finished



         



サンジを殺しに来た。



そうするしか、もう手立ては残されていなかった。そしてサンジ自身がそう仕向けたのだ。

相変わらず外では喧騒が続いている。城の者はすべて出払っているのだろう、逆に内部の

方が静かだった。

幼い頃何度となく訪れたこの城は、子供の時ほど大きく感じられない。

自分と同じ年頃の生意気な少年に初めて会った時の事を、今になってまざまざとゾロは思い

出す。

いきなり喧嘩になって父王にえらく叱られた。隣国の王子に何をするのかと。

それでも顔を合わせるうちに仲が良くなったのは、周りに親しく遊べる子供がいなかったせ

いだろうか。それはサンジもゾロも同じだったのだ。

しかし───年月が過ぎ、二人を囲む状況はかなり変わってしまった。

もうサンジはゾロにとって幼馴染の王子ではない。敵対する国の長。

昨日ゾロはサンジと数ヶ月ぶりに会った。

「兵を下げて降伏しろ。お前に勝ち目はもうない」

久しぶりに、本当に久しぶりに会ったのに彼へかける言葉がこんなものしかない。

サンジは足を組んでゾロを見上げた。

「ああ、そうだろうな。だが却下、だ」

「…もう一度聞く」

「何度聞かれても一緒だ。俺が例え白旗揚げても、立場上兵達を殺すんだろ?それに俺は

てめェの捕虜になるなんて金輪際ごめんだね」

「死んでも───か」

「命乞いする気はねェよ」

「本気で戦う気か?俺に勝てると?」

「体ばっか鍛えてきた力馬鹿に勝てるとは思ってねェさ。俺は知性派だからな」

「明日、また来る。それまでによく考えとけ」

苦い顔をしたゾロの最終宣告も、サンジは軽い調子で受け流した。

「てめェに物事考えろと言われるとは思わなかった」薄く笑う。「俺の答は変わらねェよ」

「なら、俺の手で斬るしかないな」

「上等だ。殺しに来い」

隣国同士とは言えどもゾロの国は軍事大国で、サンジの統べる国が最初から敵うわけもな

かった。ゾロは即位してから、その圧倒的な力で次々と他国を制圧していった。周囲の国を

手に入れると、ゾロはサンジにも言ったのだ。

俺の下につけ、と。

だが、彼は拒否した。





重い扉を開けたのはつい先刻の事なのだが、ゾロは自分が随分と長い間ここにいるような

気がする。

ゾロが足を踏み入れた時、他に誰もいない寝室でサンジはベッドで鷹揚に横たわっていた。

そうだ、奴は逃げたりはしないと思った。逃げてくれれば、良かったのに。

自分の身を誰に守らせようとも考えない。一国の王だと言うのに、そういう男なのだ。

だが。

「サンジ」

いつからだろう口にもしていなかった名を呼び、ゾロはサンジの冷たい体をそっと持ち上げ

る。

絹の服はさらさらと滑るようで、細身をしっかり抱く。

ゾロがこの部屋に入った時、既に彼は事切れていた。横には薬の瓶が転がっている。



───まったく酷い奴だな、お前は。

俺に殺される事さえ拒んだ。一人で決着をつけてしまった。


傅くことも従うことも。すべて。

自分の命と引き換えにするほどに嫌だったか。俺のものになるのが、そこまで……。


こいつは、誇りは捨てずに命を捨てることを選んだ。

生きていればいつか一矢報いることもできたかもしれない。その可能性も捨てて。


潔くなんかない、単に諦めただけだ。


卑劣な男だと思うのにサンジの表情はどこまでも気高くて。

脈も感じられないのに金髪も肌も輝かんばかりに美しかった。目に痛い程。


長い睫が影を落とし硬く閉ざされた瞼はもう二度と自分を見てはくれない。

この男さえいれば何もいらないと、今更気づいても遅過ぎるのに。

権力も国も、手に掴んだもの全部が、空虚なものになっていくのをゾロは感じた。

国よりも何よりも───本当は、サンジが欲しかったのだ。



胸は憤りと苦しさで熱く燃えさかり、その端から凍るように冷えていく。

もうゾロには、サンジの器しか残されていないのだ。彼の心は永遠に手に入らない。

希望のない暗闇に残されてしまった。



───馬鹿野郎。馬鹿野郎、馬鹿野郎。



呟いているのか叫んでいるのか、声に出してるかどうかすらゾロ自身には分からない。


勝手に一人で行きやがって。

死ぬくらいなら、俺の何もかもをやったのに。


国なんてどうだっていい。誰にでもくれてやる。王の立場なんて糞食らえだ。

お前がいなければ、何の意味もない。

ああ、ここまでしなけりゃ分からなかったんだ、俺も馬鹿なのは認める。だから───。


だから……。



サンジの頬に滴が落ちて初めて、ゾロは己の涙を知った。

寝室のカーテンの色は、サンジの好きだった澄んだ青。大きな窓から乾いた風が吹き込ん
でサンジの金髪を優しく撫でていく。






「…思い知ったかよ」


今の、声は。


いつしか彼の胸元に埋めていた顔をゾロは、恐る恐る上げた。

「……生き…て…?」

「俺が死んだら生きていけねェんだろ?やっと言いやがった、このアホは」

心臓は確かに止まっていたのだ。

ゾロはサンジを抱いたまま、呆けて彼を見つめ続ける。

「その薬」

サンジは空の瓶を指差す。

「仮死状態にするんだと。こんなもん使いたくなかったけどな…下手すりゃ埋葬されちまうし。
俺にしても一世一代の賭けだったぜ。いや、参った参った」

「お前…嵌めやがったな!」

「ああん?聞こえが悪いな、おい。だって、てめェと真剣に戦っちゃまず勝てねェのはさすが

に分かってるし、かと言っててめェにへりくだるのも嫌だったんだから仕方ないだろ。頭脳作

戦だ」サンジは余裕綽々に口角を上げた。「力だけで物事片付けられるとは限らないって、

いいお勉強になったろ、ゾロ王様?」

手を伸ばしゾロの顎をくすぐるサンジの何と小憎たらしい事か。

ゾロはサンジを恨みがましく睨む。

「やっぱりこの手で殺してやる…」

「そう怒るな、嬉しい癖に。俺のために国も全部投げ捨ててくれるんだっけ。まさか嘘じゃな

いよな」

ギリギリとゾロは歯噛みするが、確かにそう言ったのは自分だ。

「好きにしろ。もう何でもいい…。とにかく兵たちに戦闘を止めさせないと」

嘆息するとゾロはサンジの体を離そうとした。しかし、サンジがそれを許さずゾロの腕を掴む。

「ちょっと待った。俺まだ薬の効き目が残ってんのか、今ひとつ体が自由にならねェんだ」

「…そりゃ、いい事聞いた。いっそ一生そのままでいやがれ。俺の傍に置いててやるから」

「勘違いすんな!俺がいてやるんだよ。お前みたいな暴走王は俺みたいな人間が手綱握っ

てやらなきゃ、なあ?」





お手上げだ、と思った。

こいつには敵わない。よく考えてみれば昔からそうだった気がする。

世界に恐れらるる王も形無しだ。




ゾロは悔しさも怒りも放り出して、どうしようもなく幸せな気分でサンジにキスを落とした。






-fin-



 



<コメント>

うにょ〜vvまた、いただいちったよんvv
こちらは、UGSの文城さんのゾロ王部屋から、拉致って来たモノ。
これが、以前戴いたゾロ王のイラストの小説さっvv
もう、素晴らしい〜vvゾロ王でさえ、手玉に取るほどの、サンジ王が、
素敵なのだ! 格好良いよねえ〜(惚れ惚れvv)
ルナも、軍事国家は嫌だけど、ゾロ王なら、ついていくわんvv(誰も呼んでないって・笑)
こんな格好良い二人がたくさんの(SSが、これまた、素敵vv)文城様のサイトは、
こちらから、飛んじゃって下さい!

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