「・・・・・・サンジ・・・・・」

ゾロは、思わず、持っていた皿を甲板に落とす。

パリンと音を立てて、皿は砕け散り、ショコラは、ぐしゃりと潰れた。

「ははは・・・・なんだ、ゾロ。 早く、そう言ってくれてたら、良かったのに・・・・・

俺・・・・知らなくて・・・・・ゾロが、そんなに嫌いだったなんて・・・・・知らなくて・・・・ 

ごめんな、俺・・・・・・迷惑だったんだな・・・・・・ごめんな、ゾロ・・・・・・・俺・・・・・

もう、迷惑掛けねえように・・・・・・するから・・・・・・ごめん・・・・・・

ごめんな、ゾロ・・・・・・」

サンジは、そう言って、にっこりと笑った。

そして、そのまま、キッチンに戻っていった。







 
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<コメント>

今回は、ぶっ飛んだサンジで、お届けしています。
完全なサンジの片思いですね・・・・・・
さて、そうなることやら・・・・・・(-_-;)
こんなサンジ、絶対19歳じゃないですね。(笑)
では、続き・・・・・いってみますか・・・・・・