gratitude ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
揺れを感じずに目覚めたのは久しぶりだった。 宿屋の一室。 隣に眠るのは、世界最強を目指す剣士。 その力強い腕はしっかりと俺の身体に回されていて、少しでも身じろぐと逃さないとでも言 うかのように拘束する力が強くなる。 無意識の行動に頬が緩むのを自覚しながら、ゾロの顔がよく見えるように向き直った。 閉じられた瞳。 薄っすらと開いた唇。 規則正しく上下する胸。 それらを見ると、「ああ、コイツは生きてるんだな」なんて当たり前の事をつい思ってしまう。 その当たり前の事が、不意に途切れてしまう可能性が高いから。 明日の保障なんて、何処にも無い。 それは海賊をやっている俺達全員に言える事だけれど、剣士には更にその危険度が上乗 せされる。 一瞬でも気を抜いたらそれで終わり。 そういう世界でゾロはずっと生き抜いてきた。 これからも、それは変わらないだろう。 でも。 俺と一緒に居る時だけは、どうか。 少しでも、コイツが安らぎを感じられるように、と願わずにはいられない。 しばらくその寝顔をじっと見つめていたが、ふと視線を下に向けてみると。 目に飛び込んでくるのは、誓いの傷。 前は、この傷を見る度心が少し痛んだ。 あの瞬間の映像がまざまざと思い出されて。 最強の剣士になる為には、避けて通れない道。 その道の頂上で、何時までもゾロが来るのを待っていると言い切った鷹の目。 そして、船長であるルフィとの誓いをもこの傷は持っている。 それが羨ましくて。 妬ましくて。 負の感情に押し潰されそうだった。 だけど。 初めて身体を合わせたあの日、ゾロが俺に言ってくれた言葉。 『これからずっと、俺が大剣豪になるまで・・・・・いや、なってからも、俺の側に居ろ。何処に も行くんじゃねえ。』 その言葉が俺を救ってくれた。 その約束は、果たせないものかもしれないけど。 それでも。 そう言ってくれたゾロの気持ちが、俺には嬉しかった。 あの日から、この傷を見ても心が痛まなくなったんだ。 逆に・・・・・・・・・・この傷が、とても大切なもののように思えてきて。 俺は、この傷が好きになった。 そっと傷痕に指先を滑らせる。 その時、ベッドの脇でカタンッ、と小さな音が鳴った。 視線を向けると、そこには壁に立て掛けられたゾロの命とも言える刀が三本置かれてい て。 その中の一つ、白い鞘の刀が何かの振動で少しずれたらしい。 俺にとって、この刀も最初は見たく無い代物だった。 今は亡き親友との約束を果たす事を一瞬たりとも忘れないように、その刀が無言でゾロに 語りかけているような気がして。 意志を持たないはずの刀にまで嫉妬する自分自身が嫌で嫌で堪らなかった。 片時もゾロの側を離れる事の無いその刀と、何時かは離れるかもしれない自分自身の事 を比べてしまって。 女々しい考えがつい口をついて出てしまいそうになった事もあった。 でも、今はこの刀に感謝している。 そして、この刀に意味を持たせてくれた、ゾロの幼馴染の少女にも。 それらが全て重なって、俺はゾロに出会えたんだから。 こうして、側でコイツを見守れる権利を与えられたんだから。 「・・・・・・・・奇跡的、だよなぁ・・・・・・・・」 思わず口をついてでた台詞。 ゾロが最強を目指して村を出て。 偶然ルフィと出会い、仲間になって。 更にはバラティエまでやってきて、俺の目に一生消える事は無いだろう強烈な光景を焼き 付けた。 そして思いもよらず、俺もルフィ達の仲間になって。 今に至る。 このどれかが欠けても成立する事はなかった、俺達の関係。 ・・・・・いや、あと一つだけ追加しなくちゃならない事があった。 俺がこの船のクルーになって、ゾロに仲間以上の感情を抱き初めていると気付いた時。 いつもしてきたように、俺は自分の感情を押し殺そうとした。 でも・・・・・・・・ゾロは、違っていて。 俺にストレートに気持ちをぶつけてきてくれた。 逃げてばかりだった俺に、それは間違っていると身を持って教えてくれた。 あの日から、俺は。 素直にゾロを愛せるようになったんだ。 何度も胸の傷を指先でなぞっては離してを繰り返す。 そっと左胸に耳を当て、脈打つ鼓動を聞きながら目を閉じた。 すると突然、傷痕を辿っていた手を掴まれる。 「!?」 顔を上げると、そこにはまだ少し眠そうなゾロの顔。 「あ、悪い。起こしちまった?」 悪戯っぽく問い掛ける。 本当は起きるようにと、わざとちょっかいをかけていたんだけど。 俺の本心を見透かしたかのように、徐に上半身を起こすとそのまま俺の上に覆い被さる。 「・・・・・・・・・起きるように仕向けてたんだろ?」 そう耳元で囁きながらそっと唇にキスを落とされた。 「・・・・・・・・・だって、俺だけが起きてるなんてつまんねーじゃん。」 「・・・・・・・・ガキかよ、お前は。」 そう言いながらも、目は笑っている。 「・・・・つまんねえんなら、もう一回相手してもらおうか。」 「・・・・・ん、いいぜ?まだ足りねぇよ・・・・・・・」 「後悔すんなよ?」 低音で呟かれるその言葉だけでも俺の心を簡単に蕩かせる。 「誰が後悔なんかするかよ。・・・・・・・・俺の全ては、てめぇのモンだろ?好きにしてくれて 構わねぇんだぜ・・・・・・・・?」 負けじとわざと煽るような言葉を選び、妖艶な笑みを浮かべて誘いをかけた。 「・・・・・・・・・上等だ。」 口角を上げいつもの笑みを浮かべながら、ゾロの唇は的確に俺の快楽を呼び起こしていっ た。 「・・・・・・・・・・あ〜・・・・・・・・腰痛ぇ・・・・・・・・」 掠れた声で苦情を訴える。 「てめえが煽ったんだ、自業自得だな。」 さっきまで俺の身体を散々好き勝手に扱っておきながら平然とそう答える。 「・・・・・限度ってモンを知らねぇのかよ、てめえは・・・・・・・・」 「んなもん、てめえ相手に考えてられっか。いつだっててめえを抱くときゃ余裕なんて少しも ねえんだよ。」 「・・・・・・・・・・・」 狙っているのか、天然なのか判断付き難いゾロの言い分に、顔が熱くなるのを感じてそっ ぽを向こうとした。 だが大きな掌がそれを許さず、真っ赤になった顔を無理矢理ゾロの前に晒されてしまう。 「おーおー、真っ赤だ。」 「・・・・っつ、うるせえな!!・・・・も、お前アッチ行け!!」 押し返そうとした手を取られ、広い胸板に倒れ込まされた。 「離せっ、このっ・・・・!」 「・・・・・・・いいから。・・・・・どっか痛ぇのか?・・・・あ〜、その・・・・悪かった、な。 つい・・・・・」 さっきとは打って変わって愁傷な態度。 「え?・・・・・・・・や、・・・・んな大した痛さじゃねえよ・・・・・・・・」 すっかり毒気を抜かれた俺は、素直にそう答えた。 「・・・・・・・そっか、ならいいが・・・・・・・どうしても、お前に負担かけちまうからな。」 「・・・・・・・・ん・・・・・・・・」 「今度から・・・・・なるべく、抑えるように・・・・・・努力は、する。」 困ったような顔でそんな事を言うもんだから、つい笑っちまった。 「・・・・・・・・笑う事ねえだろ・・・・・・・」 拗ねたゾロに 「あ〜、悪い。・・・・・・・ありがと、な。・・・・・・・でも別に抑える必要は・・・・ないぜ? ・・・・・後で優しくしてくれりゃ。」 そう告げる。 「なんだ、そんなんでいいんなら毎回飽きるまで優しくしてやるぜ?」 返って来たゾロの言葉が、妙に嬉しくて。 「・・・・・・・・・んじゃ、早速優しくしてくれよ?」 そう言うと、二人して笑い合った。 汗が少し引いてきた身体を寄せ合い、何も話さず只互いの息遣いだけを聞いていた。 耳に馴染む規則正しい心音が心地良い。 少し眠気に襲われ、意識せずにゾロの傷に触れていたらしい。 「・・・・・・・・・・お前、最近そこ触るの好きだよなぁ。」 頭上から聞こえた、穏やかな声色。 「・・・・・・・・・・ん、何か・・・・・・・・・お前のこれ、触ってると・・・・・何か、落ち着くんだよ。」 「・・・・・・・そうなのか?」 「・・・・・・・この傷と・・・・あの刀のおかげで、俺達巡り合えたようなもんだもんな・・・・・ ・・・・・・・だから、どっちも大切なんだ、俺にとって。」 不思議と素直に言葉が出てくる。 いつもなら絶対恥ずかしくて言わないような、俺の心の中にある本音の部分。 それをつい言ってしまったのは_____________________多分、この穏やか過ぎる空間の せい。 我ながら恥ずかしい事言っちまったな・・・・・と思い、訂正しようかと思ったんだが。 ゾロの口から返された、言葉。 「・・・・・・・なら俺も・・・・・・・・あのレストランのオーナーに感謝してるぜ?・・・・・あの人が 居なけりゃお前と出会う事はなかったんだろうし、な。 そしてルフィと・・・・・・・この船の皆にも、何より・・・・・・・・お前自身に俺は感謝してる ぜ?」 「・・・・・・・・・・・・・・俺、に?」 思い掛けないゾロの告白。 「ああ・・・・・・・・・・何てったって俺に惚れてくれたんだからな。・・・・・・・それが一番の大 切なモンだ、俺にとって。」 「・・・・・・・・・・・・・・」 言葉が出て来ない。 普段あまり気持ちを言葉にして表さないゾロの口から出てきた本音。 嬉しくて、幸せで_________________涙腺が緩んだ。 「お前泣くなよ?最近涙脆いからなぁ・・・・・・・?」 からかう様な態度にも、反発出来ない。 本気で、生きてて良かったと思えたから。 涙を見られないよう、ゾロの肩口に顔を埋め首にしっかりと抱きつく。 すん、と鼻を鳴らしながら辛うじて音に出来たのは。 「・・・・・・・・ありがと・・・・・・・」 その4文字だけ。 それで全てが伝わる。 ギュッ、と強く抱きしめ返され、暖かい感覚に包まれながら。 俺達は、何度も何度もキスをし合った。 互いへの、感謝の気持ちを唇に込めて。 Fin 2003.5.13 |
<コメント> 藍月ひろ様のサイトのサン誕企画投稿へのお礼SSとして頂きましたvv あんな駄文でこんな素敵なモノを頂けるなんてvv 正に、『エビで鯛を釣る』(笑) ロロノアは、相変わらず格好良くてvv サンジも、格好可愛くてvv ラブラブな二人のお互いに関わるもの全てに対する溢れる愛情vv 本当に素敵な作品をありがとうございますvv こんな素敵で格好可愛い二人が一杯の、素敵なひろ様のサイトは、 LINKからとべますvv <treasure> |