Here I am


その1.



 




只今、ゴーイングメリー号は、とある港町に停泊中。

クルー達はログが貯まるまで船番を残し、それぞれ別行動と相成った。

っで、いつもの如く船番を買って出たのは、この二人・・・。

「・・・・なぁ、ゾロ・・・・飯、どうする?」

甲板に寝そべっているゾロに、サンジがそう言って近づいてくる。

「んあ? ・・・・・なんでも良い・・・。 ふぁ〜・・・。」

ゾロはそう言うと、大きく伸びをした。

「ケッ! 出たよ・・・・『なんでも良い』が。 どうせ、てめえは腹が満たされりゃなん

でも良いんだよな・・。 てめえに聞いた俺が、馬鹿でした! あーもう、作り甲斐が

ねえ奴・・・」

いつもの事とはいえ、そっけないゾロの態度に、サンジはそう言うと踵を返しキッチンに向か

う。

それを見て、ゾロの方も、ゆっくりと立ち上がりサンジの背後に近づいた。

「・・・・・あのなぁ・・・。 何でも良いとどうでもいいは、全然違うだろ・・・。 ったく、

一から十まで言わせるなよな。 てめえの作るもんだから、なんでも良いってそう言

ったんだ。  わかれよ、そんくらい・・・。」

ゾロはサンジの腕を掴み自分の方に振り向かせ、照れくさそうにそう言って抱きしめる。

ドクン・・・

サンジの心拍数が急激に上昇した。




そんなの・・・・・・・・言ってくれなきゃわかんねえよ・・・馬鹿ゾロ。




そんな些細な言葉に、嬉しくて顔がにやけそうになる自分をゾロには知られたくなくて、サンジ

は慌てて悪態を吐く。

「うわっ!! 何すんだよ! このクソ剣士!! 離れろよ!」

しかし、言葉で言う程には、嫌がった風もなく、サンジは、赤くなった顔をプイッと横に背けただ

け。

ゾロは、そんなサンジに苦笑しながら、甲板の縁にサンジを抱きかかえ腰を下ろした。

「どうせ、暇なんだ。 まだ、飯作るには早いし・・・なっ?」

ゾロは、やや低い声でサンジの耳元でそう囁く。

「ゲッ! ちょ、ちょっと、まだ陽が高えだろ!! 冗談じゃねえぞ!! 俺、やだ! 

まだ、仕込みも・・・!!」

サンジは、ゾロの声に真っ赤になってゾロの腕から逃れようと身を捩った。

「ククク・・・。 ばぁーか。 なに期待してんだよ・・・? 暇だから昼寝でもしようと、

そう思っただけだぜ? それとも、別な事、期待したのか?」

そう言って、ゾロがしたり顔でサンジの顔を見てにやりと笑った。

自分の心を見透かされたサンジは、悔しいやら恥ずかしいやらで、いつものように滑らかな口

調を取り戻せない。

「馬、馬鹿野郎!! てめえ!!それならそうと・・・」

「ハイハイ・・・わかったら、少し休めよ。 てめえ、ずっと休んでねえだろ・・。 誰も

いねえ時ぐらい、休め・・・。」

自分を恨めしそうに睨むサンジに、ゾロは苦笑しながらサンジの頭をポンと小突く。

ふわっと、サンジの心が温かくなる。




こいつは・・・・いつも、そう・・・。

粗雑で、何も考えてねえような面してて・・・・

さりげなく優しい・・。

それが、俺を参らせているって事・・・・

こいつ、絶対にわかってねえだろうな・・・。




「・・・・・・・・そんなに言うなら、休んでやろうじゃねえか。」

サンジはそう言って、わざとふてぶてしくゾロの膝から退くと横に座り直す。

「・・・・なんなら、そのままでも良かったんだが・・?」

口角を上げそう言うゾロに、サンジは耳まで真っ赤になって俯いた。

・・・・と、次の瞬間、

「ばっか野郎!! んな恥ずかしい事できるかよ!!」

そう叫んだサンジの右足が、ゾロの顔にめり込む。

「ッ・・・・痛えーーっ!! てめえ、照れ隠しに蹴るなよな!!」

「いいから、肩貸せよ! 俺も寝る!」

サンジは、ゾロの言葉にふてくされたようにそう言うと、肩に頭をつけて瞳を閉じた。

直に、肩口からスースーと規則正しい寝息が聞こえ始める。

ゾロは、フッと柔らかな微笑を浮かべ、そっとサンジの髪を掻きあげ、自分も眠りについた。













その夕方・・・・。

「ふぁ〜・・・よっく寝た・・・。 さってと・・・そろそろ夕食の用意でもするか・・・。」

サンジは大きく伸びをして、スッとゾロの身体から離れる。

「・・・ん・・・? なんだ、もう起きたのか・・・?」

身体から離れる気配を察し、ゾロも片目を開けた。

「ああ。 サンキューな、ゾロ。 てめえのおかげでゆっくり休めたぜ。 その礼に、

てめえの好きなもん作ってやっから、リクエストあるなら言ってみろよ・・?」

ゾロの気遣いがよほど嬉しかったのか、サンジはそう言って珍しく上機嫌に微笑む。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なら、てめえ・・。」

ゾロは、しばしの沈黙の後、唐突にそう返事した。

ゾロの言葉に反応して、サンジの右足が空を切る。

ドカッ!!

「人が久々に優しく言ってりゃ、なに抜かしてやがる!このエロ剣士!!」

サンジは、言う前に蹴りをゾロの腹に決め、食材を取りにさっさと倉庫へ向かった。

甲板に残されたのは、腹を押さえて蹲るゾロ、ただ一人。

「ッ・・・・痛え・・・。 あの足癖の悪さは、なんとかならねえもんかね・・・? 照れる

度にこれじゃ、俺の身がもたねえよ・・・。」

そう呟いて、ゾロは蹴られた腹を押さえ、サンジの後姿を見送った。

「ったく・・・何考えてんだ、あのクソ剣士は・・・!!っつうか、あそこで、真顔で言う台

詞かよ。 本当、恥ずかしい奴・・・。」

サンジは頬を紅潮させ、ぶつぶつと文句を言いながら、食材を選ぶ。




しっかし、俺も、なんだかんだ言いながら、あいつの好みそうなもん選んでるよなぁ・・・。

愛情とは、かくも不思議で奥深い・・・。

っつうか、俺、ちょっぴり幸せモード??




自然と笑みがこぼれてくる。

そこへ、倉庫に誰かが入ってくる気配がした。

「あん? なんだ?まだ、なんか用があるのかよ・・・?」

そう言って振り向こうとしたサンジの頭から、鈍い音がした。

ぐらりとサンジの見ている景色が揺らぐ。




クソッ!油断した・・・。




サンジは舌打ちをしながら態勢を立て直すと、その気配めがけて蹴りを放った。

「ガハッ!!」

見たことも無い男が、床に沈む。

「クソッ! なんだ、なんだ・・?? せっかく人が幸せモードでいる時に限って・・・

ん・・?」

サンジは、甲板の気配が異様なのに気が付き、慌てて倉庫を飛び出した。

甲板には、ざっと数えて20数名ほどの屈強な男達が見える。

「・・・・・なるほど・・・・・・無用なお客さんね・・・。」

「おい、サンジ、無事か?」

船尾でその男達の相手をしながら、ゾロがサンジにそう声を掛けた。

「ああ。 ったく、かったるいから、さっさと片付けちまおうぜ? 飯の準備が遅くなっ

ちまう。」

サンジは、ポケットから煙草を取り出すと口に銜え、男達に次々と蹴りを繰り出し船外に放り

出す。

「おう! 俺も腹が減ってきた。 さっさと片付けるか・・・。 龍・・・・・・・巻・・・!!」

ゾロも、そう返事して、その男達を一掃した。

男達は、その二人の強さの前に千々に逃げ去っていく。

「ったく・・・実戦修行にもなりゃしねえ。 さて・・・飯にしようぜ・・?」

ゾロはそう呟いて、サンジの頭に手を触れた。

「痛っ!!」

殴られた部分を触れられて、サンジの顔が苦痛に歪む。

「あ? てめえ怪我してんのか? 大丈夫か? どれ、見せてみろ・・・。」

サンジの表情を見てゾロが慌てて、サンジの頭を覗き込んだ。

「お、おい。 大丈夫だって・・・。 ちょっと殴られただけだ。 それより、腹減ってん

だろ? すぐに用意するから・・・。」

サンジはそう言うと、ゾロの身体をすり抜けてキッチンに向かう。

その様子にいつもと変わらないのを確認してゾロは、ホッと胸を撫で下ろした。

「ちゃんと後で、チョッパーに診て貰えよ・・・。」

ゾロは、サンジにそう声を掛け、甲板の残骸を片付け始める。

サンジは、照れくさそうに片手だけあげて、そのままキッチンに入っていった。

「さてっと・・・この位の加減で良いかな・・?」

サンジは、いつものようにシンクに立ち、料理の味見をする。

「・・・・・・・・・? ??ん?・・・・・・」

サンジは、小皿に入ったスープを口に含み、首を傾げた。




・・・・・・・おかしい・・・。

スープが・・・・・スープの味が・・・・・・・しねえ・・・。




サンジは、狐につままれたような気分で、もう一度スープを口に流し込む。

それでも、サンジの口の中にスープの味はしなかった。

ガシャン・・・!!

サンジは慌てて、調味料入れの棚に手を伸ばし、片っ端から掌にのせて舌で舐める。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで・・・だ・・・?」

呆然と、調味料を見つめるサンジ・・・。

「・・・・・・・・・これの・・・・・・せいか・・・?」

サンジは、腫れ上がった後頭部にそっと触れる。

サンジは、以前、聞いた事があった。

事故で頭を打ち、味覚を失くして一流ソムリエとしての人生を失った男の話・・・。

「はは・・・・・。 まさか・・・・・・・だよ・・・・な・・・・・?」

震える指先で必死に煙草を銜え、火をつけようとする。

しかし、そんな簡単な行為でさえ、満足に出来なかった。

サンジの心に、絶望が忍び寄る。

「おい! どうした? 何ボーっとしてんだよ?」

不意にゾロの声が間近で聞こえた。

「あ、いや、なんでもねえよ。 ちょっと疲れただけだ。 もう少しで出来上がる・・・・

なんか飲んで待ってろよ・・・。」

サンジはそう返事して、慌ててスープの火を止める。




・・・・・・・・・・・・・・・・・こいつには、知られたくねえ・・・。




「ほら、出来たぜ? あんま時間無くて最高とは言い難いが・・・・・・さっ、食おう

ぜ?」

サンジは、平静を装いながらそう言ってテーブルに料理を並べた。









<next>



 


 


<コメント>

こちらは、凛様ののりクエストで、
【味覚障害を起こしたサンジ】という事でおおくりしています。
しっかし、前振りが長いよね・・・。(;一_一)
やっと本題に突入です。
では・・・・・続き・・・どうぞ!