switch 「もっ、イケよッ」 「まだだッ」 湿った空気は、濡れた声を何処までも甘くさせる。 「んでッ、テメェ、ッんなにイラついてッんダヨッ」 「テメェの所為だッ」 「ッぁあ?ッ」 「テメェの所為だッ」 響くのは、繋がった場処から生まれる淫らな音。 性急に出入りを繰り返せば、震える身体。 「ぁあッ」 「・・・ッ」 背から腕を廻し、肩をぐっと掴んで引き寄せる。 そうすれば、繋がりはより一層深くなる。 深くまで、突き上げる。 呑み込む熱は、果てしなく熱い。 「ぅアッ、んッ」 「もっとッ、声、出せよッ」 「ッ、変態かよッ」 「ダセッ」 意図して同じ箇所を突き上げる。 腰を打ち付ける度に肌と肌がぶつかり合い卑猥な色を生む。 抱え上げた左足に巻かれた白い布。 動くたびに、揺れる。 「ッ、ハァッ」 「ッ・・・」 唇を重ねる。 熱い舌に己のそれを絡める。 口付けの合間に零れる息が、甘い。 身体の間でそそり立つ男の象徴を腹で擦り上げる。 涙を零している其れは、震えながら弾ける瞬間を待っている。 「、ンジッ」 「ぁッ」 「サンジッ」 「ん、だよッ」 「もう、あんなこと、云うなッ」 「ぁッ?」 貫く身体で不自然に浮き立つ白い包帯。 蘇るのは、空の下で揺れる細身の身体。 目を見張る速さで脚が上がり、振り落とされる。 地を這う影と、それを見下ろす男。 雲の隙間から覗く光に、金糸が輝いていた。 不敵な笑みは、何処までも強い。 それでも。 「行け、クソ剣士」 「テメェが行けよ、クソコック」 「長ッパナの出血量を考えろよ、テメェ」 「んなこと解ってて云ってんだよ」 「なら、行け」 「ウソップなら、チョッパーが連れて行けっだろ!」 「阿呆剣士、やっぱり解ってねぇよ!」 「何がだよ!」 「ウソップ抱えた状態でチョッパーに闘わす気か?長ッパナくたばるぞ!」 「なら、テメェが行けよ!」 「何処まで莫迦だよ、テメェはッ!!」 「るせぇ、行け!」 「じゃあ聞くが、テメェ、船までひとりで辿り着く自信あんのかよ?」 「・・・ッ!」 「この状況じゃ、全員揃ったら即出航だぜ?テメェの迷子に付き合ってる暇は何処にもねぇ んだよ!」 「テメェ・・・」 「何回も云わすなクソ腹巻!行け!」 「ッ・・・、チョッパー、行くぞ!」 自由行動の果ての大乱闘。 上がる喚声は耳障り他ならなかった。 走っても、走っても、船に辿り着かない。 サンジの姿はもう確認できない程に走ったのに。 何処から湧き上がるのか解らないほどに飛び掛ってくる人間を、払い除ける。 辿り着いた船には、サンジ以外のクルーが揃う。 チョッパーはすぐさまウソップの治療に取り掛かる。 船までの行程で、なんとか喋ることは出来ていたから深刻なまでの重傷ではないだろう。 ナミの号令で、何時でも出航出来るよう準備を整える。 サンジは現れない。 捜しに行き、二次的に逸れては意味がないと、ナミは唇を噛み締めて云った。 奇妙なまでに静まる船上。 もしかしたら、時間的にはそんなに進んでいないのかも知れない。 けれど、待つ時間は何時間にも感じられてしょうがない。 吹き抜ける風が、身を切るように冷たく感じる。 逸る心とは裏腹に、暢気な声が響いた。 「おっ待たせしました!ナミさんッ!!」 船上の空気が、嘘のように沸き立つ。 「遅いッ!」 人差し指をサンジに向けて言い放つナミの表情も、何処かほっとした様子だ。 慌しくも、船を出す。 帆が大きく風を受ける。 暫くすれば、静かな海が広がった。 「おい」 「んあ?」 夕食は、普段通りに済んだ。 それがあまりにも変わりなく済んだことが、この船の良い処と云えばそれまでか。 ラウンジで、当然のように働く背に、声を掛ける。 「んだよ?」 振り返らない、蒼い眸。 全てを閉ざしてしまうような、冷たい背だとゾロは想った。 サンジを何度抱いても、彼は本質を見せようとしなかった。 けれど、裏腹に彼の身体は熱くゾロを受け入れる。 蒼い眸を此方に向けたくて、肩に手を掛けて視線を合わせる。 「なに?」 どうしてこんなにも拒絶されるような感覚を受けるのだろう。 この男の眸に映りたい。 ゾロは知らず、サンジの唇に口付けていた。 冷たい唇。 本音を見せない唇。 腹が立つ。 深く口内を占領して、舌を絡めとる。 熱い舌は、応じるように動く。 唇を離し、間近の眸を見据える。 「生きてたんだから、良いだろ?」 濡れた唇が、云った。 「テメェには、迷惑掛けてネェし?もとより、オレが死のうが何だろうが」 蒼い眸が静かに言い放つ。 「テメェには、関係ねぇしな」 一気に血液が冷えて、それから急激に熱くなった。 気付いたら、サンジの頬に拳を押し当てていた。 派手な音を立てて、サンジが倒れ込む。 馬乗りにその身体を封じ込める。 「・・・ざけんな」 搾り出した声は、重く空気に落ちた。 睨み返す鋭い蒼に、真っ直ぐ視線を返す。 唇を塞ぐ。 唇の端から、鉄の味がした。 それを舐めとり、きつく閉ざした歯列を舌でなぞり、無理矢理口内に舌を入れる。 噛み付かれるかもしれないと想ったが、そんな隙を与えぬよう深く舌を突き入れる。 シャツを半ば引き千切るようにして肌を露にする。 胸の飾りに手を遣って、摘み上げるようにして揉み扱く。 抗おうとする身体は、自らの体の下に閉じ込めて自由を奪う。 唇を解放すれば、罵倒が飛ぶだろうと覚悟して唇を離す。 荒い息を整えて、サンジは静かに云った。 「んで、テメェが怒ってんだよ」 「テメェ自身に聞いてみろよ」 ベルトに手をかけて、ジッパーを下ろし、一気にサンジを露にする。 脚の包帯に目を遣って少しだけ眉間に皺を寄せ、ゾロはサンジ自身を握り込む。 性急とも取れるいきなりの刺激に、サンジは息を潜めた。 何時もの様に、サンジが慣れるまで待たなかった。 捻り込むように、ゾロはサンジの中に入った。 引き千切られるように狭くて、どうしようもなく熱い中へ。 「ッオレが、なに云ったッつうんだよッ」 「・・・けぇねぇって」 「ぁッ、あ?」 「オレは、テメェにとってッ、カンケイねぇのかよッ」 蒼い眸が、揺らいだ。 何度も何度も、出入りして揺さぶる。 吐き出す息も、声も、快楽に掠れる。 サンジが高く鳴く箇所を掠めるように突く。 激しく、突き上げる。 身体の間で、サンジが弾けた。 それに応じるようにゾロが埋め込まれている其処が締まる。 熱い液を、ゾロはサンジの中に注ぐ。 ポタリ、と首筋を通った汗がサンジの身体に落ちる。 生理的に流れた涙を舌で掬い上げる。 長い睫毛の先にまで、官能が満ちていた。 蒼い眸が薄く開く。 呼吸が整うのを待つ。 吐き出される甘い息に、熱が再度上がることを感じる。 「サンジ・・・」 「セックスの時だけ名前を呼ぶ男に、何を晒せって云うんだ」 始めて見せる、寂しい色。 「名前すら、オレは呼んで欲しくねぇんだよ」 「・・・サンジ」 額に貼りついた髪を、静かに掻きあげてやる。 身体は繋げても、心を繋げることをしていなかった。 一番、大切で、肝心なことを忘れていた。 「性欲処理なんだから、本当ならキスもいらネェんだ」 「違う」 「何にも残らねぇセックスなんだから、気持ちを見せる理由はねぇんだ」 「違う!」 「違わねぇよ!」 悲痛な声だ。 こんな風に思わせていたことに、今更ながら気付く。 蒼い眸に浮かぶ涙は、生理的なものではなく、彼の心が流させている涙。 「サンジ」 「呼ぶな」 「サンジ」 「やめろよッ!」 「サンジ!!」 「・・・ッ」 唇が触れ合うほどに顔を寄せて、眸を合わせる。 「オマエは、オレにとって『関係ない』なんて言葉で片付けられる人間じゃねぇ」 どうすれば、伝わるだろうか。 どうすれば、彼の心を掴めるだろうか。 こんなにも、欲したのは初めてだ。 身体だけではない、心を。 全てを、欲するのは、最初で最後。 これは、確信。 「オレは、サンジ。オマエが、好きだ」 見開く眸に浮かぶ戸惑い。 信じられないと、見返す蒼に何度でも云おうと決めた。 どうして、サンジを抱くのか。 どうして、こんなにも求めるのか。 其処に存在する確かな気持ちを、何度でも伝えようと。 「だから、もう、『関係ねぇ』なんて、云うな」 身を切られるよりも鋭く心を切る言葉を、絶対に、云うな。 言葉にして伝えなければ、解らないことがあると知った。 体温は知っていても、心の温度を知らなかった。 見せようとしない自分に、見せる筈もないと思い知る。 ひとり、勝手に思い込ませていた。 気持ちも何もない身体をただ繋げるだけの虚しい行為だと。 「好きだ」 ゆっくりと、口付ける。 震える唇に、思いを込めて、触れる。 頬を伝う涙を、静かに拭ってやる。 「・・・ゾロ」 酷く、優しい声は、震えている。 確かな温もりが、此処にある。 身体だけではなく、中身の、温かさ。 「好きだぜ」 拡がる熱を、身体で実感する。 首に廻る腕が、静かに背を撫でる。 間近の眸に、本当の意味で自分が映ったことを確認する。 サンジの中に埋め込んだままの自身は、知らず強大な熱を持つ。 それをサンジは、意図して締め上げる。 眉根を上げて、抗議すれば不敵に吊り上る唇。 ゾロは、サンジの鼻先に小さく唇を落として、云った。 「出来れば、最初から遣り直してぇが、それは無理だ」 身体の間のサンジ自身を緩く手で包む。 「でもな、今日からは違うぜ?」 「ッ、なにがッ?」 存在を主張し始めたサンジを、扱く。 「心と、身体と、全部でセックスするんだからな。感じ方も違うだろうぜ?」 「ッ、てめ、やっぱエロオヤジだろッ」 「んなこと云ってらんねぇぜ?」 「ァッ」 ずるり、と自身を抜け切るほどに抜き出して、サンジの耳元で囁く。 「オマエだけだ、こんなにオレを熱くさせんのは」 「ったりめぇだろ」 「オマエだけだ」 「当然。ッ、絶倫エロ腹巻を満足させてやれんのは、オレくらいなもんだッ」 キスをして、笑った。 それから「動くぞ」と告げ、ゾロは腰を進める。 更なる熱を感じる為に。 感じ合う為に。 心が繋がっての行為は、それまでとは違う甘さを持つ。 触れる唇も、肌も、吐息も。 全てが熱く、甘い。 幾度吐き出しても、収まらない熱は、何処までも続く。 何処までも。 気だるさの中で、ゆっくりと重い瞼を開ける。 ふたつの腕に抱いた、確かな存在。 静かに、指先を白い頬に滑らせる。 「ん」 小さく身動ぎして、蒼い眸が覗く。 ラウンジの小窓から薄い光が入る。 こんなに早くに目覚めることなど、日頃からは考えられない。 今日は、今日からは、何かが違うのかもしれない。 悪くない、そう想う。 そんな時。 不意に、本当に不意に想い出した。 「あ・・・」 それは、知らず声に現れる。 ゾロの様子に、サンジは「何だ?」と問う。 「いや・・・」 少しばかり決まり悪そうにゾロは頭をがしがしと掻く。 蒼の眸は、答えを待っている。 「そういえば、オレ、誕生日だったな・・・と」 「は?」 「いや。昨日の話だけどよ・・・」 「はぁ?!」 「だから、昨日、誕生日ってやつだったっていうだけの・・・」 「莫迦かッ?!」 「あぁ?」 想いを伝え合っても、この日常喧嘩は変わらないな、などとゾロは小さく苦笑する。 サンジは慌てたように、床に散らばる衣服を探る。 「がっ、テメェがシャツ引き千切るから、これ台無しじゃねえかよッ!」 気に入ってたのに!・・・遠慮なく罵声を上げながら身支度を整える。 「テメェ、早く服着ろよ!オレはこれから忙しいからさっさと出てけ!」 「あぁ?なんで」 怪訝に答えれば、盛大な溜息と共に、頭に脚が落ちてきた。 「ハゲマリモ!」 一気に捲くし立てられる。 「昨日が誕生日だったんだろ?何もしてねえじゃん!」 「信じらんねぇ!バッカじゃねえの?マジでボケ腹巻だよ、テメェはッ!!」 「一回そのマリモ割って中調べた方が良いんじゃねぇか?」 「エロい知識だけは人並み以上に備えやがって!」 「肝心な処が成長してねぇ!ガキマリモ!」 キレても良いのだろうか?・・・此れはキレてもオレの所為ではないだろう、とゾロは想う。 「まぁ、でも・・・」 サンジの表情がそれまでと一変して、穏やかになった。 「一日遅れでもなんでも、祝おうぜ?」 唇が、触れた。 「ゾロが、生まれた日をな」 再度、その唇を味わおうと手を伸ばしたが、既にサンジはシンクへと向かっていた。 鼻歌さえ唄うその背は、昨晩までの冷たい背中ではない。 間違えて始めた関係は、言葉を持って新しく始まる。 それまでを忘れるのではなく、此れからを生きるために。 賑やかな船上に、笑い声が響き渡る。 灯った想いは、確かに互いの胸の中に。 風が優しく、頬を撫でた。 <fin> |
<コメント> 皐月三日ちゃまのサイトのゾロ誕部屋から、拉致って来た素敵SSvv 他にも色々とあったんだけど、悩みに悩んだ挙げ句、これを頂きましたvv すれ違う心→ハッピーエンドが、まさにルナのツボ!! こんな素敵な三日ちゃまのサイトは、こちらですvv <treasure> <index> |