Birthday Star ★★★ |
「なあなあ、ゾロ今日の夜って何してる?」 「部活」 そっけない答えを返す相手に、サンジは内心肩を落としながらも、その感情は押し隠してきょとんと首を傾げた。 「部活って……」 くわっと牙を剥いて怒鳴るゾロに、だがサンジは怯む様子もない。 「なんだよ、せっかくの誕生日当夜なのに、ガキどものお相手かよ」 不貞腐れたようなサンジの額を、ピンと人差し指で弾く。 「テメエもおんなじガキだろうが」 赤くなった額を両手で押さえながら、おとなびた笑顔を見せるゾロに、ぼんやりと見惚れる。 たとえ、片思いのまま、終わるのだとしても。 「何、ぼうっとしてんだ?」 見惚れていたことを見透かされたようで、面白くなくて慌てて取り繕う。 「で?今日がどうしたって?」 訊き返されるとは予想していなかったサンジは、一瞬何を言われているのか理解できずに頭を捻り、それからゾロの言わんとしている意図を察して、顔を赤くした。 「どうって……!か、彼女もいねえ可哀想な幼馴染の誕生日を、祝ってやろうかなって思っただけじゃんっ!」 幼馴染の特権で、入り浸ることを許されている理科準備室の、それまで占拠していた机をひらりと飛び越えて、サンジはゾロの眼前に立ちはだかると白衣の襟を、ぐいっと掴みあげた。 「あ、悪い。だったらその、俺に教えてくれてもいいじゃん……」 決まり悪そうに自分の気持ちを誤魔化したサンジに、ゾロが事の真相を打ち明ける。 「そか。じゃ、俺が気遣う必要もねえな…――その、楽しめよ」 そう言い残して出て行こうとしたサンジの二の腕を、ゾロは咄嗟に掴んでいた。 「何?」 ゾロからの唐突な誘いに、サンジは瞠目する。 「なんで?俺、部員じゃねえよ?」 心底楽しそうに星のことを語るゾロを見て、サンジの胸がツキリと痛む。 「そうか。それもいいな。じゃあ、何か差し入れ持って行くよ」 軽く頷いて今度こそサンジは理科準備室を後にした。 何だってするよ、ゾロ。
ゾロとサンジは、家が隣同士の幼馴染である。 その日も、サンジはゾロの家に預けられていた。 特に剣道の分野では当時、大学1年生にして全国大会を制覇するほどの実力で、警視庁など強豪揃いの剣道部から、誘いの声が後を断たないほどだった。 その憧れのゾロの将来を決定的にしたのが、その夜の出来事だった。 学問の方では理数系に秀で、ことに天文学に興味を示していたゾロはことあるごとにベランダにアルバイトで金を溜めて買った天体望遠鏡を出して、星を眺めていた。 そして、その日の夜も、学校で披露した知識が、如何に同級生たちの尊敬の眼差しを集めたかという自慢話を、ベランダの柵に腰掛けながらサンジはとうとうとゾロに聞かせていた。 「おい、聞いてんのかよ、ゾロ」 そう言っておどけて両手を放した瞬間。 「サンジッ!!!」 サンジは2階のベランダから落下した。 「……ん……ゾロ?」 サンジの叫びで何事かと飛び出してきた家人によって、ゾロは救急車で運ばれた。
それからゾロは、教員免許を取り、高校の地学教師となった。 けれど。
温かい味噌汁とおにぎりと、簡単に摘めるものばかりを詰めた弁当を大量に作って。 サンジが行くと、既に部員たちは全員揃っており、天体望遠鏡の倍率を合わせたり、満天の空を見上げて星のことをいろいろ論じ合ったりと忙しない。 「あ、サンジくん!」 地学部部長のナミが、目敏くサンジを見つける。 「差し入れ持ってきてくれたんだって?」 サンジが差し出した弁当と、保温の効く水筒ふたつを、ナミは眼を輝かせて受け取って、それからサンジの心中を見透かしたように、ニッと笑った。 「先生なら、給水塔の向こう側よ。早くいってあげたら?」 少し困惑したようなサンジに、ナミは綺麗に笑んで見せた。 「こ――んな綺麗な星の下なら、少しは素直になれるんじゃない?お互いに」 くるりと身を翻して給水塔の方へ駆け出したサンジの背中を見送り、ナミはふっと呆れにも似た嘆息を漏らす。 「あんなに綺麗な星が眼の前にあったんじゃ、夜空の星も霞むわよねえ?」
星を見上げている後ろ姿に、そっと忍び寄る。 「あの学校にはビクセン(※望遠鏡メーカー)のいい天体望遠鏡があるんだ」 ゾロが家に帰るといつも腹巻をしていることを揶揄ったサンジに、ゾロは結局、新星を発見したいという話をそこで打ち切ってしまったのだが。 そんなことを思い出しながら近づいて行くと、気配を察したのか。 「ああ、来たか」 それきりしばらく、会話が途切れる。 「あのさ…――」 しかし、何を言えばいいのか、咄嗟に思いつかない。 「あ、昔さ、おまえ、新星を発見したいって言ってたじゃん?」 突然何故そんな古い話を…――と、言わんばかりの訝しそうな視線。 「新星って名前、自分でつけられるんだろ。何てつけるつもりだったんだ?」 そううまく行くかよ…――と呟くゾロに、サンジは答えを促す。 「――……るー…」 そういえば。 「オールブルーってつけるんだ!」 そんな風に、ゾロに言っていた。 「おまえが、あの事故を気にして、星に興味を持たなくなっちまったから…――だったらかわりに俺が、発見してやろうって思ったんだよ」 ゾロの台詞が信じられなくて、サンジは眼を見張り、かぶりを懸命に振る。 「なんで?なんでだよ?あの事故で、ゾロの将来をめちゃくちゃにしたのは俺じゃん?なのになんでゾロが、俺の為に何かしなくちゃならねえんだよ?俺だろ?おまえの為に何だってするのは俺の方だろ?」 当惑するサンジの肩を掴んで、ゾロが正面から向き直った。 「最初っから俺は、剣道で飯を食っていくつもりはなくて。こっちの道に進むつもりだったんだ。それをおまえに教えないで、おまえの罪悪感を利用して…――俺に縛りつけていただけなんだ……悪かった」 謝罪して下げられたゾロの頭を、サンジの手がゆるゆると撫で。 「そんなことしなくたって…――俺はテメエから離れねえよ」 ゾロがサンジの腕を抜け、顔をあげると、微笑むその顔と遭遇した。 「サンジ……」 「先生――ッ!!!新星発見かも――ッ!!!」 どんぴしゃりのタイミングで飛んできたナミによってゾロとサンジは、慌てて離れる。
「結局、新星発見ならずか――」 やはりそうそううまい話にはならないもので。 「まあ、そう簡単にはいかねえな」 学校から歩いて帰れる距離の家は隣同士なので、同じ帰路を辿る。 「……サンジ」 「す」の続きばかりを考えていたので、思わず可笑しな悲鳴が漏れた。 「なんだよ?」 と、訊ねる。 「――…さっきの話だけど」 思い当たることはひとつしかない。 「新星は発見できなかったけど」 ホッとしたような。 「すぐ傍にある星が、手に入るならいい」 途惑ったままのサンジの唇に、温かいものが押し当てられすぐ離れた。 「え、え――っと……」 それがゾロの唇だったと思い至り。 「じゃあ、プレゼントは俺ってことで」 ひとしきり笑い合って、それから抱き合った産まれたばかりの恋人たちを。
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<コメント> こちらは、【MEGALO MANIAC】様のゾロ誕部屋から、拉致って来ましたvv うさこ様&ななせ様の合作小説vv 甘甘学園モノなのだ! うふふ、いいでしょう?? ・・・・もう、megaloさんとこのSSって、どれも素敵で、 全部欲しくなったんだけど・・・・・ここは、甘党のルナらしく、これを頂きましたvv ・・・・・でも・・・・また、拉致りに行くかも。(笑) 本当に、見て損はない、うさこ様&ななせ様の素敵小説と、素敵なイラスト・コミックが、 一杯のサイトは、こちらから、行って下さいvv <treasure> <index> |