ロマンスの神様


その2







「はぁ・・・・良かったな。 社長も上司もあんな感じのいい人たちばっかで。」

「・・・・全くだ。 普通は、やっぱ、怒鳴られて下手すると、会社首になってるかもな。 俺達っ

て、良い会社に入社したよなぁ。」

「・・・同感。 けどよ、どうする? 今日、昼飯、社長達と同伴したんで、俺、てめえに驕って

ねえし。 借り作ったままじゃ気分がわりい。」

入社一日目を社長と共に過ごし退社した二人は、帰り道で、そう言いながら駅に向かう。

「てめえって・・・お前、本当に言葉使い悪いよな。 それでいて会社じゃ見事に言葉使い分

けてるし・・・ お前、もしかして二重人格??」

ゾロは、呆れ顔でサンジにそう言った。

「馬鹿言えよ。 俺は、元々上品なんだよ。 けどな、見た目が華奢に見られてナメられる事

が多くてな。 そうされねえ為の予防策だったんだが・・・・いつの間にか、この話し方の方が

普通になったというわけさ。」

サンジは苦笑しながらゾロにそう言う。

「ふ〜ん。 だよな。 お前、女みたいに綺麗な顔立ちしてるもんな。 それに・・・・」

「かっちーーん!! てめえ、俺が一番気にしてること言いやがって! ああ、そうだよ! 

俺は、痴漢にもあったことのある女顔だよ! あばよ! てめえなんか、二度と口利いてやる

もんか!!」

サンジは、顔を真っ赤にしてゾロにそう怒鳴るとスタスタと一人でホームに向かう。




・・・・・痴漢にあったって・・・・・ああ、そうか。

だから、あいつ、あんなにムキになって痴漢を・・・・・

・・・・・悪いこと言ったな・・・・・・けど、あいつの笑顔、凄く綺麗で・・・・

あ?? 何考えてんだ、俺??

それより・・・・このままじゃ、まずいだろ。

・・・・・追い掛けなきゃ・・・・

・・・・・けど、俺、いつもあいつ追い掛けてるよな・・・・・

・・・・・変な感じ。




「おい! ちょっと、待てって!! 悪かった! 俺が悪かったから!」

ゾロは、慌ててサンジを追いかけていった。

「ごめん、謝るって! そんなに気にしてるって知らなかったから。 悪い! もう言わないか

ら。」

ゾロは、電車の中でサンジにそう言って謝る。

周囲の人々が何事かと好奇な視線で二人を見ている。

「・・・・もう良いって。 ほらっ、周りの人が変な目で見てるし・・・ 俺も、すぐカッとしたりし

て・・・・・悪かった。 それより、てめえ、家、何処なんだ? 俺は、麻布なんだけど。」

「あ、俺も麻布だ。 麻布3丁目。」

「あ、俺、2丁目。」

「「なんだ、すぐ近くじゃん。」」

同時に叫んだ声にゾロとサンジは思わず笑った。

「・・・・・なぁ・・・・夕飯食っていかねえか? 俺、初めて一人暮らし始めてさ、まだ慣れてな

くて仕込み作りすぎててよ、一人じゃ食べ切れそうにねえんだ。 あ、でも、てめえも家族が

用意してるかぁ・・・・・わりい、いいや、忘れてくれ。」

「いや、俺、家族いないんだ。 ・・・・・・・2年前に両親亡くして、ずっと一人だ。」

サンジの言葉にゾロはそう言って笑う。

「あ、わりい。 俺、知らなくて・・・・ごめん。 じゃあさ、そう言うことなら、食ってけよ。 料理

人の倅だから、味は保証するぜ? 部屋は、まだ散らかってるけどさ。 今日の礼もまだだっ

たし。 なっ?」

サンジはそう言ってにっこりと笑った。




・・・・・本当・・・・こいつ、クルクルと良く表情が変わる奴・・・・・

・・・・・けど・・・・・この笑顔は・・・・・・良いよなぁ。




「・・・・じゃあ、そうさせて貰うとするか。 酒はあるか?」

「オヤジからくすねてきたワインなら有るが。 途中コンビニで買っていくか。 入社祝いだ。 

パーッとやろうぜ?」

「ああ、そうするか。」

ゾロとサンジは、駅の近くのコンビニで酒を買い、そのままサンジのマンションへと向かった。












「・・・・本当だ。 凄く美味い。 俺、初めてだ、こんな美味いもん、食ったの・・・・」

「だろう?? 俺の料理を食ったら、よそで食えなくなると言っても過言じゃねえだろ?」

ゾロに誉められて、サンジは嬉しそうにそう言う。

「ああ。 そんな感じだな。 もうよそじゃ、食えないな・・・・・」

そう言って笑ったゾロの顔にサンジはドキリとして、思わず瞳を逸らした。




お、落ち着け、俺の心臓・・・・・なんで?

なんで、こんなにドキドキとうるさい・・・・

まさか、あんな風に笑って、あんな風に誉めて貰えるって思わなくって・・・・・

・・・・・落ち着け、俺の心臓。

こいつの一言が、こんなに嬉しいなんて・・・・・

俺って・・・・俺って・・・・どうしたんだろ?




ピーッとコンロに掛けていたやかんが音を立てる。

「あっ、お湯、沸いたみてえ。 お茶、入れるな。」

サンジは、ごまかすように慌ててコンロに向かった。

「あっ、アチッ!!」

取っ手を掴み損ねたやかんがシンクに落ちる。

ゾロは、その音を聞いて慌ててサンジの傍に駆け寄った。

「大丈夫か?サンジ。 すぐ、冷やせ! 赤くなってるじゃないか。」

ゾロはそう言うと蛇口を捻り、サンジの赤くなった手に水を流す。

すぐ耳元で聞こえるゾロの声と背中に伝わるゾロの体温にサンジの心臓はバクバクとうるさ

く音を立てた。




・・・・・・・うるさい、俺の心臓・・・・・・

・・・・・・・頼むから・・・・頼むから静かにしてくれ。

・・・・・・・気付かれっちまう。




「あ、大丈夫だから・・・・ちょっと掴み損ねて・・・・・もう平気・・・・・ありがと・・・・・」

サンジは、真っ赤な顔で俯いたままゾロにそう言う。

「ん、そうか。 だったらいいけど。 一応、氷かなんかで冷やした方が良いぞ。」

ゾロは、そう言って冷蔵庫から氷を出しタオルで包むとサンジの手にのせた。

「もう良いって!! あっちに行ってろよ!」

サンジは、自分の心臓の音が今にもゾロに聞こえそうな気がして、そう怒鳴った。

「なんだよ、そんなに怒鳴らなくても良いじゃないか。 人がせっかく親切に・・・・・」

サンジの言葉にゾロはそう呟いてテーブルに戻った。




・・・・・・・どうしちゃったんだろ?俺・・・・・・




「・・・・・・・ごめん。 ごめん、怒鳴ったりして・・・・」

サンジは、シュンとした表情でゾロに小さな声でそう言う。

「まっ、いいさ。 それより飲もうぜ? まだこんなに酒が残ってるし・・・・」

ゾロは、サンジの表情に苦笑してそう言って笑った。

「おう!」

サンジは、笑顔でそう言うとゾロの隣に座り酒を飲み始める。




・・・・・こいつ・・・・本当に面白いな。

妙に大人びた表情やきつい表情するかと思えば、こんな子供みたいな表情をしたりする。

ともすれば、あんな綺麗な笑顔を向けるし・・・・

・・・・・飽きないな・・・・・・一緒にいて・・・・・なんか楽しい。




結局、その日、ゾロとサンジは時の経つのも忘れ、飲み明かした。














そして、その日を境に、ゾロとサンジは、お互い一人暮らしと言うこともあり、行き来するよう

になった。

「・・・・・なぁ、俺、見てえ映画有るんだけど、一緒に行かねえか?」

暫く経った土曜日、サンジからゾロの携帯にそう電話が入った。

「あ、それって、もしかして、『タキシード』じゃないか? 俺も見たくてさ・・・」

ゾロはサンジの言葉に間髪入れず、そう答える。

「えっ?! 良くわかったな、それ。 じゃあ、話は早いよな。 今から見に行こうぜ。 駅で待

ってるから・・・・」

「えっ?! おい、ちょ、ちょっと・・・・・・あー、もう切っちゃったよ。 なんでこうせっかちなん

だ、あいつは。 いけね、パジャマ着替えなきゃ・・・・」

一方的に駅で待つとサンジに告げられ、ゾロは慌ててパジャマを着替えると家を出て駅に向

かった。 

「遅せえ! 一体、何ぐずぐずしてたんだよ。 あれから30分経っただろ?もう・・・・」

「んなこと言ったって、俺、まだ起きたばっかでパジャマのままだったし・・・・お前が、急に電

話してくるから・・・・・」

「もう。 良いから、さっさと電車乗ろうぜ。 映画の時間、間に合わなくなる・・・」

ゾロの言い分を無視して、サンジはそう言うとさっさとホームに向かう。

「おらっ! もうすぐ電車が来るって! 早く来いよ。」

そう言って振り向いて笑うサンジに、ゾロははぁっとため息を吐く。

「なんで、俺が・・・・・だいたい、いつも俺って、こいつに振り回されてるよな・・・」

ゾロはそう呟いてサンジの後を追い、ホームに向かった。

土曜日と言うこともあってか、電車は随分と混雑していた。

「はぁ・・・今日は、電車、混んでるよな。 俺、嫌なんだよな、電車ってさ。」

「仕方ないさ。 けど、すぐ降りるし、少しの我慢だ。」

「ん・・・・そうなんだけどさ。 ・・・・・・・!!!・・・・・・・・・・・・・。」

そう言って如何にもうんざりとしたサンジの表情が変わった。

「ん? どうしたんだ?サンジ・・・・・」

ゾロは、サンジの様子に気が付き、そう声を掛ける。

しかし、サンジからの返事はない。

それだけではなく、サンジの顔から表情が消え、その身体ががくがくと小刻みに震えだし

た。

ゾロは、その様子に慌ててサンジの身体を支える。

そして、そこでサンジの身体に触れる他の男の手に気が付いた。

その男はニヤついた顔で、サンジの身体を撫で回している。

ゾロは、全身が総毛立つ思いがした。

頭に血が昇っていくのがわかる。

抑えられない程の怒りに、ゾロは、奥歯を噛みしめ、拳を固めた。




・・・・・こいつ・・・・・・・サンジに・・・・・なにしてやがる・・・・・・

・・・・・許さねえ。

・・・・・絶対に・・・・・許せねえ。




ゾロは、その男を睨み付けるとその腕を掴み、グッと捻り上げた。

その腕は、小さな音を立ててだらんと力無くぶら下がる。

「ヒッ!! アガッ!・・・・・アアッ!!」

その腕の持ち主はそう叫び声を上げ、腕を抱いてその場に蹲った。

「サンジ、大丈夫か? さあ、降りよう。」

ゾロは、その男に集中する人だかりの中、真っ青な顔のサンジを支えるようにして電車を降

りる。

「・・・・・大丈夫か?サンジ・・・・」

ゾロは、自販機からジュースを買ってきて、サンジの頬にそっと付けた。

「っ・・・・・あ・・・・・・・・ゾロ。 俺・・・・俺・・・・・ごめん・・・・・・」

頬に触れた缶の冷たさにサンジはやっと気を取り直し、そう言ってゾロに謝る。

「いや、別に、お前が謝る事じゃない。」

「はは・・・・だらしねえよな、俺。 見つけた痴漢はどうってことねえのに・・・・・・ 自分がさ

れると・・・・・身体が、硬直して・・・・・・動けなくなっちまうんだ。 俺さ、こう言う顔立ちしてる

だろ? だから、昔さ・・・・・」

「もう、良いって! 言いたくないこと、忘れたいことを口にする必要は、ない。 誰にだって弱

い部分やトラウマはある。 無理して強がる必要なんかないんだ。 無理して笑う必要もな

いんだよ。」

ゾロは、無理に笑顔を作ってそう言うサンジの言葉を遮り、サンジを抱き締めた。

「・・・・ゾ・・・・ロ・・・・・」

「・・・・・俺さ、俺、変なんだ。 お前が痴漢にあった時・・・・・どうしても許せなくて・・・・・・

そいつのこと、殺したいと思うくらい憎かった。 それと同時に、お前のこと、守りたいって。

・・・・・恋人でもなんでもないのに、そう思った。 友人とか知人とか、そう言う感情じゃなくて

・・・・・・家族のように、恋人のように守りたいって。 ・・・・・・そう思った。 ごめん、サンジ。

俺、気色悪いよな。 男のお前にこんな事言うなんて・・・・・けど、俺、もう黙ってられない。

サンジ、俺は、お前のこと、好きなんだと思う。」

ゾロはそう言って真っ直ぐにサンジを見つめた。

その瞳にサンジの心臓がドクンと震える。




・・・・・ゾロが・・・・・俺を好き??

・・・・・友達としてじゃなくて・・・・

・・・・・俺を・・・・・好き??

・・・・・俺は・・・・・俺の気持ちは、どうなんだろ・・・・

・・・・・わからねえ。

・・・・・けど、このドキドキがそうだとしたら・・・・

・・・・・俺も、ゾロが・・・・・好きなのかな・・・・・

・・・・・一つ確実にわかること。

・・・・・それは、ゾロにこうして抱かれても嫌な気がしないこと。

・・・・・他の奴が触れたら、きっとこんな感じはしない。

・・・・・それは・・・・・ゾロだから・・・・・

・・・・・じゃあ、俺は、ゾロが・・・・・・好きなんだ。

・・・・・そっか・・・・・・そうだったんだ。




サンジは、何も言わずにギュッとゾロの首に腕を廻した。

「サンジ? これはどういう意味だ? 俺、自分の良いように解釈するぞ。」

「・・・・ずっと、守ってくれるなら・・・・・・そう解釈しても構わない・・・・・」

ゾロの言葉に、サンジは真っ赤な顔をゾロの肩口に付け、小さな声でそう囁いた。

「さて、映画遅れちゃうぜ。 行くぞ、ゾロ。」

自分で言った言葉が恥ずかしくなったのか、サンジは、慌ててゾロから離れると、そう言って

一人で改札口へと向かう。

「本当か? なぁ、本当なのか? おい、サンジって!」

ゾロは、半信半疑でそう言いながらサンジの後を追い掛けた。

「帰ったら、言ってやる・・・・・それより、映画だ、映画・・・・」

サンジはゾロにそう言うとにっこりと笑ってゾロの腕を捕った。







「なぁ・・・・・今度、オヤジがてめえと会いたいってそう言ってたぞ。」

そう言うサンジの言葉に、ゾロが有る決意を胸にサンジの父親に会うのは、この一年後であ

った。








<END>






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<コメント>

こちらは、嶋川榊乃様のリクエスト【サラリーマンゾロサン】でした。
はぁ・・・・ごめんなさい、榊乃さん。 この長さ・・・・・・
とても人に送りつける長さじゃ・・・(死)
それに、とってもお時間頂きました。 いつのリクやねん・・・・って感じで。(笑)
くだらないところを色々書き足すからこんな長さに。
申し訳有りません。(-_-;)
こんなモノを押し付けるルナを許して下さいませ。
では★(脱兎!)