「んあ?」
いつものように。
ナミに給仕をし。
ウソップに修理を頼み。
つまみ食いするルフィを撃退していたサンジの元に、殺気を漂わせたゾロが来た。
「どうした、クソ剣豪。飯ならまだだぞ」
「うるせえってんだよ、このアホコック」
「あんだと、こらぁ」
「お前の声がうるさくて、眠れねえっつってんだよっ!!!」
「人が働いてるってのに、随分な言い草だなぁ?あぁ?」
一触即発な雰囲気の2人に、女王の鉄槌が下される。『ゴンっ!!!』
「っ〜〜〜!!!」
「ナっ、ナミさ〜ん・・・」
「喧嘩なら他所でやってくれる?お茶が不味くなっちゃう」
足元に蹲る男2人を、ナミは『ふんっ』と見下ろす。
「怒ったナミさんも素敵だぁ〜vvv」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・魔女め」
独り言のような呟きは、フェミニストのサンジの耳にはばっちり届いていた。
「このあほ腹巻・・・。ナミさんが魔女だと?ざけんなよっ!!」
「魔女を魔女っつって何が悪」
『ずがんっ!!!』
再び下された拳に、ゾロは今度こそ沈んだ。
「サンジくん。ゾロの相手はもういいから、なにか軽いもの貰える?」
「はいっ、ただいまv」
煙草の煙をハートにしながら、サンジは意気揚々とキッチンへと向かった。
その背中を見送った後、ナミはぶすったれたゾロに視線を移す。
「まったく・・・。いい加減、仲良くしたら?サンジくんが仲間になってから、もう1ヶ月よ?」
「・・・・・・」
「だいたい、煩いのはルフィの方だと思うけど?」
「・・・・・・・・・あいつの声が、耳につくんだよ」
「サンジくんの声が・・・・・・?」
「はぁぁぁぁぁ〜・・・」
キッチンでお茶受けのクッキーを用意しながら、サンジは大きな溜め息をつく。
「・・・・・・またゾロ怒らせちまった・・・・・・・・・」
この船に乗ってから、もう1ヶ月経とうというのに。
いつまで経っても、ゾロとは喧嘩ばかり。
「喧嘩なんて・・・・・・・・・、したくねぇのに・・・」
あの海上レストランで、初めて逢った時から。
気付けば惹かれていた。
自分は男で。ゾロも男で。
ゾロとは仲間なんだから、こんな想いばれちゃいけない。
でも、ゾロに意識して欲しいと想うのも本音で。
普段から声を大きく出してしまうのも、そのせい。
「でも・・・・・・、それがゾロを怒らせてるんだもんなぁ・・・・・・・・・」
なんとかゾロに意識はして貰ってるものの、いつも怒らせてしまっている。
自分に向けられるのは、いつも眉間に皺を寄せた怖い顔ばかり。
「っ・・・」
じんわり熱くなってきた瞳を、サンジは慌てて拭う。
「はふぅ・・・」
今日何度目かわらかない溜め息をつくと、サンジはクッキーを持って外に出た。
(ゾロ・・・・・・、まだ起きてるかな・・・?)
ちょっとの期待を胸に、ナミの待つ船尾へ向かう。
そして期待通り、ゾロはまだナミと話をしていた。
(へへっ♪)
緩みそうになる頬を抑えながら。
「ナミさ」
「・・・・・・・・・あいつの声が、耳につくんだよ」
「サンジくんの声が・・・・・・?」
耳に届いた、2人の会話。
どうやら自分の事を話しているらしく、サンジは声をかけるタイミングを失う。
「あいつがルフィやらウソップやらお前やらに話し掛ける声が、うざってぇくらい耳につく」
「っ・・・・・・!」
本当に嫌そうなゾロの声に、サンジの胸がぐっと詰まる。
「全然昼寝も出来ねえし・・・・・・、正直迷惑だ」
「っ・・・!!!」
それ以上、ゾロの言葉を聴けなくて。
サンジはクッキーを渡す事も忘れて、キッチンへと戻っていった。
それを横目で窺っていたナミは、じろりとゾロを睨みつける。
「・・・・・んだ?」
「まったく・・・。鈍いのもここまでくると国宝級ね」
「はあ?」
ナミがなにを言っているのか、ゾロにはわからなかったけど。
馬鹿にされた事だけはきちんと伝わってきて、顔を顰める。
だけど魔獣の威嚇も、無敵の女王には効き目はなく。
ナミはデッキチェアから立ち上がると、ゾロを一瞥して。
「よく考えてみるのね。サンジくんの声が、耳につく理由を」
「おい、お前なに言って・・・・・・」
ゾロが呼び止める前に、ナミは足音高くキッチンへと言ってしまった。
残されたゾロは。
「んだよ・・・。訳わかんねぇ・・・・・・」
1人、頭を抱えていた。
「っ・・・、う・・・・・・」
キッチンの隅っこで。
サンジは小さく蹲ったまま、声を殺して泣いていた。
『うざってぇくらい』
『正直迷惑だ』
耳の奥で、ゾロの言葉が何度も反芻する。
(俺っ・・・・・・、本気でゾロに嫌われてたんだっ・・・!)
ひょっとしたら嫌われてないんじゃないか、と。
心の何処かで想っていた。
だけどそれは只の思い込みで。
現実は違っていた。
「うっ、うぇぇ〜・・・・・・・・・」
「サンジくん・・・?いいかしら?」
キッチンの扉がゆっくりと開く。
そこでナミは、蹲って泣いているサンジを見つけた。
驚かせないようにそっと近づいて、震える身体に触れる。
「っ・・・!?」
「大丈夫?」
「ナっ、ナミさっ・・・!!」
びっくりして顔を上げたサンジを見て、ナミは痛そうな顔をした。
すっかり濡れた頬。
真っ赤に潤んだ蒼い瞳。
ナミはハンカチを取り出すと、優しくサンジの頬を拭っていく。
「サンジくん・・・・・・、本当にゾロが好きなのね・・・」
「なっ、なんで・・・ナミさんっ・・・」
「気付いてないとでも想った?」
一際観察眼の鋭いナミが気付かないはずはなかった。
口では悪態を付きながらも、一途にゾロを見つめるサンジに。
「勿体ないなぁ。サンジくんならきっと、もっと優しい人が現れると想うけど」
「ナミさん・・・・・・、俺っ・・・」
「私はなんとも想わないわよ?人を好きになるのに、性別なんて関係ないわ」
そう言って笑ってくれるナミに、サンジの涙は止まらなくなる。
「うぅっ、うえ〜ん・・・・・・」
子供みたいに泣きじゃくるサンジの頭を、ナミは優しく撫で続ける。
その優しくてあったかい感触に、サンジはしばらく泣いていた。
そしてようやく涙が止まった頃。
「ごめんね、ナミさん・・・。みっともないトコ見せちゃって・・・・・・」
「ううん、全然そんな事ない」
「俺・・・・・・、大人しくなりますね・・・」
「サンジくん?」
「これ以上・・・・・・、ゾロに嫌われたくないから・・・」
そう言いながら微笑むサンジは、何処か痛々しくて。
見てるナミが辛くなるくらい。
「ナミさん・・・。そんな顔しないで?」
「だって・・・!」
「俺だったら平気ですから・・・・・・ね?」
どこまでも優しいサンジは、全然平気には見えなかったけど。
ナミはそれ以上、何も言えなかった。
「わかったわ・・・。サンジくんがそう言うなら・・・・・・」
「ありがとう、ナミさん」
「でも、ね?どうしても我慢出来なくなったら・・・・・・、頼ってね?」
自分も恋をしているから。
一途なサンジの想いは、誰よりもわかるつもり。
だから。
「約束よ?」
「ありがとう・・・・・・、ナミさん」
「サンジ――――――っ!!!肉――――――――――――っ!!!」
「うぉーい、サンジー。ここ、これでいいのかー?」
「サンジくん、飲み物貰える?」
「・・・・・・・・・?」
翌日。
ゾロが異変に気付いたのは、昼近くになってから。
さっきから、ルフィやウソップやナミの声は聴こえてくるのに。
いつもなら1番聴こえるはずの、サンジの声が聴こえてこない。
それを不思議に想いつつも。
「久々にゆっくり眠れそうだな♪」
お決まりの船尾の低位置で、ゾロは上機嫌に寝転がる。
瞳を閉じると、肌に感じる潮風と日差し。
ぽかぽかと心地いい陽気に、いつもならすぐ睡魔が訪れるはずなのに。
「サーンージ〜〜〜、腹減ったよぅ〜〜〜・・・」
「サンジ、悪いっ。釘取ってくれ」
「ありがとう、サンジくん」
「・・・・・・・・・・・・」
サンジの声が聴こえない。
それが何故だか酷く気になって、だんだん苛ついてきて。
睡魔が訪れるどころか、頭はどんどん冴えていく。
(なんだってんだ・・・?)
昨日自分は、ナミに言ったはずだ。
『うざい』、『迷惑だ』と。
それなのに。
無意識にサンジの声を探している自分。
「あーくそっ!!!」
「あらら〜?ご機嫌斜めねぇ?」
不意に聴こえてきた、ナミの楽しそうな声。
「・・・・・・」
「なにをそんなに苛ついてるのかしらぁ?」
「てめえには関係ねえ」
「サンジくんの事が気になるんでしょう?」
「・・・」
無言は肯定で。
「サンジくん、昨日は可哀想だったわぁ」
「あぁ?」
「私とあんたの話、聴いてたみたいでね。あんたに嫌われてると思い込んじゃってるみたい」
「別に俺は・・・・・・、嫌ってる訳じゃねぇ」
それは本音。
サンジは口も悪いし足癖も悪いし女癖も悪いけれど。
その戦闘能力や仕事に対する責任感、野望への情熱は認めている。
だからこそ、背中を預けて闘えた。
「あんたさぁ、どうしてそれを本人に言ってあげないの?」
「いちいち言う必要はねえだろうが」
「言わなきゃ伝わらない事だってあるのよ?」
「あーうるせえっ!俺は寝るんだよっ!!!」
訳のわからない感情に流されそうになって、ゾロは不貞寝を決め込んだ。
ナミに背中を向けて、ごろんと寝転がる。
その背中を見つめながら、ナミは小さく笑う。
「ま、せいぜい頑張んなさいな♪」
「なにをだよっ」
「す〜ぐわかるわよ」
ナミは楽しそうに笑うと、その場から立ち去った。
くすくすと、小さな笑い声が聴こえてくる。
「ちっ・・・!」
なんだというのだろう、この感情は。
ルフィ達がいくら騒いでいても、全く気にならない。
ただ。
あの声が聴こえないだけで、こんなにも苛つく自分。
(なんなんだよっ・・・!うざいって・・・・・・、そう想ってたはずだろ・・・!?)
昨日はそう想っていたはずなのに。
「・・・・・・・・・・・・くそっ!!」
ゾロは意を決すると、がばっと起き上がり甲板に向かう。
そこには洗濯物を干しているサンジがいた。
「っ・・・!!」
ゾロの姿を目にした途端、サンジは身体をびくっとさせて。
慌てて洗濯籠を持つと、そそくさとキッチンに入ろうとする。
だけどその前に、ゾロに腕を掴まれた。
「痛っ・・・!」
馬鹿力で強く掴まれて、サンジの口からは無意識に声が漏れた。
「おい」
「っ・・・んだよっ」
今日は朝からずっと、声を張り上げていない。
ルフィの空腹にも脚だけで対応して。
ウソップにも小さな声で答えて。
ナミにも笑顔を向けるだけで。
ゾロの睡眠は邪魔してないはずなのに、目の前のゾロは何故か怒ったような顔。
(お、俺・・・・・・、知らない間に大きい声出したのかっ・・・?)
そんな不安が頭をよぎった、その時だった。
「しゃべろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「だから、しゃべろって言ってる」
「・・・・・・なに言ってんだよっ!俺の声がうざいって言ってただろうがっ!!」
「そうだけどっ!!聴こえねえと余計に苛々すんだよっ!!!だからしゃべろ!」
なんて理不尽な命令だろう。
うざいと言ったり、しゃべれと言ったり。
沸々と怒りが湧いてくる。
けれどゾロを嫌いになれない自分が馬鹿みたいで。
気付いたら、サンジの瞳からは涙が溢れていた。
「うおっ!?」
「もっ、なんなんだよっ・・・!うざいって言ったくせに・・・!」
ゾロが迷惑だって言ったから。
これ以上、嫌われたくないから。
怒鳴りたくなっても我慢して、ゾロに迷惑がかからないようにしたのに。
それなのに、黙っていても苛々するだなんて。
「そんなにっ、俺の事が嫌いかよっ・・・!!」
ぽろぽろと涙を流すサンジを見て。
ゾロは一瞬で理解した。
自分がいつの間にか。
恋に落ちていた事に。
(そっか・・・。ナミが言ってたのは・・・・・・、この事だったのか)
サンジの声が、うざかったんじゃなく。
他の連中と話すサンジの声が、うざかったのだと。
それは純粋な―――――――――嫉妬。
一向に泣き止まないサンジの頬を、そっと両手で包んだら。
「・・・・・・?」
濡れた瞳が、きょとんと自分を見上げてきた。
(うおっ・・・!!これはっ・・・!!!)
幼さの滲むその表情は、とても可愛くて。
ゾロは酷く興奮する自分を感じた。
「なあ、キスしていいか?」
「へ・・・?」
「てかするぞ。いいな」
頬を包まれたまま、ゾロの唇が近づいてきて。
「わ―――――――――――――――っ!!!」
唇が触れる寸前、サンジは思い切りゾロの顎を押しのける。
「なにしやがる」
「そっ、それはこっちの台詞だ――――――っ!!!」
「なにが」
「どこをどうしたら、そんな話になるんだよっ!!!」
いきなりキスしたい、だなんて。
サンジは頬が熱くなるのを感じた。
「したいからしたいっつったんだ」
「馬鹿かっ!!きっ・・・、嫌いなヤツ相手に盛ってんじゃねえっ!!!」
「ああ、言い忘れてた。俺、お前が好きだ」
「えっ・・・?」
「昨日の『うざい』ってのも、只の嫉妬だ」
これは幻聴だろうか?
目の前のゾロは、いつもと変わらない口調で。
とても甘い事を言っているような気がする。
「おいっ、聴いてんのか?」
「聴いて、るけど・・・」
「じゃあするぞ」
「まっ、待てってば・・・!!」
ぐいっとゾロを押し返して、サンジは距離を取る。
「んだよ」
「お前・・・・・・、俺が好きなのか?」
「そう言ってる」
「本当に?」
「俺は冗談でこんな事は言わねえ」
「うえっ・・・」
サンジの瞳からまた、涙が溢れ出した。
「おいっ、なんで泣く!?」
「だってっ・・・、俺っ、ずっと嫌われてるってっ・・・」
「嫌ってなんかねえよ・・・。むしろ逆だ」
「俺っ、俺もっ・・・好きっ・・・!ずっと好きだった・・・・・・!」
涙でぐしゃぐしゃの顔で告白すると、サンジはゾロに抱きついた。
飛び込んできた華奢な身体を、ゾロはそっと抱きしめる。
「ごめんな?俺鈍いからよ・・・・・・、傷つけちまったな」
「っ・・・!!!」
今のしあわせに比べれば、昨日の痛みなんてもう何処かへ行ってしまった。
今、こうして。
ゾロに抱きしめてもらってるだけで、しあわせ。
「ゾロっ・・・、ゾロっ・・・!」
「好きだ」
濡れた頬を優しく拭って、その小さな唇にキスをした。
「・・・・・・・・・・・・ねぇ、ウソップ」
「・・・・・・・・・なんだ?」
「あいつらに教えてあげてくれない?あそこは見晴らしのいい甲板だって事」
「悪いが俺は命が惜しいよ・・・・・・」
太陽が真上にある甲板で、繰り広げられるラブシーンに。
ナミとウソップが、力のない会話をする。
「まったく・・・。やっと気付いたんだから」
「ゾロ、恋愛に関しては鈍そうだからなぁ」
「あっ!!ゾロとサンジ、仲良くなったのか!!ナミっ!俺達もちゅーしよっか?」
「ばっ・・・!!!」
「・・・・・・・・・・・・俺、邪魔みたいだし・・・。部屋に戻るな」
「ん・・・」
繰り返される小さなキスに、サンジはうっとりして。
その表情は、正にゾロの下半身を直撃。
ゾロはひょいっとサンジを担ぎ上げると、ずんずんキッチンに入っていく。
「ゾロ・・・?」
「ヤるぞ」
「はい?」
「お前とセックスしてぇ」
「っ!!!!!!!!!!」
ムードも何もない、ゾロの台詞に。
サンジは全身を真っ赤にする。
「ばっ、馬鹿っ!!なんでいきなりっ・・・!」
「ヤりてえと想ったから。お前は嫌か?」
下から見つめてくる深緑の瞳。
「うっ・・・」
「なあ、嫌か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌じゃ、ないけど・・・・・・・・・」
「けど?なんだ?」
いつもは饒舌な唇が、酷く言いよどんでいる。
「おい」
「・・・・・・・・・って、初めてだし・・・・・・、昼間だし・・・・・・」
「関係ねえよ。怖いってんなら優しくする」
ばさっと洗濯籠に入っていたシーツを、キッチンの床に敷き詰めて。
その上にそうっとサンジを押し倒す。
「自分の気持ちがわかっちまった以上、我慢なんて出来ねえ」
「ゾロ・・・・・・」
「好きだ、サンジ」
「っ・・・!!」
今。
初めて。
「ゾっ、ゾロっ」
「ん?」
「も・・・、も一回言って・・・・・・」
「なにを?」
「だ、だから・・・・・・」
真っ赤な顔で言葉を強請ってくるサンジ。
「ああ・・・・・・」
サンジがなにを強請っているか気付いたゾロは、ふんわりと優しく微笑んで。
唇をサンジの耳元に寄せて。
「愛してる、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サンジ」
「っ・・・」
ずっとずっと呼んで欲しかった。
その大好きな声で、自分の名前を。
「ゾロっ・・・・・・!!」
「サンジ」
「んっ・・・!」
押し倒されたまま、深く唇が重なった。
柔らかい舌が遠慮なく差し込まれて、口の中を愛撫する。
「ん、ふっ・・・んっ」
深いキスの間に、ゾロの手はゆっくりとサンジの服を脱がせていく。
器用な片手で、どんどんとボタンを外していく。
そして露わになった白い肌に、そうっと手を這わせた。
「っ・・・!」
かさついた大きな手が、するりと肌を撫でるたび。
とんでもない声があがりそうで、サンジは必死に声を抑える。
「声、我慢すんなって・・・」
「っ・・・!!」
「ったく・・・」
いつもはあんなにも饒舌なくせに、こんな時だけ静かになるなんて。
「いつもみたく・・・、声出せよ」
「あっ・・・!」
無骨な指がつっと、サンジの乳首に触れた。
その瞬間。
触れられた箇所から、まるで電気が流れたみたいで。
サンジはつい、声を漏らしてしまった。
「っ!!!」
「うら、出せって」
口を塞いでいた両手は、ゾロの手で難なく外されて。
「やっ・・・!」
顔を真っ赤にして、首を振るサンジ。
そんな仕種までもが愛しくて、ゾロの顔にはしあわせそうな笑みが浮かぶ。
「笑ってんじゃねえよっ、エロまりもっ・・・!」
「そうだ。そうやって声出してろ」
「あっ、やだっ・・・!」
空いた手で、きゅっと乳首を摘まむ。
しばらく指で触れていたら、ソコは色付いてつんと尖ってきた。
「すげ・・・・・・」
「馬、鹿・・・!!」
「むちゃくちゃ可愛い」
「〜〜〜っ!!!」
さっきから信じられないくらい、気障で甘い台詞ばかりで。
今までのゾロとのギャップが激しすぎて、サンジは只照れるばかり。
「サンジ・・・」
「んんっ、あ、んっ」
ちゅうっと首筋に吸い付いて、紅い印を刻む。
ゾロの唇はどんどん落ちていき、真っ赤になった乳首に触れた。
「ひゃっ、あんっ」
ざらついた舌が、尖った乳首を掠めていくたび。
ぞくぞくしたモノが、背筋を走る。
「やだっ、ゾロっ・・・!やぁ・・・・・・!」
「やめねえ」
「くぅんっ・・・!あぁ・・・・・・」
ぎゅっと押しつぶすように舌を押し付けられて、サンジの身体が撓る。
執拗に乳首を舐められたせいで、サンジの下半身はすっかり昂ぶっていた。
ゾロも当然それに気づいていて。
ゆっくりとベルトを引き抜き、一気にスラックスと下着を脱がせた。
「うわっ、ちょっ」
いきなり真っ裸にされて、サンジは慌てて身体を反転させる。
「なにやってんだよ」
「・・・・・・って・・・・・・・・・・」
「こっち向けよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・やだ」
背中まで赤く染めて、サンジはシーツに顔を埋める。
その様がまた可愛くて、ゾロは緩む頬を抑えきれない。
「サンジ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・や」
「・・・・・・・・・仕方ねえなぁ」
全然仕方なくない声で、ゾロはゆっくりとサンジに覆い被さる。
背中に感じる熱い体温に、びくりとサンジの身体が跳ねる。
「後悔すんなよ?」
「え・・・、ひゃあっ!」
するりと伸びてきたゾロの手が、昂ぶっているサンジ自身を握る。
しかも身体を反転させたせいで、思うように抵抗も出来ない。
「ゾ、ゾロっ・・・!やんっ・・・」
「感じる・・・?」
すっかり昂ぶっていたサンジは、少しの愛撫でもう雫を零し出している。
ゾロの手が動くたびに聴こえる濡れた音に、たまらなく羞恥を駆られる。
「ふっ、んん〜・・・」
必死に声を殺そうとしているサンジに、ゾロは小さく笑みを漏らす。
「そんな我慢しねえで、声出せって」
「んぅ〜・・・、恥ずかしい、だろっ・・・・・・」
「・・・・・・・・・俺が聴きたいっつっても?」
かぷっと耳朶を甘噛みしながら、痺れるような甘い囁き。
「ひぅっ・・・」
「サンジ、聴かせてくれよ?」
サンジを促すように、ゾロの手の動きが激しくなる。
「ひ、あぁっ・・・!ゾロっ・・・、ゾロっ・・・!!」
箍が外れたように溢れてきたサンジの嬌声に、ゾロは酷く興奮する。
「やぁんっ、あ、あぁっ・・・!!駄目っ・・・んっ!」
「ん・・・?」
「もっ・・・・・・、イっちゃ、う・・・・・・!」
振り返ったサンジの瞳は、うるうると涙の膜で覆われていて。
上気した頬に、赤い唇。
興奮しないはずはなかった。
「は、やっ・・・!」
サンジを追い上げる手を止めずに、サンジの顔を肩越しに覗き込む。
「や、だっ・・・!見ちゃやだぁっ・・・!!」
「嫌だ」
「ゾロっ・・・、んんぅ・・・・・・!」
嫌だと言ってるのに、顔を覗いてくるゾロ。
「イく顔・・・・・・、見せろよ」
「あ、やっ、あぁんっ・・・・・・!!!」
一層激しくなったゾロの愛撫に、サンジはあっという間にイってしまった。
ぱたぱたと、サンジの雫がシーツに落ちる。
「は、あぁ・・・・・・」
「すっげー・・・・・・・・・色っぽかった」
ちゅっと頬に落ちてきたキスと言葉に、サンジの顔がまた赤くなる。
「も、馬鹿っ・・・。やだって言ったのに・・・!」
「見たかったんだから仕方ねえだろ?」
「う〜・・・・・・」
恨めしそうに睨む顔も可愛くて、ゾロの顔は崩れっぱなし。
「んな顔すんなよ・・・。男前が台なしじゃん・・・」
「いいんだよ。お前にしか見せねえから」
当然の事のようにそう言うゾロに、胸が高鳴る。
どんなに崩れてても、やっぱりゾロはかっこよくて。
まるで女の子みたいにドキドキしてる自分。
「・・・?どうかしたか?」
じぃっと自分を見つめてくるサンジに、ゾロが問い掛けたら。
今までにないくらい顔を赤くして。
「なっ、なんでもないっ・・・・・・」
慌てて顔を逸らした。
(み、見惚れてたなんて・・・・・・、恥ずかしくて言えねーっての・・・!)
照れ隠しのように、シーツをぎゅっと抱きしめるサンジ。
その汗ばんだ金の髪にくちづけて、ゾロは濡れた指をそっと蕾に寄せた。
「っ・・・!!」
「痛くしねえから。力抜いてろ」
強張った身体を宥めるように、羽根のようなキスを繰り返す。
「深呼吸して・・・・・・、そうだ」
はふはふと深呼吸を繰り返すサンジを見計らって、つぷんと指を埋め込む。
「んくっ・・・」
びっくりするくらい、ゾロは慎重だった。
サンジが少しでも苦しげな声を漏らせば、根気よくキスを繰り返して。
「サンジ・・・。痛いか?」
「っ・・・」
「いいこだな」
何度もキスをして、ようやく指が1本。
「ん、ん〜・・・」
緩やかに指が動くたび、くちゅくちゅと音がする。
自分の身体がそんな音を響かせているのかと想うと、本当に恥ずかしくなる。
「何処がいい・・・?」
「や・・・、わかんなっ・・・・・・」
「ココか?それとも・・・・・・・・・こっち?」
「あんっ!!」
何処か楽しげなゾロが、指で触れた箇所。
ソコに触れた途端、甲高い声がサンジの口から落ちる。
その艶めかしい声に、ゾロの喉が上下した。
「ココ・・・、気持ちいいのか?」
「あ、やっ!動かさないでっ・・・!!」
少し指を動かしただけで、切羽詰った声をあげるサンジ。
一方のゾロは、これ以上ないくらいににやける。
「お前のいいトコ・・・・・・・・・、見つけた♪」
「ふあ、あぁんっ・・・」
ひっきりなしに嬌声をあげるサンジが可愛くて、ゾロの指の動きも俄然激しくなって。
いつの間にか指は3本に増えていて、それでもサンジは痛みを感じなかった。
「ゾ、ロぉ・・・、もっ・・・・・・」
「そだな。俺も我慢出来ねえ」
ゾロはばさっとシャツを脱ぐと、サンジの身体を仰向けにして。
脚を大きく開かせて、その間に身体を入れる。
「ぁっ・・・」
真上から見下ろされて、忘れていた羞恥が甦る。
「サンジ・・・・・・。愛してる」
「ゾロ・・・。好きっ・・・、大好き・・・・・・。愛、してるっ・・・」
逞しい身体に抱きついて、紡ぐ愛の言葉。
ちゅうっと唇にキスをして、ゾロがぐっと腰を進めた。
「んっ―――――――――っ!!!」
熱くて大きな昂ぶりに、無意識に息が詰まる。
「っ・・・!サンジっ、深呼吸しろっ・・・!」
「ふ、は・・・!はあっ・・・!!」
指とは比べ物にならないくらいの圧迫感に知らず腰が逃げる。
だけどゾロの大きな手が、それを許してくれない。
「や、だぁ・・・!!ゾロっ、い、あっ・・・!!」
「サンジ・・・」
「もっ、やぁ・・・。痛、いっ・・・!」
ぼろぼろと子供みたいに泣きじゃくるサンジに、胸が締め付けられる。
「サンジ・・・。もうちょっと・・・・・・、我慢してくんねえ?」
「やっ、痛いもんっ・・・!も、やだっ・・・」
さっきまでの快感も消え失せて、自身もすっかり萎えていた。
どうにかして痛みを和らげようと、ゾロはサンジに触れた。
「ひうっ・・・!」
巧みな愛撫に、少しだけ快感を感じる。
「ふ、うぅんっ・・・・・・」
「好きだ・・・、愛してる・・・・・・」
「あっ、あっ!」
ゾロの愛撫で、サンジが勃ちあがってきた。
そしてサンジの身体から力が抜けた一瞬を、ゾロは見逃さなかった。
「サンジ・・・!」
「あ、あぁっ・・・・・・!!!」
一気に挿いってきたゾロ。
その熱さと大きさに、眩暈がする。
ぎりっと肩に、サンジの爪が刺さる。
「っ・・・」
「う、うぅ〜」
「悪い・・・。優しくするって言ったのにな・・・・・・」
汗で額に張り付いた前髪を梳いて、柔らかいキスを落とす。
「馬鹿っ・・・!嘘吐きっ・・・!!」
「そうだな・・・。ほんと・・・・・・・・・ごめん」
しおらしく謝ってくるゾロに、サンジはぎゅっと抱きついて。
「悪いと想うんならっ・・・・・・、いっぱい愛してっ・・・!」
「サンジ?」
「も、訳わかんなくなるくらい・・・・・・」
蒼い潤んだ瞳で、なんとも可愛らしい事を強請るサンジに。
ゾロの胸がたまらない愛しさで溢れる。
「任せとけ。むちゃくちゃ愛してやる」
「あ、はっ・・・!!」
「サンジ・・・、愛してる」
「ゾロっ・・・」
赤く染まった白い脚を抱えて、ぐうっと腰を動かす。
「ひっ・・・、あぁっ!!」
「サンジっ・・・」
「やあぁっ・・・!!あ、あんっ!」
逞しいゾロのモノが出入りするたび、繋がった箇所が熱く疼く。
ソコから痛みだけではない、なにか甘いモノが湧き上がってくる。
「やっ、ゾロっ・・・!やぁ・・・!」
「ん?どした、サンジ」
サンジの変化に気付いたゾロは、そっと赤くなった頬を撫でる。
「んんっ・・・!」
そんな些細な事にも、過敏に反応を示す。
「どうした?痛いのか?」
「なんか俺っ・・・、変っ・・・・・・」
「変?」
「なんかっ・・・・・・、気持ちいいっ・・・!」
「っ!!!」
「もっと・・・・・・・・・いっぱいしてぇ・・・」
恥ずかしそうに、でも扇情的に。
酷く色っぽくて可愛らしい強請り方に、ゾロも酷く興奮した。
「マジ可愛いのな、お前って」
「ふぅっ・・・、あっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・もう離せねぇ」
「あ、あんっ、ゾロっ・・・!」
「愛してる・・・・・・・・・」
「ゾロっ、あ、あぁ―――――――――っ・・・!!!」
「くー・・・・・・・・・」
情事の後。
キッチンで眠るサンジの傍らで、ゾロはその寝顔を覗く。
目元が真っ赤になっていて、少々泣かせすぎたかと想ったけど。
あんなに可愛い姿を見せられて、若い自分が止まるはずもなく。
「ったく・・・。俺も相当イカれてたみたいだな・・・・・・」
気付かないうちに惚れていて、こんなにも重症で。
だけどそれも悪くない、と。
想っている自分。
眠るサンジの頬を、そうっと撫でる。
「ん・・・・・・」
少しだけ身じろぎした後、サンジがにへーっと笑った。
「ゾロぉ・・・・・・・・・」
「・・・?」
「大好きぃ・・・・・・v」
本当にしあわせそうな笑顔で。
「ぷっ・・・」
「んん〜、ゾロぉ・・・・・・・・・」
「眠ってる時まで、よくしゃべるヤツだな・・・」
キスして、抱きしめてる時だけは。
本当に静かなのに。
サンジを起こさないように、そっと頬に唇を寄せて。
「俺も好きだ」
END.
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