Sleeping face |
波間に漂う一艘の船。 マストを畳んでしまえば海賊船とはとても思えない羊型の船首のキャラベル・ゴーイングメ リー号。 春島の穏やかな気候に影響され、船上のクルー達もいつも以上にのんびりと時を過ごして いた。 甲板に見えるのは・・・・・・・・・・・・・・・・・ いくら危ないと注意されても一向に定位置の船首にぶら下がる事を止めない船長と。 フラスコやビーカーを山のように持ち出しては実験に勤しむ狙撃手と。 手摺に凭れ掛りながら分厚い医学書に目を通す船医と。 パラソルの下に置かれたデッキチェアーで脚を伸ばし読書に耽る航海士と。 両腕を頭の後ろに組み、脚を投げ出して眠りについている剣士の姿。 一見いつもの風景のようだが、一人クルーが欠けている。 全身黒のスーツを着込み、口にはいつも煙草を銜えていて女尊男卑が著しいこの船の食 生活を一手に担う料理人。 手にはトレーを持ち、航海士に笑顔で奉仕する傍ら纏わり付く船長以下数名を餌付けする その姿が、今は見えなかった。 のんびりとした空気の中、その事に最初に気付いたのはやはりクルー一食い意地の張る 船長だった。 「腹減った〜・・・・・・・何か食いモン貰ってこよ〜っと!サンジ〜」 腕を伸ばし、一気にキッチンのドアの前まで辿り着いたルフィは、いつものようにドアを開け た。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・が。 そこの主は仕込みをしているでもなく、煙草を燻らしているでもなく。 椅子に座り、テーブルにうつ伏せになって安らかな寝息を立てていた。 普段そんな事にはお構いなしに騒ぎ立てるルフィも、そのサンジの寝顔を見て大人しくキッ チンの中へと脚を踏み入れた。 起こさないよう静かにサンジの後ろを通り過ぎ、冷蔵庫内を物色していく。 最近ではつまみ食いしていい食材とそうじゃない食材がきちんと分けられているので、そ のつまみ食いOKな食材を両手一杯に抱えると 来た道を足音を立てないようにドアへと戻っていった。 サンジに起きる気配は無い。 「・・・・・・・・・・・・・・・・よく寝てるなぁ。」 顔を覗き込み、寝顔を観察する。 朝は一番に起きて、夜も一番最後に寝るサンジの寝顔を見た事が無いのは当然と言えば 当然だった。 「こうやって寝てるとサンジって可愛いなぁ!いつもは怖えけど。やっぱり俺が選んだコック だ!ししし」 意味があるのか無いのかよくわからない台詞を残し、サンジの目が覚めないうちに甲板へ と戻ろうと後ろを向く。 両手が塞がっているので、ドアをどう開けようかと一瞬考えたが、タイミング良くウソップと チョッパーがキッチンへとやって来てドアを開けた。 「うわ!?驚かせんなよ、ルフィ〜!・・・・・・・・・・・ん?お前やけに静かだな。」 「ああ、サンジ寝てんだ。で、起こさねえように食いモン貰ってきた。」 「へ〜、お前でも気を使う事あるんだな。」 「何?ウソップ、お前失敬だな!俺だってそのくらい出来るぞ!!」 「ちょ、ちょっと2人とも止めてよ!サンジが起きちゃうよ!!」 チョッパーの仲裁で口論が止まり、ルフィは甲板へ、ウソップとチョッパーがキッチンへと入 っていった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんと良く寝てるなぁ。おいチョッパー、お前オレンジジュース でいいか?」 「うん。・・・・・・・・・・・・・でも俺、サンジの寝顔って初めて見たよ。」 「あ?ああ、そうだな〜、俺達より早く起きるからな。」 「サンジって、寝てる時は可愛い顔して寝るんだね。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん、まあそうだな。起きてる時の刺々しさもねえ し。・・・・・・・・・・・・・あ、これ内緒な。」 「でも、珍しいよね。こんな所でサンジが寝るなんて。」 「・・・・・・・・・・・・・・・そう言われりゃそうだよな。」 「きっと、サンジ疲れてるんだよ。この船の中で一番働いてるもん。」 「そうだよなぁ〜・・・・・・・・・・・・・・・洗濯とか掃除とかもしてくれるしな。」 「俺、今度からもっとサンジのお手伝いするよ!」 「俺様も何か手伝うか・・・・・・・・・・・・・皆で分担してやりゃサンジの負担も少しは減るだろ うしな。」 「夜も早く寝ればいいのに、俺がこの前たまたまトイレに起きたらサンジ、居なかったぞ。あ んな遅くまで仕込みやってるのかな?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・や、チョッパー。それは・・・・・・・・・・・・・・・・・あいつにもいろい ろ都合ってもんがあるんだよ。」 「そうなのか?あ、そういえば・・・・・・・・・・・ゾロも居なかったような・・・・・・・・・・」 「ほらほら、飲み物持ったらさっさと甲板戻るぞ!サンジが起きちまうからな。」 「あ、う、うん。」 何故だか冷や汗をかきながら急いでキッチンを出て行くウソップと。 いまいち腑に落ちないといった風に首を傾げながら後に続くチョッパー。 とりあえず、純粋な船医には刺激が強すぎる事実を知られずに済んだ事は幸いだった。 「う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私も何か貰ってこようかしら・・・・・・・・」 読み終わった本を置き、一つ伸びをしてナミはそう呟くとキッチンへと向かった。 「サンジく〜ん、何かのみも・・・・・・・・・・・・・・・」 言いかけ、サンジが眠っているのに気付く。 そう言えばさっきルフィ達がそんな事を言ってたわね、と思い出し、足音を立てないように 食器棚へと歩み寄り、グラスを取り出す。 そして冷蔵庫から常備してあるアイスティーの入ったピッチャーを取り出すと、静かに注い だ。 ピッチャーを元に戻し、冷蔵庫のドアを閉めると一口含み、喉の渇きを潤す。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいし。」 サンジ特製アイスティーは甘さ控えめなのでナミ好みの味だった。 だが、いつもはそのグラスに綺麗にフルーツが盛り付けられたりしているので、いまいち物 足りない気もする。 でも・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・・・・・・・・わざわざ起こしてまでやってもらうのも悪いしね。」 独り言のように呟く。 サンジがキッチンでうたた寝する事自体珍しい事だ。 何処かの万年寝太郎と違って、何時だって忙しく動き回っているから。 サンジの寝顔を見たのはほとんど初めてと言って良いほどだろう。 目を細め、髪にそっと触れる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛い寝顔しちゃって。」 まるで姉のような心境。 「アイツはいつもこんな可愛いサンジくんを見てるって事よね・・・・・・・・・・・・・何だか腹立 たしいわ。」 髪から手を離してグラスもテーブルに置く。 「こんな風にサンジくんが疲れて寝ちゃうのだって、アイツのせいなんだ し。・・・・・・・・・・・・・・今度釘を刺しておかなきゃね。」 ゾロをからかう事に生きがいを感じているナミは楽しそうに微笑むと、音を立てないようにキ ッチンを後にした。 甲板では妙な踊りを考案中のルフィ以下3名。 いつものデッキチェアーではナミがグラスを傾けながらその様子を微笑んで見ている。 ゾロは徐に立ち上がると、その様子を一瞥してから歩き出した。 それを目ざとく見つけたナミが呼び止める。 「ちょっと、ゾロ!」 面倒臭そうに振り返ると思い切り不機嫌な顔で睨み付ける様に威嚇する。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・んだよ。」 ナミに関わるとろくな事が無いのを嫌と言うほど知っているゾロは、ぶっきらぼうに答えた。 そんな態度も気にせず、ナミは話を進めていく。 「アンタ、何処行くのよ?」 「アアッ!?何でてめえにいちいち行き先を報告しなきゃならねえんだよ。」 「キッチンならダメよ。」 行き先を当てられ少し動きが止まる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でダメなんだ?」 自分の行動を当てられ内心腹立たしいゾロは、それを顔には出さないように平静を装い聞 き返した。 「サンジくん、誰かさんのせいでお疲れみたいでぐっすりお休み中よ〜。」 魔女の微笑みを浮かべながらからかうように言ってくる。 だが、ゾロの反応がおかしい。 「・・・・・・・・・・・・・・見たのか?」 「は?」 「だから、てめえはサンジの寝顔を見たのかって聞いてんだよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・そりゃ見たわよ。ルフィもウソップもチョッパーも。キッチンでうたた寝し てるんだもの。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が出てくるまであいつ等キッチンに来させる な。」 「え?」 「俺が良いって言うまでキッチンに近寄るなって言ってんだ。ナミ、てめえもな。」 妙にドスの効いた声でそう言い捨てると、ゾロはそのまま足早にキッチンへと向かい、扉の 向こうへ消えていった。 後に残されたナミは_______________ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・何なの?一体アイツのあの態度は!!!」 ゾロの気迫に言い返せなかった自分にも腹が立ち、ムシャクシャした気持ちをぶつけるべく 未だ騒ぐ船長達の元へと向かった。 キッチンのドアを開け、後ろ手にそっと閉じる。 ナミの言った通り、そこには机に突っ伏して寝ているサンジの姿があった。 静かに近づき、隣の椅子を引いて座る。 頬杖を付きながらしばらくその寝顔をボーっと眺めていた。 余りにも無防備な、サンジの寝顔。 これをルフィやナミ達にも見られたのかと思うと腹が立ってくる。 まあ、こんな所で寝ていれば仕方の無い事だが、それでも・・・・・・・・・・・・・・ムカつく。 この寝顔を見られるのは自分だけに与えられた特権なのだから。 できれば他の奴の目になど触れさせたくはない。 そっと、もう手に馴染んでいる金糸に触れる。 サラサラとしていて、手のひらから滑り落ちていく。 それを何度も何度も繰り返す。 __________と、サンジが身じろぎ薄っすらと目を開けた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?俺・・・・・・・・・・・・寝ちまっ た・・・・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・・・ゾロ・・・・・・・・・・・・・・?」 覚醒し切っていないので、少し舌ったらずな口調。 髪を弄る手を休めず、そっと囁いてやる。 「まだ夕飯まで時間あるから、寝てろ。・・・・・・・・・・・・・・昨日も無理させちまったから な。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「俺が起こしてやるから。・・・・・・・・・・・・・・・・・お休み。」 「ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゾロ・・・・・・・・・・・・・・・・・」 甘えるような仕草で腕に擦り寄ってくる。 優越感に浸りながら、そっとサンジを抱き上げるとソファまで移動し、静かに下ろして自分も 一緒に座った。 胸板に頭を乗せ、安心し切ったような顔で再び眠りに落ちていくサンジ。 柔らかい金糸を手で梳きながら、その心地良い暖かさと鼓動に自然と瞼が下りていった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり思った通りね。ゾロったら私達がサンジくんの寝顔 見たのが気に入らなかったのよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・サンジの事になると、ゾロってガキ臭くなるよな。」 「見て見て、ウソップ!ゾロのあの顔!!緩みきっちゃって見てらんないわ〜。」 「確かに・・・・・・・・・・・・・・あんな顔する奴が昔魔獣って恐れられていたなんて信じられね えよなぁ・・・・・・・・・・・・・」 「お前ら、何してんだ?」 「バカ、シ〜ッ!!ルフィ、ゾロ達が起きちゃったらどうすんのよ!?」 「俺にも見せてくれよ〜」 「チョ、チョッパー・・・・・・・・・・・・・・・お前には未だ早い。ほら、俺様とあっち行くぞ。」 「ま、たまにはサンジくんもゆっくり休ましてあげないとね。ゾロの隣にいる時が一番いい顔 してるし。」 「お、いいな〜!俺もサンジとゾロと一緒に寝てえぞ!!」 「「「お前はダメだ!!!」」」 『俺は船長だぞ!』と訳のわからない事を言いながら無理矢理ゾロとサンジの所に行こうと したルフィを取り押さえ、キッチンから遠ざかる。 が、諦め悪く「俺も一緒に寝るぞ〜!」と叫ぶルフィに、ナミの鉄拳が下されたのは言うま でもない。 <FIN> |
<コメント> ひろ様のサイトから1周年記念SSということで、強奪してきました〜vv その第1弾です! そう、第1弾という事は、第2弾もあるという事で、 図々しくも、ルナは、両方とも、拉致って来てしまいました。(笑) だって、どちらか一方だけなんて、選べなかったんだもん。 ッて、今更ブッても、ダメだよん。 嫉妬むき出しのゾロも良いのだ〜っv オールキャラで、コミカルなのも、ツボッ!! ルナは、ひろ様に、メロメロ〜ンなのだ!(笑) こんな素敵なSS、満載のひろ様のサイトは、こちらから、飛べますっv <treasure> <map> |