証の意味



ずっと一緒にいる事

ずっと同じように二人で生きていく事

この半年間の幸福を、やっとオレは理解できるまでになった

サンジと共に

笑い・・・

酒を酌み交わし

時には抱き合い・・・

時には腕にその重さを感じながら・・・眠る

このままそれが続くと思って・・・それが、思い違いだった一月前の夜。

サンジは当たり前のように、オレから離れて行く。

それが自然なように、それが決まっていたかのように・・・


俺はそんな事になるなんて思ってもいなかった。

『ありえない』

オレはサンジと共にこのまま老いていく事を受け入れた

サンジを抱いた夜から

大事にする者

大切なものが増えたのだとそう思っていたから・・・

そして、あの神無月の夜。

オレが失くさずにすんだ大切なもの

愛しい者・・・

あれから一月・・・サンジと何もない。

まるで・・何事もなかったかのように何もない。

オレは言った


『共に生きていきたい』



そして・・・一世一代の告白もした・・・・

今だ・・・何もない・・・これは・・・

どういう意味なのだろう????



+++++++++++++++++++++++++++++++++



「あら・・・・明日は
11日ね・・・」

11日に何かあるんですか?」

ナミが紅茶を飲みながら言った言葉に、サンジは動かしていた手を止めて聞いた。

ナミの視線はカレンダーに注がれている。

カレンダーには特に変わったところなどない。

11
月が始まったばかりだし、書き込みももちろん何もない。綺麗なものだ。

「・・・・サンジ君・・・知らないの?」

「はい?」

信じられないと言った顔で、ナミはサンジを見た。

キッチンの外は、冷たい風が吹き始めていて。

風を切る甲高い音が、微かにキッチンにも漏れ聞こえる。

「・・・
1111日よ?」

「何かあるんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・ゾロの・・誕生日・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

サンジはみるみる顔色を変えて、キッチンから飛び出して行った。

サンジにしては珍しく、思いっきり閉めた扉は勢いに負けて半開きのままである。

冷えた風が入り込んでくるのを、ナミはため息とともに立ち上がり、

キチンと戸を閉めて塞ぐ。

「まったく・・・あのバカ夫婦は・・・」

ナミは知っていた。

別に現場を押さえたとか、本人達から聞いただとかそんな事ではない。

しいていうなら女の感だろうか?

自分も、叶わないような夢心地の恋をしているからだろうか?

サンジの様子がここ半年、おかしいのに気がついてしまった。

いつでも微笑むその顔の奥に、幸福感と焦燥感・・。

正反対の感情が入り乱れている。

そろそろ・・限界だろうと口を挟もうとした一月前・・・

突然、サンジとゾロの瞳がそれまでと違う事に気がついた。

普段と変わらない二人だったけれど、ナミには何となくわかってしまった。

「ふう・・・困ったわねえ・・・」

もう一度、壁にかけてあるカレンダーを見てナミはため息をついた。




「このくされマリモ!!」

サンジの踵が甲板に眠っている、剣士の腹に振り下ろされる。

寸前でソレを受け止め、衝撃にジンジンと痛む腕を睨みながら

ゾロは自分を起しに来たんだか、殺しに来たんだかわからないコックに目を向けた。

淡い金色の髪が、ほわんと風になびく。

寒いのだろう、鼻の頭がピンク色に染まっているのが可愛らしかった。

「この腐れマリモ・・・・今何月の何日か知ってるか?」

「ナンだよ」

「いいから!!今日は何月何日だって聞いてんだよ!!」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・何月だ?」

「こっちが聞いてんだろうが!!この腐れマリモ!!」

もう一度、踵が頭上に降ってくるのをゾロは難なく交わして、バリバリと頭をかいた。

今のゾロにとって、何月だろうが、何日だろうが・・・

それこそ・・・朝だろうが夜だろうがどうでもいい事だった。

目の前の、恋人になったはずのコックの確かな言葉がただ欲しかった。

何も言わないゾロに、サンジはこめかみに青筋を何本も作りながら

タバコを噛み締めた。

嫌な苦味が口内を走る。

睨みあう二人の上空を、大きな雲が通過した。



先に瞳をそらしたのはゾロ。

ふと・・・自分が言った言葉は伝わっていなかったのではないのかと

不安に瞳がそらされる。

そらした瞳の先に、甲板の木目が映る。

その無機質な模様を見ていると、心が静かになっていくようだ。

少し落ち着いた心で、ゾロはもう一度サンジと瞳を合わせた。

「・・・・!!・・・・」

仰ぎ見た、サンジの瞳にはたくさんの雫。

自分を見下ろす蒼い瞳が、酷く傷つき揺れている。



そらされた瞳をサンジは、息が詰まる思い出見つめていた。

いつでも、何があっても真っ直ぐに見つめてきた瞳。

まだ、想いが通じず、身体だけを快楽のみでつなげていた時から、

ゾロは一度も瞳をそらさなかった。

まるで、サンジの瞳に全てがあるかのように、一心に見つめてきた瞳。

やっと、想いが通じて・・・ゾロはサンジに一生の言葉を送った。

嬉しくて・・・

何が起きたのか・・・全てが嘘のような・・

何かが変わるのだと思った夜

酷く・・・幸福で・・・・

酷く・・・熱い夜になったあの日・・・

サンジは、そらされあらぬ方向を向いた瞳を必死で追いかけた。

眼差しがサンジの全て・・・。

一生の言葉をもらったあの夜から

今までで一番熱い・・・幸福な夜を迎えたあの夜から

サンジはその瞳だけを必死に追いかける。

何かが変わる予感は、酷く幸福なものを運んでくるはずで。

全てが幸福へと向かっていく予感

あの夜から一ヶ月・・・サンジはいつまでも待っていた

その何かが目に現れるのを・・・


そらされた瞳は幸福を伝えてくるはずもなく

こんな変化を待っていたわけではない。

いつまでも幸福な・・・そんな予感があったのに。

初めてそらされた瞳が、とても遠い・・・半年前以上に遠い。

気がつけば、瞳からボロボロと雫がこぼれた。

その理由がわからない・・・雫の意味がわからない・・・。

けれど・・・とても・・・とても・・・幸福とは言えない涙だと

サンジは思いながら涙を零した。

「・・・何で泣いてんだ・・・」

腰を上げて、ゾロはサンジを見た。

あの夜以来の涙を、そっと拭う。

あの夜流れた涙は、幸福と快感の涙。

今の涙は・・・

ゾロはサンジの涙を拭いながら、この一ヶ月を思い出す。

何もない・・・サンジは一生を共にする気などないのかもしれない。

でも、あの夜はあんなに・・・幸福そうに笑って・・・喘いでいた。

なにもかもこの手にしたのだと・・・違ったのだろうか・・・

一ヶ月・・・サンジは何もかわらない・・・何一つ変わらない。

いつもと同じ・・・何も変わらない日常。

「そんなに日付が大事か?」

ポロポロと零れる涙を見るくらいなら

こんなに痛そうに泣くのなら、必死に思い出そうと思う。

日付の一つで、サンジの涙を止められるのなら・・・

「・・・・確か・・・・
11月くらいだろ・・・」

必死に思い出そうとしているゾロを、サンジは遠い目で見つめていた。

今日の日付など、ゾロはいちいち覚えていないだろう。

そんな事くらいはサンジにもわかっていた。

けれど、ナミは知っていたのだ。

ゾロの誕生日を・・・例え何かの折に話に上っただけの事かもしれない。

そんな事なのだろう・・・知るきっかけなんて・・・

これはきっと嫉妬。

そんな事わかっているのに。

ただ、自分が知らなかった事が悔しかった。

カレンダーをめくる時、側にいたのだ。

けれど、何の言葉もなかった・・・。


「・・・泣くな・・・思い出すから・・・・サンジ・・・泣かないでくれ」

零れ落ちる涙を、何度も拭いながら。

ゾロは瞳を覗き込む。

深い緑に見とれる。

その強い眼差し・・・優しく拭う無骨な指を、サンジはそっと止める。

「・・・ごめん・・・いいんだ・・・もう・・・俺が悪かった・・・」

くるりと踵を返すとサンジは、キッチンに戻って行った。

甲板には残され、行き場を失った拳を握り締める剣士と

キッチンで座り込んでしまったコック。



こんなはずだったろうか?

あの一月前の夜。

もらった言葉と送った言葉は

こんな気まずさを・・・もたらすはずのものだったろうか・・・。









パタン・・・・


無機質な扉の音が、これほどまでに心に刺さる事を

サンジは今日初めて知った。

ズルズルと座り込んだ、キッチンの床はあまりにも冷たくて。

先ほどまで感じた、熱い体温が恋しくなる。




一月前にはあんなに熱かった体温。

熱くて・・・焦げてしまうかと思った体温。

でも、それは酷く優しくて・・・

酷く・・・幸福だった・・・。

今はその体温が恨めしい程に・・・

ぎゅっと膝を抱えて・・・サンジは膝に自分の頭を埋める。


こんなはずじゃなかった・・・

こんな事を望んではいなかった。

もっと、幸福で・・・もっと深い・・・そんな関係になると

予感していたのに・・・。

半年前の関係・・・・いや・・それ以上に・・・

空しい感じがするのは・・・間違いではないと思う。



生まれてきた事

ゾロが生まれて

自分の側にいる事を感謝したいと思うのは・・・当然の事

できれば、一番に知りたかった。


好きだと言われて

言葉を貰って・・・もっと幸せな・・・予感がしていたのに

現実は違っていた・・・

船の中で・・・自分だけが知らなかった。

愛しい人の生まれた時を・・・そんな悲しい事はない

機会は何度もあったのに・・・一度だって言わなかった。


皆より近い所にいると思っていたのに・・・

皆より・・・ゾロを知っていると思っていたのに・・・

それは勘違い・・・あの夜も勘違いなのだろうか?



「サンジ・・君?・・・・」

そっと、ナミが声をかけた。

サンジがゾロの誕生日を知って、駆け出してからずっとナミはそこに座っていたのだ。

今は、ゾロの誕生日を知っていた皆が恨めしい。

たとえ・・・尊敬するナミであっても・・・。


「サンジ君・・・少し落ち着こうよ・・・ね?」

ナミがそっと、サンジの隣に座り込んだ。

微かなオレンジの香水が、サンジの周りを包み込む。

それでも、サンジは顔を上げない。

金色の髪をそっと撫でながら、ナミは優しく言葉を紡ぐ。

「ショックだったのね・・・それとも不安かしら?自分は一番近くにいるとそう思って

たんだものね・・・でも、ゾロだけが悪いのかしら?」

「・・・・・・・・」

「サンジ君もゾロも・・・先月からとても苦しそう・・・瞳はお互いを見てるのに・・・

何か・・・酷く淋しそうよ?」

「・・・・・・・・・・・・」

そっと、サンジは顔を上げた。

綺麗なオレンジ色の瞳が優しく微笑んでいる。

「・・・・・何が不安なの?」

「・・・・・・・・・何も・・」

「・・・・・・・・・」

「ゾロとあの日以来・・・何も・・・何もないから・・・」

「そう・・・サンジ君はゾロの行動を待ってるのね・・・」

「・・うん・・」

「ふふ・・・」

ナミはおかしそうに笑った・・・。

オレンジ色の髪がフワリと揺れる。

「・・・・そう・・でもね、サンジ君が思うようにゾロも思ってるんじゃないかしら?」

「へ?」

「ゾロはサンジ君に何て言ったの?」

「・・・・・・・・・・・・・・結婚しよう・・って・・伴侶だって・・・」

「そう・・・ゾロは決めたのね・・・一生の相手を・・・」

「うん・・そう思ってたんだ・・・けど・・・けど・・・」

「何もないのね?」

「そう・・・」


じわりと、またサンジの蒼い瞳から雫が滲み出す。

こんなはずではなかったのに。

一生を共にと言った言葉も・・・伴侶という言葉も

結婚の言葉も・・・嬉しい未来の言葉のはずだったのに・・・。

こんな淋しい関係になるはずの言葉ではなかったはずなのに・・・。

「・・・そう・・でも今回はサンジ君が悪いんじゃないかしら?」

そう言ったナミの瞳は真剣なものだった。

強い眼差し・・・いつでも、未来と船の行く末を見守る眼差し。

「・・・・・・・・・・・・・」

「ゾロははっきり言ったんでしょ?結婚しようって、共に生きていこうって・・・」

ナミの一言、一言が心に突き刺さる。

ゾロは言った。

確かな言葉をあの時くれた・・・だから・・・あの寒い神無月の夜が

熱く・・・懐かしく・・・甘い思い出になっている。

「サンジ君は?ちゃんと言葉にしたのかしら?」



確かな言葉を貰ったら

次に起こる確かな証が欲しかった。

物ではなく・・・

言葉ではなく・・・

今度は、何か目に見える行動が欲しかった・・・。

甘い・・・関係になったのだと・・・恋人になったのだと・・・

そんな事が確かに感じられる・・・

行動が・・・行為が・・欲しかった・・・。


じゃあ・・

ゾロは??

自分はゾロの言葉を貰ったけれど・・・ソロに言葉を返しただろうか?

キチンとした答えを・・・ゾロに渡しただろうか?

自分も一生を共にしたいと・・・

ゾロだって・・・言葉も・・・

その証もきっと欲しいだろうに・・・


「俺・・・・」

「・・・・気がついた?今回はサンジ君が悪いんじゃないから?」

「・・・ハイ・・・そうですね・・」

「よろしい、後一時間もしたら。島に着くわ・・・プレゼントでも買ったら?」

「ナミさん・・・ありがとうございます!!」

「ふふ・・いいのよ・・私もサンジ君と同じだから・・・その気持ちよくわかるの」

「・・・・ナミさん・・・大好きです・・・本当に心から・・・」

サンジはニッコリ笑ってナミにそっと抱きついた。

仲間以上に・・・まるで姉弟のような・・そんな関係・・・。

ナミもそっとサンジの髪を撫でて微笑んだ。


もちろん予告どおり、大きな港町に上陸を果たし、

サンジはこっそり船を降りて行った。

みかん畑から手を降るナミに笑顔を向けて。

同じように甲板にいるであろう剣士の事を思い浮かべながら・・・。



++++++++++++++++++++++++++++++++++



ゾロは甲板に寝転がっていた。

昼過ぎには、大きな島に着岸していたが上陸する気など起きなかった。

昼間、サンジ自ら止められた右手。

柔らかな白い頬を伝う涙を・・・拭っていた右手・・・。

もういいと・・・すまなかったと謝罪の言葉と共に、はらわれた右手。

何度も握っては開きを繰り返したけれど・・・

やはり、そこには涙を流して断ったサンジの顔が焼きついている。

キッチンにはサンジが作り置いて行った夕食が用意されていた。

島に用事があるからと、ナミが言っていた。


ナミの顔をまともに見る事すらできない・・・。

変わるはずだった関係・・・変わっていくはずだった一人の道。

隣にサンジがいると思っていた。

一緒に一生を共に歩いて行くのだと思っていた・・・。

あの夜から・・・熱く甘い・・あの夜から・・・。

けれど、サンジは遠い、自分よりもナミの方がサンジに近い。

遠い距離に・・・ため息が漏れる。


先程カレンダーを見た。

11
月10日・・・いや・・もう・・11日だろうか・・・。

とうに夜中は過ぎている。

サンジはきっと誕生日を言わなかった事を怒っていたのだろう。

自分も忘れていたけれど、そんな事は些細な事だと思う。

それでも、サンジは酷く傷ついていた。

あんな悲しそうに泣いて・・・振り払われた右手。

「もう・・・11日だぞ・・サンジ・・」

サンジは帰って来ない。


コツコツ・・・

足音に驚いて、見上げると二階からナミがコチラを伺っていた。

「おめでとう・・ゾロ・・誕生日ね・・・」

「・・・・・・・・・」

「何よ・・・ありがとう位言えないの・・・」

「・・・・・・・・・」

黒い塊が胸を支配する。

振り払われた右手を握り締めた昼間、サンジを追ってキッチンへと向かった・・・。


その時の光景・・・。

当然のように抱き合う二人に・・・ゾロは息が詰まるかと思った。



何が悪かったのだろう。

何が間違っていたのだろう・・・。

真剣な思いを告げたはずなのに・・・

満足な返事をキチンともらえなかったけれど・・・

サンジはゾロを好きだと言ったのに・・・

一生を共にする事、結婚の事には返事をもらえなかったけれど

それでも・・・恋人になれたと思っていたのに・・・

何が食い違っていたのだろう・・?



「先に寝るわよ・・・明日はどうせ宴会だろうからね・・」

ナミの足音すら恨めしい・・・。

見上げた空には、あの時と同じような月が上っていた。


コトン・・・


うつらうつらと眠っていたのだろう。

ゾロは小さな物音で目が覚めた。

開いた視線の先に、金色の光を背負った愛しい人。

恋焦がれた人。

ゆっくりと近づいてくるその人影に、ゾロは目を細める。


あの夜と同じで、月の下にいるサンジの美しい肢体。

ほっそりとしているけれど、生命力溢れる動き。

光り輝く者は穏やかな風を纏って、そっとゾロの隣に跪いた。

これ以上ないほどの、笑顔と共に・・・。

ふんわりとサンジの香り。

食材の匂いなのか・・・甘く・・酷く幸福な匂い。

眩暈を起しそうな程、幻想的なサンジに呼吸が止まるかと思った。


「・・・・ゾロ・・・・」


優しく甘い囁きに・・・言葉の意味を理解するのに数分かかった。

自分の名前だと・・・そう思う・・・。

蒼い瞳を見上げると、そっと細く薄い胸に抱きこまれた。

抱きしめる事は何度もしてきた。

互いの心を知らぬ頃から・・・身体だけをつなげてきた頃から・・・

抱きしめて・・・抱いたまま眠った事もあった。


酷く幸福な・・甘い夢物語。

けれど、こんなに優しく抱きしめられたのは初めての事で。

耳にサンジの鼓動が響く。

「ゾロ・・・誕生日おめでとう・・・ゾロ・・・」

優しい言葉は身体を通して伝わってくる。

微かな振動と・・・心音が心地いい・・・。

「俺も・・ゾロと一生を共に歩きたい・・・ずっと隣で同じ道を歩きたい・・・」


囁かれる確かな言葉。

ずっと、欲しかった言葉。

届いていなかったかもと、流されたのかもと思っていた言葉の返事は

確かな証に乗ってやってきた。

サンジの鼓動とサンジの温もりという・・確かな証となって・・・


あやふやになた、一月前の言葉達。

こうして幸福な形をもって帰ってきた。

そっと離した身体。

そこには微笑むサンジ。

こんな笑顔が欲しかった・・・言葉でなく、物でなく、そんな証でなく

ただ、幸せそうに微笑むサンジが確かな証

この顔が見たかったのだと、ゾロはやっと思い至る。

その笑顔を見るためなら・・・決して何も恐れないだろう。



そっと、白い頬に手を添える。

昼間は払われた右手がギクシャクしていたけれど

サンジは微笑んでゾロの額にキスをくれる。

「ゾロ・・・おめでとう・・・それとありがとう・・・俺を好きになってくれて」

そっと、外された右手。

昼間の光景が蘇る。

微かに怯えて震える右手は、無骨で・・・サンジに申し訳なく思う。

震える右手に・・・無骨な荒れた手に・・・


そっと小さな包みが乗せられた。

綺麗な緑の包み紙に、金色のリボン。

見上げるとサンジが微笑んでいた。

そっと、包みを開ける・・・まだ右手の震えは収まらない。


小さな皮張りの箱をそっと開けると、臙脂色ののベルベット地に埋もれた・・・

小さな金色がかった・・シルバーのリング。


シンプルな二重に絡み合ったデザインの片方は綺麗な銀色。

それにからみ付く様に少し白みがかった銀色。

驚いてサンジを見る。


「ゾロは俺のもんだって・・証が欲しかった・・・」

「・・・・・・・」

「言葉でなく・・・証が欲しかった・・・」



そっと、取り出されたリングをサンジはつまみ上げ、ゾロの薬指にはめた。

鈍く光る二種類の銀。



「ずっと・・側にいさせてくれな・・・ぞれは証っていうより鎖だな・・」

「・・・・・・・サンジ・・・」


ゾロははめられた指輪をそっと、抜き取る。

驚くサンジの顔を横目に、そっと和道一文字を抜くと二種類の銀の間を軽く滑らせた。

からみついた様な形のリングが、音も立てずに分かれる。

波打つ外形の指輪の片方をゾロは、そっとつまみ上げ自分の左手に戻す。

にやりと笑ってサンジの左手を取ると、切り離されたもう片方の指輪を

サンジの左手の薬指にはめる。


「・・・・二度と・・・離れるな・・・」

押し殺したような声、でも何処か怯えた声。

「もう・・・離さねえ・・たとえナミが相手でも・・・離さねえ」

サンジの指輪にそっと、キスを送る。

証ではなく・・・これは鎖・・・。

決して離れないように・・・側にいるように・・・


「・・・・結婚しよう・・・・ゾロ・・・」


サンジは嬉しそうに微笑んで、ゾロの唇にそっと口付けた。

離れていく唇を目で追いながら、ゾロはサンジに聞いた。

「昼間・・・ナミと何してた・・・?」

「・・・・・昼間・・・?」

「あぁ・・・抱き合ってた・・・ナミの方がいいんじゃないのいか・・・」

「・・ふふ・・・違うそんなじゃないんだ・・ナミさんは・・そうだな・・頼れる

お姉さん・・って感じだ・・・・」


ゾロの脚の間に座ってサンジは笑った。

「それを言うなら、ゾロだって・・・大事な日を俺に言わなかった!」

「・・・・あれは・・俺も忘れてたから・・・いいじゃねえか誕生日くらい・・・」

「じゃ・・・さ・・・ゾロは俺の誕生日を知らなくていいんだ・・・皆はお祝いしてるのに

自分だけ知らなくてもいいんだ・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・イヤ・・・それは・・イヤだろ?」

「・・・な?そうだろ・・俺も同じだよ・・・」

「そっか・・・」

「そう・・・」


二人は抱き合ったまま、ひとしきり笑った。

些細な事が大事な事もあるんだと。

同じ人間だけど・・・欲しいものの形は違う事。


言葉



行動・・・

どれもが大切なのだと知った日。

未来の大剣豪は1つ年を重ねる。

こういう事が大人になることなのだろうかと、そんな事を考えながら。

嬉しそうに笑うサンジの顔を、そっと振り向かせて

唇を奪う・・あの夜以来の甘い感触。


「んふ・・あふ・・・」

「部屋に・・行こう・・サンジ・・・」

「ん・・・明日はパーティーで忙しいから・・・程ほどにな・・・」

「・・・・無理だな・・・」

「ほえ?」

「久しぶりだし・・・夫婦になったし・・・・嬉しすぎるから無理だ・・」

「んもう・・・いいよ・・・俺もすげえ・・シタイ・・・」

「うし!」

そっと、細い身体を抱きしめてゾロは甲板を歩き出した。



どうか・・・

いろんな形で愛してください

言葉や

物や

行動で・・・

貴方の・・・俺の・・全てを使って

どうか・・・君が生まれたこの夜と

そしてこれから歩く二人の道を

愛して下さい


HAPPY HAPPY・・・BIRTHDAY・・・




END




<コメント>

これは、前いただいた、【神無月】その続きのお話だそうです。
本当、茜ちゃまの小説は、綺麗だよねえ・・・・・ため息・・・・
サンジにはサンジの切なさがあって、ゾロにはゾロの想いがあって・・・・
本当に、幸せなカップルで有りますように、そう、祈りたくなるような
繊細な小説で、ルナは、大好きさっ
(そうそう、自分には逆立ちしても書けないからね、ほっとけっ!・笑)
こんな素敵なSSがあって、いよいよ地上活動もスタートされた
茜ちゃまのサイトは、
こちらから、飛べますですよ〜っv


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