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なんとか涙が出るのをくい止めながら、俺は仕事をこなしていく
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ふんわりフレンチトーストに、ピリ辛のマスタードを添えた自家製ウィンナー。
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ベリー系をふんだんに使った、ベリージャムはウソップ。
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オレンジとレモンの香りをつけた、クリームはナミさん。
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不思議そうな顔をしたんだろう俺に、ナミさんはふふと笑ってカップをソーサーに
戻す。
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「だって・・みんなの前でアンナ事したんだもの・・相当酔ってたのかと思って・・」
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俺の微かな記憶の中で、ゾロにキスした場面が浮かび上がる
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「わわ!!すいません・・あんまり覚えてないんですけど・・
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「今更よ?皆知ってるわ。ゾロと付き合ってるんでしょ?」
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よう、と何気なくゾロは手を上げて皆に挨拶を返していく。
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それはこっちのセリフだと、言葉にしようとしてやめた・・・
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あんまりシツコクなぁなぁと声をかけてくるから、ニッコリ笑って
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せっかく昨日の甘い流れで・・二人で朝飯と張り切っていたのに・・・
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そうじゃないんだ、ただ俺がたまたまアイツの好物を作るから食うんだ。
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目を閉じていても、太陽がサンサンと輝いているのがわかる。
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指を絡めていたから・・ゾロの反応が顕著に感じられる。
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「コラ!!動くな!!あぶねえだろうが・・船尾に行くんだよ・・
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途中の階段は目ぇつぶってたら危ないからな・・我慢しろ」
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つい嬉しくて・・・・ぎゅうって、ゾロの首にしがみついた。
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本当に・・嬉しかったんだけど・・さ・・・さっきの事が頭から離れないから
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ふんわりみかんの香りがして、俺はそっと地面に降ろされた。
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言うのと同時に俺の身体が傾いて、頭の下に硬いものが当たる。
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例えさ・・お前が俺の事・・・和食の上手いコックだと思っても
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こうして・・・出会えたんだから・・その事だけでも本当に
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だって・・出会わなければ・・こんな後悔や悲しい気持ちにもならなかったし・・・色
んな楽しかった事も知らないままだったんだから・・・
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俺の目元を穏やかに、撫でながら・・ゾロは俺に言ってくる。
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そう言った、ゾロの瞳は悪戯が見つかった子供のように澄んでいて・・・
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「今の海域はこの時間が一番気持ちいいんだ・・でも、お前はこの時間はいつも
片付けに忙しくて・・キッチンから出てこないから・・・・」
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俺は珍しく自分から行動に移してきたゾロに、何だか興味があったし
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何より・・すこし硬いけどさ・・この頭の下の暖かさが気持ちいいから・・
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「だから・・・俺が皆と同じ時間に起きればいいかと思った」
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「朝キッチンを出て・・・寝ないようにして・・そのままキッチンに戻ったら・・・
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又ゾロはボリバリと頭を掻き、今度はウーウー唸り出した。
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そうだぞ・・洋食だって俺のメシは美味いんだから・・
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「・・・『同じ』は嫌だ・・・・オレはお前の『特別』になりたいし
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お前と同じ物を食べたいし・・・一緒に食って欲しい・・・
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皆と同じって事は・・・お前は俺にも給仕するんだろ?・・・今まで見たいに一緒に
メシ食えない事になるだろうが・・・別に飯は同じでもいいさ・・・お前が俺の為に
作ってくれるんなんら・・・・
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でも、一緒に食えなくなるのは・・・・嫌だ・・・・」
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拭おうと伸ばされた手を、俺はそっと掴んで、頬に当てた。
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「はは・・俺・・ゾロが俺のメシ・・・和食でないと食ってくれないのかと思った・・・」
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「俺が和食作れるから・・・・側にいてくれんのかと・・・
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認めてくれてないんだと・・だから、皆と同じのは嫌なのかと
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「はぁ・・・そんな事あるわけないだろう?ちゃんと晩メシは食ってんだから考えろ
よ・・・」
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「それに、オレは『皆と同じ』がイヤだって言ったんだぞ?
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今見たいに・・・ただ・・・ゆっくり撫でるだけだったり・・
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この頭の下の、ゾロを感じる度に俺の心に響いてくる。
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筋肉質で・・・女の子みたいに・・柔らかくなんてないけれど。
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大人しくなった俺に、心穏やかなゾロの声が響いてくる。
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その声すら愛しくて・・・俺はゾロの膝にそっと頬擦りをする。
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まるで、子どものように何もかもオレに委ねて・・・。
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『側にいたい・・・昼間でも・・ゾロと・・一緒にいたいのに』
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やっと・・・お互い・・好意を持ってると告白して・・
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アイツには大切で守りたいと思う物がたくさんあるから・・
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すると・・・昼でも・・・どこでも・・・サンジを確かめたくて・・
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側にいて・・・抱きしめて・・・感じて・・・触れて・・・
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サンジはこの船にいる・・・その理由を失ってしまう。
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そうあってくれたら、どんなにいいかわからないけれど。
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けれど、それはサンジの存在意義を壊してしまうから。
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あんまり意識しないでも・・・オレがキッチンに近づかなければ・・・
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・・・・サンジが怒ったら・・昨日の会話を話して聞かせて・・・
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それはオレが遅れてメシを食うからで、もし皆と同じ時間に食べれば。
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「あら・・よく眠ってる・・・もう少ししたら、お昼の準備に入る時間だから、サンジ君
起してね・・・ゾロ・・・」
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今は擦ったせいで紅くなってる目元が・・・なんとも艶かしくて。
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「オハヨ・・サンジ・・・・そろそろメシ・・つくんだろ・」
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「・・・ふあ・・・んふ・・んん・・・そっかお昼・・・」
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「また・・・してな・・・オレも出来るだけさ・・・時間作って・・・
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オレは、ゆっくり立ち上がって、甲板に向かおうと歩き出した。
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オレはサンジについて、また船尾のみかんの根元までやってきた。
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大きな布を引いて、サンジがバスケットの中身を広げていく。
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布巾を取ると、ホカホカと湯気を立てたお握り・・・・。
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「海苔は食べる時に巻いてな?パリパリの方が美味いからさ」
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「朝飯・・・ゾロの為にさ・・ご飯炊いてたんだ・・・」
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「・・・・ナミさん達にも断ってきたから・・・これ全部ゾロの為に・・・・
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「へへ・・・ナンカさ・・・ゾロの言うとおり・・・特別にゾロだけに作るって思うと
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サンジは急須で緑茶を入れて、水筒から味噌汁を注いで。
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約束どおり、ゾロはおやつの時間に現れるようになった。
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