唯 一






おかしいな、と思った。
変なのって。
でも、ナミに聞いたら「いいのよ」って笑った。

だから、なんだか嬉しかった。







唯一








「バーカ!!!死ね!三流マリモがっ!」

「それはこっちの台詞だ!死ね、三流コック!!!」



よくあれで死なないものだ、といつも思う。

甲板では、サンジがゾロの頭に噛り付き、ゾロはサンジの足を思いっきり

掴んでいる。

でも殺気がないんだ。

オレは動物だから。気配には、この船の中で一番敏感じゃないかな。


でも、人間は隠す。

動物は隠さない。

だから、隠されてしまったらオレには何も感じる事が出来ないんだ。




「ね、ナミー」

「ん?なーに、チョッパー」

ナミはとても綺麗。

サンジがいつも綺麗って言ってるのは間違ってない。

「なんで人間は隠すんだ?」

「隠す?何を?」

「・・・・なんだろう・・・」

「なによ、それ」

ナミはまた綺麗にコロコロと笑った。





「ふざけんなっ!!ボケ!ハゲ!!」

「オレはハゲてねえっ!どっちかっつったら、お前のがハゲそうだろ

っ!!」


2人はまだ、ドカバキと船を壊している。

今日はお日様がポカポカしてるんだ。

だから、仲良くすればもっとポカポカなのに。





「あ〜あ・・・・、また修理だよ・・・。カヤ・・ごめんな・・」

後ろから溜息が洩れたから振り向いたら、長い長い鼻があった。

「ね、ウソップ。人はさ、何で隠すんだ?」

「んだ、チョッパー。何を隠すって?オレ様に分からないことはねえぞ?言

ってみろ」

「・・・・んとね・・・・、なんだろ・・・。なんか・・・」

「・・・・んだ?自分でも分かってねえのか」

ウソップも鼻を擦って呆れて、ほんとは呆れてない顔で笑った。





「このほっかむりっ!マゾっ!変態っ!!」

「オレが変態なら、お前は何だ?!露出狂かっ!変質者かっ?!」


あ。


と思った一瞬後に、サンジがコケた。

たぶん、お日様のヒカリがチカってしたから。

ゾロの刃に。






「ね、ルフィー」

「おう!なんだ?」

ルフィは喧嘩してる2人を全然気にしてない様子で、羊に跨ってた。

「あのね・・、オレよくわかんないけど・・、ヒトは隠すだろう?」

「・・・・・・・・・んん」

ルフィはぐるんって跨り直して、オレの方を向いた。

わわっ、落ちたら危ないよ!

またナミに叱られるよ!

でも、全然グラつかないでニカって笑う。

「なにを、隠すんだって?あ!肉か?それとも、お菓子か?」

「違う!違うよ!あの・・・ね、なんか・・、ホントの気配・・みたいな・・」

「ホントノケハイ?・・・・オレ、わかんねえなっ!!」

「・・・・ちょっとは考えてよ・・」

「ん〜・・・。考えた!わかんねー!!」

しししって笑うルフィはお日様みたいだ。

オレ、あんまりお日様を近くで見たことなかったな。

こんなに近くにお日様、あるんだ。






「おい、大丈夫か?」

「あ・・ああ。って、なんでオレはお前にお姫様抱っこなんかされてんだよ

っ!降ろせッ!」

「暴れんなよっ!そこんとこ、木がめくれ上がってんだろ。あれにつっこん

だら、お前、手切ってたぞ!!」

「わかった!!いいから、降ろせ!!変態っ!ナーミさ〜ん、助けて〜!

犯される〜〜!!」



そう。

木がめくれてたんだ。

だから、サンジがコケた時、「あっ」て思ったけど、ゾロだったから。

ゾロなら、絶対に支える。

自分は喧嘩して、ボコボコにするくせにさ。

そういう時は絶対に大丈夫なんだ。

だから、オレも安心してサンジがコケるのを見てた。



2人はギャーギャー言いながら、キッチンへ消えた。


でもすぐに「チョッパーーーー!!」って。







「なーに?」

「お、チョッパー。こいつ見てくれ。足の傷、開いてやがった」

見ると、ゾロの足首の包帯が少し赤くなってる。

「大丈夫だ。それより、クソコックの背骨、見ろ。なんかキシんでんぞ」

「オレは大丈夫っつてんだろっ!チョッパー、このアホ剣士見てくれ」

「いいから、チョッパー。このエロコック、見てみろ」

「「オレは大丈夫っつってんだろっ!!」」





ね。

また隠すんだ。





聞いちゃおうかな。

怒られるかな。

でも怒られたら逃げちゃえ。

ゾロの傷もサンジの背骨も、大丈夫だから。

だって、治ってるんだもん。

ドクトリーヌが失敗するはずもないし、ゾロの傷はオレが見た。

ほんの少し、痛むかもしれないけど。

間違えなく、大丈夫だから。





「ね・・・、ゾロ、サンジ」

「「なんだ」」

声、そろってるよ。

「あのね・・・何でお前らは隠すんだ?」

「「何を」」

ほら、また。

面白くて「エッエッエッ」って笑ったら、ゴツンってやられた。









「サンジー、おやつ〜」

「おい、木めくれてたろ。あれ直すから。サンジ、こないだのボンドどこやっ

た?」

「サンジくん、お茶もらえる?あ、ビビも欲しいでしょ?」

「ええ、ありがとう」

「クエッ」






あ、そっか。

もう3時なんだ。

だから、皆の時間だ。

今から30分は、皆で「お茶」ってのをするんだ。

オレがこの船に乗ってからの決め事なんだ。

嬉しいな。







「おい、どうした。また怪我か?」

「ちょっとあんたら、喧嘩し過ぎよ。煩くてしょうがないわ」

「サンジ、おやつ〜」

「トニーくん、大丈夫なの?」

「クエー」



カルーも「だいじょぶか?」って言ってるよ。

だから「大丈夫だよ」って言ったら、皆一緒に笑う。







サンジがカチャカチャとシンクに向かってると、なんだか甘い香りがし始め

た。

ゾロは仏頂面で、両腕を頭に回して眺めてる。






「そういえば、チョッパー。さっきの分かったの?」

「あ、そういやチョッパー、オレにもなんか、隠す、とか言ってたな」

「おうチョッパー。ちょうどいい。オレには分かんなかったから皆に聞けよ

っ!な?」

ルフィはサンジの周りをちょこちょこしながら、オレに言う。



うん。

皆揃ってるしさ。

カルーは動物だけど、他の皆は人間だから。

分かる人がいるかもしれない。



「・・・・あのな、ヒトはどうして隠すんだろ・・」

「何を?」

これはサンジ。甘い香りを身につけながら、オレに聞いてくれる。

ナミはルフィを咎めて、ウソップはカルーの羽をいじって。

ビビはゾロに何か話し掛けてて。ゾロはそれに少し片頬を上げて。



「・・・・ほんとの気配を隠して・・」

「気配?」

「うん。どうして嘘・・嘘じゃないな。どして、隠して話すんだ?」

皆、「へ?」って顔でオレを見てる。

・・・・今の聞き方、変かな。オレ、おかしかったかな・・?

ちょっとだけ不安になってたら、ナミが「ああ」って笑った。

「チョッパー、それは気配じゃないわ。気持ちっていうのよ」

「あ!うん、それだ!でも、どうしてそれを隠すんだ?」

「オレは隠してねえ!」


うん、知ってるよ。ルフィは隠さない。

隠してるのは・・・・・・・・。


「あ〜・・・なるほどね。チョッパー、そういうことは本人に聞きなさい」

ナミはすごい。

なんで、誰かの話だって分かるんだろう。

「・・・・怒られない?」

「怒られないわ。だって、あたしがいるでしょう?」


そうだ。ナミがいるから平気だ。

じゃ・・・・・・、聞いてみよう。


「ゾロ、サンジ」

「んあ?」

「おう、なんだぁ?オレに聞きてえのか。ちょい、待て。チョッパーはミル

ク、ホットとアイスどっちがいい?」

「・・・・あ、アイス」

「・・・・で?」

ゾロ睨んでるよ。

でも「大丈夫よ」ってナミが帽子をポンポンたたくから。




「あ・・・・あのな、お前らはどうして隠してるんだ?」

なにを、って目で聞き返すゾロ。

サンジは「うん?」って首をかしげながら、オレを抱っこしてくれた。

「・・・だからな、隠さなくてもいいことだとオレは思うぞ?」

「なにをだ?チョッパー」

頭の上から、サンジの声がする。

サンジって、なんかアッタカイ。











「うんとな・・・・、ゾロがサンジ大好きで、サンジもゾロが大好きなの、どうし

てお互いに隠したりするんだ?」












****










「痛ぇ・・・・」

「あら、チョッパー大丈夫?」

みかん畑で、帽子脱いでたらナミが隣に座った。

「うん、痛いけど大丈夫だよ。コブにもなってない」

「そ。なら良かったわ」

ナミがいたから、一発ですんだ。

ナミはオレの手を引いて、膝の上に乗せた。

ナミも・・・なんだかアッタカイ。


「ね・・・、ナミ。オレいけないこと聞いたのか?」

「ううん、ちっともいけなくないわよ」

「だって、ゾロもサンジもなんだか真っ赤になって怒ったぞ」

「・・・・チョッパー、ヒトはね、いろんなことを隠すのよ」

「なんで?」

「なんでかしらね・・・・・、それは私にも分からないわ。でも・・隠しても伝わ

ってればいいじゃない?」

「・・・・・オレよく分かんない」

「ゾロもサンジくんもね・・・、お互いの気持ちを知ってるでしょう?」

「うん。それは分かる。でも、なんでそれを隠して喧嘩ばっかりするんだ?」

「喧嘩してる時はね・・、きっとほんとにお互いにむかついてるのよ。

ただ、そういう時もあるってだけ。大好きだから、むかついたり・・・キスした

りするのよ?」

「・・・・ふーん・・・。じゃ、ゾロとサンジは番いなのか?」

「番いって夫婦?・・・うーん、それもちょっと違うかもね」

「だって、ヒトはキスとかするのは夫婦なんだろ?」

「夫婦じゃなくてもいいのよ。大好きな人なら。私、この船の皆なら誰でも

キスしたいわ」

「そうなのか。じゃ、ゾロとサンジは何なんだ?」

だって、夫婦じゃなくて。

でも、オレは見たことあるぞ。

交尾してるの。

でも、これは言ったらなんだかいけない気がする。

「あの2人はね・・・何なのかしらね。うーん・・・、きっと唯一だわ」

「ユイイツ?」

「そ。世界にゾロは一人でしょ?サンジくんも一人だけ。お互いがお互いに

とって一人だけなのよ」


それは、なんだかイイナ。

ユイイツ。

うん、なんだかすごくイイコトみたいだ。


「でも・・ユイイツなら、何で大好きだって、言わないんだ?」

「言わなくてもいいの。ゾロとサンジくんは分かってるから。

チョッパーだってあたしがチョッパー大好きなの、言わなくても分かるでし
ょ?」

「え。・・・・・・・え。うん・・・オレもナミ大好きだもん」

なんだか、顔が熱い。

でも・・すごく嬉しい。


ナミは蜜柑の色で、笑う。


「だからね、ヒトは言わなくても伝える事ができるのよ」

「そうか。じゃ、隠してるワケじゃないんだな」

「そうね。隠したいことはあるかもしれないけど・・・・、心に嘘はつけないか

らね」


嘘。

それはウソップが得意なヤツだ。

でも・・そっか。

心に嘘はつけないんだ。

なんだ。

だったら、動物と一緒だ。


「・・エッエッエッ。ヒトって動物と一緒なんだな。でも、ちょっと変な生き物

だ」






「いいのよ」




蜜柑色のナミが笑う。







<コメント>

10000hit-over記念で、強奪した、カエデソウヤ様の小説です。
【地雷を踏んだチョッパー】が、コンセプトだそうです。(笑)
一気に引き込まれてしまう小説・・・さすがです!!
 こんな素敵なサイト様と繋がれて、ルナは、幸せ者です!
ちゃっかり、頂くモノも頂きましたし・・・(笑)
こんな素敵な小説が一杯のソウヤ様のサイトは、
こちらから、飛べます!!


<treasure>     <map>