ここは、バラティエ王国・・・・・・・
温暖な気候に恵まれ、自然と実り豊かな、平和で穏やかな国である。
この国を治める王様には、3人の子供達がいる。
長男のサンジ王子、次女のナミ王女、三女のビビ王女。
長男のサンジ王子だけが、亡くなった前王妃の子供で、後の王女は、現在の王妃との
子供達だった。
兄妹の仲や、親子の仲は、極めて良く、国も平和で、王国は、ますます栄えていった。
・・・・・そんなある日。「・・・・・王様!! 大変です! 北の鷹の目王国が・・・・・ 協定を破棄して、この国に、
攻め込んでまいりした! この国の兵力では、あの強靱な鷹の目王国の攻撃を塞ぎき
れません! ・・・・王様、どうか、お逃げ下さい! あなた方が生きていれば、きっと、
この国は、再建できます! 王様、さあ、早く・・・・」
平和な王国に、以前、和平協定を締結し、以後ずっと、国交を交わしていたはずの隣国
が、いきなり攻め込んできた。
「なに?! 鷹の目王国だと?! 馬鹿な・・・・・・あそこの王とは、親密な間柄・・・・・・・
最近、病気がちな王に変わって、王子が、政務を執り行っていると聞いていたが・・・・・
駄目だ! 我が国で、戦など・・・・・・絶対に、させぬ! 馬をひけい! 私が直々に、王子
にあって、和平を交渉してみる。 ・・・・・・・それまで、絶対に、手を出してはならぬ。
いいか、国の人々を、至急、宮廷に、避難させるのだ! 急げ!! 犠牲者を出すな!」
「はっ!!」
王様は、少数の精鋭を引き連れて、急ぎ、鷹の目王国を目指した。
「・・・・・・では、王子は、どうあっても、我が王国に、攻め込むおつもりか?」
「くどい! 私は、・・・・・・・・・父上とは違う。 欲しいモノは、どんなものでも、力尽くで奪
う! 私は、あなたの王国が、欲しいのだ。 一年中、草花が咲き乱れ、温暖豊かな
あの土地が・・・・・・・・・・・・ 私には・・・・・・・・・・情というモノは、・・・・・・・・・・・・・
存在しない。
・・・・・・・この仮面を顔からはずすことのできないように・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・それにしては・・・・・・・・・・・あなたは、寂しそうな瞳をしてらっしゃ
る・・・・・・・・・何があったのだ? 幼き頃のあなたとは・・・・・・・・・雰囲気が、全
く・・・・・・・・」
「黙れ! ・・・・・・今は、まだ客人として扱おう。 明朝、また、返事を頂きたい。 黙って、
城を明け渡すなら、あなた方の命は助けよう・・・・・・・・・・では、失礼する。」
鷹の目王国に着いた、王様は、王子に直に、今回の件を問いただしていた。
「・・・・・・申し訳ありません。 バラティエ王国のゼフ王。 我が国王が、会いたいと
仰せに、なっています。」
家来がそう言って、ゼフ王を鷹の目王のところに案内した。
「・・・・・・ミホークよ。 そなたの王子は・・・・・・・・・一体、何があったのだ。 何故あんな
風に・・・・・・ それに・・・・・・・・この王国は、どうしたのだ。 昔は、我が国と同じ、
穏やかで暖かな国であったはずなのに・・・・・・」
「ゼフ王・・・・・・・・・・・済まない。 ・・・・・これは、この国の本意ではないのだ。
・・・・・・・・あの子は・・・・・・・・・ゾロは・・・・・・・・・・・・・
卑しい魔女の魔力により・・・・・・・・・・自分が・・・・・・・・・誰からも厭われる醜い姿だ
と・・・・・・・・・・そう、思いこまされて・・・・・・・・・・どんなに違うともうしても、一向に信じ
てはくれず・・・・・・・・ますます、自分の殻に閉じこもり・・・・・・・・・・
・・・・・ゾロは・・・・・・・・・・・・・・愛し方さえ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・忘れてしまった。
・・・・・・・・・・・・・・本当は、誰よりも愛されたいのに・・・・・・・・・・・・なまじ力があるばかり
に、その力で、自分の心を癒そうと・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・この国も、ゾロと同じく、
あの魔女に、変えられてしまった・・・・・・・・・この呪いは、ゾロが、愛情というモノを
もう一度思い出すまで、未来永劫、解かれることは・・・ない。 ・・・・・・・・・・・・・私が、
あの魔女に、最後、情けをかけたばっかりに・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・この国も、
ゾロも・・・・・・・・・・変わってしまった。 ・・・・・・・・・兵は、私が、引き上げさせる・・・・・
・・・すまない。 許してくれ・・・・・」
そう言って、ミホーク王は、ベッドの上で、ゼフ王に頭を下げた。
「・・・・・・・・・・・・わかった。 ・・・・・・・・・・・・彼は、孤独なのだ。
私には、子供が、3人いる。 いずれも、気持ちの優しい、年齢もゾロ王子と対して変わ
らない。 ・・・・・・・どうだろう、このまま、王子が、兵を引き返そうとするとは、思えない。
・・・・・・王子の側に、私の子供を、一人、友人として・・・・・・・・・この国に連れてこよ
う・・・・・・ 同じくらいの年の子と暮らすようになれば・・・・・・・ゾロ王子の気持ちも、少し
は、癒されよう・・・・・・」
「ありがとう、ゼフ王・・・・・・・・もう、あなたしか、頼る者は、いないのだ。
・・・・・・・・・・・・ゾロを・・・・・・・・・・・あの子を・・・・・・・・・・・・・頼む。」
・・・・・・・・・翌日・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・ゼフ王、昨日の話、もう、決断は、つかれましたかな?」
仮面を被ったゾロ王子が、そう冷たく、ゼフ王に言い放つ。
「・・・・・・ゾロ王子。 申し訳ないが、その件は、きっぱり、お断りする。 但し、我が王国か
ら、姫を一人、そなたに、預けよう。 ・・・・・これは、いわゆる和平案だ。 如何かな。」
「はっ、自分の国を守るため、我が子を、俺に差し出すというのか? ・・・・・・・言っておく
が、俺は、人に愛情を感じない。 ・・・・・・・・・・この醜い顔に耐えられる娘がいるという
のなら・・・・・・・・・・・逢ってみるもの、また、一興。 ・・・・・・・・・・・良かろう、
その申し出、受けてやる。」
「では、後ほど、姫をこちらに連れてきましょう・・・・・・」
そう言って、ゼフ王は、バラティエ王国に戻った。
+++++++++++++++++
「・・・・・・・・すまない。 そういうことになってしまった。 ナミ王女、ビビ王女・・・・・・・・
どちらか一人、鷹の目王国に、和平の証として、王子に・・・・・・・王子に仕えてくれない
だろうか・・・・・」
ゼフ王は、二人の娘を呼んで、そう言った。
「えっ?! 鷹の目国の王子って、顔が醜くて、素顔を見た者は、皆、殺されたって言う、
あの残忍な王子でしょ? ・・・・・・・・そんなところに、行けっていうの? お父様!!」
「・・・・・・・私も・・・・・・・そんな怖い人・・・・・・・・・嫌です! 行きたくなんか・・・・
行きたくなんかありません!」
二人の姫は、王の言葉にそう言って、泣き出した。
「・・・・・頼む。 ・・・・・・・わかってくれ。」
ゼフ王は、二人の頭を優しく撫で、そう声を掛ける。
「・・・・・・・・・父上。 お邪魔してもよろしいですか?」
そう言って、サンジ王子が、部屋に入ってきた。
「父上。 俺が、いや、私が、鷹の目国に参りましょう。」
突然のサンジ王子の申し出に、ゼフ王は驚く。
「何を申す。 そなたは、この国のたった一人の王子。 ゆくゆくは、この国を治める者。
そのそなたに、もしもの事があれば・・・・・・・駄目だ。」
「父上! 可愛い妹たちを犠牲にして、どうして立派な統治者になれるでしょう?
この国の跡取りだからこそ、この国を率先して守らねばならないのです! 大丈夫です。
私が、鷹の目国に、参ります。 ・・・・・・それに、妹たちがいなくなると・・・・・・義母様が、
悲しみます。 悲しむ人は、一人でも少ない方が良いのです。 お願いです! 父上、
私を、和平の使者として、鷹の目王国に、行かせてください!」
「・・・・・・わかった。 だが、もし嫌になったら、いつでも逃げ出してきてかまわない。
その時は、私も、覚悟を決めよう。 ・・・・・・・これは、そなたの母上が、ずっと肌身離さず
持っていたモノ。 持っていくがよい・・・・」
「ありがとう、父上。 ナミ、ビビ、父上と義母上を、よろしく頼む。」
サンジ王子の固い決意に、ゼフ王は、渋々承諾した。
サンジ王子は、母の形見のクルスを首から下げて、翌日、鷹の目王国に、少数の供と共に、
向かっていった。
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「・・・・・・・・・何か、緊張する。 一体どんな王子なんだろう。 ナミの話じゃ、凄く醜い王子
だと言うことだが・・・・・・・・・」
サンジがそう呟いて、王子を待っていると、仮面を付けたゾロが、やってきた。
「・・・・・・・・・・・お前が、バラティエ王国の人質か? ふん、大方、ここに来るのを嫌がった
姫達の代わりに、仕方なく、ゼフ王に、行けとでも、頼まれたか? まあ、良い。
・・・・・・・別に、男だろうが、女だろうが、側に置くなら、綺麗なモノに限るからな・・・・・・・・
何だ、その瞳は。 何か言いたそうだな。」
「王子、はっきり言わせて貰う。 俺は、別に、父から言われて嫌々ここに来たのでは
ない。 俺の意志で、ここに来たんだ。 そんな、自分を卑下するような言い方するな。
誰も、王子を嫌がっちゃいない。」
サンジは、ゾロの言葉にそう言い返す。
「はっ、口では、何とでも言えるからな。 ・・・・・・お前だって、俺のこの仮面の下の醜い顔
を見れば・・・・・・・・・・そんな聖人君子みたいな口は利けなくなる。
・・・・・・・・そう、誰だって・・・・・・・・・」
「ばっかじゃないのか? お前。 醜いかどうかは、オレは決めることだ。 見る前から、
自分で、醜い、醜いって。 ・・・・・・・そんなの、被害妄想って言うんだよ! どんな顔し
てるのか、ここで、オレに見せて見ろよ! ほらっ、どうした。 自分で醜い、醜いって
言って、この城の連中に、お前の顔、見せたことあるのか??」
「お前に・・・・・・・・そんな綺麗な顔をしてるお前に・・・・・・・俺の気持ちが分かって堪る
か!! 衛兵! この失礼な王子を部屋に監禁しろ! 決して、部屋の外に出すな。
わかったな。」
ゾロは、サンジにそう叫ぶとそのまま、広間を出ていった。
「・・・・・・済みません、サンジ王子。 王子は、本当は、楽しみにしていたんです。
あなたが来るのを・・・・・・・・」
ゾロの側に黙って立っていた女性が、そうサンジに話す。
「??・・・・・それはどういう?? ・・・・・・良かったら、話してくれないか。」
「・・・・・・・・・・あれは・・・・・・・13年前、そう、ゾロ王子が、まだ、魔女の呪いを受ける
前でした。 バラティエ王国の建国100周年記念の式典に、ミホーク王と一緒に出か
けた城で、あなた様を見かけたそうです。 金髪に蒼い瞳で、それはとても綺麗な人で、
是非、友達になりたいと、そう、澄んだ瞳で、言っていました。
・・・・・・・・今回、あなたの国に、攻め込んだのも・・・・・・・・・きっとあなたに会いたかっ
たから・・・・・・・・・・・」
「じゃあ、あんな攻め込んだりせずに、堂々と、客人として、来れば良かったじゃないか!」
「・・・・・・・・・王子には・・・・・・・・・それが、出来なかったんです。 あの後すぐ起こった、
ミホーク王に、追われたあの魔女の最後の呪いのせいで・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・ゾロ王子は、自分のことを醜いと思いこんでいる・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・人前に顔を出せないほどに・・・・・・・・・・・・・ 自分は、この国の王子だから、
皆、自分に気兼ねして、本当のことを言わないのだと・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・実際、王子の瞳には、自分の姿は、醜い化け物のように映っているので
す。 ・・・・・・・・・・・どうか、お願いします。 王子を・・・・・・・王子を救ってあげて下さい。
あなたなら・・・・・・・・・・あなただけが、頼りです。 ・・・・・・・・・・私には・・・・・・・あの子を
救う力は、ないのです。」
そう言うと、その女性は、すっと、サンジの前から消えていなくなった。
「えっ?! ちょ、ちょっと・・・・・」
サンジは、慌てて周りを捜したが、その女性は、何処にも見当たらなかった。
「・・・・・・・王子・・・・・・サンジ王子。 どうかなされましたか? なにやら、ボーっとした
ままずっと、お声をかけても動こうとせず・・・・・・ 申し訳ありませんが、王子のご命令
です。 お部屋にお戻り下さい。」
そう言うと、衛兵は、サンジを部屋に連れていく。
「何かありましたら、ドアの向こうにおりますので、お声をかけて下さい。」
そう言って、衛兵は、部屋を出ていった。
「・・・・・・・さっきのは、一体・・・・・・・ 衛兵には、あの女性が見えていなかったようだ。
・・・・・・・ひょっとして・・・・・・・幽霊???? ギャアアアーッ!!」
サンジは、思わず、絶叫する。
「どうしたんだ! 何の騒ぎだ?」
部屋の外で、ざわざわと騒ぎ出して、ゾロの声がする。
「・・・・・・・サンジ王子。 入るぞ。」
そう言って、ゾロは部屋に入ってきた。
部屋の中で、サンジは、毛布にくるまって震えている。
「何が、あったんだ、サンジ王子。」
サンジに近づいて、ゾロはそう声を掛けた。
「・・・・・出、出たんだ! ・・・・・・・ゆ、ゆうれ・・・・・・ヤダーッ・・・・・・怖い・・・・・
怖いよぅ・・・・・・・ヤダーッ・・・・・うっく・・・」
サンジは、そう言って、近づいてきたゾロにしがみついてがたがたと震えて、泣いた。
・・・・・・・・・クソッ。 こんなときは、どうすればいいんだ・・・・・・・・
「・・・・・・・・大丈夫だ。 ・・・・・・・・大丈夫だから・・・・・・・・」
ゾロは、自分の中に表れた感情にとまどいながら、サンジにそう声を掛ける。
・・・・・・・・・何年ぶりだろう。 人に触れられるのは・・・・・・・・・
・・・・・・・・・人は、こんなに温かいモノだったのか?
・・・・・・・・・ずっと前にも・・・・・・・・・こんな気持ち・・・・・・・・・・
サンジは、いつまでも、ゾロから離れようとはしなかった。
いつの間にか、ゾロの腕の中から、サンジの寝息が聞こえてきた。
「・・・・・・何だ、眠ったのか・・・・・・・・」
ゾロはそう呟いて、サンジをベッドに運ぶ。
横に寝かせて、自分も部屋を出ようとしたが・・・・・・・・・・・サンジの手が、ゾロのシャツ
を握りしめたままだった。
ゾロの心に、小さな灯がともる。
「フッ・・・・・・・・参った。 これじゃ、動けないな。」
ゾロはそう言って微笑んだ。
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