Battle Initiative


その1







「ルフィーッ!! てめえ、また、冷蔵庫に入れて置いたチョリソー、食っちまっただろ! 

アレを作るのに何時間掛かったと思ってやがんだ!! 今日という今日は、もう許さね

え!! 待ちやがれ、このクソゴム!!」

「ひえぇぇ〜。 サンジがキレたーっ! ごめんな〜 許して〜!!」

ゴーイングメリー号の昼下がり。

食欲魔人の船長が、サンジの目を離した隙に、冷蔵庫の中の食べ物を勝手に食べて追い

掛けられている。

「ごめんで済めば、海軍はいらねえんだよ!! とっとと、俺の制裁を受けやがれ!」

「いやだーっ!! サンジの蹴り、マジで痛えもん。 俺、受けたくねえーっ!!」

「問答無用!! 食らえ! コリエシュート!!」

サンジは、そう叫びながらルフィに向けて蹴りを放った。

「おっ! ゾロ、ナ〜イスタイミング!!」

ルフィは、丁度通りかかったゾロの後ろに素早く身体を隠す。

ガキンッ!!

鈍い金属音が甲板に響きわたり、サンジの蹴りが、紙一重でゾロの頭上で留められた。

「・・・・何のマネだ、このクソコック。 てめえ、俺も一緒に蹴り上げようと、そう思ってただろ

う!!」

ゾロは、サンジの靴を刀の鞘で受け止めて、そう言って睨み付ける。

「・・・・・てめえが、そんなとこにいるのが、悪い。 どけ! 俺は、ルフィに用がある。」

サンジは謝るどころか、タバコを銜えたままそう言って脚を下ろした。

「そんなとこってなぁ。 たまたま歩いてる奴に脚を振り上げる方が悪いだろうが! ああ、

そうか。 てめえの技量じゃ、蹴り出した脚を途中で留めることが出来ねえんだよな。 

悪い、悪い。 そこまでの技量は持ち合わせてねえんだったな。 いやぁ、すまなかった、

無理言って。」

ゾロはそう言うと、ニヤリと笑って馬鹿にしたようにサンジを見る。

「かっちーーーん!! てめえ、ふざけんなっ!! 誰が技量が無えだと?! 俺が手加減

してやったから、鈍いてめえも刀の鞘で寸止め出来たんだろが!! 俺が、本気だしゃ、

てめえらまとめて、どっかの島まで蹴り飛ばしてるぜ。」

「フッ。 無理、無理。 てめえの蹴りで蹴り飛ぶなんざ、どこぞのヘボ海賊ぐらいじゃねえの

か?」

「・・・・じゃあ、試してみるか?」

「やれるものなら、な?」

「やってやろうじゃねえか!!」

いつの間にか、当のルフィはさておいて、ゾロとサンジは、甲板で喧嘩を始めた。

ルフィはと言うと、いつの間にかメリーの頭の上で、二人のバトルを観戦している。

「・・・・・いい加減にしろ!!」

バキッ!! ドカッ!!

「Σ!!ふごっ!!」

「Σ!!ガハッ!!」

一時間後、いつまで経っても終わりそうにない喧嘩に痺れを切らし、ナミが、鉄拳制裁で二

人を甲板に沈めた。

「あ〜vv 怒ったナミさんも素敵だーっvv」

「さすが、ラブコック・・・」

「てめえ、まだ何か文句有るのか・・・」

「別に? 本当のこと言われて怒る奴も珍しい。」

「なんだと?!」

ガキッ!! バゴッ!!

「・・・・・本当に、あんた達、馬鹿? 互いに瞳に映らないとこにいなさい。 これ以上、騒ぎ

起こしたら・・・・・・わかってるわよね? サンジ君、お茶・・・」

ナミはそう言って、呆れたように二人を見てテラスに戻る。

「は〜いvv ナミさんvv今、お持ちしま〜すvv」

サンジは、サッと甲板から立ち上げると、キッチンに走っていった。

「チッ。 ラブコックが・・・・」

ゾロはそう吐き捨てるように呟くと、船尾に向かう。

「「なんだって、あいつは・・・・・クソッ!!」」

キッチンと船尾で同時に呟かれた言葉は、誰に聞かれることもなく消えていった。











++++++++++++



「・・・・・・・だって・・・・・・どうしようも・・・・・・・ねえじゃん・・・・・・・」

サンジは、キッチンに入ると、べたりとテーブルに俯す。

バラティエで、初めて見たときからその生き様に心を奪われた。

死に直面しても尚、己を曲げない、その意志の強さに惹かれた。

血しぶきを上げながらも、全然怯むことなく前だけを見据えるその瞳から瞳が離せなかった。

あの瞬間から、世界が見えた。

夢を夢だと諦めて安穏としていた自分が恥ずかしかった。

少しでも、剣士に・・・・・近づきたかった。

・・・・・・・心も・・・・・身体も。

そして許されるなら・・・・・・・・高みを目指し突き進む剣士を・・・・・・見ていたかった。

そう思ったからこそ、あの店をあとにして、この船の仲間としてここにいるというのに。

初めはそれだけで良かった。

そう・・・・・見ているだけで。

それしか・・・・・・望まなかった。

しかし、近くにいればいるほど、さらなる欲求が生まれた。




言葉を交わしたい。

・・・・・・ナミさんみたいに。



あの瞳に映りたい。

・・・・・・ルフィみたいに。



笑い合いたい。

・・・・・・ウソップみたいに。



自分をあいつに・・・・・・・あいつの記憶に留めておきたい。

・・・・・・ナミさんのように・・・・・ルフィのように・・・・・ウソップのように。




暫くして、それが恋だと言うことに気が付いた。

けど、それを伝える術さえなくて、サンジは現実を受け止めるしかなかった。




俺は・・・・・・ナミさんみたいに

・・・・・・話して貰えない。



俺は・・・・・・ルフィみたいに

・・・・・・その瞳に映れない。



俺は・・・・・・ウソップみたいに

・・・・・・笑いかけて貰えない。



俺は・・・・・・嫌われてるから。

名前さえ、呼んで貰えないほど・・・・・・・俺は嫌われてるから。

だったら・・・・・俺のとる道はただ一つ。



・・・・・・とことん、嫌われること。

記憶にも留められないどうでもいい奴になるよりは、とことん嫌われても記憶に残る奴を演じ

てやる。




少しでもその瞳に映りたくて、訳もなく悪態を付き、喧嘩した。

理由なんてどうでも良かった。

ただただ、話したくて・・・・・

あの瞳に映りたくて・・・・・

その時間だけが、欲しかった。

自分だけを映している・・・・・その時間だけが。

しかし、その時間が終われば、いい知れない後悔と切なさが心に広がる。

自分を冷たい視線で見つめる剣士の瞳と共に。






「・・・・・だって・・・・・・仕方ねえじゃん。」

サンジは、もう一度そう呟いて身を起こすと、ナミのためにアフタヌーンティーの用意をして

テラスに持っていく。

「ナミさ〜んvv お待たせしましたvv 今日は、セイロンティーと、スコーンとオレンジタルトを

お持ちしましたvv」

サンジはそう言って恭しくお辞儀をし、ナミの前に置く。

「ありがとう、サンジ君vv ねえ、サンジ君、言い難いんだけど、あまりゾロと喧嘩して欲しく

ないのよね〜。 この船、あまり頑丈な方じゃないし。 やっぱり、仲間同士であそこまでい

がみ合うのは、ちょっと、ね。 サンジ君の方で、もう少し押さえてくれないかしら? 

あいつにも、あたしからそう言っとくから。 ねっ?お願いよ、サンジ君vv」

「・・・・すみません、ナミさん。 ・・・・・・・わかりました。 もう、喧嘩しませんから。」

ナミの言葉に、サンジは、そう言ってにっこりと笑った。

「あっ、そうそう。 もうすぐ、サンジ君の誕生日よね? 皆で、盛大にお祝いしましょうvv」

「はぁ〜いvv ナミさ〜んvv ありがとうございま〜すvv じゃあ、俺、これで・・・・・」

サンジは、いつものようにおどけて、キッチンに戻る。




・・・・・とうとう、ナミさんにも、言われちゃったな。

・・・・・やっぱり、ここいらで、潮時か。




態度と裏腹に、サンジの心は、沈んでいた。







翌日。

「くぉら! ウソップ!! 冷蔵庫の中の卵・・・使ったのは、てめえだろ!!」

サンジが、またもの凄い勢いで、無断で卵を使用したウソップを追い掛けている。

「ヒーッ!! すまん、サンジ・・・・ たった、1個じゃねえか! 少しは、大目に見てくれよ。

新しい卵星の開発に、俺が買った卵、もう無くなっちまってて・・・・サンジ、許して〜〜!!」

「うるせえ! 大切な食材をそんなことに使うんじゃねえ! 1個でも充分、罪に値する!

観念しろ! 食らえ! コリエーーーーーッ!!」

サンジは、ウソップめがけて蹴りを放つ。

「あーーっ!! ゾロ!! 良いところに!! 助けてくれーっ!!」

ウソップは、たまたま歩いていたゾロの背中にサッと身を隠した。

危険を察知したゾロは、サンジの蹴りに対して身構える。

「チッ・・・・・・・・」

サンジは軽く舌打ちをして、空中で身を翻すとそのまま着地した。

「・・・・・以後、気を付けろよ。」

サンジは、ゾロの背中のウソップを睨み付けてそう呟くと、踵を返しキッチンに戻る。

「????どうしたんだ? サンジ?」

「んなの、知るか!!」

「ヒッ! なんで、ゾロが怒鳴るんだよ・・・・・」

「うるせえ!! とっとと離れろ!!」

ゾロは、不機嫌そうにウソップに怒鳴って、いつものように船尾に向かった。

「????なんで? あいつら・・・・・絶対に変・・・・・・・」

ウソップは、ゾロとサンジを見比べて、ボソリと呟く。

その日から、ゴーイングメリー号にゾロとサンジの罵り合う声と喧嘩は、途絶えた。












「・・・・・・なあ、ナミ。 最近さ・・・・なんかつまんねえ。」

「ああ、俺も・・・・なんか恐ろしい事が起こりそうで、怖い。」

「あら? 船は傷まなくて済むし。 罵声が飛び交うことも無くて良いじゃない。」

ナミは、ルフィとウソップの言葉にそう反論する。

「けどさっ、サンジ・・・・最近ちっとも笑ってねえ。 ゾロも・・・・・イライラしてる。」

ルフィは、ボソリとそう呟いた。

「ゾロは、いつもの事じゃないの? いつもムスッと何考えてんだがわからないし。 

サンジ君は、ちゃんとにっこりと笑顔で給仕してくれるじゃない。」

「違う!違う!! 全然違う!! ナミ、お前、今まで何見てたんだ? ゾロは・・・・・・いつも

ムスッとなんかしてない。 笑ったり、ちゃんとしてる! 今みたいに意味もなくイライラとして

なかった。 サンジだって・・・・・あの顔の何処が笑ってる?? 口が笑ってるだけだ。 

それに・・・・・・・・サンジ、最近、ずっと、男部屋で眠ってない・・・・・仕込みが済んでも、戻っ

てこねえんだ。 朝まで・・・・・・」

ナミの冷ややかな言葉に、ルフィはそう反論して、ギュッと唇を噛みしめた。

「それって・・・・ねえ、いつから??」

ナミは、そう言ってルフィに尋ねる。

「・・・・・・・1週間ぐらい前から・・・・・・・かな・・・・・」

「・・・・・・・そう。 じゃあ、あれからなのね・・・・・・ルフィ、ありがとう。 あたし、大きな勘違

いしてたみたい。」

ナミは、ルフィの言葉に深くため息を吐き、そう呟いた。










<next>      <santan−top>




<コメント>

はい、一応、これがうちの基本形の二人かと・・・・(-_-;)
せつなシリアス系で終わってしまうのか・・・・はたまたコメディで終わるのか・・・
今の段階では何とも・・・・ハイ。(-_-;)
とりあえず、ハッピーなのは、ハッピーだと・・・・・
長いので、DLはしない方が良いですね。 お奨めできません。(笑)
では★