NG ダーリン OK ハニー


前編







「・・・・・参った。 洒落にならんだろ、これじゃあ。 金が・・・・無え。 かといって、これ以上

ナミに借金は、したくねえし・・・・ さて、どうしたもんか。」

ゴーイングメリー号の深夜のキッチン。

今日は・・・・・・2月の23日。

ゾロは一人、カレンダーを見つめて、顔を顰める。

先程まで、いつものようにサンジと甘い時間を過ごし、先に意識を手放したサンジの後始末

を風呂で行い、そのまま、ソファーにその痩躯を横たえた。

その睦事の最中、ゾロは、サンジの誕生日が、3月2日であると告げられた。

それが・・・・・一週間後に迫ってると言うことも。




『・・・別に、この年でプレゼントなんか欲しいとも思わねえし。 俺、ゾロがいるだけで良いん

だ。 それだけで・・・・充分。』




サンジは、さっき、そう言ってたけど・・・・・・・そうは、いくかよ。

知らねえ仲ならともかく・・・・・・それに・・・・・・

・・・・・・なんとか、都合つけねえと、な・・・・・・

頼りたくねえが、金の話は、あいつに聞くしか、ねえよな。




ゾロは、深くため息を吐き、サンジを抱き締めて眠りについた。









翌日、ゾロは意を決して、ナミに金儲けの話を尋ねる。

多少のリスクと、手数料は、覚悟の上で。

「・・・・そう言うこと、ね。 やっぱり、恋人としては、可愛いサンジ君のためならって、気にも

なるわよね。 ・・・・・良いわ。 明日、上陸予定の島には、いろいろと店もありそうだから。 

明日、一緒に行ってあげる。 一週間って事は・・・・相当ハードなコトしないと稼げないわよ。

覚悟は、良い?」

ナミは、冷やかすようにそう言って、ゾロを見て笑った。

「ああ、てめえに相談する時点で、それ相応の覚悟は出来てる。 けど・・・・ぼったくるなよ

な。」

「あのねえ・・・・・そんな事言ってたら、そっちの取り分、3にするわよ。 7:3に!!」

「うげっ!! なんだよ、その取り分は・・・・6:4だ。 俺が6で、てめえが4。 それでも、充

分にてめえに配慮してるんだぜ。」

「冗談!! あたしが、口利きしなきゃ、あんた、稼げないのよ? あたしが6で、あんたが

4。 それ以上は譲歩しないわ。 それが嫌だったら、自分で探す事ね。 まあ、一週間で稼

げるとこなんて、そうそう見つからないでしょうけど。」

ナミは、フンと鼻でせせら笑うようにゾロに言う。

「・・・・・・5:5。」

「・・・・・・仕方ないわね。 サンジ君のためだし、いいわ。 5:5ということで。 じゃあ、明

日、上陸の時、いつものように甲板に寝転けてたら、放って置くからね。 わかったわね。」

「ああ、寝ねえよ。 じゃ、明日・・・・」

ゾロは、ナミの言葉にそう返事して、いつものようにトレーニングを始めた。

「お疲れ、ゾロ。 あのな、ナミさんから聞いたんだけど、明日、街に上陸するって。 だか

ら・・・・・あの、その・・・・・一緒に、街に・・・・」

サンジは、飲み物を休憩中のゾロに手渡しながら、そう言う。

「悪い、サンジ。 俺、今度の街にちょっと用事があって・・・・・本当、悪い。」

ゾロは、サンジの言葉にそう言って、渡された飲み物に口を付けた。

「あ・・・・・・そう。 ・・・・・そうか。 じゃあ、仕方ねえよな。 気にするな、ゾロ。 次の機会

にでも、な?」

サンジはそう言って寂しそうに笑うと、足早にキッチンに戻る。

「サンジ、待ってろよ。 てめえの誕生日には、絶対にてめえが喜びそうなもん、プレゼントし

てやるからな。」

ゾロは、サンジの後ろ姿に、そっと聞こえないように呟いた。







「ゾロの・・・・・・馬鹿。 ・・・・・・もうすぐ、俺の誕生日なのに。 ナミさんに無理言って一週

間、滞在するようにして貰ったのに・・・・・・ 誕生日ぐらい、ゾロと、ふたりっきりでいたかっ

たのに・・・・・・・ゾロの馬鹿・・・・朴念仁! 激ニブ野郎! あれだけ昨日、誕生日は一緒に

いてくれって、そう言ったのに、全然わかってなかったんだな。 クソッ。 あー、ムカつく、

ムカつく! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けど・・・・・・・好き・・・・・」

サンジはソファーに俯せて、ギュッとソファーカバーを握りしめる。

まだそこに、昨夜のゾロの温かさが残っているような気がして、サンジは、いつまでもそうし

ていた。













翌日、船は、ナミの予測通りに島に着いた。

船長を始め、船番を務めるサンジ以外は、皆、船を下りる準備を整え、船を下りていった。

「じゃあ、サンジ君、船番頼むわね。 3日したら、ウソップ達と交代して貰うように言ってある

から。 あと、最終日の3月3日は、盛大に一日遅れの誕生パーティーしましょvv 

さあ、行くわよ、ゾロ。」

「おう。 じゃあな、サンジ。 また後で。」

ナミとゾロは、サンジにそう言って一緒に、船を下りていった。

「いってらっしゃ〜いvvナミさんvv ・・・・・・・・・・・・・・・・いってらっしゃい、ゾロ・・・・・・・・・」

サンジは、そう言って二人を見送ると、誰もいない甲板で一人紫煙を揺らす。




・・・・・用事って・・・・・ナミさんと?? 

・・・・・・何の用事なんだよ・・・・・ゾロ。 

俺には、言えないような・・・・・・事?




ゾロとナミの仲を疑るわけではないが、サンジの心の中に、不安が渦巻く。

「あー、やめやめ。 ぼんやりしてると、ろくな事考えねえ。 とりあえず、今日からゾロとふた

りっきりになれるわけだし・・・・・・早めに、夕食の準備でもしておくか。 さしずめ・・・・・今日

は、和食だな。」

サンジは、タバコを海に放り捨てるとキッチンに向かった。












「ゾロ、お待たせ。 いろいろと情報仕入れてきたわよ。 5日間、20万ベリーのと、3日間で

10万ベリーの仕事。 あとは・・・・・1日、10万ベリーで期間無制限。」

ナミは、酒場で酒を飲んで待っていたゾロにそう声を掛ける。

「・・・・っで、仕事の内容は?」

「前の二つは、カジノのバーテンと用心棒。 最後のは・・・・・いわゆるホストって奴ね。 

さあ、どれにする?」

「・・・・・・3日間で10万のやつで良い。」

ゾロは、ナミにそう言うと、深いため息を吐いた。

「OK! じゃあ、これから行くわよ。」

ナミは、テーブルの上にお金を置いて、ゾロと一緒に、仕事先に向かった。

「・・・・・こんな堅苦しいの、着るのかよ。」

ゾロは、店で渡されたパーティースーツに唖然としてナミを睨み付ける。

「そうよ? 当然でしょ?? 用心棒といえども、客商売なんだから。 はい、さっさと着替え

てくる! お金が要るんでしょ? だったら、ごちゃごちゃ言わないの!!」

「・・・・・・ったく、ろくなもんじゃねえな・・・・」

「何か言った??」

「・・・別に・・・」

ゾロは、ナミの言葉に渋々従った。

「あら? 結構様になるじゃない。 それで、眉間のしわが無くなれば、売れっ子ホストにだっ

てなれるわよ。 あたし、これからカジノで稼がせて貰うから。 じゃあ、頑張ってねvv」

ナミは、着替えたゾロにそう言うと、さっさと店の方へ向かう。

「・・・・・これも、3日の辛抱だ。」

ゾロは、そう呟いて、バーテン兼用心棒の仕事を引き受けた。












「・・・・・遅えな。 ゾロの奴、まだ、用事すまねえのかな。 もうとっくに、陽は沈んでるの

に・・・・もしかして・・・・・迷ってる?? それとも・・・・・・・ヤバい事に首を突っ込んだとか。

・・・・・・有り得ない話じゃないな。 ・・・・・・探しに行きてえが、今、船には、誰もいねえ

し・・・・・ あーもう・・・・・なにしてんだよ、クソゾロっ!」

サンジは、心配しながらいつまでも戻ってこないゾロを待つ。

そして・・・・・時間が深夜の0時を回る頃、ゾロがやっと船に戻ってきた。

「・・・・・・・・・・悪い。 遅くなっちまった。」

ゾロは、疲れた表情でキッチンに入る。

「遅え!! 俺、心配したんだからな! てめえが、ヤバい事に首突っ込んで帰れなくなって

んじゃねえかと・・・・・・迷子になって・・・・・・・戻って・・・・・これねえんじゃねえかと・・・・・

っ・・・・」

ゾロの顔が見れてホッとしたのか、サンジは、言葉に詰まった。

「・・・・・悪い、サンジ。 ・・・・心配掛けちまったな。 けど・・・・あふ・・・・・zzz・・・・・・。」

ゾロはそう言うなり、テーブルに俯して寝息を立て始める。

日頃使うことのない神経を使い果たすバイトは、ゾロに精神的な疲労を与えていた。

「おい! ゾロって!! こんなとこで寝るなよ! おいって!! ・・・・ったく、こんなにくたび

れるまで、なにやってたんだろ。 もう、仕方ねえな。 よいしょっと・・・・」

サンジはそう呟いて、壁際のソファーにゾロを寝かせ、自分もその隣に横になりそのまま眠っ

た。

翌日も、ゾロは、また用事があると言って一人で街に出掛けていく。

そして・・・・・戻ってきたのも、やはり真夜中過ぎであった。

それも、船に戻ってきたと思ったら、食事もサンジとの会話もしないまま、眠ってしまう。

さすがのサンジも、これにはキレた。

「なんだよ!! なんだってんだ! これじゃあ、ナミさんに言ってふたりっきりにして貰った

意味が全然ないじゃねえか! 俺・・・・・・俺、楽しみにしてたのに・・・・・ずっとずっと、楽し

みにしてたのに・・・・・・・・俺ばっか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿みてえ・・・・・・」

街に船が着いて3日目の夜、サンジは、灯りをつけずに男部屋のソファーに横たわり紫煙を

揺らす。

心の中は、ゾロへのはけ口のない怒りで満ちているのに、それでも、食事の用意をして、寝

ずに船に近づく気配に神経をとがらせている自分に苦笑した。




・・・・・ゾロは・・・・・・俺が、ゾロを想うようには、俺のこと・・・・・・

・・・・・けどさぁ・・・・・年に一度だぜ。

・・・・・それくらい・・・・・・我が儘通しちゃダメなのかよ。




翌日、サンジが目を覚ましたときには、ゾロの姿はなかった。

ただ、キッチンのテーブルの上の食事は全て平らげてあり、それだけが、昨夜ゾロが船に戻

ってきた証だった。

「っ・・・・・・・最悪・・・・」

ポトリとその皿に滴が、零れる。

頬を伝う涙は、サンジの意志に反して、なかなか止まってはくれなかった。

そのうちに、甲板が騒がしくなり、船番の交代にウソップとチョッパーが、買い物した大きな

袋を携えてキッチンに入ってきた。

「おう、早かったな。 まだゆっくりとしてきて良かったんだぜ。 ・・・・・飯は??」

サンジは平静を装い、そう言ってウソップ達に笑いかける。

「おはよ、サンジ。 ご飯は、食べてきたから、良い。」

「おっす、サンジ。 待たせてごめんな。」

「あれ?? ところで、ゾロは?」

「そおいやぁ・・・・・・・・あいつ・・・・・また寝てんのか?」

チョッパーとウソップは、居るはずのゾロの姿が見えないのでサンジにそう尋ねた。

「いや・・・・・・・・・・・あいつは、街だ。 じゃあ、あと、頼むな。」

サンジは、それだけ言うと、キッチンを出て行く。

「・・・・・・・サンジ、なんかあったのかな?」

「・・・・・・みてえだな。 けど、俺達には、どうしようもないことみてえだし。 それより、

チョッパー、あと3日しかねえんだぜ。 急いで作らねえと・・・・・・・間に合わねえぞ。」

「あっ、そうだった。 じゃあ、俺、大工道具持ってくる!」

ウソップとチョッパーは、そう会話してサンジの誕生プレゼント用になにやら作り始めた。









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