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ゾロはカーテンを閉め忘れた事に気がついて、のそりと起き上がる。
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少し冷や汗をかいたけれど、この船には優秀な医者がいる。
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フカフカのベッドに身体を無防備に沈めて眠っている。
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「もう少し・・・寝てろ・・昼にはチョッパーが診に来る」
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チョッパーが帰ってきて、診察の結果そう診断を下した。
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「多分、高熱で頭の中が、大事な情報を守ろうとしたんだ・・」
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「高熱になると、細胞が壊される。それは脳内も同じ事なんだ」
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「脳内が自分でこのままじゃ、大事な情報を壊されると思ったんだろうね・・・」
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「そう、大事な情報を守ろうとして、深くに隠す。それがキチンと元に戻ってな
いから、一部の記憶が欠落してる・・・」
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「もちろん・・・失くしたくないと思った事だから・・・失くしたわけじゃないから
ね・・・いつ戻るかはわからないけど・・・」
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その笑顔は本物の笑顔だったから、ゾロは心の底から喜んだ。
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「サンジ・・・オレはゾロ・・・ロロノア・ゾロだ・・」
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「俺とゾロは居残りなのか・・・ナミさんってばいけずなんだからなあ・・・」
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サンジは無邪気にそんな所も可愛いと、普段どおりの顔で笑った。
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サンジはベッドから身軽に跳ね起きると、クローゼットに向かった。
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「ここは・・・この部屋は・・・オレ達の部屋だ・・・」
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何もなかったかのように振舞うサンジに、ゾロは堪えられなかった。
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チョッパーにはあまり、いきなりに現実を伝えてはショックを起すからと・・・
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そのせいで、しまっておいた大切な記憶も壊れてしまいかねないと・・・
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「相部屋だろ?まぁ狭い船だからな・・・しかたないさ」
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サンジはゴソゴソとパジャマを脱いで、着替え始めた。
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サンジはゾロの話を聞くどころか、物凄い勢いで暴れ始めた。
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その抵抗の激しさに・・・ゾロはサンジが本気で嫌がっているのだと知った。
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バタバタと音を立ててサンジはキッチンに駆け込んだ。
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突然起きたら、男が寝ていてそれはそれ愛しそうに自分を眺めていたのであ
る。
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あの男の事だけ忘れてしまっている・・・そう言われた
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見慣れたキッチンで目蓋を閉じれば、大食い船長のタベップリやナミの愛らし
い笑顔・・・・。
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ウソップに・・・トナカイ船医に・・・皆知ってるのに・・
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振り返ってみた男の顔は、名前を聞いた時以上に歪んで・・・・
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知らない男を・・・傷つけた事が・・・こんなに悲しい
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それが悔しくて・・・サンジもまたキッチンで、止まらない涙と格闘していた。
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サンジはようやく止まった最後の涙を拭って顔を上げた。
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持ち上げて、角度を変えて見てもやはり見覚えはなかった。
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はじめ船長の食いっぷりを知らなくて、必要かと小さめの鍋も持ち込んだのだ
が・・・・。
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結局は使う機会と言えば、試作品を作る時だけ・・・。
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にしては色がおかしいし・・・こんな色は・・・見た事がなかった。
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穏やかな吐息で眠る男に・・・そっと唇を重ねる・・・・・
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「ゾ・・・・・・・・・・・ロ・・・・・・・・・・・・・・」
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夜目の利くゾロには、シンクに立つサンジの後ろ姿が確認できた。
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扉の開く音に気がつたのか、サンジが驚いてコチラを見た。
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月明かりに照らされて・・・瞳から零れ落ちる涙がキラキラと輝いた。
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サンジの異変に驚いて、声をかけようとしたゾロにサンジが駆け寄ってきた。
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サンジは必死でゾロのシャツにしがみつきながら・・・
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その後・・・まだ疲れていたのだろう崩れて眠ったサンジをそっと抱えて
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ゾロは眠るサンジを眺めて・・・一度も目蓋を閉じる事はなかった・・。
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「許してくれるなら・・・どんな事でもするよ・・・ゾロ・・」
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