Darling☆Panic


その1.







「くぉらーっ!! 寝グサレ腹巻ーっ!! さっさと起きやがれ!!」

劈くようなあいつの怒声と、腹にズキンと痛みが走る。

わかってんだよ、てめえが来たのぐらい・・・・

・・・・・意識はあるんだから。

けどよ、俺が起きてると、てめえ、つまんなそうな顔するからよ・・・。




わかってんのかよ、サンジ。




「痛えーーっ!! 何しやがるんだよ!!」

俺は、さも今、目覚めたような口調でそう文句を言った。

「てめえこそ、何度言っても聞かねえな。 俺様の料理が冷めちまうだろ! ほら、ぐずぐずし

ねえで、さっさとキッチンに来い!」

サンジは、そう言ってクルッと踵を返しキッチンに向かう。

その時のサンジの表情ったら・・・・




プッ・・・。

サンジ、口元が緩んでるぜ。




「ヘイヘイ・・・・」

俺は、ニヤニヤと笑いながら、サンジの後に続いた。

「あん? 何ニヤついてんだよ?」

そう言って、あいつが怪訝そうに立ち止まって振り向いたから。

「ククク・・・・・俺を起こすの、そんなに嬉しいか・・?」

って、グイッとその腕を掴んで引き寄せた。

「ばっ、ばっかじゃねえの!! なんで、俺が!!!」

「ククク・・・・・声、裏返ってるぜ・・・?」




ククク・・・・

そうやって、あたふた動揺していること自体が、認めてるって事だろ・・・?

相変わらず、素直じゃねえんだから・・・・




「ち、違う!!これは!!!」




ほら・・・・・赤くなった。




動揺して真っ赤になって俯くサンジの腰に腕を廻す。

「ククク・・・・・出来るなら、こうやって起こしてくれると俺としちゃあ嬉しいんだがな・・・。」

咥えている煙草を取り上げて、そっとその柔らかい唇に口付けた。

まあるく見開かれた瞳が、俺を見つめてる。

その表情さえ、愛しいと思う。

「んっ・・・・んんっ・・・・ぷはぁっ・・・・・・・・・・・・・このエロ剣士!!」

そう言ってサンジが必死で俺を引き剥がした。




まっ、それは、妥当だな。

まだ、日が高いしな・・・。




なんて悠長に構えてたら、ドカッと、至近距離から鳩尾にサンジの膝が入る。

これは、かなり効いた。

「こ、このエロ腹巻!! て、てめえなんか一生そこで寝てろ!!」

膝をついて甲板に蹲った俺に、サンジはそう怒鳴って、そのままキッチンに入っていく。




痛え・・・・・・・・ちと、やりすぎたかな・・?




暫く動けずに、そのまま、ごろんと甲板に寝そべった。




きっともう、朝飯無えだろうな・・・。




案の定、動けるようになってキッチンに行ったら、テーブルの上には、何も残って無い。

仕方なく、酒瓶を取ろうと酒棚に手を伸ばしたら、バシッと足で弾かれた。

「痛っ! ・・・・・・・・・・。」




口で言えば良いだろ!口で!!

しかも、足ときたもんだ。




先程の事があるので、グッと言いたい事を我慢する。

けど黙っているのも癪なので、瞳でそれを訴えてみた。

「朝から飲むんじゃねえよ! ほれ、てめえの分だ・・・。」

スッと皿を差し出される。

見ると、一人分にきちんと取り分けられた料理。




もう・・・・・・・こんなところが、最高なんだよなぁ、こいつ・・・。




「良いのか・・・?」

本当は嬉しくて、すぐにでも頬張りたい位なんだが、ここはグッと感情を抑えてそう尋ねた。

「・・・・・・・・要らねえなら、食わなくて良いぜ・・?」

ニヤリとサンジが、笑う。

さっきと丸っきし、反対。




見透かされてるな、俺・・・・。




「誰も要らねえなんて言ってねえだろ! 食うよ、食う!! 食わせろ!!」

サンジから皿を取り上げ、ガツガツと食う。

「へへ・・・・美味いだろ・・・?」

そう言って、サンジはニカッと笑った。




そんな顔ばっかしてりゃあ、可愛いんだがな。




滅多に見せない顔なので、じっくりと見てやる。

「んぁ? ・・・・・なにガンつけてんだよ。」

そう言って、視線を逸らしたサンジ。




ククク・・・・可愛えぇ・・・・。




サンジは、いつもそうだ。

俺がじっと見つめると、真っ赤になって俯いたりする。

どうやら、俺に見られるのが照れるらしい。

「ありがとうな、サンジ・・・。」

俺は苦笑して、滅多に口にしない名前を呼んだ。

「う・・・ぁ・・・・ああ・・・別に・・・。」

サンジは慌ててポケットに手を突っ込んで、煙草を咥える。

動揺したときの、こいつの癖。




別に、なんて言っといて・・・・・・全然平静じゃねえだろ。

その証拠に、ほら・・・・・火がつかねえ。




「てめえって・・・・・すげえ可愛い。」

俺はサンジを引き寄せて、ギュッとその痩躯を抱き締めた。

「可愛いって言うな!可愛いって!!」

そう言って俺を睨みつけながらも、抵抗はしてねえ。

だから、俺もそっとサンジの唇に自分のを近づけた。

「ねえ、サンジィ〜。」

そういう声と共に、キッチンのドアが勢い良く開く。

その刹那、俺は強烈な痛みを鳩尾に食らった。

受身も取る暇もなく、壁にぶつかる。

「ッ・・・痛え・・・・・このクソコック!! てめえはちったぁ、可愛く素直になりやがれ!!」

俺はそう文句を言って、起き上がろうと身体を起こしたら・・・・・

頭に何かが落ちてきた。

遠くにサンジとチョッパーの声が聞こえる。

目の前が、真っ暗になった。







「オイ! オイ!ゾロ!!大丈夫か??しっかりしろ!!オイってば!!」

ガクガクと身体を揺り動かされ、サンジが俺を呼んでいる。

「うっ・・・・・あ・・・・・?」

瞳を開けると、俺を心配そうに覗き込むサンジの姿。

目元に涙まで浮かべてやがる。

「ふぇっ・・・・・良かったぁ・・・・ゾロ・・・・・良かった・・・。」

ポロポロと涙を零しながら、サンジが俺にギュッとしがみつく。

「ゾロ、大丈夫か? 俺に診せて・・・・」

サンジの隣りに居たチョッパーが、そう言って俺の頭を覗き込んだ。




そうか・・・・・。

そう言えば、俺・・・・・・気を失ってたんだ。




ふと床を見てみれば、壁に掛かっていたはずの時計が落ちている。




・・・・・・・・道理で、痛え筈だ。




「ああ、このくらいなんともねえから・・・。」

そう言って立ち上がろうとして、気がついた。

サンジが俺の首にしがみついていた事に。

「お、おい、クソコック・・・」

俺は、慌てた。

だって・・・・・・・・あのサンジが、俺にこう言う風に抱きつく訳ねえから。

まっ、夜は別としてもだな・・・。

チョッパーがいるこの状況で、絶対にそれは有り得ねえ。

あの滅茶苦茶恥ずかしがりやのはねっかえりが・・・・・・・・・絶対に有り得ねえ・・・・・・

・・・・・の、筈なんだが。




これは、一体??




俺は狐に抓まれた心境で、ぽかんとサンジを見つめる。

「ん? どうしたんだ、ゾロ? なぁ、本当に大丈夫か? ちゃんとチョッパーに見て貰とけ

よ。」

そう言ったまま、腕は俺の背中へ。

「どうしたんだ、てめえ?!」

俺は、ガッとサンジの腕を掴み、一緒に立ち上がる。

「い、痛えよ、ゾロ・・・・・ゾロこそ、どうしたんだよ? 頭打って変になったのか?」

そう言って不安そうにサンジは俺を見つめた。




・・・・・・・何かが、違う・・・・・・何かが。

なんだ・・・・・何が違うんだ?

そうだ!!

名前・・・・・・・・こいつが、俺の名前を呼ぶのは、夜だけだ!




今までのサンジと決定的な違いを俺は見つけた。

「俺が変じゃねえ! てめえが、変だろ、クソコック!!」

「クソコック?!」

俺の言葉に、チョッパーが驚いたように声を上げる。

「あ? なんだよ、チョッパー??」

「だって・・・・・・ゾロ、一体どうしちゃったのさ。 サンジのこと、クソコックだなんて・・・・」

怪訝そうな俺に、チョッパーがそう言って首を傾げた。

「どうしたもなにも、俺はいつも、こいつにそう言ってるじゃねえか。」 




なんで今更な事を聞くんだ・・・・・・チョッパーの奴・・・。




首を傾げたいのは、俺の方だ。

「だって・・・・・ゾロは、いつも、サンジってそう呼んでいるのに・・・・クソコックだなんて・・・・

ゾロらしくないよ。 一体どうしちゃったのさ、ゾロ。」

「なっ・・・・・・なっ・・・・・・」

俺は、言葉を失った。

「これは、夢だ。 夢に違いねえ。 もう一度寝たら、大丈夫だ。 ・・・・・・寝よう。」

俺は一人ブツブツと呟いて、床に寝転がる。

「あ、ゾロ!! ダメだ、んなとこで寝るな!!」

サンジの怒鳴る声が聞こえる。




この様子じゃ、次は蹴りか・・・・・。




俺は、薄目を開けて腹にグッと力を込めて、これから来るであろう衝撃に耐える準備をした。

・・・・・が、しかし。

「・・・・・もう。 仕方ねえなぁ、ゾロは・・・・。」

俺の予想を覆し、サンジはクスクスと笑うと、事もあろうか俺に毛布を掛けやがった。

一気に瞳が覚めた。

もう寝ている場合じゃねえと感じた。

「どうしちまったんだ!!クソコック!! いつものてめえは何処行った?!」

ガバッと立ち上がり、俺はサンジに詰め寄る。

「痛っ!! 痛いよ、ゾロ・・・・・もう、なんなんだよ、さっきから・・・。 いつもの俺って・・・・

俺は俺だぞ。 てめえこそ、変だ、ゾロ。 なんでそんな瞳で俺を見るんだよぅ。 変なのは、

ゾロだ。 チョッパー・・・なんか様子が変だ。 頼む、こいつを診てやってくれ。」

「うん、わかった!」

サンジの言葉に、チョッパーが俺を引き剥がして、無理やり聴診器を当てる。

「・・・・・身体は異常ないみたいだ。 だとしたら・・・・・」

じっとチョッパーがつぶらな瞳で俺を見る。

「な・・・・なんだよ・・・。 俺は、どこも悪くねえ。 もう寝る!!」

俺はその視線に居た堪れなくてキッチンを出た。

ルフィは、メリーの頭の上。

ウソップは、見張り台。

ロビンとナミはテラスで読書と海図描き。

いつもと変わらない風景が、俺の前にある。

なのに・・・・・なのに、あいつだけ何故違うんだ?




訳、わかんねえ・・・。

あ、もしかして・・・・・




「おい、ナミ。 てめえが企んだ事か?」

俺は、ナミにそう聞いてみた。

「ハァ?? なにいきなり言い出すの? 失礼ね、あんた・・・」

俺の言葉に、ナミはムッとした表情をしてそう言い返す。

どうやら、俺の思い違いらしい。

「・・・・・悪い。 クソコックの様子がおかしかったからてっきり・・・・」

「クソコック?! あんたこそ、どうしちゃったのよ? サンジ君のことそんな風に言うなん

て・・・・寝惚けてんの?」

「んぁ? 俺はいつもクソコックとしか言わ・・・・」

「あーハイハイ。 また犬も食わない痴話喧嘩でもしたのね。 あ、ゾロ。 今夜には島に着く

から・・・・サンジ君の希望通りにね。 希望通り、二人きりにしてあげる。 それがあたし達

の誕生日プレゼントよ。」

俺の言葉も最後まで聞かず、ナミはそう言ってにっこりと笑った。




ちょ、ちょっと待てよ。

痴話喧嘩?!

サンジの希望?!

誕生日プレゼント?!




俺は訳がわからず唖然とする。

「・・・・・・・俺の誕生日プレゼント?!」

言えた言葉はそれだけだった。

「・・・・・あのね。 本当、どうしちゃったのよ。 10日前から、あんた言ってたじゃない。 

今年の俺の誕生日には、物は要らないからサンジ君と二人きりにさせてくれって・・・・。 

まっ、わからなくもないわよ、そりゃあ・・・・・好きな人と一緒に二人きりで祝いたいって気持

ちはね・・・。 だから、こうやって、用意したんじゃない。 あ、但し、一日だけよ。 それに、

程ほどにね、何事も・・・・・・やりすぎは厳禁だからね・・・。」

ナミは俺にひそひそと耳打ちして、そう言ってにっこりと笑う。

「なっ・・!・・・な・・・!!・・・・んな恥ずかしい事、俺が言う訳ねえーーーーっ!!」

俺は今までに無い位、絶叫した。




だって、そうだろ・・・・。

俺がそんな事言う訳ねえ。

思っててもだ・・・・・・・・・んな事頼んだりしねえよ。

第一、サンジが・・・・・・・あのクソコックが、んな事、ナミに頼む訳ねえ。

俺と付き合っている事すら、ナミにバレるのを嫌がってるくらいなのに・・・。




「なんだ、なんだ?」

「どうしたんだよ? なにかあったのか?」

騒ぎを聞きつけて、ルフィとウソップがそう言いながら、俺の方へ歩いてくる。

「いや・・・・・・なんでもねえ。 俺、もう寝るわ・・・・。」

あまりの展開に、俺はなんか話す気力も消えうせて、そのまま男部屋に向かった。

しかし、そこに待ち受けていたのは・・・・・

「・・・・・・・・・こ、これは、一体?! なんでこんな部屋が・・・・」

いつものように男部屋に行くと・・・・・

いつの間にか、男部屋の隣りにもう一つ部屋が出来ていて、中を覗くと見たことも無いダブ

ルベッドがデンと待ち構えている。

「あ、ゾロ・・・・」

「チョッパー、これは・・・・この部屋は一体?!」

「なに言ってんだよ。 ゾロとサンジの部屋だろ? 去年の誕生日にウソップが作ったじゃな

いか。 ・・・・・ゾロ、もしかして記憶・・・・無いの?」

「・・・・・・・・・記憶?」

「ちょっと、来て!!」

首を傾げた俺をチョッパーは慌てて手を引っ張り、そのダブルベッドに座らせた。

「・・・・・やっぱりさっき、頭をぶつけたのが原因なのかな? 外傷はそんな重大には思えな

いんだけど・・・・・」

俺の頭に出来ている傷を診ながら、チョッパーがそう呟く。

「俺は全然普通だぞ。 病人でも怪我人でもねえ。」

「だったら、ゾロ。 俺の質問に答えてみてくれる?」

「ああ。」

それから、チョッパーは、俺にいろんな質問をした。

「やっぱり、記憶の一部分が欠如してる。 たぶん一時的なものだとは思うけど・・・いいか、

ゾロ・・・・・」

チョッパーが俺に話してくれた事は、俺の言葉を失くすには充分な内容だった。

それは、俺とサンジが恋人であり、この船全員の周知の事実でこの部屋まで作らせたほど

のラブラブぶりを発揮してるって事。

しかも、チョッパーが言うには、俺は相当な独占欲の持ち主で、始終サンジに纏わり付いて

るらしい。

そして・・・・・・俺は、「サンジ」っていつも呼んでいるらしい。




・・・・・・・・有り得ねえ・・・。

百歩譲って俺がサンジに纏わり付いたとしても・・・・

サンジが黙っている訳ねえ。

速攻、俺は床に伏してる筈だ。




しかし、瞳の前のチョッパーの顔は妙に真剣で、俺は認めざるをえなかった。

自分が記憶を失くしているらしいこの状況を・・・。

「・・・・・・状況は、とりあえずわかった。 けど、まだ頭ん中がこんがらがってて・・・・すまね

え、一人にしてくれねえか?」

「うん・・・・わかった。 なんかあったら俺を呼んでな・・・。」

チョッパーは、俺の言葉にそう返事して部屋を出て行った。

俺は、眠る事も出来ず、ただボーっと天上を見つめる。

「・・・・・・・ゾロ、大丈夫か・・?」

暫くして、サンジがそっと入って来た。

「あのさ・・・・おやつ、持って来た。 ゾロ、これなら食べるってそう思って・・・・」

そう言って言葉といっしょに差し出されたのは、白いゼリー。

自慢じゃねえが、俺は、これまでサンジが作ったおやつは食った事なんかねえ。

「・・・・・・・要らねえ・・・・」

思わず口が出た。

「えっ?! あ、でも・・・・」

「俺は甘いのが苦手なんだ。 おやつなんか食わねえの、てめえが一番知ってるだろう

が!!」

つい、声を荒げてそう言い返し、体勢を整える。

いつものサンジは、この時点でマジ切れして俺に強烈な蹴りをお見舞いしてくるから。

「あ・・・・・・そうだけど・・・・・・これは・・・・・これだけは、美味いって・・・そう言って食べてく

れ・・・・・・」

だんだんとサンジの声が小さくなって涙声に変わっていった。




な、なんだよ・・・・・・・・・ここで、泣くのかよ?!




「あー・・・・・・う・・・・・・おい、クソコッ・・・」

「ゾロの馬鹿ぁ!!」

俺の言葉を最後まで聞くことなく、サンジは俺にそのゼリーを投げつけて部屋を飛び出す。

ちょびっとだけ、俺の口の中にゼリーの欠片が入り込んで・・・・・・・

確かにそんなに甘くはなかった。

さっぱりとしてて・・・・・・美味しかった。

「・・・・・・・・参った。」

毛布に散らばるそのゼリーを掬って口に放り込む。

サンジに対する罪悪感だけが、口の中で苦く残った。








<next>



 



<コメント>

また性懲りも無くロロ誕駄文とは思えないこの話・・・。
間に合えば・・・部屋にあると・・・
間に合わなかったら・・・企画部屋直行・・・(滝汗)

間に合いました・・・・(ボソリ)