Compensation
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 ログポースに導かれ、グランドラインを順調に航行中のゴーイングメリー号。

 日差しも穏やか、空気も澄んで清々しい。

 皆甲板に寝転び、何をするでもなくダラダラと時を過ごしている。

 危機感なんて言葉とは無縁のクルー達は、そんな状況を極当たり前の事のように思ってしまっていた。

 最初にこのグランドラインに入った時に出会ったジイさんが言っていた言葉。

 『季節・天候・海流・風向き全てがデタラメに巡り一切の常識が通用しない海』

 その言葉通り、これまでも何度となく危ない目にあってきたというのに。

 優秀な航海士であり、いつもなら航海中は僅かな変化をも見落とす事など皆無なナミでさえ、

 その空気の呑まれてしまっていた。

 その油断が、とんでもない事態を引き起こす事になるなんて、この時は誰も思っちゃいなかった。

 俺も___________________そして、そんなクルー達に笑顔で給仕しているアイツも。





























 突然ガクンと大きな揺れを感じたのと同時に、船がその場で止まってしまう。

 「うわっ!?お、おい、何だ??」

 「船が止まっちまったぜ!?どうなってんだよ!」

 「・・・・・・・・・・これは・・・・・・・・・・」

 慌てて海を覗き込んだナミが漏らした声に

 「何?どうしたんだい、ナミさん??」

 コックが問い掛けた。

 「しまったわ・・・・・・・・どうやら巨大な藻の塊みたいなものに乗り上げちゃったみたい。

 迂闊だったわ・・・・・・・・」

 ナミの言葉に、クルー全員の目が海へと向けられる。

 「藻かよ、だったら船の速度上げて振り切っちまえばいいんじゃねえか?」

 俺の言葉に

 「う〜ん・・・・・・・・・一応やってみましょ。皆、それぞれの配置について!」

 言われるまま俺達は所定の位置について、船を動かそうと試みた。

 ・・・・・・・・・が、びくともしない。

 「困ったわ・・・・・・・・・このままここで立ち往生なんて事になったら・・・・・・・」

 表情を曇らせるナミに向かって

 「大丈夫だよ、ナミさん!何とかなるよ。だから心配しないで?」

 零れるような笑顔を見せるコック。

 その笑顔を見ていられなくて、静かに視線を逸らした。

 俺が心の中に燻らせている想いを気付かせる訳にはいかないから。































 自分でもおかしいと思うし、最初は信じられなかった。

 こんな感情。
 
 出会った時からずっと喧嘩ばかりで、俺もアイツを嫌っているし、アイツも俺を嫌っているんだと思って

 いた。

 だけど、たまたま一日喧嘩をしなかった日があって。
 
 その事が妙に落ち着かなくて、無理にでも喧嘩の理由を探そうとしている自分に気付き、唖然とした。
 
 嫌っているのだから、アイツの側になんて行かなくて済むに越した事は無いはず。

 なのに何時の間にか俺は、アイツと喧嘩しながら過ごす時間が大切なもののような気になってしまって

 いた。

 その時だけはアイツの視線が俺だけに向けられるから。

 更には憎しみあってする喧嘩と違い、しばらくするとまるで何事もなかったかのようにアイツが俺に話し掛

 けてくるようになって。

 それだけで気分が高揚してしまう事に戸惑いを覚え。

 無意識にアイツの姿を求め目線を泳がす事が増え。

 俺以外に向けられる笑顔に心底ムカついた。

 その想いが指し示す答えなんて、一つしかない。

 本来なら女に向けられるべき感情を、俺はアイツに抱いてしまっていた。

 アイツをずっと見ていたい。

 この手で触れたい。

 力強く抱き締めたい。

 そんな欲望が己の中で育っていくのと同時に、俺のアイツに対する態度は刺々しいものになっていった。

 悟られる訳には決していかないから。

 そう決意したのが、昨日の事。

 それ以来俺達は喧嘩らしい喧嘩もせず、逆にほとんど接触を持つ事はなかった。

 これでいい。

 そのうちこの想いも消えてなくなるだろうから。

 そう思い込もうとしていたのに。




























 
 「・・・・・・・・・・・・・・ロ、ゾロッ。・・・・・・・・おいコラマリモ!!てめぇ聞いてんのか!?」

 呼ばれる声にハッとして振り返る。

 「・・・・・・・・・・・何だ。」

 極力感情を押し殺し小さく答えた。

 「何だじゃねえよ!今ナミさんが言ってた事聞いてなかったのか?クソ剣士!!」

 「・・・・・・・・・悪い、聞いてなかった。」

 目線を合わせないようにしながらそう呟くと

 「んだと!?てめえ、この緊急事態にボケッとしてんじゃねえよ!」

 いつものように悪態をついて突っ掛かってくる。

 だが今の俺にはそれに乗ってやれる余裕なんか無い。

 黙ったままでいると、アイツもそんな俺の態度を変に思ったのか黙り込んでしまった。

 そんな俺達の間にナミが割って入ると俺を見ながら説明を始める。

 「もう一回言うわ、よく聞いてて。どうやら船底に藻が絡み付いちゃってるみたいなの。いくら船を動かし

 ても全然ダメだし・・・・」

 そこで一旦言葉を区切り、俺とアイツを交互に見て

 「だからね、悪いんだけど二人で海に入って様子を見てきて欲しいの。」

 そう言い放った。

 「あ?・・・・・・・別に俺一人で十分だぜ。」

 今は二人でなど行動しなくない。

 だがそんな俺の言葉に過敏に反応し、アイツは「ふざけんな、だったら俺一人でいい!」と再び喧嘩越

 しになる。

 「二人共、今はそんな言い争いしてる場合じゃないの!何だかさっきから気候が不安定になってき

 てる。早くここから抜け出さないと・・・・・・」

 不安気に空を見上げたナミに

 「任せてください、ナミさん!ちゃっちゃと絡まった藻を取ってきますからvv」

 そう笑顔で返し

 「ほらゾロ、てめえも一緒に来い。」

 顎でそう指図する。
 
 「そうよゾロ、一人より二人の方が作業もはかどるだろうし、お願いね!」

 ナミにも背中を押され、仕方なくアイツの後について手摺近くまで移動した。

 「ゾロ〜、サンジ〜、頼むな!」

 「気を付けてね!」

 「何かあったら俺様が助けてやるからな!」

 海に入る事の出来ないルフィ、チョッパーと口では大きな事を言いながらまるで海に入る気もない

 ウソップに見送られ、俺達は海へと飛び込んだ。





























 「ぷはっ!・・・・・・・・さ〜て、じゃあとっととやっちまうか。まず俺が潜って様子見てくるから、その後お前

 の刀で藻を切ってくれ。」

 「・・・・・・・・・・ああ。」

 そう言い残すと身を翻して海中へと潜っていった。
 
 甲板からはナミやルフィ達がこちらの様子をじっと見つめている。

 「どう〜?藻は酷そう??」

 「今コックが潜って様子見てる、ちょっと待ってろ!」

 声を張り上げそう答えるとほぼ同時に俺の目の前にアイツが顔を出した。

 「うわっ!?」

 余りにも突然の出来事につい声を上げてしまう。

 「な〜に驚いてんだよ、失礼な奴だな!」

 少し不服そうな態度を取られたので

 「・・・・・・・悪い・・・・・・・・」

 つい謝っちまった。

 「・・・・・ま、別にいいけど・・・・・・あ、それよりも結構酷いぜ。早く切っちまってくれよ。」

 「・・・わかった。」

 早くこの状況から逃れたかった俺は急いで潜ろうと身構えた。
 
 が__________________

 「・・・・・・・・・・ん?」

 俺達の居る場所の真下辺りから急激に海水がせり上がってきた。

 「えっ!?」

 その異変にいち早く気付いたナミが大声で俺達に怒鳴る。

 「二人共、そこは危ない!早く船に戻って・・・・・・・・・!」

 その言葉を最後まで聞く事は叶わず、俺達は激しい衝撃を受けそのまま海中へと沈んでいった。





























 「・・・・・・・・・う・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・気付いたか。」

 目を覚ましたアイツに声を掛けた。

 しばらくボーっとした後、俺に向き直り小さく呟く。

 「・・・・・・・・ここ、何処だ?」

 「・・・・・・・・・さぁ。」

 「俺達・・・・・・・・どうなったんだ?」

 「あの時・・・・・急に海水が爆発したみてぇになって、そのまま俺もお前も海に沈んじまったんだ。

 多分海底火山かなんかの爆発に巻きこまれちまったのかもしれねぇな・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「で、海ん中で意識失ってたお前を抱えて海面に出てみたら遠くに船の姿が見えた。

 ・・・・・・・爆風が船を物凄い速さで押しやっちまったらしい。

 とてもじゃねえが、お前抱えたまま泳ぎ着ける位置じゃなかった。・・・・・・・で、辺りを見渡してみたらこの

 島があったって訳だ。」

 俺の淡々とした説明にジッと耳を傾けていたコックだが、自分達の置かれた立場を何とか把握したようで

 ふぅ、と小さく溜息をついた。

 「そっか・・・・・・じゃあここから動かねえ方がいいな。多分ナミさん達も探してくれてるだろうし。」

 「・・・・・・・・・ああ。」

 「・・・・・・・・・・・・ありがと、な。」

 不意にアイツの口から零れた言葉。

 「・・・・・・・・・え?」

 我ながら間の抜けた声を返してしまった。

 「いや・・・・・・・その、気失っちまった俺抱えてここまで連れて来てくれたんだろ?・・・・・・・悪かった

 な。」

 俺の顔を見ながらそう告げる。

 「・・・・・・・・・別に、あのまま放っておく訳にもいかねえだろ・・・・・・・・」

 その顔を見られなくて、そっぽを向いたまま無愛想に答えた。

 「・・・・・・それも、そうか。・・・・・・それより、この島何も無えのかな?ちょっと歩いて・・・・・」

 そう呟いて立ち上がりかけたコックだが、ウッと呻いてその場にしゃがみ込んでしまう。

 「・・・・?おい、どうした?」

 「・・・・・・・・痛ぇ・・・・・・・・脚、がっ・・・・・・・!」

 そう言って左足の脛部分を押さえながら苦悶の表情を浮かべる。

 「脚・・・・・・・・・?ちょっと見せてみろ。」

 痛がる部分を出す為ズボンの裾を捲くってみると、赤く腫れ上がっていた。

 「こりゃあ・・・・・・・骨にヒビ入っちまってるかもしんねぇな。・・・・・痛むか?」

 そっと赤い部分に触れると

 「っつ!・・・・・痛ぇ・・・・・・うっ・・・・・」

 かなりの痛みがあるらしく、目尻にはうっすら涙を浮かべている。

 「・・・・・・・ここで大人しく待ってろ。」

 そう言い残すと、急いで後ろにある小さな森のような場所へ分け入り木の切れ端が蔦をかき集めた。

 もし骨にヒビが入っていたらその部分を動かさないようにしないといけない。

 即席で作った添え木に蔦を巻きつけそれで患部を固定した。

 「・・・・・・・・・一先ず応急処置はしといた。後は早くあいつ等と合流してチョッパーに診せた方がいい

 な。」

 「ん・・・・・・・」

 「船が通らないかは俺が見ておく、お前は眠ってろ。」

 「・・・・・・・でも・・・・・」

 「いいから。」

 「・・・・・・・・・・じゃあ・・・・・・・・・・お言葉に甘えさせてもらうぜ。」

 「ああ。」

 すると間を置かずに静かな寝息が聞こえ始める。

 それをぼんやりと聞きながら、俺はなるべくアイツを見ないようにと海を見つめる事に専念した。





























 それからどれくらい経ったんだろう。

 日も落ちかけ、辺りが暗闇に包まれ始める。

 唯一の明かりは空から照らされる月の光だけ。

 火を起こす術を持っていなかった俺達に幸いしたのは、この島の周辺が春島のような暖かい気候だった

 って事。

 なので、火で暖を取らなくても何とかなりそうだった。

 既に暗くなってしまった海を眺める事を止め、自分も休息を取る為その場に横になろうとしたその時。
 
 目に入った、アイツの姿。

 痛みのせいか、薄っすらと汗ばんでいる顔。

 少し開きかけた唇。

 閉じられた瞳。

 それらを目にした時。

 俺の中で、何かが崩れた。

 そっと近づき、頬に手を添える。

 一瞬だけ。

 ほんの、一瞬だけだ。
 
 そう何度も自分に言い訳をして。

 ゆっくりと唇を重ねる。

 思っていた以上に柔らかく、甘い。

 もう離さないと、と頭の隅の方で警鐘が鳴り響く。

 だけど__________________もう止められなかった。

 どんどんと深くなっていく口付け。

 そして見開かれる、アイツの瞳。

 「・・・・・・・・・・!!んっ・・・・・!」

 思い切り身体を押し返され、唇が離れた。
 
 呆然としながら俺の顔を信じられないものを見るかのような眼差しで見つめ返してくる。
 
 それに構う事なく、再び口付けようと顔を寄せた。

 「やっ・・・・・・・ゾ、ロ!・・・・やめっ・・・・・・・」

 逃れようと身を捩るも、脚の怪我のせいで満足に動けない。

 それにつけ込み、上半身をしっかり抱きしめ再び口付けた。

 「んっ!・・・・・・・・・・・んっ、んんっ・・・・・・・・」

 俺の背を叩いていた手の力が、段々弱まっていき。

 同時に抜ける、身体の力。

 まるでもう全てを諦めてしまったかのような、アイツの態度。

 だが、ずっと焦がれていたものが今、手の中にあって。

 まるで恋人同士のように抱き合っている。

 _____________________そんな錯覚をつい覚えてしまう。

 本当は只の、俺のエゴなのに。

 抑制し続けなければならなかったのに。

 捨てなければ、心の中から切り離さなければいけなかった感情なのに、今俺の心は完全にその感情に

 支配されてしまっていた。

 もう止められない。

 心の中で、何度もごめんと呟いて。

 俺は______________________アイツを、抱いた。





























 未だ眠るアイツを残し、森の中へと入る。

 何とか食べられそうな果物を数個見つけ、木の窪みに溜まった雨水を微量ながら確保した。

 たまたまその辺に転がっていた器になりそうな欠片にその水を零さないように入れ、海辺へと戻る。

 アイツの横にそれら取ってきたものを置き、大きな木の陰に腰を下ろして姿を見えないようにした。

 それが俺に出来る、せめてもの罪滅ぼしだと思うから。

 もう、アイツは俺の姿なんて見たくもないだろう。

 抵抗出来無いのをいい事に、自分を組み敷いた男の顔など。

 無事船に戻る事が出来たら。

 俺は____________________船を降りるから。
 
 だからそれまでは、どうか側にいる事を許してほしい。

 そう思っていたその時。

 「・・・・・・・・・ゾロ?」

 アイツの、俺を呼ぶ声に、鼓動が跳ねた。

 「・・・・・・・・・ここに、いる。」

 一応小さく返事をすると、

 「そこに居たのかよ。・・・ったく、また迷子にでもなったんじゃねえかって思ったぜ。・・・ま、こんな小さな島

 じゃいくらお前でも迷子にはなりようもねえか。」

 そう言って笑った。

 いつもと同じような、態度。

 昨日の出来事なんて、何もなかったかのような_____________________

 「あ〜あ・・・・・ナミさん達、探してくれてるんだろうなぁ・・・・・ちゃんと見つけてくれればいいけどな〜。

 な?ゾロ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 自分が思っていたのと大きくかけ離れた言動に、正直戸惑った。

 昨日の事を覚えていないんだろうか?

 そう思ったが、行為の最中何度も俺の名をアイツは呼んだ。

 身体には痛みだって残っているはず。

 なのに・・・・・・・・・・・何故?

 答えは簡単。

 俺に抱かれた記憶なんて一刻も早く打ち消したいんだろう。

 だから、普段通りに俺に接する。

 それが今のアイツに出来る唯一の自己防衛なんだろう。

 そうせざるを得ない状況にまで追い込んだのは、俺だ。

 だが・・・・・・・・ならば何故あの時、死に物狂いで抵抗しなかったんだ、と。

 本気で俺を拒んでくれていたら、あるいは___________なんて、自分に何処までも都合良く思おうと

 する自分自身に反吐が出る。

 すると

 「・・・なぁ、この果物・・・・・・・・お前が見つけてきてくれたのか?」

 考え込んでいた俺にそう問い掛けてきた。

 「あ?・・・・・・・・ああ。」

 「そっか。・・・・・・・お前は?食ったのか?」

 その言葉に
 
 「・・・・・・・・・・ああ、食った。」

 咄嗟に嘘を付いた。

 本当は、この島に着いてから満足に水も飲んじゃいない。

 さっきぐるっとこの島を回った限りじゃ、俺が見つけてきた果物と僅かな水だけしか口に入るものはなかっ

 た。

 ならば、その全てをアイツにやるのは当然の事だと思ったから。

 「・・・・・・・・じゃあ食わせてもらうぞ。」
 
 「・・・・・・・ああ。」

 シャリッ、と音がしたと同時に大声で

 「うわっ、これすごく酸っぱいなぁ〜!な、ゾロ。」

 そんな事を言われ、つい
 
 「え?あ、ああ、それな。・・・・・酸っぱかったな。」

 話を合わせた。

 だが、何の返事も返って来ない。

 「・・・・・・・・・・・?」

 妙に思い、少し振り返ろうとすると、俺のすぐ真後ろに気配を感じた。

 「!?」
 
 そのまま俺の上に倒れ込むと、怒ったような悲しそうな表情で

 「・・・・・・・・・・んで、嘘つくんだよ・・・・・」

 そう呟く。

 「・・・・・・・・・・・・・・何、言って・・・・・・・・」

 「この果物・・・・・・・・物凄く甘いんだぜ?酸っぱいなんて、てめえこれ食ってねえんじゃねえか!!」

 俺を睨みつけ、吐き捨てるように言い放った。

 「あ・・・・・・・・・・・・・・」

 かまを掛けられていたなんて、思いも寄らなかった。

 そのまま項垂れたように俺の上に馬乗りになったまま、微動だにしない。

 「・・・・・・・・・・悪かった、その・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・そうやって、昨日の事も無かった事にしようと思ってんのかよ。」

 低く、怒気を含んだ声色。
 
 やはり・・・・・・・・昨日の事を忘れた訳じゃなかった。
 
 「・・・・・・・・お前になんて思われようと、全て・・・・・・・・俺の責任だ。・・・・・・・・すまなかった・・・・・」

 謝って許されるのなら、何度でも謝るが・・・・・・・そんなむしのいい話なんかじゃ決して無いってわかって

 いるから。

 今の俺にはでも、これしか出来ない。

 「・・・・・・・・じゃあ、やっぱり・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・?」

 声が震えている事に気付き、少し顔を上げるとそこには_____________今まで見た事の無い程悲痛

 な顔をした、コックの姿。

 「やっぱり、昨日のは・・・・・・・・・誰か、他の人の代わりだったんだな・・・・・・・」

 それだけ言うと、ぎゅっと目を閉じ、何かに耐えるように顔を歪めてしまう。

 誰かの代わり・・・・・・・・・?何を、言ってるんだ・・・・・・・・・?

 「お、い・・・・・・・代わりって・・・・・・・」

 「そうだよな、じゃなきゃあんな事・・・・・・・・てめえが俺に、するはずねぇもんな・・・・・・・・は、

 ははっ・・・・・」

 渇いた笑いとは裏腹に、今にも泣きだしそうな顔で必死に何かを耐えているような様子に、胸が詰ま

 った。

 今、コイツが言った事をよく考えろ、と頭の中を必死に整理する。

 俺が昨日、コイツを抱いたのは誰かの代わりだと思われている。

 なんでコイツはそんな誤解をしたんだ?
 
 考えれば考える程、自分に都合の良い解釈しか出てこない。

 だったら・・・・・・・残された道は、ただ一つ。

 例え自分の思っている結末とは違っていても。

 このまま誤解されたままでいるよりはずっとマシだから。

 「・・・・・代わりなんかじゃ、ねえ。」

 ずっと逸らしていた視線を、真っ直ぐ向けて。

 「お前には酷い事しちまったと思ってる。だが・・・・・我慢出来なかった。」

 俺の真意が、伝わるようにと。

 「・・・・・・・ずっと・・・・・・・・好きだった。お前が・・・・・・・・ずっと。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 黙ったまま、俺を見つめ・・・・・・・微かに動く、唇。

 「・・・・・・・・・う、そ・・・・・・・・・」

 「・・・・嘘じゃねえ。あんな事して信じてもらおうってのは勝手過ぎるとは思うが・・・・・ずっと、お前が欲し

 くて。・・・・抑えられなかった。」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 信じてもらえなくてもいい。

 ただ・・・・・・・・俺の気持ちだけは知っていて欲しかった。

 「・・・・・・・・本当に、すまなかった。・・・・・・・この事は出来れば忘れてくれ・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・忘れる、訳・・・・・・・ねえだろ。」
 
 返ってきた言葉に、少なからず落胆する。

 もっともな言い分だから。

 「・・・・・そう、だよな・・・・・・死ぬまで、俺を憎んでくれて構わねぇ。・・・・・それだけの事しちまったん

 だ、だから・・・・・」

 「違う!!」

 突然大声を出し、瞳からは大粒の涙を零して俺にしがみ付くように身を寄せられた。

 「な・・・・・・・・・」

 「わ、すれる・・・・訳、ねえだろ・・・・・・・?俺、だってずっと・・・・・・・ずっと、お前が・・・・お前の

 事、・・・・・・・・好き、だった・・・・・」

 小さく小さく、独り言のように吐き出された言葉。

 「・・・・・・・え・・・・・・・?」
 
 その意味を、咄嗟に理解できなかった。

 そんな事があるはずは無いと思いこんでいたから。

 だけど。

 「ゾロッ・・・・・・ずっと、お前が・・・・・・・・好きだったんだ。だから・・・昨日、お前にキスされて・・・・・

 最初は誰か、他の奴と間違えてるんじゃないか、って・・

 思って、抵抗しようと・・・・思ったけど、でも・・・・・ゾロに、触れて欲しかったから・・・・抱いて欲しかった

 から・・・・・だからっ・・・・・!」

 絞り出すような声でされる告白を、嘘だとはどうしても思えなかった。

 今、目の前で涙を流す、濡れた頬に。
 
 触れる事が、許されるのだろうか。

 震える手を、そっと伸ばす。

 躊躇いがちに優しく触れ、止まらない涙を静かに拭った。

 指先から感じる、暖かい温もり。

 そのままゆっくりと自分の胸に抱き寄せ。

 耳元で、囁く。

 ずっと自分自身に禁じてきた、一番言いたかった言葉を。











 「・・・・・・・・・・・・・サンジ・・・・・・・・・・・・」











 そのまま、深く口付け合う。

 もう二度とすれ違わないように。

 誤解など、しないように。

 奇跡にも似た、この状況を作ってくれた全てのものに感謝して。

 これからは。

 今まで言えなかった分を取り戻すぐらい、沢山。

 その名を呼び続けよう。

 それが、一瞬でも、お前に辛い想いをさせてしまった事への。

 俺なりの、最初の償い。





                                                 Fin


                                                     


<コメント>

藍月ひろ様のサイトの100000HIT記念のSSですvv
いや〜んvv ロロ視点の片想い→両想いvv
さすが、お師匠様vv 
名前を呼ぶv「・・・サンジ」この一言が言えなくて〜vv
あはんvロロノア好きだーっ!!
ロロノアは、相変わらず格好良くてvv
サンジも、格好可愛くてvv
本当に素敵な作品をありがとうございますvv
こんな素敵で格好可愛い二人が一杯の、素敵なひろ様のサイトは、
LINKからとべますvv

    
<treasure>