Fortunate Days


前編







「拳銃を捨て、道を開けろ。 こいつが、どうなっても良いのか?」

「ルフィ! 絶対に捨てるな!! 俺に構わず、こいつを撃て! ルフィ!!」

「・・・・ごめん・・・・サンジ。 ・・・・俺、無理。 やっぱ・・・・・出来ねえわ。」

そう言ってルフィは、俺を見て笑うと・・・・・・・・・拳銃を捨てた。

その瞬間、一発の銃声が響いて、ルフィが胸に手を当てて、ゆっくりと地面に倒れた。

「ルフィーーーーッ!!」

「フッ。 おめでたい野郎だぜ。 仲間のために殉職ってやつかい? まあ、てめえも直に

お仲間だ。 仲良くあの世で再会しな・・・・・」

ベラミーはそう言って俺の背中に銃口を当て、引き金を引いた。

身体が引き裂かれるような痛みとヌルつく血の温かさに俺は、死を実感した。

「ククク・・・お前達の友情に・・・・・・感謝、を・・・・・・・」

薄れいく意識の中で、ベラミーが薄笑いを浮かべ、最後に、俺達にそう言ったのが聞こえた。









「・・・・様・・・・お客様。 誠に申し訳ございませんが、禁煙のサインがつきましたので、おタ

バコの方ご遠慮下さいませ。」

不意に耳元でスチュワーデスの声が聞こえる。

「ああ、すみません、気が付かなくて・・・・」

サンジは、そう言って慌ててタバコを揉み消した。

どうやら、ボーっとしていたらしい。

あれから、3ヶ月の月日が流れ、相棒だったルフィは、まだ、病室の中。

一瞬の虚を突かれ、惨敗したあの日・・・・・

サンジの背中に残る傷跡は、今も疼くけれど、あの時作った心の傷に比べれば、全然大した

痛みではない。




全ては、俺のせい・・・・俺が、あいつをナメてかからなければ・・・・・

ルフィを・・・・・ナミさんを・・・・・・・・・・あんな目に遭わせることはなかった。




病院で意識を取り戻したサンジは、人工呼吸器を付け生かされているだけのルフィと、その

横で無表情のまま、彼を見つめていたナミの姿を見て、誓った。




・・・・まだ、終わりじゃねえ。 

俺はまだ、動ける。 

俺の手で決着を付けてやる・・・・・




「・・・・・もうすぐだ。 もうすぐ会える。 ・・・・・・ベラミー、俺にとどめを刺さなかったこと。

・・・・・・それが、てめえの運の尽きだ。」

サンジは、飛行機の窓から見える東京の灯りに、そう呟いた。

















警察庁、刑事局、特別捜査第三課。

ここは、通常の広域犯罪捜査以外に、公安対策委員会直属の特殊犯罪及び、I.C.P.O.

(Internatinal Criminal Police Organization)や外交ルートで、秘密裏に依頼された犯罪捜

査を行う特殊部署。

「今日、早朝から皆に集まって貰ったのは、彼を紹介したかったからだ。 今回の捜査協力

で、英国軍情報部・MI−6より派遣された、サンジ君だ。 彼は、射撃のプロフェッショナル

で、今回、ここ、日本に極秘入国したと思われるテロリスト、ベラミーを捕まえるために来日し

た。 皆、全面的に彼に協力してくれ。 さっ、サンジ君、挨拶を。」

課長がそう言って、サンジを促す。

「・・・・・・MI−6から来た、サンジだ。 こっちでは、こっちの捜査方法が有ると思うが、俺

は、俺のやり方でベラミーを追う。 徒党を組んでと言うやり方はしねえし、あいつには通用

しねえ。 この中で、一番腕っぷしの強い奴は、どいつだ。 そいつが、俺のパートナーだ。 

後は・・・・・・お茶でも飲んで、俺の邪魔だけは、しねえでくれ。 ・・・・・以上。」

サンジはそう言って、室内のメンバーを見渡した。

あまりの高圧的な態度に呆気にとられるメンバー。

「・・・・・と、と言うわけで、ロロノア、頼むな。」

課長は、そう言ってゾロの肩に手を置いた。

「はぁ?? なんで俺なんですか!!」

「いや、お前が一番、打たれ強そうだし・・・・・まっ、頑張ってくれ。 君には、この部署のメン

ツがかかっている。 あのクソ生意気な英国野郎に、日本の警察魂を見せてやれ!」

課長は、ゾロを後ろの方に連れていくと小さな声でそう言う。

「だって、腕っぷしが強いってって言ったら、課長だって俺と大差ないでしょ? だったら課長

があいつと・・・・」

「お、俺は・・・・・・課、課長だからな。 ここにいて皆の陣頭指揮を・・・・・」

「・・・・・ようは、俺に押し付けたいんですね、面倒なことは・・・・・」

ゾロは、ため息混じりにそう言った。

「・・・・・正解! これは、上司命令だ。 そう言うことだから、よろしくな。」

「・・・・・ったく、勝手なんだから・・・・・」

ゾロは、渋々、課長の言うとおり、サンジとチームを組むことになった。

「・・・・・・話は、ついたようだな。 てめえ、名前は?」

サンジは紫煙を揺らしながら、ゾロに聞く。

「ロロノア。 ロロノア・ゾロだ。 ・・・・・よろしく。」

ゾロは、そう言ってサンジの前に、手を差しだした。

「・・・ロロノア・ゾロか・・・・ なんか舌噛みそうな名前だな。 ゾロで良いよな。 じゃ、早速

で悪いが、昂龍会って言う暴力団のとこに案内してくれねえか? ・・・・・たぶん、奴は、そこ

にいる。」

サンジはそう言うと、差し出された手に目もくれず、部屋を出て行こうとする。

「チッ。 愛想のねえ奴・・・・・」

「なんか、言ったか?」

「別になんでもねえよ。 ・・・行くぜ。」

ゾロは、軽く舌打ちをしてそう言うと、サンジを連れ立って部署を出ていった。






















「・・・・・ここが、昂龍会の事務所だ。 本当に、そのベラミーとか言うテロリスト、ここに居る

んだろうな? その情報、確かなのか??」

昂龍会事務所前に着いたゾロは、車の中でサンジにそう尋ねる。

「ああ、間違いねえ。 英国で昂龍会の幹部と会ってたからな。 ・・・・・なあ、てめえ、本当

に腕っぷしの方、大丈夫だろうな? 頼むから、俺の脚だけは引っ張らねえでくれよ。

・・・・・あいつに日本の常識は通用しねえ。 見つけたら、即、拳銃で撃て。 あと、てめえの

事は、てめえで守れ。 それから・・・・・」

「まだ、あるのかよ・・・・」

「ああ、これで最後だ。 手錠は・・・・左の内ポケットに入れておけ。 ・・・・それだけだ。 

じゃ、行こうか・・・・」

サンジはそう言って、拳銃の装填を確かめる。

「ちょ、ちょっと、待て。 てめえ、ここで拳銃ぶっ放す気か?? ここは、イギリスじゃねえ。

日本だ。 それに、組の中には、2、30人は、いるんだぞ。 本気か??」

「ああ。 その為に、てめえと組んだんだ。」

サンジはそう言って、組事務所のあるビルに入っていった。

「・・・・なんていう野郎だ。 いかれてるぜ。」

ゾロは、そう呟くと、拳銃に実弾をつめ、サンジの後を追う。

「Freeze!! 動くな!! 動くと容赦なく、ぶっ放す。 ここに、ベラミーという外国人が来

ただろ? あいつは、何処だ?」

サンジはそう言って、組事務所のドアを蹴破ると、拳銃を構えた。

「あン? 誰だ? てめえ・・・・」

ドアの一番近くにいた男が、そう言ってサンジに近づく。

サンジは、近づいてくる男を一瞥すると、その男に向かって銃口を向ける。

「うがぁ・・・・」

男はそう呻いて、その場に、撃たれた膝を抱え蹲った。

「・・・・・動くな、そう言ったはずだ。 俺は、遊びでここに来たわけじゃねえ。 わかったら、

ささとベラミーの居所を教えろ。 ついでに言うが、俺は、凄く気が短え。 さっさと答えねえ

と、次は、この男の怪我ぐらいじゃ、済まさねえぞ。」

そう言ってサンジは、タバコに火を点け、真ん中のイスに座っている幹部を睨み付ける。

「・・・・・本当に、やっちまいやがった。 もう知らねえからな・・・・・」

ゾロは、その光景を見つめそう呟いた。

「ふざけんな!! 日本の極道をなめんなよ!! たかが、二人じゃねえか! やっちま

え!!」

血気に走った男達は、一斉にゾロとサンジに襲いかかる。

「・・・・・本当に、脳みそ足りねえ連中だな・・・・・ そんなに、命が惜しくねえのか。 

だったら望み通り、消してやるぜ。」

サンジは、呆れたようにそう言うと、ひらりと身を躍らせて、男達の中に自分から飛び込むと、

蹴りを繰り出して容赦なく、床に男達を叩きつけた。

「ク、クソッ!!」

幹部らしき男達数人が、机の中に忍ばせていた拳銃を取り出し、サンジに構える。

サンジは、雑魚を蹴散らすのに一杯で、その様子に気が付いていないようだった。

「あの馬鹿!!」

ゾロは、とっさにそう叫ぶと、幹部達の肩を拳銃で撃ち抜いた。

「ヒュ〜♪ やるじゃねえか。 てめえも、なかなか・・・・・」

サンジは、男達を蹴散らしながら、ゾロの方を見てニヤリと笑う。

「・・・・・てめえ、わざとだろ。 わざと俺に撃たせやがったな・・・・・・」

サンジの顔を見て、ゾロは、呆れたようにそう言い返した。

「聞いただけじゃ、どの程度かわかんねえからな。 その腕がありゃ、充分だ。 さてっ

と・・・・」

サンジは、平然とゾロに言うと、男達の合間を縫ってテーブルに近づき、その下に隠れてい

た幹部に、拳銃を向けた。

「さっ、俺が、引き金を引かねえうちに、とっとと、答えてくれねえかな。 これでも、充分に時

間は与えてやったはずだぜ。 てめえらも、そいつに撃ち殺されたくなかったら、動くなよ。」

そう言ってサンジは、かちりと拳銃のレバーを引く。

ゾロの銃口は、他の幹部達に向いている。

「わ、わかった。 あいつは・・・・・ベラミーは・・・・ボスと一緒に、伊豆の別荘にいる。 

お、俺が、言ったことは、内緒にしてくれ・・・・・そうしねえと、今度は俺が・・・・」

幹部は顔面蒼白になりながら、サンジにそう告げた。

「・・・・・てめえの都合なんざ、俺の知ったことか。 そこに、あいつはいるんだな? もし居な

かったり、嘘だったら、てめえのその頭を風通し良くしに来るからな。 ・・・・・行くぜ、ゾロ。 

邪魔したな。」

サンジは、幹部を睨み付けてそう言うと、幹部に背中を向けて、ドアの前で背広の前を広げ

、内ポケットからタバコを取り出し火を点ける。

幹部は、無言のままニヤリと口の端を歪めると、そっとサンジの背中めがけて拳銃を構え

た。

「死ね!!」

幹部がそう言ったのと同時に、サンジの広げた背広の脇に風穴が開いた。

「・・・・・あ〜あ。 俺、この服しか日本に持ってきてねえんだぜ。 どうすんだよ、これ・・・・。

もう着れねえじゃねえか。 ったく、余計な手間を・・・・」

サンジはそう呟くと、まだ熱を持ったままの銃口を無造作に、ホルダーに戻す。

ドサッという音と共に、拳銃を向けていた幹部が、床に崩れ落ちた。

「・・・・・嘘だろ。 後ろ向きのまま、自分の背広ごと撃ち抜きやがった・・・・・」

「なにブツブツ言ってんだよ。 ぐずぐずしてねえで、伊豆だ、伊豆。」

サンジは、そう呟いて呆気にとられて自分を見つめているゾロにそう言って促すと、部屋を出

ていった。










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