Pure Boy


その1.



 




「ねぇ〜vサンジく〜んvv」

後二日で、大学生活も夏休みを迎えるという頃、不意にキャンパスで声を掛けられた。

俺より、一つ学年が上のナミさんだ。

「あっ、ナミさんv おはようございます。」

「あのねぇ・・・・・お願いがあるんだけど、な・・?」

俺に軽くウィンくしてナミさんは笑顔でそう言う。

はっきし言って、こう言う時のナミさんは、要注意だ。

この前は、オカマバーの一日ウェイトレスをさせられたし・・・

おかげで、もう少しで、貞操の危機を迎えるところだった。

その前なんか、汚いアパートの掃除させられて・・・・・

ゴキブリやらゲジゲジやら一杯出てきて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・失神した。

ちなみに、俺は、虫は大嫌いだ。

あのモジャモジャがいると思うだけで、この世の終わりを感じるほどに。

本当に、ろくな目にしか遭わないんだから。

それでも、なんでか嫌だと言えないんだよなぁ。

この笑顔の前に、対抗する手段が俺には無い。

ダメな、俺。

「良いですよ〜v ナミさんのお願いなら、どんな事でも聞いちゃいまぁ〜す!」

「本当?! うわぁ〜、嬉しい〜vv だから、サンジ君って大好きよv」

そんな俺に、ナミさんはギュッと抱きついて、ほっぺにチュッとキスをする。




ナミさん・・・・・・・・・・・・貴方は、ステキ過ぎる。




「じゃあ・・・・・・ごしょごしょごにょ・・・。」

「えっ?! ええーーーーっ?! ナ、ナミさん?!」

「じゃあ、これ、バイト代。 よろしく頼むわんvv あ、帰ってきたら、お話聞かせてねvv それ

じゃあ〜vv」

呆然とする俺を残し、ナミさんは笑顔と共に、俺の前から去っていった。

俺に残されたのは、数枚の万札と旅行の日程が書いてあるしおりが入った茶封筒。

「いよう、サンジ。 よろしく頼むぜ。」

いきなり今度は、ポンと肩を叩かれた。

そこには、シャンクスがいた。

ああ、違う、違う。

今は、シャンクス教授だったな。

なんでも、今年、霊長類の進化に関する論文が世界的に認められて、若くして教授に抜擢だ

もんな。

確かに昔から、頭は良かったし、何でも良く知ってたし。

あ、なんで、俺がシャンクスの事、良く知ってるかというとだな。

シャンクスは、俺の家の近所に住んでいて、昔からのガキ大将で幼馴染。

そこら一帯に住んでる奴なら、シャンクスを知らない奴はいない。

しかも、俺の高校時代の家庭教師だった。

教え方も凄くユニークで、勉強に関係ない事や頼んでない事までいろんな事、教えて貰っ

た。

まぁ、恋の駆け引きとか、その辺の事とかな・・・。

「シャンクス? 何が、よろしく、なんだ?」

シャンクスの言葉の意味がわからず、俺はそう尋ねる。

「あれ?? ナミちゃん、言ってなかったか? そのお前が持っている袋の中身の依頼人

が、俺なんだよ。 いやぁ、急にさ、行く筈だった助手が、腸捻転、いや、脱肛だっけか? 

まっ、どっちでもいいか。 でよ、助手が同行できなくなってさ、慌てて他の奴捜そうとしたん

だけど、全然見つからなくてよ。 ナミちゃんに相談したら、任せといてって。 ・・・・っで、お

前に白羽の矢が立ったって訳だ。」

シャンクスは、俺にそうつらつらと説明し始めた。

「いやぁ、本当良かった。 なかなかこの夏休みに俺とジャングルに行ってくれる暇な奴いな

くてよ。 お前なら、飯の心配しなくて良いし、本当良かったぜ。」

そう言ってバシバシとシャンクスは俺の肩を叩く。




・・・・・ジャングル?!

・・・・・夏休み?!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘だろ・・・?!




「ん・・? どうした?サンジ?? あ、出発は、明後日の午後な。 食料とか生活必需品は

こっちで用意してあるから、お前は着替えとかだけで良いからな。 じゃ、よろしく! おー!

鷹の目! こっちだ、こっち!!」

驚きで一言も発せ無い俺を尻目に、シャンクスもそう言って俺から離れていった。

「あーーーっ!! 俺は、どうすんだよぅ!! せっかく、今年の夏は、海でバイトする筈だっ

たのにぃ〜! ナイスバディなレディに囲まれて、手取り足取りスキューバーダイビングを教

える筈だったのにぃ〜!! あっ、そうだ! 断れば良いじゃん! シャンクスに言って、金

返そう。」

そう気が付いた俺は、慌ててシャンクスの後を追う。

途中、親友のエースと会った。

「おっ、サンジ、いいところで会った。 お前の壊れてたバイク、修理出来たぜ。 費用は、

35000べりーにしとくよ。」

「おっ、エース。 あ? 35000ベリー?? それちょっと高くねえ? も少し、安くならないの

かよ?」

「馬鹿言うなよ、これでも部品代とか結構掛かってんだぞ。 ホイ!35000ベリー。」

そう言ってエースは、俺に手を差し出す。




参ったなぁ・・・。

今月、金無えんだよなぁ。




ふと、持っていた茶封筒に瞳がいった。

「なんだ、あるじゃんか。 じゃあ、貰い、なっ?」

俺の視線に気が付いて、エースは言うが早いか、その茶封筒から金を抜き取る。

「あ、それは・・・」

「じゃあなv 俺、これからデートなの。」

俺が金を取り返す間も無く、エースはそう言ってにこやかに去って行った。

「・・・・・・・・ヤバいじゃん、俺・・・。」

結局、俺は返す金も無く、ナミさんに言われたとおり、シャンクスの助手のアルバイトを引き

受ける羽目になったのだった。












++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




「なぁ、シャンクス・・・・・こんなとこ、一体どれ位、滞在する予定なんだ?」

目的の島の近くを通る貨物船に乗り、そこから小船で、俺達は鬱蒼としたジャングルがある

島にようやく着いた。

「一応な、10日だ。 10日後に、また貨物船に拾って貰う手筈になっている。 その間に、

このジャングルに生息する霊長類の生息状態を調べるんだ。」

「ふ〜ん。 10日間の辛抱って訳か。 まっ、仕方ねえか。」

俺達は、浜辺に近いところにベースキャンプを張って、食事の用意に取り掛かる。

一応、料理人の倅だからな、俺は。

持ってきた食材を調理し、食べ易いように弁当スタイルにした。

「あー、やっぱ、お前連れてきて正解だったな。 すんげえ美味えよ、この弁当・・・。」

シャンクスは、俺の作った弁当をそう言って美味そうに食べる。

「へへ・・・そうだろ。 料理にだけは自信あるしな、俺・・・。」

そう言って、俺も、自分の作った弁当を手に取ろうとした次の瞬間、サッと、何かが俺の瞳の

前を横切った。

猿だった。

そいつがいきなり現れて、俺の弁当を取って逃げていく。

「あっ、待て!このサル!!それは俺が作った弁当!!」

俺は 、夢中で追いかけた。

あんな訳のわからねえサルに俺様の弁当を食べられて堪るか。

食料は余分にはねえんだ。

・・・と、途中まで追いかけたは良かったんだけどなぁ。

猿の奴、いつの間にか群れになってて、逆切れして、集団で襲ってきやがった。

「うわっ!マジ?!勘弁?!」

俺は、必死で逃げた。

野性の猿の集団があんなに強暴だなんて・・・

シャンクスの奴、言わなかったじゃねえか!

「うがっ!崖じゃん! ヤバッ!!」

瞳の前は崖。

他に逃げれるような道は無い。

正真正銘、俺はがけっぷちに立たされた。

って、そんな悠長な事考えてる場合じゃねえぞ。

2、3匹ならいざ知らず、この数じゃ・・・

「ああ、俺の帰りを首を長くして待っている幾千万の女の子達・・・さようなら・・・。」

俺はそう呟いて、最後の抵抗を試みようと身構える。

そしたら、いきなり何かに抱き抱えられた。




なんだ?!

ゴリラか?




とにかく、それは、俺をあの凶暴な猿軍団から助けてくれたようだった。

暫くの逃避行の後、やっとあの猿軍団は諦めてどっかに行った。

「あ、ありがとう・・・っつうても、通じるわけ ねえよな。とにかく離してくれ。」

俺は、身振り手振りで何とか伝えようとした。

そしたら、

「通じるわけねえよな・・・。」

いきなりそいつが喋った。

「うわっ!てめえ人間か?!ゴリラじゃねえのかよ?!」

俺は、心底驚いた。

まさか、これが人間だったなんて。

そいつは、初め、俺の言うとおりに鸚鵡返ししてたけど、そのうち、だんだんとわかるようにな

ってきた。

「俺、ゾロ・・・ゾロ・・・」

「俺はサンジ、サンジだ。」

俺達は、互いの名前を知った。

それがあいつと俺の出逢いだった。









それから、ゾロは、毎日のように俺達のベースキャンプに遊びに来る。

そして、言葉を覚え、色々な文明の知識をぐんぐん吸収していった。

「てめえ、汚えな・・・ちょっと俺がカットしてやる。」

俺はそう言って鋏であいつのぼさぼさした頭と髭を 切ってやる。

次第に表れる輪郭・・・・・表情。

その顔に、思わずボーっとした。

都会にだってなかなかいない精悍な面構え。

ちゃらちゃらした野郎とは比べ物にならないくらい・・・

格好良かった。

「ヒュ〜♪結構男前じゃん、てめえ。」

そう言ってごまかすように笑った俺に、あいつは、俺の腕を掴んで

「男前じゃん!」

そうオウム返してにっこりと笑う。

「あ・・・・」

俺は言葉を失った。

女の子の笑顔に見惚れる事はあっても、野郎のしかもゴリラ同然のコイツの笑顔に見惚れる

なんて・・・。




・・・・どうしちまったんだろ、俺・・・。

ドキドキが・・・・・止まらねえ。

・・・・ヤバイだろ、これは・・・。




「・・・サンジ?どした?サンジ?!」

そう言って黙ったままの俺をゾロは覗き込む。




・・・ヤバイ。

頼むから、今はそっとしておいてくれ・・・。




俺は、黙ったまま、駆け出した。

「サンジ!! 待って!サンジ!!」

逃げ出した俺をそう叫びながらゾロは追いかけてくる。




・・・もう、頼むからそんなに必死で追いかけてくんなよ。




迷子の子供が母親に駆け寄るかのように必死になって追いかけてくるあいつ。

しかも、ものの5分もしねえうちに俺はあいつに腕を捕られた。

「サンジ・・・どうした? 俺、なんかしたか?」

そう言って覗き込むあいつの瞳に、心臓がドクンとはねた。




ああ・・・どうしちまったんだろ、俺・・・。

これじゃあ・・・・恋に落ちたみてえじゃんか。

恋?!

この俺が・・・・恋?!

嘘だろ・・・。

この引く手あまたのモテモテ伊達男の俺が・・・・

この類人猿に・・・恋?!




「・・・わりい、手、離してくれねえか。 今日はもう帰るから。」

俺はそう言って手を振り解くと、ふらふらと ベースキャンプに戻る。

「おう!サンジ、何処に行ってたんだ? それよか、そろそろ戻る準備をしとけよ。明後日に

は貨物船が寄ってくれるそうだから。」

シャンクスが 荷物を整理しながら、俺にそう言った。

「明後日?! 予定では後5日の筈・・・。」

「ああ、そのつもりだったが、目当てのゴリラの生息はわかったし、なにより大学から緊急の

呼び出しが入ってな。 まぁ、良かったじゃねえか。お前、早く帰りたいって言ってたもんな。」

驚いた顔の俺に、シャンクスはそう言って笑う。

確かに・・・初めの頃、俺はそう言ってたさ。

けど・・・・なんでか、今は・・・

あいつに別れを言うのが・・・・辛い。

明日もきっとあいつはやってくる。

にっこりと屈託の無い笑顔を向けて、俺の名を呼ぶんだ。

『サンジ』って・・・。

そんなあいつに、なんて言ったら・・・

考えただけで・・・胸が締め付けられる。

「ヤバいなぁ。 ・・・・マジみてえだ。」

俺は、 軋む胸を堪えながらそう呟いてジャングルを見上げた。


翌日、あいつはやっぱり、やってきた。

「サンジ・・・サンジ、これ、プレゼントする。」

そう言ってあいつは笑顔と共に、俺に草花をくれる。

どうやら、昨日見たプロポーズのフィルムの影響らしい。

「・・・サンキュー、ゾロ。 あのさ・・・俺・・・・明日・・・」

そう、俺は言わなくちゃいけねえ。

辛かろうが、なんだろうが、事実は事実。

俺は明日、ここから帰るんだから。

「ん?なに?サンジ・・? サンジ、ずっとここいる・・・俺とここいる。」

そう言って笑うあいつに、声が詰まった。

ギリッと血が出るほど奥歯を噛み締めて、涙を堪える。

「ゾロ・・・俺、明日いなくなるんだ。」

やっとそれだけ言葉に出来た。

サッとあいつの表情が変わる。

「なんで?サンジ、なんで? 俺嫌い? 直す。俺、サンジの言うとおり直す。 サンジが行く

とこ、俺も行く。だから・・・」

縋る様なあいつの瞳。


胸が・・・・・・・潰れそうになった。




そんな事言うんじゃねえよ!!

簡単に言って・・・・・くれるな。

てめえにゃ・・・・都会の空気は似合わねえ。

てめえは、人の怖さを・・・・

文明の怖さを・・・・・・・・・・・・・・・・知らな過ぎる。




「また、気が向いたら遊びに来てやっからさ。 元気でいろよ。」

それが、俺に言える精一杯の言葉。

「嫌だ、サンジ、嫌だ!!」

ブンブンと首を横に振って俺を抱き寄せる。

「聞き分けのねえ奴は嫌いだ。」

わざと冷ややかな態度であいつにそう言った。

「ごめん・・・サンジ・・・ごめん・・・」

そう言って泣きそうなあいつの顔を見てたら、不覚にも涙を零しちまった。

「じゃあな、ゾロ。」

俺はその涙を見られないようにそっと拭って、それだけ言って荷物を片付ける。




嘘だ・・・嘘だよ。

嫌いになんかなれる訳ねえ。

こんなにも・・・・・俺は、てめえが好きだ。

好きだ・・・・・ゾロ。

けど、もう・・・・逢わねえ。







二日後・・・・。


「・・・・・・・・辛えな。」

帰りの小船に揺られながら、シャンクスが俺にそういう。

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

俺は何も言えなかった。

浜辺で、置き去りにされた子供のようにじっと視線を逸らさないゾロ。

もう表情さえわからないくらい小せえのに、それでもあいつは動こうとしてねえ。

俺は顔を上げることも、振り向く事も出来ず・・・

結局、さよならさえ、ろくに言えなかった。

「まっ、直に忘れるさ。 もう二度と逢うことねえからな。」

シャンクスの言葉が・・・・・・痛え。




本当に忘れられるんだろうか・・・?

あの瞳を・・・あの声を・・・・あの腕を・・・




「オイ!!サンジ!!」


気が付いたら、飛び込んでいた。

海に飛び込んだ俺を見て、慌てたようにあいつがこっちに向かってくる。

服が重くて思うように進まねえ。

それでも俺は、あいつ目指して泳いだ。

「ゾロ!! ゾロ・・・ゾロ・・・・。」

俺はあいつにしがみつく。

「サンジ・・・サンジ・・!!」

あいつも、俺の名を呼んでギュッと抱きしめた。

「・・・・お帰り、サンジ。」

そう言ってにっこりと笑うあいつに、

「ただいま、ゾロ。」

そう返事して俺は、あいつに口付けた。







<next>



 



<コメント>

はい、これは日記のSSSでかいた【ターザンゾロ】なんですが・・・
ここからが、スタートになります。
どうしてこれがロロ誕かと言うと・・・・あはは・・・・・・(;一_一)
それは後程・・・・・(笑)
では☆