Here I am 


その3.



 




翌日、他のクルー達も船に戻り、チョッパーは、サンジの状態を皆に説明する。

「フム。 ・・・・・・・また頭ぶつけたら戻るんじゃ・・・」

「「「「戻るか!!阿呆ーっ!!」」」」

「余計酷くなったらどうすんだ!!このボケ!!」

ルフィの一言に、クルー達が一斉に鉄拳と共にツッコミを入れた。

「・・・・一過性のものだと、あたしも思うわよ。 ここで、ずっとこうしてるわけにもいか

ないし・・・少し様子を見ましょう。」

「・・・・そうね。 味覚が無くなったとは言え、私達が作るより遥かに美味しいんですも

の、この食事・・・。」

ナミに賛同するようにロビンもそう言って、にっこりと微笑む。

「うっしっ! うんじゃあ、全然問題ねえな。 さあ、出航だ!!」

ルフィの言葉に、クルー達は早々に出航の準備を整え、港を後にした。

それから、皆、サンジの味覚の話に触れることなく、普段となんら変わらない日々を過ごして

いく。

サンジも、これ以上、皆に心配かけさせたくないと、普段と変わらない様に接していた。

それでも、皆が寝静まった夜になると、サンジは、一人キッチンのシンクに向かい、次々と

香辛料を口に含む。

「クソッ! なんでだよ!! なんで!!」

その度に、サンジは打ちひしがれていった。

ゾロは、その姿をそっと窓の外から見つめ、グッと唇を噛み締める。

口の中に広がる血の味さえ、ゾロには疎ましく感じられた。






そして、一週間後・・・・。

ようとして、味覚は戻らず、サンジは、日中もボーっとする事が多くなってきた。

クルー達もそんなサンジの様子が気に出したものの、口には出さず、そっと見守るしか出来な

かった。

そんな船内の事情を知る由もなく、敵船がゴーイングメリー号の前に立ちはだかる。

「敵襲!! 右舷前方から、大砲の弾が飛んできた!!」

見張り台にいたウソップが、そう叫んで皆に喚起を促す。

「うっしっ!任せろ!! ゴムゴムのぉ〜〜・・・」

ルフィは身体を大きく膨らますとその大砲の弾を弾き飛ばした。

「ゾロ!ルフィ!! 上空の空気が怪しいの! 短期決戦で望まないと・・・。」

ナミは、雲の動きを見ながら、ルフィ達にそう伝える。

「了解!ナミさん!! おい、ルフィ!ゾロ! 敵船に乗り込むぞ!!」

ナミの声を聞き、サンジがそう言ってルフィとゾロを呼んだ。

「あ、でも、サンジ君は・・・!!」

「ナミ! いいから黙ってやらせとけ!! 行くぞ、サンジ!ルフィ!」

ナミの言葉を遮り、ゾロはそう言ってサンジを促す。

「心配すんな・・・。 今のあいつは、なにも考えずに身体動かしていた方がいい・・。」

ゾロはナミにそう告げると、ルフィに捕まりサンジと共に敵船の真っ只中に飛び込んでいった。

「さあ、片っ端から片付けるか。 ナミさんがおっしゃったように、短期決戦! 行く

ぜ!ゾロ!ルフィ!」

サンジはそう掛け声を掛け、襲い掛かってくる敵を蹴散らしていく。

ゾロが言ったとおり、サンジにはなにも考えないで済むこの戦闘自体が、今の救いだった。

「飛ばしすぎて息切れすんなよ!」

ゾロは、サンジにそう言って、負けじと敵をなぎ払う。

3人の強さの前に、ものの数十分で戦闘は片がつき、船内に立つ人の姿は、3人以外なかっ

た。

「「うっし!! 終了!!」」

「んじゃ、戻ろうぜぇ〜〜。」

意気揚々とルフィがそう言って腕を伸ばし、サンジがナミの言いつけどおり戦利品を担いで、

ルフィの元に向かおうとした次の瞬間、突風が船を襲った。

「おわっ!!」

急なあおりを受けて、ルフィが、海に投げ出される。

「ルフィーーッ!! ゾロ!これ頼む!!」

サンジはゾロに戦利品を投げ出すと、すぐさま海に飛び込んだ。

折りしも、突風は戦闘で痛んだマストをなぎ倒し、サンジ達の方向へと折れ曲がった。

ルフィに気を取られているサンジは、そのことに気が付いていない。

「サンジ!!危ねえっ!!」

ゾロは、そう叫ぶや否や、倒れるマストの下に飛び込んだ。

ゾロの叫び声にサンジが反応した時には、マストはサンジの瞳の先。




ヤバい・・・・・・直撃だ・・・・!!




サンジは潜る事も忘れて、ルフィを庇うように身体を曲げ、瞳を閉じる。

「ッ・・・・・・なにしてる・・・・・・・・・・さっさと・・・・・あがって来いよ・・・・。」

苦しげなゾロの声がすぐ近くでして、サンジはハッと瞳を開けた。

そこには、マストを身体で支えたゾロの姿。

ポタリ・・・・またポタリとサンジの顔に、赤い血が滴り落ちる。

その血は、呆然としているサンジの口の中にも雫した。

「ゾロの・・・・・・・血・・・・・」

サンジは、口の中に広がる鉄の匂いに、ようやく我に返りルフィを船へと担ぎ上げる。

ゾロは、サンジが無事に船にあがったのを確認して、支えていた身体をマストから退けた。

「ゾロ!! 馬鹿!無茶しやがって!!」

すぐさま、サンジがゾロの傍に駆け寄る。

「ヘッ・・。 無茶はできる時にするもんだ。 傍にいてなにもできねえのは辛えから

な・・・・怪我はないか・・?」

ゾロはそう言って、サンジの顔を見てにっこりと笑った。

その顔を見て、サンジの鼻の奥がツンとする。

「ッ・・・・・馬鹿野郎・・・・本当に・・・・大馬鹿野郎だ・・・・てめえは・・・。」

サンジはそう呟いて、ゾロにしがみついてぽろぽろと涙を雫した。

「やっと・・・・・泣けたか・・・。 もう・・・・大丈夫だな・・。」

ゾロは、笑顔でそう言うと、サンジの頬に流れる涙を優しく指で拭う。

「馬鹿が・・・てめえのほうが、大丈夫じゃねえだろ・・・。 俺の心配なんかしてんじゃ

ねえよ。」

顔をぐしゃぐしゃにして、サンジがそうゾロに言い返した。




ばぁか・・・・その為に俺は、ここにいるんだよ・・・。




「心配・・・? ヘッ、誰がてめえに心配なんかするかよ。 ・・・てめえはそんな俺に心

配されるほど弱え奴じゃねえだろ・・・? さっ、長居は無用だ。 とっとと戻ろうぜ?」

ゾロはにやりと笑ってそう言うと、船頭で待つルフィの方に歩き出す。




・・・・・・ゾロ・・・・・サンキュー・・・・




サンジは、ゾロの背中にそう心で呟いて、その背中を追いかけた。

「馬鹿野郎、当ったり前だ。 てめえに心配されちゃあ、お終いだぜ。 俺が、てめえを

心配すんだよ!!」

サンジは先を行くゾロの肩を掴み振り向かせ、強引に口付ける。

「・・・・・・・・・てめえのキス・・・・・・・・・・・・・・・鉄臭え・・・・。」

「・・・・サンジ・・・・てめえ・・・味が・・・・?」

「ああ、もう直ったみてえだな。 やっぱ、一過性のもんだったんだな。 泣いて損した

ぜ・・。ほらっ、ぐずぐずしてると置いてくぞ・・・。」

サンジは、突っ立っているゾロにそう声をかけ、前を通り過ぎていく。




あんなに香辛料を舐めてもわからなかったのに・・・

こいつの・・・・・・血でわかるなんてな・・・。

全く、世の中わからねえ・・・・。







それを境に、サンジの味覚は、急速に回復していった。

「ナミさ〜んvv ロビンちゅわ〜んvv 今日の夕食は期待しててくださいね〜vv 

お二人の為にとびっきり、腕を揮いますからvv」

久しぶりに上機嫌なサンジの声が、キッチンから聞こえる。

「あのラブコックが・・!! ・・・あいつの場合、こっちの心配の方が、あったんだった

な・・・。」

ゾロはいつものように船尾の縁に座り、瞳からハートを飛ばしながらいそいそとナミとロビンの

為に創作料理に励んでいるであろうサンジの姿を想像し、眉間に深く皺をよせた。

暫くして、コツコツと聞きなれた靴音が近づいてくる。

その手には、料理をのせた皿と酒瓶・・・。

「・・・・・・・なんだ、ここにいたのか・・・。 ほれ、美味いぜ?味見するか・・・?」

そう言って満面な笑みで近づいてくるサンジの顔に、ゾロは素早く腕を伸ばし、その唇を塞い

だ。

「な、な・・・・・・ばっか野郎!! 誰が、俺の味見をしろって言ったんだよ!このエロ

剣士!!」

その言葉と同時に、ゾロの腹にサンジの蹴りが決まる。

「ガハッ!! いきなし蹴らなくても良いだろがっ!!」

「良いから食え!! ったく、今、てめえの相手してたんじゃ、俺の身がもたねえんだ

よ!!」

サンジはそう怒鳴ると、そそくさとキッチンに戻っていく。

「全ては・・・・元通り・・・。」

ゾロは、耳まで赤くなったサンジの後姿を見つめて、一人、苦笑した。

「てめえら!!夕飯だ!!」

ゴーイングメリー号に、今日も、元気な料理人の声がこだまする。










<END>




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<コメント>

ああ、やっぱ長いよね・・・。(-_-;)
うちのサンジは、やっぱ可愛く無くて・・・ごめんね、凛さん。<(_ _)>
けど、これがこいつらだと、ルナはそう思うのでした。(なんじゃそりゃ?)
今回のテーマは、『ゾロの血でサンジの味覚障害が治る!』(笑)
これが書きたかったのさ。
そのために、無益な戦闘を・・・ゲフゲフ・・・
ゾロの愛情の深さが出ていれば◎!
では☆