weep for joy





いいな、いいな。
オレもしてみたいな。



「いいなー・・・・」



波の音に消されたはずの声は、すぐ後ろまで近寄っていた人物には小さくあったがはっきりと聞こえた。


「何がいいんだ?チョッパー」

「わっ!!ウソップ・・!」

「メシだぜ。サンジが早くしろってさ。で、何がいいんだよ?」


初めて見た時は、本当にびっくりした。
人間にも、こんなに変な鼻の奴っているんだって。
でも、それを言った時ウソップは自慢げに言ったんだ。

『オレのこの高くスマートな鼻は母ちゃん譲りだ。なんか文句あるか?』

それは本当に自慢げで、ウソップがあんまり得意そうに言うからその日から本当にスマートで格好良く見えた。


「う、ううん!なな何でもねーぞ!」

ウソップは「・・そうか?」と顎に手をやったが、すぐにキッチンへ向かって歩き出した。
その後ろをトコトコと着いて行く。
自然と項垂れてしまうのは、さっきまでの考え事がどうしても消えないから。

自分の蹄を見ながら歩いていたら、いきなり帽子をぐいっと上げられた。

「チョッパー」

「な・・なに」

そこには、怒ったような顔のウソップがずいっと顔を寄せてチョッパーを睨んでた。


「オレたちは何だ?仲間じゃねえのか?」

「え、なんで・・・」

「いいから、答えろ」

怒ったような声音で言うウソップにびっくりして、その後すぐに悲しくなった。
だって、「仲間」だと思っていることを分かってくれてなかったのか、と思って。

「な、仲間だよっ!なんで?ウソップは違うのか?」

「違うはずねえだろ?仲間だ。なら、分かるよな。お前のそのしみったれた顔は見たくねえ。言ってみろ」

――――シンパイしてくれたんだ。
怒ったように「言え」と言ってくれる誰かが居るってことがこんなに嬉しいことだなんて。

それはあの極寒の島の懐かしい皺の刻まれた顔を思い出させる。

「わ・・・笑うなよ」

「誰が笑うか。お前、この海の偉大な戦士をなんと心得てるんだ。オレはウソップ様だぞ。仲間の悩み事なんてーのはオレが解決するためにあるようなもんだ。言えよ、今なら特別サービスでその解決法まで伝授してやるぞ」

「・・・でも、解決とかは・・いいんだ」

「なんで」と聞いたウソップに、正直に話してみた。
これは悩み事とかじゃなくて、本当に只のオレの我侭だから。

でも、ウソップにしてもらえれば。
もし、してもらえたら。
それだけでも、ものすごく飛び上がりそうなくらいに嬉しいかもしれないから。









その日の夕食はバルサミコ風フリットとかいうやつと、リゾットだった。
リゾットってやつの中にはウソップの嫌いなキノコがすっごく小さく刻まれて入っていた。
さすがにそれをチマチマと避けることはせず、ウソップも何とか全部を食べきってサンジに満足そうな顔をさせた。
それを見て、他の船員たちもウソップを褒めて手を叩いて笑っていた。

それでも、チョッパーの沈んだ顔は晴れない。

食べ終わると小さな声で「ご馳走さま・・」とだけ言ってキッチンを後にした。

そのまま見張り台へと上る。小さな蹄では梯子は上り難かったけど、とにかく今は一人になりたかった。

あのウソップの困ったような顔。
そして誤魔化すように、チョッパーをあやしてキッチンへと入ってしまった。

それを思い出すと、また涙がじわっと込み上げてくる。

「オレ・・、嫌われちゃったのかな・・。ナミはああ言ってたけど・・。やっぱ、オレはダメなのかな・・」

お月様はあの雪に囲まれた島とは違い、まあるく大きく光っていた。









「あ?別にいーぞ」

「何よ、それ。今更・・・。チョッパー本当に可愛いわね。別にあんたに頼まれなくなって、いつだってしてあげるわよ」

「ナミさんがそう仰るなら、オレだって同意見だっ!!」

「なんでお前はそんなに偉そうに胸張ってんだ。バカコックが・・」

「んだとっ!」とゾロの胸倉を掴み始めたサンジに慌てて制止の声をかける。

「おいっ、サンジ!後にしろっ。とにかく、いいんだな?ゾロもいいのか?」

「いちいち聞くようなことか」と酒瓶を傾けた腹巻にウソップは「うんうん」と頷く。
それから、改めて一国の王女であるビビにも伺うような視線を向け「・・いいか?」と聞いた。
ビビはその視線を受け、にっこりと返す。

「お断りする理由なんてありません」

その横でカルーも「クエ」と短く鳴いた。
それを船員全ての了承の合図を見なして、ウソップは甲板へ出た。

「よっし!んじゃ、呼んでくるな!」













「な・・なに?」

恐々といった様子でキッチンへ再び戻ったチョッパーはウソップに抱きかかえられ、少し背の高い椅子へと座らされる。
そのチョッパーを皆がなぜかニコニコした顔で(一部、ニヤニヤだったり、一部まったくいつもどおりだったりしたが)囲む。

なんだ?
なんで、皆笑ってるんだ?オレ・・、また何か変な事言ったのか・・?

チョッパーの座る椅子は少し背が高いが、やはり見上げる形になってしまう。
そうやって見回してたら、本当に泣きそうになってきた。
だって、なんだか馬鹿にされてるような気がしてきて・・・・。

なのに、皆は首をふりふり不安げに周りを見ているチョッパーを見て、またニコニコ(一部・・・、略)するのだ。




「最初はだ〜れ?」
ナミがふいに声を上げる。その顔は、こないだのミカン畑で見た笑顔と一緒だった。

「おう!オレだ、オレーーー!!」
当然とばかりに元気よく手を上げるのは眩しいような笑顔のルフィ。若干17歳にして、この一癖も二癖もある船の船長。
チョッパーを仲間に、と一番所望してくれたのも、この彼だった。

ルフィがあの雪の王国で掲げたドクロは一生忘れない、とチョッパーは思う。

「え、え、な・・なに?ルフィ、ちょ・・・っ」

ルフィは未だ何の事態か分かっていないチョッパーにかまわず、その宝物の「仲直りの帽子」をがばっと奪った。

「なにすんだよっ!帽子、返せっ!それはドクターの・・」


―――ちゅぅっ。


ふいに頬に触れた柔らかい感触。

「よしっ、次は誰だっ??」

目を真ん丸くして、パチパチと瞬きを繰り返すチョッパー。
それにおかまいなしに、今度は反対側の頬へと、ルフィのよりもっと柔らかい感触。


―――チュッ。


ぽかん、としているチョッパーにナミが笑う。

「なによ、キスしたかったんじゃないの?それとも、あたしじゃ嫌なのかしら?」

悪戯っ子のようにニッと笑うナミ。

チョッパーは「あっ!」とウソップを見て、目を見張る。

「さっきは答えてやんなくて、ごめんな。でも、お前だって皆からのがいいだろ?」

そう言って、今度はチョッパーの丸いおデコにウソップが顔を寄せる。


―――ちゅ〜〜。


「あー、やっぱ鼻が邪魔くせえな。この世界一見栄えがいい鼻もこういう時は・・」

「ウソップ、うるせえ。よーし、チョッパー。次はオレだ。いいか?キスの仕方ってもんをとっくりと覚えやがれ」
そう言って「ん〜〜」と効果音付きでサンジがチョッパーの右目の目蓋に唇を寄せた。


―――ぶっちゅぅ。


「ん〜、く、くすぐったいよっ、サンジ!」

捩れるチョッパーに皆が笑う。手も足もバタバタと動かしてるのに、サンジは長いことチョッパーの毛がホワホワしている部分である目蓋をしつこく吸い上げていた。

「ん〜〜〜
vv よしっ!さあ、ビビちゃんどうぞっ!ぜひオレと同じ場所にっ!そして間接キ」

そこまで言うと、ナミにばしっと叩かれ蹲る。

「ふふっ。じゃ、私は反対の瞳にしようかしら。あ、カルーもしたがってるの。いい?」

チョッパーを覗き込んでくれる優しい笑顔に我慢していた涙がぽろっと零れる。
堪えきれず、ひぅ〜〜っ、と泣きながらも、一生懸命にウンウン、と頷いた。


―――ちゅ。

―――かぷっ。


左目の目蓋に微かな暖かさ。青い鼻には、甘噛みのようなくちばしの感覚。










『オレ・・・、キスってやつしてみたいんだ・・。
ナ、ナミが・・夫婦じゃなくても・・、だ、大好きな人ならしてもいいって言ってたの聞いて・・。
オレ・・、したことないし・・。い、1回だけでいいから、して・・みたくて・・・・』










生まれた島を初めて出て知る、その世界の広さ。
そこにはチョッパーが考えたこともなかったほどの数の人々。動物たち。
そして初めての気持ちも。
家族じゃないのに。出会ったばかりなのに。それでも、大事だよって言ってくれる誰かがいるなんて。

お母さんにも嫌われて気味悪がられて「死んでもかまわない」とまで邪魔にされてた自分なのに。

ものすごく、めちゃくちゃに熱いくらいのぬくもりをくれた。
でも「ありがとう」なんて言っても「なに言ってんだ」ってきっと言うから。

だから、このホコホコしてヌクヌクしてキラキラする気持ちを。







「じゃ、最後はゾロだな」

「よし、ゾロいけっ!優しくだぞ?あの食い尽くすようなキスをするんじゃねえぞ?チョッパーが怯えちまうからな」

大声で笑いながら、そう言ったサンジは「はっ」と口を押さえると「ナミさんっ!今のは違うんですっ!」とか何とか言って捲し立ててナミに縋り付いている。ナミはもちろん「うるさい」とだけ返し、完全無視をしているが。

「ゾ、ゾロもしてくれんのか・・?」

「んだ、いやなのか」

ブンブンと首を振る。

そんなわけない。だって、チョッパーはこの剣士がとても好きなのだ。

ぶっきらぼうだし、無口だし、目付きは悪いし、お酒だっか飲んでるけど。
いつだって、どこかハンモックでない場所で寝てしまったチョッパーを優しい手付きで運んでくれてることを知っているから。

「やじゃないっ!したいっ!」

「・・・そうか」

うわぁ・・・、ゾロって・・ゾロって、こんなふうに笑うこともあんのか・・・。

目の前のゾロの柔らかい笑顔を見て、――たぶん、これがゾロのホントなんだ・・・・。と、そう思った。
あの戦闘中の厳しい顔ももちろんゾロで。それもホントなんだけど。きっと・・、これもホントなんだ・・。

もう飛び上がりたいほどの嬉しさをなんとか我慢して、目を閉じる。



―――ンチュッ・・・・、レロッ・・・。



?????????????????????


「あ・・、あ・・、あーーーーーーー!!!!!!!」


チョッパーが目を開けると、少しずつ離れてゆくゾロの顔。
そして、何故かそのゾロを指差して口を大きく開けて絶叫しているサンジ。

「ぞ、ぞ、ゾローーーー!!てめぇっ、今、舌いれたろっ?!信じらんねー!信じらんねー!!信じらんねーー!!!」

パチパチと瞳を開けたり閉じたりしながら、ゾロに掴みかかっているサンジを見ていた。
ゾロはそんなサンジを「はいはい」と適当にあしらいながら、相槌を打っている。
チョッパーは頭の中の「?」が消えなくて、ずっとゾロを見ていた。

「なんだ、チョッパー?」

真っ赤になって涙目のサンジに髪の毛を引っ張られて、ほっぺたを引っ張られて、しまいには腹巻をグイグイと伸ばされてるゾロと目が合った。

「うん・・?ゾロ、今の・・、なんか皆と違う・・・」

「そうか?やだったか?」

ううん、と首を振ると「じゃ、問題ねえな」とニヤッと返された。

「なにが問題ねえんだっ!!てめえ、よくもオレの前であんなことできたもんだなっ!く、く、口にしろって誰が言った!!」

「だって口しか残ってねえだろ」

「だからって、舌まで入れることねえだろっ!!!」

なんでサンジはあんなに怒ってるんだろう?
あー・・、ゾロの腹巻とうとう膝んとこまで伸びてるよ。あれ、もう縮んでもお腹には出来ないだろうなぁ・・。
そしたら、貰えるかな。毛布がわりにしたいな。なんか、ゾロの腹巻ってすごく安心するんだ・・。

口の中にわずかに残るお酒の味を確かめながら、そんなことを考えた。

でも・・・、そのお酒の味のせいで、とっても実感できて・・・。



『大好きな人たちからキスしてもらえた』

それが。



「チョッパー・・、嬉しい?」

ナミが聞く。聞かれると、また嬉しさがほわぁっと込み上げてきてジワッと涙が浮かんだ。

「あら、トニーくん。泣くようなことじゃないわ。ここにいる皆、あなたが大好きなのよ」

そう言ってくれるビビに、またジワッとする。

ルフィがいつものように、白い歯を見せてにかっと笑うとチョッパーの頭にポフッと帽子を乗っけてくれた。
ウソップがかぶった帽子の上から頭をポンポンと叩く。

「オレ・・、嬉しい。すっげえ嬉しい」


目をごしごしと擦って言ってみると、そこには確かにいないはずのドクターとドクトリーヌの笑い声まで聞こえた。
雪に囲まれてるはずのその笑い声は、とても暖かく聞こえる。


「じゃ・・、今度する時はチョッパーからしてね」

ナミが笑って言うから、しつこいくらいに嬉しくなって何度も何度も頷いた。

そうしたら、片隅でギャーギャーと騒いでいたサンジが急にズカズカと近付いてチョッパーの首根っこを掴まえる。

「おい、チョッパー。お前からする時は絶対に口にするなよ!いいな、分かったかっ!!」

もうナミの前だとかビビが居るだとかを忘れて凄んでくるサンジにチョッパーは思わず笑う。

口にはするなって言っても、キスはするなって言わないサンジ。

「なんとなく分かったぞ。口にするのはゾロとサンジで、ルフィとナミなんだな?」

エッエッエッ、と笑いながら次のキスもあるんだなってウキウキした。


「そ、そんなわけあるかっ!なんでナミさんがルフィなんか・・・!!」
「おう、ナミの口にはするなよー。したら、オレ殴るかんなー」

とか聞こえたけど。
サンジが今度はルフィを相手に騒いでるのが聞こえたけど。
それを見て、皆が笑ってるのが聞こえたけど。


チョッパーの視界は潤みっ放しだったから、ボンヤリとしか見えず。

次は絶対に泣かないぞ。

と、自分の笑い声も聞きながら、そう決めた。






<END>





<コメント>
カエデソウヤ様のとこから、20000HITOVER記念としてDLF小説をGET!!
この前頂いた10000HITOVER記念SS【唯一】の続きだそうです!
チョッパーが、相変わらず可愛いvv
ああっ、ゾロのベロチュー、ルナも、欲しい・・・(真剣!)
そんなことがあった日にゃ、即、昇天するな・・・(無い無い、絶対に・笑)
やきもち妬くサンジもこれまた可愛くて・・・じゅるる・・・

こんな素敵な小説が一杯のソウヤ様のサイトは、
こちらから、飛べます!!


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