11月10日。
ゴーイングメリー号の昼下がり・・・・・・・「うぅ〜。 ・・・・・・・どうしよう。 ・・・・・・・どうすりゃいいんだ。 ・・・・・はあ、うぅ〜・・・・・・」
キッチンで、夕食に使う、ジャガイモの皮を剥きながら、サンジは、深い深いため息を吐く。
・・・・・・・もうすぐ、明日がやってくる。
・・・・・・絶対に避けられないことだと言うこともわかっている。
・・・・・だけどさあ・・・・・・・ああ、俺は・・・・・ちゃんと・・・・できるかな。
・・・・チクショーッ・・・・・・怖ええよ・・・・・
「どうしたんだ? サンジ。 何か悩み事でもあるのか??」
「あっ、いや、別に・・・・・・・・・何でもないんだ。 ・・・・・・はあ。」
夕食の仕込みを手伝ってくれているチョッパーの言葉に、サンジは、そう言って、微笑んだ。
「でも、サンジ、これ、一体、いくつ、皮剥けばいいのか?」
チョッパーはそう言って、目の前に山積みされた、皮の剥かれたジャガイモを指さした。
ゲッ! ・・・・・しまった。
・・・あのことばっかり考えてて、つい、剥きすぎてしまった。
・・・・こんなにたくさん使う予定なんて無かったのに・・・・・・
・・・・・俺・・・・・・なんて馬鹿・・・・・・
「ああ、ジャガイモが、芽を出しそうだったからな。 今日は、ジャガイモづくしの夕食だ。
嫌か?チョッパー・・・・」
サンジは、慌ててごまかす。
「ううん、サンジの作るモノなら、何でも美味しいから、俺、嫌いなモノなんて無いよ。」
チョッパーはそう言って、笑った。
・・・・・・・いつもながら、可愛い奴だぜ。
・・・・・・見た目も可愛いし、なんていうか、こう、ムギュッとしたくなる奴だよなあ。
「チョッパー、いつも、手伝い、サンキューな。」
サンジはそう言って、チョッパーをムギュッと、抱きしめる。
・・・チョッパーって、ふかふかしてて、俺、こういう感触大好きだ。
・・・・温けえ・・・・・・俺・・・・こんなんだったら、平気なのにな・・・・・・
・・・・・・なんで、こういう風に、できないんだろ・・・・・・
「うわっ! サンジ、おい、止めろよ・・・・止めろって・・・言ってるだろ〜、この野郎〜・・・」
チョッパーは、言葉は、嫌がっているが、本気で、嫌がってはいない。
むしろ、嬉しそうに、目尻をヘニョンと下げ、ニコニコしていた。
「・・・・・・おい、喉、渇いた。 何か飲み物くれ・・・・・」
そこへ、鍛錬を終えたゾロが、キッチンに入ってきた。
「お、おう。 これでいいか。」
サンジは、慌ててチョッパーから離れると、冷蔵庫から、レモネードを取り出して、ゾロに手渡
す。
「・・・・・・・・・。」
ゾロは、何も言わずに、一気に、レモネードを飲み干すと、ダンッと音を立ててテーブルに、コ
ップを置いた。
「なにすんだ! コップが、割れるだろ。 もう、ガラスは、繊細なんだから、もっと丁寧に扱え
よな。」
サンジは、ゾロを睨み付けてそう言うと、コップを流しに持っていく。
「・・・・・チョッパー、席はずしてくんねえか。」
「う、うん・・・・・」
ゾロが発する低い声に、チョッパーは、言われるままに、キッチンを出ていった。
その声に驚いて、後ろを振り向いたサンジの視界に映ったのは・・・・・・・・
額に青筋を浮かべ、こめかみをヒクつかせ、こちらを睨んでいる、不機嫌なゾロ。
・・・・・・・・ゾロ・・・・・・??怒ってる?
・・・・・・・なんでだ?
・・・・・・何か、したか? 俺。
・・・・・さっぱり、わかんねえ。
「何だよ、言いたいことあったら、はっきり、言えよ。」
サンジは、一向に口を開かず、睨み付けているゾロに向かってそう言った。
ゾロは、ツカツカとサンジに歩み寄ってきて、不意に腕をとり、サンジの身体を引き寄せる。
「うわっ!! なにすんだよ、てめえ! アブねえじゃねえか!」
サンジは、慌てて、ゾロの身体を押しのけようと腕を伸ばした。
ゾロは、片手で、その腕を掴み、空いている腕で、サンジの腰をきつく抱きしめる。
「・・・・・俺は、てめえが好きだと言った。 てめえも、俺のこと好きだと・・・・・そう言ったよ
な。 ・・・・なのに・・・・何で、チョッパーなんか、抱きしめてんだよ! ・・・・・俺が抱きしめる
のは、嫌がる癖に・・・・・・・なんで・・・・・・なんで、チョッパー抱きしめて、笑うんだ・・・・・・・
・・・・そんなに、俺に抱きしめられるのは・・・・嫌か・・・・ ・・・・・好きだと言ったのは・・・・・・
仲間としてか・・・・・ ・・・・・それとも、同情か・・・・」
ゾロは、押し殺したような低い声で、サンジにそう言った。
「ち、違う!! そんなんじゃねえ・・・・」
サンジがそう言って、ゾロの顔を見上げる。
いつも、自信に満ちあふれ、力強く輝く、その深緑の瞳が、力無く、切なげにサンジを見つめ
ていた。
そう、ゾロとサンジは、つい最近、ゾロからの告白で、お互いの気持ちが、やっと、通じた。
しかし、恋愛関係が全く無い、『バラティエ』と言う名の温室で、大事に育てられたサンジに
は、触れるだけのキスさえも、恥ずかしく、抱きしめられても、つい、恥ずかしさから、身体が
逃げを打ってしまって、その先に進めないでいる。
それなりの経験があるゾロにとって、サンジの行動が、不可解に映ってしょうがない。
自分を好きだと言ったサンジの言葉さえ、疑いを隠せない。
あれだけ、自分の前で、プレイボーイを気取っていたサンジが、まさか、イロハのイも知らな
い天然純粋培養だと、ゾロは、知る由もなかった。
・・・・違うんだ、ゾロ。
・・・・・嫌がってなんか、ない。
・・・・・・その、逆なんだ。
・・・・・・・嬉しくて・・・・・ドキドキして・・・・・・恥ずかしいだけなんだ。
・・・・・・・・こんな風に、思ったこと無かったから・・・・・・・
・・・・・・・・・好きな奴に、抱きしめられたことなんて、なかったから・・・・・・・
・・・・・・・・・・俺・・・・・どうしていいのか、わかんねえんだよ。
・・・・・・・・・・・どうしたら、わかってもらえる?
・・・・・・・・・・・・どうしたら、俺の気持ち・・・・・・伝わる?
・・・・・・・・・・・・・言うんだ、俺!
・・・・・・・・・・・・・・逃げちゃいけねえ・・・・・・言わねえと・・・・・今、言わねえと・・・・・
「・・・・あのな、その・・・・あの・・・・なんだ・・・・・ええっと・・・・」
サンジは、ゾロに抱きしめられて、気持ちだけが焦って、言葉が、全然出てこない。
おまけに、すぐ側に見えるゾロの瞳に、ボーっとなって、思考もついていかないのだ。
「・・・・・・もう、良い。」
ゾロが、痺れを切らしたようにそう呟いて、そのまま、キッチンを出ていった。
「・・・・・・・ゾロ。 ・・・・・・俺・・・・・また、言えなかった。 ナミさんに助言して貰って・・・・・
本も読んで・・・・・・俺・・・・・・一生懸命に・・・・・考えてたのに・・・・・・・もうすぐ・・・・・・なの
に・・・・・・」
サンジは、そう呟いて、その場に、しゃがみ込む。
サンジが、考えていたこと・・・・・・・そう、ジャガイモの皮を剥く作業を、忘れてしまうほど、
悩み、ため息を吐いていたこととは・・・・・・・・・
それは、近づいてきたゾロの誕生日に、サンジが贈るプレゼントのこと。
サンジが、ずっとゾロに片思いでいたことを知っているナミは、二人が、両想いになって、自
分のことのように、喜んだ。
だから、サンジも、ナミには、自分が、恋愛経験が全くないこととか、包み隠さず、話していた
し、これからどうすればいいのかなど、助言も受けていた。
始めは、サンジの天然さに驚いていたナミだが、自分を頼ってくれるサンジに、母性本能を
擽られ、協力を惜しまなかった。
そして、まだ、肉体関係のない事を知ったナミは、サンジに、ゾロの誕生日に、自分をあげる
ように、そう、助言したのである。
『私が、助言してあげられるのは、ここまで。 ゾロ、きっと、喜ぶわよvv
これで、勉強してねvv』
ナミは、にっこりと笑って、サンジに本を差し出した。
どこで、手に入れたのかは、定かではないが、その本は、俗に言う美少年本だった。
サンジは、ナミに進められるまま、深夜のキッチンで、人目を盗んで、その本を読んだ。
その本の内容は、サンジにとって、正視できないほど、刺激的で、驚くモノであった。
・・・・・・男同士でも、ヤレるんだな。
・・・・・・け・・・・尻の穴に、挿れんのか????
・・・・・・痛てえよな。
・・・・・・うわっ・・・・・痛そう・・・・・
・・・・・・ゾロのって・・・・・・どんなんだろ?
・・・・・・やっぱり、俺と同じぐらいなのかな?
・・・・・・俺・・・・・・大丈夫なのかな・・・・・・
・・・・・・き、緊張してきた・・・・・・
・・・・・・けど・・・・・船の上じゃ、買い物できねえし・・・・・・
・・・・・・それで、ゾロが喜ぶんなら・・・・・・
・・・・・・俺・・・・・がんばる・・・・・・がんばれる・・・・・・そう・・・・思うけど・・・・がんばりたいな
あ・・・・・
サンジは、国語の三段活用な事を想いながら、コクコクと近づいてくるゾロの誕生日に向け
て、自分を奮い立たせていた。
それが、どうも空回りして、前よりもよけい意識しすぎて、ゾロから抱きしめられただけで、
身体が、ガチガチになってしまう。
だからいつも、一方的に抱きしめられるだけで、本当は、ギュッとチョッパーを抱きしめたよう
に、そうしたいと思っているのだが、身体が、言うことを聞いてくれないのだ。
・・・・とにかく、誤解、解かないと・・・・・・・
・・・・・もう、明日なのに・・・・・・
・・・・・・ゾロに、嫌われるのは、いやだ・・・・・・・
サンジは、意を決して、ゾロがいる甲板へと、キッチンを出た。
・・・あっ、いた。
・・・・いつも見てるけど・・・・・・ゾロの身体って、男の俺から見ても、良い身体してるよな
あ・・・・
・・・・・あんな胸で、俺のこと抱きしめてるのかと思うとそれだけで、俺・・・恥ずかしくなる。
・・・・・やっぱり、俺、ゾロの事・・・・・・好きだ。
・・・・・見てるだけで、胸が、キュンとして・・・・・・
サンジは、暫く、ゾロが鍛錬しているのを眺めていた。
そして、ゾロの側へと歩いていく。
「あ、あのさっ、さっきのことなんだけど・・・・・・」
サンジが、そう、ゾロに、話しかけようとしたとき、
「わりい。 今、集中してやりてえんだ。」
冷ややかなゾロの言葉が、サンジの言葉を遮った。
「あっ、わりい、気がつかなくって・・・・・・・すまねえ・・・・・」
サンジは、出鼻をくじかれて、しょんぼりとしてキッチンに戻った。
「・・・・・・・・・・・。」
ゾロは、何も言わずに、黙ってサンジの後ろ姿を見つめる。
「・・・・本当に、あんたって馬鹿。 自分のことしか考えてないでしょ?? おまけに、サンジ
君に八つ当たり?」
ナミは、呆れ顔で、ゾロにそう声を掛けた。
「てめえには、関係ないだろ。 引っ込んでろ。 うぜえ!」
ゾロは、ハンマーを振りながら、ナミを睨み付ける。
ナミは、平然とその瞳を受け流すと、逆に、ゾロをにらみ返した。
「まっ、あたしには、関係のないことだけどねえ。 どこかの大馬鹿野郎のために、一生懸命
に悩んでいる可愛いサンジ君の事を思うと、文句の一つや二つ、言いたくはなるわよ。
あんた、サンジ君の見た目に誤解してない? サンジ君、ずっと、あんたのこと、好きだった
んだからね。 あんたと両想いになれたって、すっごく嬉しそうに言ってたんだから。 自分
は、そんな経験が全然ないから、これからどうしたらいいかって、あたしに、相談しに来るの
よ。 始めはびっくりしたけど、サンジ君、あのオーナーに余程、過保護に育てられたのね。
19歳にもなって、イロハのイも知らなかったなんて・・・・・・・あんた、知らなかったでしょ?
サンジ君、あたしから、いろんな本まで借りて、いろいろと勉強したみたいよ。
泣けるじゃない? 自分のことしか考えてない筋肉馬鹿の誕生日のために・・・・・・・・・・・
・・・・なんか、喋り過ぎちゃったわ。 悪かったわね、邪魔して。」
ナミはそう言って、テラスに戻って行った。
「・・・・・・・・・・・・・・・恩に着る。」
ゾロは、ナミにそう言うと、キッチンに走った。
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