Fortunate Days


後編







「課長から、連絡が入った。 伊豆の別荘が、わかったそうだ。 一旦、署の方に戻るぜ。」

ゾロは課長からの連絡を受け、サンジと共に署の方に戻る。

組事務所の連中は、ゾロとサンジと入れ替わるようにやって来た警察の手によって全員、

検挙された。






「おう、戻ったな。 これが、昂龍会組長の別荘の地図だ。 今日は、疲れただろ。 伊豆に

は、明日向かうと良い。」

課長は、戻ってきたゾロとサンジにそう言って地図を渡す。

「いや、くつろいでる暇はねえ。 今から行く。」

「おいおい、ちょっと待てって。 はやる気持ちはわからんでもないが、人間って言うのは、

疲れが溜まると判断力が鈍る。 サンジ君、君のことは色々と聞いている。 君だって二度と

同じ失敗は繰り返したくないだろ? だったら、万全の体勢で臨むんだ。 ベラミーの狡猾さ

は、君が一番知っていると思うが? 違うか?」

「・・・・・・・・・。」

サンジは、課長の言葉に、渋々従った。

「ロロノア、ちょっと・・・・・・」

課長はそう言って、ゾロを側に呼び寄せる。

「・・・・なんですか、課長・・・・」

「いや、あいつ・・・・サンジ君とは、上手くいってるか?」

「んなもん、あいつ、でたらめですよ。 俺、ここが日本だって事すっかり忘れそうです。 

なんだって、あいつ、あんなむちゃくちゃな・・・あいつ、イギリスでもあんな捜査の仕方してた

んですか?」

「・・・いいや、彼にとって、ベラミーは特別なんだよ。 ・・・・・唯一、黒星を付けさせられ、

尚且つ・・・・相棒を奪われてしまったからね・・・・と言うわけだ。 よろしく頼むよ、ゾロ。 

けど、君は、あくまでも日本の警察官なんだから、無茶はしないでくれよ、無茶は。」

課長は、そう言ってゾロの肩をポンと叩くと、自分の席に座り直した。

ゾロは、一礼して課長の側から離れると、サンジに向かって声を掛ける。

「お前、今日、何処のホテルに泊まるんだ。 送ってってやるから。」

「んなもん、予約してねえよ。 金もねえし。 身体が休めさえすりゃ、何処だって良い。」

「・・・・じゃあ、うち、くるか? 汚えが、男二人ぐらい寝泊まりは出来るぜ。」

「けど、それじゃあ、てめえの家族に悪いだろ。」

「・・・・家族は、いねえよ。 俺、一人だ。」

「そっか、じゃあ、遠慮なく・・・・・」

ゾロとサンジはそう会話を交わすと、再び、署を出てゾロの家へと向かった。






「しっかし、なんにもねえ部屋だな。 日本人の家って皆、こんな感じなのか? ・・・・なあ、

飯、どうする?」

サンジは、畳の部屋に寝転んで、ゾロを見上げてそう聞く。

ゾロは、初めて入った家で、しかも我が物顔にくつろぐサンジをまじまじと見つめた。

「なあ、飯はどうするかって聞いてんだよ!」

黙ったままのゾロに、サンジは苛ついた声でそう怒鳴った。

「あ、ああ。 じゃあ、外に食べに行くか・・・・」

ゾロは、その声に弾かれた様にそう答える。

「あア?! 今からかぁ?? ・・・面倒くせえ。 なんか食うもんねえのかよ。」

「・・・・・ご飯ならあるが・・・・」

「?ご飯?? ああ、ライス、ね。 それがありゃ、充分だ。 ちょっと、キッチン使わせて貰う

な。」

サンジは、そう言って身を起こすと、キッチンに行って、なにやらごそごそとし始めた。

「お前、なにしてんだ??」

ゾロは、訝しげにサンジの背後から声を掛ける。

「ああ、ちょっと、な。 宿泊代の代わりだ。 まっ、テーブルでも拭いて待ってな。 すぐ出来

っから・・・・・」

サンジは、そう言って腕まくりをすると、冷蔵庫の中を漁り、手早く料理をし始めた。

ゾロはその間、言われたとおりにテーブルを拭き、ビールを飲んだ。

「うっし、できた。」

ぷ〜んと美味しそうな匂いが部屋の中に広がって、サンジは、テーブルに作ったピラフを置

く。

「あ、サンキュー。 ・・・・・美味い、美味いな、コレ・・・・・お前、こんな才能有ったんだ。」

ゾロは出されたピラフを口に運ぶと、サンジにそう言って笑いかけた。

「フッ。 クソ美味えだろ? 英国紳士としては、これくらいの器用さがなくちゃ、な。」

サンジは、そう言ってにっこりと笑い返す。

その笑顔に、ゾロの動きがぴたりと止まった。

「ん? どうした?」

その様子に気が付いてサンジが、ゾロに声を掛ける。

「ああ・・・・・・お前、そんな顔も出来るんだと、そう思ってさ・・・・」

「何だよ、そんな顔って。」

「いや、もう良い・・・・」

ゾロは、そう言って、また食べ始めた。

「・・・・・変な奴。 ところで、てめえ、付き合ってる恋人とか居るのか?」

「グッ。 ゲホッ。 お前、いきなり何て言うこと聞くんだよ。 ゲホッ、ゲホッ・・・」

ゾロは、サンジの質問にピラフを喉に引っかけ吐き出す。

「うわっ、汚っちゃねえな。 いるのか、いねえのか、どっちなんだよ。」

「いねえよ、んなもん。 この部屋見たらわかるだろ、それくらい・・・・」

「まっ、確かに、愚問だったな。 けど・・・・そりゃ良かった。 俺も、あの表情だけは、もう二

度と見たくねえから・・・・・」

サンジは、ルフィの側にいたナミの表情を思い出し、顔を歪めた。

「・・・サンジ??」

「ああ、ごめん、なんでもねえ。 先にシャワー使って良いか?」

「ああ、構わねえが・・・・」

サンジは、自分の皿をシンクに持っていくと、ゾロにそう言って、浴室に向かった。

暫くして、ゾロは、シャンプーが、切れていたのを思い出す。

「わりい、サンジ。 これ、シャンプーのボトルに詰め替えといてくれ。」

ゾロは、そう言って浴室のドアを開けた。

ぶわっと立ちこめる蒸気の中に、サンジの背中が浮かび上がる。

白く滑らかそうなその背中に似つかわしくない銃痕。

「ああ、わかった。 そこに置いておいてくれ。 ん?なんだ? 他になんか用か?」

いつまでも閉められないドアに、サンジは、ゾロの方を振り向いてそう尋ねた。

「いや、別に。 じゃあ、ここにおいとくから・・・・・・」

ゾロはそれだけ言って、浴室を離れる。

「・・・・・なんなんだ、俺は・・・・ なに血迷ってやがる。 クソッ、わけわかんねえ・・・・」

ゾロは、浴室で見たあの銃痕に触れてみたいと思った自分の衝動にとまどいを覚え、酒で

紛らわせた。

「・・・・・いよいよ、明日だ。 明日で、あの悪夢に決着を付けてやる。 ・・・・・大丈夫。 

二度とヘマはしねえ。 そう・・・・・大丈夫、だ・・・・・」

サンジは熱いシャワーを浴びながら、迫り来るベラミーとの対決に自らを奮い立たせていた。















翌日、ゾロとサンジは、地図の別荘を目指し、伊豆へと向かう。

「いいか、もう一度、言っておく。 あいつを、ベラミーを見つけたら、即、発砲しろ。 あいつに

常識は通用しねえ。 それから・・・・・くれぐれも、俺の脚は引っ張るなよ。」

サンジは、そう言ってゾロを見てニヤリと笑った。

「わかってる。 だがな、お前も無茶は、すんなよ。 昨日の今日だ。 事情はわかんねえだ

ろうが、それ相応の警備はしてると思うぜ。 それに、ここは日本だ。 無益な殺生はするな

よ。」

「ハッ。 平和な日本の警察官に心配されるほど落ちぶれちゃいねえよ。 さっ、用意は良い

か? さっさと片づけちまおう。」

「・・・・あのな・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・もう、いい。」

ゾロは、これから敵の本拠地に乗り込もうというのに、飄々とした態度を崩さないサンジに

ため息を吐く。

「・・・・死ぬんじゃねえゾ。」

「てめえも、な・・・・」

そう言ってゾロとサンジは、ベラミーの潜伏した別荘へと入っていった。

昨日、組事務所が一斉に摘発されたと知った別荘は、重々しいほどの警備だったが、ゾロと

サンジは、確実に内部へと侵入を果たし、ベラミーを追いつめる。

しかし、一瞬の隙をつかれて、ゾロは、ベラミーに拳銃を取られ捕まってしまった。

「おや? へへへ・・・・またあんたかい? 今度は、反対の立場だな。 本当に、あんた、

ついてねえよ。 また、俺に撃たれちまうんだから、な。 銃を捨てな。 こいつ、殺したくねえ

だろ? 今度は、死に損なわねえように、頭、狙ってやるからさ。 ・・・・それとも、こいつ見

捨てて、俺を撃つかい? 出来るか? 相棒を自分のせいで失ったあんたに、さ・・・・・・」

ベラミーは、ゾロの頭に拳銃を突きつけて、サンジに冷笑する。

サンジは、この偶然の状況に思わず、怯んだ。

「捨てるな、サンジ!! 撃て!! このために、日本に来たんだろ! 迷うな! てめえが

撃たれるぐらいなら、俺が死んだ方がマシだ!」

ゾロは、あの時のサンジと同様な声を上げる。

サンジの脳裏にあの瞬間が鮮烈に甦る。



うっすらと笑いさえ浮かべて、床に倒れるルフィ・・・・・

その状況をただ見つめるだけでしかなかった自分・・・・・

消えぬ傷跡・・・・・・消えぬ胸の疼き・・・・・・



「・・・・・・わかった。」

サンジは、キッと表情を引き締めるとベラミーを睨み付ける。

「そうそう、仲間は、やっぱ大切にしねえと、な・・・・・チェック(王手)だ。」

ベラミーは、勝ち誇ったようにサンジにそう告げた。

「・・・いいや、チェックメイト(王手返し)だ。」

サンジはそう言って、ゾロの左胸を撃ち抜いた。

ガクッとゾロが、床に倒れ込む。

「な、なに、馬鹿な・・・・・・仲間を・・・・・てめえ・・・・・」

思いがけないサンジの行動に、ベラミーは、唖然とサンジを見つめた。

「・・・・・今度は、てめえの番だな。 ・・・・・消えな。」

サンジは、そう言ってベラミーのこめかみに銃口を当てる。

「ま、待て。 待ってくれ。 ほら、俺は、もう抵抗してねえ。 へへへ、抵抗してねえ奴を殺し

たら、いくらてめえでも、監獄行きだぜ。」

ベラミーは、そう言ってへらへらと笑った。

「・・・・・言うことは、それだけか?ベラミー・・・・・ 残念だが、それも俺には、通用しねえ。 

冥土の土産に見せてやるよ。」

サンジはそう言って、ベラミーの目の前に証を見せる。

「そ、それは・・・・murder−license・・・・・殺人・・・・許可書・・・・・」

へらへらと薄笑いをしていたベラミーの顔から血の気が引いた。

「・・・・・そう言うことだ。 じゃあ、な・・・・」

サンジの言葉と共に一発の銃声が轟いて、ベラミーは、床に倒れ込む。

「・・・・・俺も、甘いなぁ・・・・まっ、ここは、日本だし。 これ以上、俺の印象が悪くなっても困

るし・・・・・・それよりも、と・・・・」

サンジは、苦笑しながらそう呟くと、倒れているゾロを揺する。

「おら、いつまで寝てんだ? 早く起きねえと、置いてくぜ。」

「うっ・・・・てめえ、無茶しすぎだ。 ・・・・・俺が、言われたとおりに内ポケットに手錠入れて

なかったら、どうすんだよ!! 殺す気か、俺を!!」

サンジに身体を揺すられて、気が付いたゾロは、サンジを睨み付けてそう言った。

ゾロの左の内ポケットから拳銃の弾がめり込んだ手錠が、床に落ちる。

「まっ、良いじゃねえか。 てめえは、こうして助かったんだし。 俺は、てめえを信用してた

し、な。」

サンジは、そう言って晴れやかに笑った。

「チッ。 それも計算済か。 まったく、恐れ入るぜ、MI−6には、よ・・・・」

「ククク、長居は、無用だ。 ベラミーを連れてとっとと、戻ろうぜ。」

「はいはい、わかりました。」

サンジとゾロはそう言って、肩を打ち抜かれ気絶しているベラミーを引きずるように車に運び、

護送した。














「・・・・・いろいろとサンキューな、ゾロ。 短い時間だったけど、結構、俺、楽しかったぜ。」

空港のロビーで、サンジはそう言って、ゾロに手を差し出す。

「ああ、俺も、だ・・・・・・」

ゾロはそう言って、サンジの手を握った。

触れ合う手の温かさに、ゾロは、なかなか手を離せない。

「・・・・・時間だ。 じゃあ、な。 相棒・・・・」

サンジはそう言って手を離すと、軽くゾロの頬に口付け、そのまま搭乗口に消えていった。

「・・・・・・・参った。」

ゾロは、頬にいつまでも残る感触にそう呟いて、空港を後にした。


















「ロロノア君、ちょっと・・・・・・・」

署に着いたゾロは、息吐く暇もなく、課長に呼ばれる。

「・・・・・なんですか、課長・・・・」

ゾロは、嫌な予感がしたが、敢えて課長の元へ行く。

「・・・・・・お前、この前の件、やりすぎだと。 どっか飛ばされるぜ。 さっき、公安のお偉い

サンがやって来た。」

「俺、そんな無茶は、してないですよ。 殆どは、あいつが・・・・・まあ、少しは、俺も・・・・・・」

薄々は、呼ばれた理由がわかっていたものの、現実に処罰の対象になるとまでは、ゾロは

思っていなかった。

「けど、二人だけで、組一つぶっ潰して・・・・・ 一応な、俺は、お前の弁護したんだが、日本

の警察には、お前は向かないってさ。」

「・・・・・飛ばされるって・・・・・網走かどっかですか?」

ゾロは、落胆した表情でそう言う。

「いや、もっと遠い。」

「遠い??」

「ああ、フランスのリヨンだ。」

「はぁ??」

「だから・・・・・フランスのリヨン。 お前、公安委員会の推薦で、I.C.P.O.に、転属だ。

実践タイプの刑事を今年から、派遣したいんだと。 まあ、これを栄転というのか左遷という

のか、人それぞれだと思うが・・・・・・お前には、合ってると思うぜ。 ・・・・頑張れよ。」

課長は、そう説明をしてゾロの肩をポンと叩いた。

それから月日はアッという間に過ぎて、ゾロは、フランスのリヨンに一人飛び立った。








「ん? 今年の日本からの派遣は、君一人か? じゃあ、早速で悪いんだが、イギリスにすぐ

飛んで貰いたい。 今朝、MI−6からの要請で、ある麻薬組織の壊滅指令を受けたんだが、

人手が足りなくてな。 来たばかりで悪いんだが、よろしく頼む。 現地に着いたら、そこの責

任者の指示に従ってくれ。 これが、チケットだ。 じゃ。」

リヨンのI.C.P.O.の本部に到着したゾロは、休む暇もなく、ロンドンのヒースロー空港に

向かう。

「おいおい・・・・・嘘だろ。 なんで、俺ばっか・・・・・一体、俺が何したよ・・・・・」

ゾロは、飛行機の窓から、ロンドンの街灯りを見てそう呟く。

「ふ〜ん。 また、あいつと組むのか。 ・・・・・世間は、広いようで狭いよな・・・・・」

サンジは、ヒースロー空港で、I.C.P.O.からきたばかりの資料に目を通して、もうすぐ着く

であろう相棒の姿を待った。










<END>





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<コメント>

す、すみません・・・・・・これって、ヤサグレサンジなんでしょうか??
いつものルナのサイトの傾向とは、全く違う駄文なんですが・・・・(汗)
真剣に『ヤサグレ』を、辞書で引いたのですが、載ってない・・・・(-_-;)
やっぱり、お馬鹿なルナには、書けないみたいで・・・・・
ああ、撤収したい、早く・・・・・
ラブ落ちを期待した方・・・・・・ごめんなさい。(ペコリ)
【Fortunate Days】は、幸せな日々・・・
機会がありましたら、またこの二人の続きでも・・・(ビクビク)
では★
あ、何でコレがサン誕に置いてあるのかは・・・・・・・
触れないで下さい・・・・・・・(脱兎!)