「暑い…」

オレの声を遮るかの如く、蝉の鳴き声が更にでかくなった気がした。














夏と、XXXと。














「暑い…」
「暑い暑いうるせェぞ」
後ろから声がしたが、オレは振り返らずにそのまま扇風機の風に当たったまま言う。
「近づくな、余計暑くなる」
只でさえこの部屋は風通しがよくないんだ。
ソコに大の大人二人が固まってみろ。
うげ。想像もしたくねェな。

オレがそんな事を考えていると、後ろから溜め息を付いた気配を感じた。

む。何だよ。

「…何か文句あっか」
「…ある」
「あんだよ」
「この暑さは誰のせいだよ」
「オレのせいだってか!!?」
立ち上がるまではせずに、勢い良く振り返るといつの間にやらあのクソマリモはゆったりとソファに身を沈め、パタパタとうちわを煽いでいる。
「…まぁ、おおむね?」
「おおむね?じゃねェ!!オレは断じて悪くない!」
その勢いのまま、ガバッと立ち上がる。


「悪いのはあのヤワなエアコンだ!!!!!」


勢い良く立ち上がったことにより、また体温が上昇してしまい。
オレはこの行動を深く後悔した。









今年はこのオレですらぐったりとしてしまう程の、猛暑だ。
朝方はまだましだが、昼間ともなれば気温は30度を裕に越え。
常にキッチンで火を扱うオレは常にサウナにいる気分になる。

それでも。

今の世の中。
便利な物で。

エアコンと言う物がある。

そのお陰で、何とか仕事をこなし。
外は猛暑だが、部屋の中は何とも涼しい空間となっていた。

そう。

あの日までは。









毎日毎日スイッチを入れっ放しで。
それはオレが盆休みだから家にずっと居たってのも関係あるんだが。
まぁ、ソレは置いておき。

常にクーラーを入れっ放しなオレを見兼ねた筋肉マニアなゾロが、注意をしてきた。

「エアコン入れっ放しは身体に毒だ。たまには換気とかしろよ」

これが、不幸の始まり。




ピッとゾロが電源を切れば。
オレがまた電源を入れる。
そしたらまたゾロが電源を切り。
…オレが入れる。

その切ったり付けたりの行為が原因だった様で。
どっちなんじゃー!ってなモンで、エアコンがイカれた。
スイッチを押せども、うんともすんとも言いやがらねェ。

直ぐに電気会社に電話したが、盆と言うこともあり。
修理に来るのは1週間も先との事。


その1週間まで後5日。


長い。長過ぎる。




ずっと使ってなかった扇風機を引っ張り出し、それで何とか暑さを凌ごうと思うのだが。
今までずっとエアコンで涼しく過ごして来た日々に比べると雲泥の差。
首振りを止め、ずっと当たってねェと涼しくなんてなんねェんでやんの。

しかもオレは火を使うだろ?

全く持って扇風機ちゃんは役立たずだ、ってこった。

世の中の皆さんはエアコンでゆったりと涼しく、緩やかな時間を過ごしてるってのに…!!
何だ、この部屋の暑さは!
何処も彼処も窓を全開にしているんだが。
今日は風もあんまり吹いていないのか全く意味なし。

ホント、嫌になっちまう。

ていうかさ。

「エアコン壊れたのはお前のせいでもあるんじゃねェの?」
「あ?」
再度扇風機の前に座り直す。
今度はゾロの方を向いて。
「お前が切れだの換気しろだのってスイッチを入れたり切ったりするから…」
「お前が俺の助言を素直に聞いてりゃこうならなかったんじゃねェ?」
「訳わかんねェ助言なんてするからだろ。てかありゃ助言なのか!?」
「立派な助言だろ。お前の健康を気ィ使って言ってやったのに」
「余計なお世話とも言うな」
「あ?」
「あんだよ」
二人の間にバチバチと見えない火花が散る。

まさに一色触発!と言った時。
遠くから何やら音が聞こえて来た。

いや?結構近いか?何だ、この音。

「…??何だ?」

ソレはゾロも感じている様で。
ゾロはソファから立ち上がるとベランダへと出た。
ノロノロとその後に続く。


『あ』


二人してベランダから下を見下ろせば。

「おーい!!!サンジー!ゾロー!!!一緒に花火しようぜェー!!」
「さっさと降りて来なさいよー!!」

この暑い中、元気に花火をしている数名の友人達の姿。
近所迷惑だなんてなんのその。
駐車場からこちらに届く程の大声で叫んでいる。

呆れて物が言えず、ふっと隣のゾロを見やれば。
ゾロがこちらを見て来たタイミングとバッチリ合い。


その偶然さと、友人達の無邪気な姿を思い出し。


オレ達は笑った。




「…行くか」
「そだな」














皆と花火をした。

何がそんなに面白いのか自分でも判らないまま、ずっと笑い続け。









気付いた時にはもう。









暑さの事なんて忘れてた。













『エアコンの付けっ放しは身体に毒だ』
『お前の健康を気ィ使ってやった』




暫くは、どうせエアコン使えねェだ。


お前の助言に、乗っかかってやるよ。









扇風機ちゃんとは、長い付き合いになりそうだ。


 


 


<コメント>

こちらは、睦月ハルカ様から頂きました暑中見舞いvv
とある日常のとても素敵なSSですよね☆
こんなに素敵な作品をどうもありがとうちょーvv
パラレルゾロサンの夏、たっぷりと堪能させていただきましたvv

こんな素敵な作品がたくさん楽しめるハルカ様のサイトは、
LINKから飛べますvv

<treasure>